♯01 Kanon

 

 西暦二三〇七年。地球は、大きく三つの勢力に分かれて紛争状態となっていた。

 北米大陸と南米大陸。そして、オセアニアと日本を含めたAIR。

 中国とロシア、そこにインドを加えて人類の革新を図るONE。

 アフリカを手中に収めた欧州連合が中心となったCLANNAD。

 

 CLANNADの所有する軌道エレベーター付近。この日ここではCLANNADが開発した新型モビルスーツのお披露目が行われていた。

 モビルスーツとはこの時代の戦争に用いられる巨大な人型の戦闘兵器で、通常の戦闘車両を遥かに上回る戦闘力を持つ機動兵器である。特に今回はCLANNADが新開発した太陽光エネルギー対応型モビルスーツの発表とあって、AIRやONEの有力者がそろう一大イベントとなっていた。

 この時代は石油をはじめとした化石燃料がほぼ枯渇しており、それに代わるエネルギー資源の確保が困難な状況となっていた。そこで各陣営では静止衛星軌道まで到達する巨大な塔『軌道エレベーター』を建造し、そこに設けられた太陽光発電システムによってエネルギーを得ていた。

 最初に軌道エレベーターの建造に成功したのがAIR、それに続いてONEが建造に成功し、やや遅れてCLANNADが建造途中というところである。これにより人類は無限に近いエネルギーを得る事が可能になったのであるが、その恩恵を受けられるのは、軌道エレベーターを所有する三つの勢力とその同盟国に限られており、そうした設備を巡って紛争が繰り返されていた。

 今回CLANNADが開発した『イナクト』は、軌道エレベーターより供給される太陽光エネルギーを外部電源とする事で稼動するモビルスーツだ。各勢力の要人が見守る中、イナクトは順調に模擬戦を消化し、その性能を見せ付けている。

「モビルスーツ『イナクト』CLANNAD初の太陽光エネルギー対応型やな……」

 軽快な運動性能を見せ付けるイナクトの勇姿に、軍事演習場に設けられた観客席から驚嘆の声があふれる中、AIRの技術顧問を務める神尾晴子はつまらなそうに呟いた。

「CLANNADは、軌道エレベーターの開発で後れを取っているからな。せめてモビルスーツだけでも、どうにかしたいのだろうさ」

 そこに一人の男が姿を現す。

「ええんか? AIRのエースがこんなところにおって」

「もちろんよくはない」

 その男、国崎往人はそう言って晴子の隣に腰を下ろした。

「それにしても、CLANNADはえらい剛毅やな。ONEの一〇周年記念式典に新型の発表をぶつけてくるんやからな」

 それまで大空を縦横無尽に飛び回っていたイナクトが、静かに観客席の前へと降り立つ。

「晴子はどう見る? あの機体」

「どうもこうもないで」

 イナクトを一瞥するなり、晴子は口元に笑みを浮かべる。

「あんなんうちのフラッグのパクリや。オリジナルなのはデザインだけやで」

『そこぉっ! 聞こえてっぞっ!』

 その時、目の前のイナクトから声が響く。

「いまなんつった? こらぁっ!」

 観客席の視線が集まるなか、一人の男がコックピットハッチから姿を現す。元々イナクトはAIRとの技術協力によって開発されているので、似たような造りになるのも当然なのであるが。

「どうやら集音性能は高いようだ」

「せやな」

 男の怒声に、肩をすくめる二人であった。

 

 そのとき、軌道エレベーターに沿うようにして一機の機体が降下していた。

『二四〇〇八二、エクシア。目標地点を視認』

 そのコックピットでは、一人の少年が眼下の光景を見据えている。

『GN粒子の散布。目標到達と同時に終了させる』

 コックピット正面のメインモニターには別ウインドウで、先程まで演習を行っていたイナクトの姿が映し出されている。

『目標対象確認。予定通り、ファーストフェイズを開始する』

 エクシアの接近は、直ちに軍事演習場の指令所の知るところとなる。

「大尉、接近する機影を確認」

「なにぃ?」

 オペレーターからの報告に、基地司令は思わず聞き返した。

「三時の方角です」

「どこの所属だ? 今は演習中だぞ、さがらせろ」

「レーダー反応、ありません」

「サブもです」

 機器を操作するオペレーター達は状況の把握に努めるが、接近する機影をまったく確認出来ずにいた。

「カメラで追えっ!」

 レーダーが無力化された状況で、唯一まともに作動する光学カメラを用いてみるが、そこに映し出された機体にはまったく見覚えがない。

「なんだ? あの機体は……」

 

