第七話 エラフィタ村

 

 黒騎士と別れたゆういち達は、結果報告のためセントシュタイン城に戻る事にした。

 とりあえず、黒騎士の脅威が去った事を知れば、セントシュタインの人達も安心してくれるだろう。うまくすれば、これで星のオーラを手に入れる事が出来るかもしれない。

「お父様、お母様。やはりわたくしがあの騎士のもとへ……」

 玉座の間では、セントシュタイン国王一家が黒騎士の問題に頭を悩ませているところだった。自分が行って事態を解決しようとするフィオーネ姫に、それをなんとか思いとどまらせようとする国王夫妻。両者の主張は一歩も譲らず、平行線をたどったままだ。

「フィオーネ……」

 泣き崩れる王妃。

「ばかもん! 泣く奴があるか。あの黒騎士のもとへ行くなど、このワシが断じて許さんわ!」

 どうにも玉座の間に行くと、間の悪い時にきているような気がするゆういち。

「おおっ! ゆういち。待ちわびたぞ、さあ早くこちらへ」

 入口付近で入れずにいるゆういちを見つけ、国王は呼びよせる。

「ゆういちよ、よく戻った。黒騎士の件どうであった? さあ、ワシに話を聞かせておくれ」

「はあ、じつは……」

 祐一は黒騎士と会って話した事を伝えた。レオコーンの事。彼がルディアノ王国のメリア姫と結婚するはずだった事。フィオーネ姫とメリア姫がそっくりだという事。

「つまり、黒騎士は記憶を無くしており、フィオーネの事を婚約者と見間違えていただけだったと……?」

「レオコーンはルディアノ王国を探しているので、もうこの城には近づかないと言っていました」

 ゆういちはシュタイン湖であった出来事を包み隠さず報告したのだが、国王は真っ赤な顔をして立ちあがった。

「オヌシはその言葉をそっくり信じて帰ってきたのかっ? そんなもの、口から出まかせに決まっておろうっ!」

「お父様っ! お父様はどうしてあの騎士の事を悪く言うのです?」

 それに抗弁したのは、フィオーネだった。流石にここでゆういちが異論をさしはさむのは、立場上不味い。

「ルディアノなどという国は聞いた事もないっ! 奴がデタラメを言っているに違いないっ!」

 そこでゆういちはある事に気がついた。レオコーンはずっと長い間眠りについていたという。おそらくルディアノという国は、とっくの昔に滅んでしまったのだろう。だとするなら、国王が知らなくても不思議はない。

「よいか、ゆういち。奴はフィオーネを狙って、いずれまたこの城にやってくるはらづもりだ。黒騎士の息の根を止めるまでは、おぬしへの褒美もお預けじゃ」

「お父様、どうして信じてあげられないのですか? 本当に国に帰れず困っているかもしれないのに……」

 すべては娘を思う親心からなのだが、これを聞き分けろというのは無理な相談だった。だが、そこでフィオーネはある事を思い出したのか、一目散に玉座の間を飛び出して行く。

「どうしたというのじゃ? あの様に慌てて……」

「追いかけてみます」

 そう言ってゆういち達も玉座の間を後にするのだった。

 

「ゆういち様……」

 玉座の間を出たところで、フィオーネ姫が待っていた。

「わたくし、ゆういち様にお話ししたい事があるのです……」

 そういうと、フィオーネは東の離れにある自分の部屋にゆういち達を案内した。

「話というのは、ルディアノ王国の事です……」

 フィオーネはそう話を切り出す。どうやら姫は、以前ルディアノ王国について耳にした事があるのだという。

「昔、ばあやが歌ってくれた子守歌の中に、ルディアノという名前が出てきたのです。もしかしたら、その歌がなにか手掛かりになるかもしれません」

「子守唄か……。それで、そのばあやさんは今どちらに?」

「はい。ばあやは今、彼女の故郷のエラフィタ村にいます」

「エラフィタ?」

「シュタイン湖の西の方にある小さな村です」

 あの黒騎士は、父親が言うほど悪い人ではないようにフィオーネは思うのだ。

「ゆういち様、どうかあの方のお力になってあげてください」

「承知しました、姫」

 

「結局、ゆういちってばお姫様の依頼受けちゃったね」

「うぐぅ、ゆういちくんってば、女の人には優しいんだから……」

「でも、いいんじゃない? あの国王陛下の命令聞くよりはずっとましよ」

 結局、黒騎士を倒したのに、なんの褒美も出なかったばかりか、逆に怒られてしまったので、城を出るなりなゆき達は口々に文句を言いはじめた。

 しかし、とりあえず黒騎士の危機が去ったせいか、町はにぎわいを取り戻しつつあるようだ。

 それにしても気になるのは、どうしてフィオーネ姫はあそこまで黒騎士に肩入れするのかという事だ。これで前世からのロマンだというなら感動的だが、世の中そんなうまい話が転がっているはずがない。

 とりあえず、フィオーネ姫の言うばあやに話を聞こうとエラフィタ村に向かうゆういち達であった。

 

 エラフィタ村はシュタイン湖から西方へ向かった先にある小さな村で、何百年もの歴史を持つ古い村だ。村の中央には巨大なご神木があり、これを目当てに来る観光客もいる。

 しかし、若者達が外に働きに出てしまうせいか、村には老人の姿しか見えなかった。

 ゆういち達が会いに来たフィオーネ姫のばあやさんは、ソナさんという人で、なんでも村一番の歌い手らしい。

「ソナさんは、クロエさんって人のところにいるみたいだね」

「クロエさんの家は、この村の奥の方らしいよ」

「じゃあ、早速向かってみましょうか」

 村の人達に話を聞いてクロエさんの家へ行く途中、ゆういち達は村の中央にそびえたつ大きな木を見た。

「こいつが噂のご神木ってやつか……」

 見上げるその姿は堂々としており、ご神木として祭られているのもわかる気がした。伝説によるとこの木は、かつてこの村に雨が降り続いた時、村の中央に立っていた木が枝葉を落とし、村人達を救ったという。それいらいこの木はご神木として、村人達に祭られるようになったのである。

