エピローグ 星空の守り人

 

「行っちゃったね……」

「ああ……」

 黄金色の流星が降り注ぐ中、ゆういち達は空の彼方に消えた二人をずっと見続けていた。

 その時、どこからともなく不思議な声が聞こえてくる。

 

ゆういち

 

「この声は……セレシア様……?」

 天使界にそびえる世界樹が元の女神セレシアに戻り、神の国へやってきたセレシアのチカラにより、絶望と憎悪の魔宮に変じた神の国は元の姿へ戻った。

 

悲しき魂を救い

世界を守ったのはあなたです

ゆういち

人であり天使でもある

あなたの良き行いが

人間達の世界を救いました

そして今

長きにわたる天使達の役目も終わろうとしています

 

 天使界にいた天使達が次々と光の球に変じ、天空高く昇っていく。そう、役目を終えた天使は、みんな星になってしまったのだ。

 

星になった天使達は

永遠に星空の守り人として輝き続ける事でしょう

 

 女神セレシアのチカラで、ゆういち達は天使界へ戻ってきた。ゆういち達のまわりには、星となって天使達が漂っている。

 

けれどゆういち

あなた達には別の役目があります

 

 神の国から天の方舟が戻って来たらしく、天使界にその汽笛の音が聞こえる。

 

ゆういち

あなた達は人間として

人間達の世界の守り人になってください

 

 女神セレシアのチカラで、天使界の天使達はみんな星になってしまった。しかし、限りなく人間に近いゆういち達には、そのチカラが及ばないのだろう。人間である以上天使界には留まれないし、なにより神の国にも行く事が出来ない。

 ゆういち達に出来るのは、地上に戻って人間として生きるぐらいだった。

 とはいえ、もう嫌とか言えるような段階ではない。役目を終えた天使界は下のほうから徐々に消えていっているからだ。今はもうゆういち達のいる、かつて世界樹がそびえていた最上部を残すくらいだ。

 

神の国もわたくしも

じきにあなたの目には見えなくなるでしょう

お行きなさいゆういち

あなたの

人間の世界へと

 

 セレシアにとっても、これがギリギリの譲歩なのだろう。今を逃せばゆういちは人間界に向かって落ちていく事となる。そうなる前に天の方舟で地上に降りなくてはいけない。

「すみません、セレシア様。そして、ありがとう……」

 

ありがとうゆういち

 

 天使界が完全に消え去る前に、ゆういち達は天の方舟に乗り込む事が出来た。そして、これが最後の別れとなる。

 女神セレシアと天使達は遙かなる空の高みへ。ゆういち達は地上へ。もう二度と会う事は叶わないであろう別れ。ゆういち達はしばらくの間その光景を走り去る天の方舟から見ていたが、迷いを断ち切るように扉を閉めた。

 

 地上を目指して走る天の方舟は、ゆういち達が守った人間達の世界を確認するかのように走る。

 ゆういちが守護し、最初に落ちてきたウォルロ村。

 心優しきリッカのいるセントシュタイン。

 病魔に襲われたベクセリア。

 少女と人形のサンマロウ。

 美しき女王に治められた砂漠の国グビアナ。

 雪と氷に閉ざされたエルシオン学院。

 エルギオスが守護し、ラテーナと出会ったナザム村。

 偉大なる空の英雄グレイナルの住まう地ドミール。

 それぞれ思い出深い地を経由し、天の方舟はゆっくりとダーマ神殿そばの世界樹に降り立った。

「もう、お別れなんだね……」

 おそらくタイムリミットが近づいて来ているのだろう。ゆういちの目には、アギロやサンディ、それに天の方舟の姿がうすらぼんやりとしか見えなくなっている。いよいよの別れに、サンディやあゆ達は涙ぐんでしまっている。

「なによお〜、これでお別れなんて、そんなのさみしいよお〜」

「しょうがねえだろ? ゆういち達はもう人間になっちまったんだ。オレ達とはもうすむ世界が違うんだよ」

「そんなのカンケーないじゃん! テンチョーのバカーッ!」

 泣きじゃくったまま、サンディは天の方舟に入っていってしまう。

「……しょうがねえなあ。サンディの奴は」

 呆れた様子のアギロではあるが、彼の眼尻にも涙がにじんでいるようだ。

「悪いなあ、ゆういち。あいつまだガキだからよ、許してやってくれや」

「ああ、サンディの気持ちもわからなくもないからな」

 サンディとはゆういちが地上に落ちてきたころからの付き合いだ。今までいろいろあったが、出会えてよかったと心から思う。

「じゃあな、ゆういち。お前の幸運を祈ってるぜ」

 そう言ってアギロはゆっくりと天の方舟に乗り込んだ。

 汽笛一声、天の方舟はゆっくりと動き出す。その時、客車の扉が開き、サンディが顔を見せた。

「ゆういちーっ!」

 走り去る天の方舟から、サンディが大きな声で叫ぶ。

「これまで一緒に旅して、けっこー面白かったよーっ!」

「ああ、俺もだーっ!」

「人間になっても、アタシとあんたは友達だからねーっ! よーく覚えときさないよーっ!」

「ああっ!」

「あと……えっと……」

 お互いに手を振りながら大声で叫びあううちに、サンディは小首を傾げた。

「あ、そうだ! 最後だからアタシの秘密、あんたに教えたげるーっ! ずーっと秘密にしてたんだけど、アタシ……」

 だが、もうゆういち達にはサンディの声も、天の方舟も見えなくなりつつあった。

「なにを……隠そう……実は……! ……ネ……に……」

 だから、サンディの最後の言葉も、ゆういち達にはなんの事やらさっぱりだった。

 

「行っちゃったね……」

「ああ……」

 天の方舟が消えさった遙か彼方を眺めつつ、ゆういちとなゆきは短く言葉を交わしあう。

「それで? これからどうするの?」

「そうだな……」

 かおりの言葉に、突然現実に引き戻されるゆういち。

 サンディの言葉も気になるが、それよりも気になるのがツォの浜辺の方へ飛んで行った女神の果実だ。

「ま、そうだな。しばらくの間は冒険者として行動するのが一番だろう」

「あはは〜、そうですね〜」

 ゆういちの言葉に、さゆりが微笑む。他の仲間達も、この意見には賛成のようだ。

 エルギオスの一件で忘れていたが、この世界にはまだまだ多くの秘密があるようだ。エルギオス以外にもこの世界を滅亡させようと企んでいる奴らがいるかもしれない。

「さあ、行くぞっ! 新たなる冒険の始まりだっ!」

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