「もう、ソナちゃんったら、また昔の話を持ちだして」

「クロエちゃん、あたしゃねぇ、あんたの事をうらやましく思ったもんだよ……」

 家に入ると、中ではクロエさんとソナさんが茶飲み話に興じている。

「あの〜……」

「おや、お客さんかい?」

「どうぞ、こちらにいらっしゃって」

 ゆういちが声をかけると、クロエさんとソナさんが快く招きいれてくれた。

「あの、すいません。ソナさん」

「はいはい、なんですか?」

「セントシュタインのフィオーネ姫はご存知ですよね」

「はい、あたしゃそこで、小さいころの姫様の相手をしておりましたから」

「そのころのフィオーネ姫に歌ってあげていたという、わらべ唄をきかせてほしいんですが」

「はあ、小さいころの姫様に歌ってあげてたわらべ唄を聞かせてほしいとな? いいですとも、いいですとも」

 ソナさんは快く応じてくれた。

「それじゃ、クロエちゃん。合いの手をお願いしてもいいかの?」

「黒バラわらべ唄だね? お安い御用さ。それじゃあ、行くよ」

 かつての仲良しであろう二人が、息の合ったハーモニーを紡ぎだす。

「はぁ よ〜い よ〜い よ〜いとなっ♪」

「闇に潜んだ魔物を狩りに 黒バラの〜騎士立ち上がる♪

 見事魔物をうち滅ぼせば しらゆり姫と結ばれる〜♪

 騎士の帰りを待ちかねて 城中みんなで宴の準備♪」

「あ、ソ〜レ♪ それから騎士様どうなった?」

「北ゆく鳥よ伝えておくれ ルディアノで〜待つしらゆり姫に♪

 黒バラ散ったと 伝えておくれ♪

 北ゆく鳥よ伝えておくれ 黒バラ散ったと伝えておくれ〜♪」

 歌い終え、軽く一礼したソナさんは満足した様子だった。

「と、こんな感じでしたが、いかがでしたか?」

「いや、大変素晴らしい歌でした」

 歌声もさることながら、この歌詞もなかなかに興味深い。魔物を倒すべく城を出た騎士と、その帰りを待つ姫様のお話がわらべ唄のもとになっている。これを例の黒騎士に当てはめてみると、黒バラの騎士がレオコーンで、しらゆり姫がメリア姫という事だ。

 ただし、この歌では結局騎士は帰ってこず、二人は永遠に結ばれなかったという、せつない物語なのだが。

「ところで、こんな歌をどうしてわざわざ聞きに来たんですかの?」

「はい、実はルディアノという国について……」

 祐一はかいつまんで事情を説明した。

「ほうほう、ルディアノという国のありかを知りたかったと……。ならばポイントは北ゆく鳥のフレーズですねぇ……」

 歌のさびの部分でわざわざ繰り返しているのだから、きっとそこに手がかりがあるのだろう。歌に出てくる鳥のように、北を目指して進んでみるのもいいかもしれない。

 

 歌を聞き終えたゆういち達が外に出ると、なにやら騒がしい様子だ。気になったゆういち達が駆けつけてみると、木こりを追いかけて黒騎士が村に入ってきたところだった。

「うひゃああぁぁぁぁっ! お助け〜っ!」

「木こりよ、なぜ逃げる? 私はお前に話を聞きたかっただけだ。お前にはなにもしないから安心しろ……」

 レオコーンはそう言うが、いきなり不気味な黒騎士が現れたのでは、誰だって恐れおののいて当然だ。

「ひょっとしてあいつ、天然なのか……?」

 目の前で繰り広げられている光景に、ゆういちは思わず頭を抱えた。

「……無自覚な天然って言うのが、一番始末に負えないわね……」

「うにゅ?」

 不意にかおりの視線を感じ、なゆきは可愛らしく小首をかしげる。

「それよりも早く、なんとかしてあげないと」

 黒騎士を前にした木こりは、気の毒なくらい真っ青になっていた。

「オラになにもしないだって? う……うそこくでねぇっ! オラ、森の中であんたの事を探している女の魔物に出会っただ! 真っ赤な目を光らせながら、我がしもべの黒い騎士を見なかったか、……ってよ! あんた、魔物のしもべなんだろ?」

「この私が魔物のしもべだと? なにをバカな事を……」

 しかし、その言葉に説得力がないのも確かであった。

「おお、そなたは確かゆういち殿。なぜ、そなたがこのような場所にいるのだ?」

「話せば長くなるが、あんたの故郷であるルディアノ王国について調べているんだ」

「……そうか、ルディアノ王国の手がかりを……。こんな私のために済まない……」

「いいって、どうせ乗り掛かった船だしな」

「それで、なにかわかったのか?」

「ああ。こう言っちゃなんだが、ルディアノという国がどうなっているのか知らないが、ここから北に行ったところに手がかりがあるようだ」

 ゆういちは黒バラの騎士としらゆり姫のわらべ唄を、レオコーンに話した。

「黒バラの騎士……。確かにルディアノではそう呼ばれていたが……。まさか、私の事がわらべ唄になっていたとはな……」

 レオコーンは深くうなずいた。

「しかし、どういう事だ……? 私がおとぎの国の住人だとでもいうのか……? まあ、いい。ならば、北ゆく鳥を追う事にしよう! 真実をつかむためにな!」

 そして、レオコーンは北を目指して馬を走らせた。

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