 今ここに、最初の戦いが始まる。

「アンノウンが? どうしてこんな時に……」

 イナクトのパイロット、春原陽平が状況を確認しようとしたところで、耳障りなノイズを残して通信がきれた。そして見上げた空には、ゆっくりと降下してくる機影がある。

「モビルスーツ?」

 その機影は、観客席からも確認できた。

「すごいやないか。もう一機新型があるなんて」

「違うな……あの光」

 その機体の背面から噴き出している光は、往人も初めて見るものだ。そのモビルスーツは大地に降り立つと、ゆっくりとイナクトに向き直った。

「イナクト、聞こえるか? イナクト。おい、春原っ!」

 観客席にいたCLANNADの高官がイナクトと連絡を取ろうとするが、なぜかその通信は妨害されており、まったく通じる気配がない。

「通信が……?」

 突然の通信不良に、往人は疑問を感じる。

「みなさん、誘導に従って避難してください」

 CLANNADの兵がそういうのだから、新たに現れたモビルスーツは味方ではないという事だ。だとしたらどこの機体なのだろうか。

「おいおい、どこのどいつだ? AIRか? ONEか?」

 コックピットで戦闘体制を整えつつ、春原は言う。

「どっちにしても他人様の領土に土足で踏み込んだんだ。ただですむわけないよね〜」

「あのバカ、なにをする気だ? あの機体にどれだけの開発費を……」

「いいチャンスですよ、これでイナクトの価値は上がる」

 戦闘体制を整えたイナクトに、CLANNADの高官はそう言葉を交わしあう。

「春原陽平はCLANNADのエースではないですか。多少バカなのを除いて……」

 つまり、この機会にイナクトの性能を見せつけ、商品価値を上げようという魂胆なのだ。

「お前、僕が誰だかわかってるのか? CLANNADの春原陽平だぞ。模擬戦でも負け知らずのスペシャル様なんだよね〜。知らないとは言わせないぞ」

 陽平はイナクトの右腕に装備されたプラズマブレードを左手で引き抜いた。途端にあたりには凄まじい衝撃波が走り、観客席では耳を塞ぐものが続出した。

「往生せいや〜っ!」

『エクシア、目標を駆逐する』

 プラズマブレードを構え、まっすぐに突進してくるイナクトを、エクシアのコックピットで少年は冷静に見据えている。エクシアの右腕に装備されたGNソードが攻撃位置に移動し、振り上げると同時にイナクトの左手が手首から切断されていた。

「なんと……」

 その圧倒的なまでの性能差に、観客席にいた往人は息を呑んだ。

「お……お前、わかってないだろう……?」

 すかさず陽平は右手のリニアライフルを射出するが、わずかな動作で回避されてしまい、一回転すると同時にエクシアが左手に持ったビームサーベルで左腕を斬られてしまう。

「僕は、スペシャルで……」

 続く右腕のGNソードの一閃で右腕が斬られる。

「二千回で……」

 さらにビームサーベルで頭部が斬り飛ばされてしまい。

「これは、模擬戦なんだよぉ……」

 そして、イナクトはゆっくりと大地に倒れた。陽平の叫びはエクシアの持つ圧倒的な戦闘力の前に、むなしく響くのみだった。

「失礼」

 往人は前に座っていた人の双眼鏡を奪い取ると、エクシアの額に書かれていた文字を読んだ。

「GUNDAM……ガンダム? あのモビルスーツの名前か?」

 それは遥かな昔にテレビでやっていた、アニメのロボットの名前だ。こうして目の当たりにするとふざけているとしか思えない。

 だが、その戦闘力の高さに注目してみれば、こうした最強のロボットの名前を冠するというのもうなずけた。

『エクシア、ファーストフェイズを終了。このままセカンドフェイズに移行する』

 わずかにくぐもった駆動音が響くと同時にエクシアの背面部から輝く粒子が放出され、ゆっくりとその機体は大空へと舞い上がった。

「また、あの光か……」

「推進力もなしに、どないして飛んでるんやろな」

 エクシアの機影が吸い込まれるように天空の彼方へ消えようとするころ、倒れたイナクトから陽平が出てくる。慌ててあたりを見回してみるが、エクシアはすでに飛び去った後であった。イナクトは最新鋭機なだけあって、パイロットの安全性だけは優秀なようだ。

 

「あのモビルスーツが、CLANNADの戦力をあぶりだしてるやて?」

「CLANNADが条約で規定されている以上の戦力を保有していると、世界に知らしめようとしているんだ」

「なしてあいつらは、そんな事するんやろな」

「それは、あのガンダムとやらのパイロットに聞いてくれ」

 とはいえ、エクシアの襲来は軍備増強路線をとるCLANNADへの牽制か、あるいは警告といえるだろう。いずれにしても高い開発費をかけた最新鋭機のお披露目を台無しにされたのだ。このままCLANNADが黙ってみているはずもなかった。直ちにエクシアを追撃するべく部隊が編成され、飛行形態のヘリオンが緊急発進していく。

 上昇を続けるエクシアの足を止めるべく、容赦ない攻撃を加えるCLANNADの飛行部隊。すかさず右腕のGNソードをガンモードにして応戦するエクシアであるが、空中戦には不向きなためか、すれ違いざまに一閃したGNソードで一機の迎撃に成功した以外は確たる戦果をあげられなかった。

 なにしろ相手は空中を自在に飛びまわれるのだ、そうこうしているうちに軌道エレベーターからも増援が急行してくる。

『やはり、CLANNADはピラーの中にも軍事力を配備していたか……』

 

『ナユキ、ゾウエンセッキン、ゾウエンセッキン』

 コックピット内部に響く、緑色のカエル型のペットロボット『けろぴー』の声に、そこにいた少女は大きく伸びをして起き上がった。あたりの状況を確認すると、少女はいたずらっ子のように微笑む。

『ん〜、いくら祐一でも、これじゃ手を焼くよね……』

 そう言って少女は、コックピット内部に設けられたトリガーに手をかける。

『それじゃ、狙っちゃおっと。これがデュナメスと水瀬名雪の初陣だよ』

『距離をとれ、新型とて相手は一機だ。包囲して殲滅する』

 祐一の戦いは防戦一方となっていた。エクシアは確かに優れた運動性能を持つモビルスーツであるが、接近戦に特化している分、距離が開いてしまうと途端に攻撃力が下がってしまう。なにより相手が徹底した一撃離脱戦法を取っているのでは、ほぼ完全に成す術がない。

 とはいえ、攻撃するヘリオンも機関砲弾を目いっぱい積んだインターセプトミッションしか出来ないのでは、攻撃の決め手を欠いているのが実情だった。

 その時、エクシアの背後に回りこんだ一機が地上からの砲撃によって脱落する。

『て……敵襲ですっ!』

『どこからっ!』

 眼下の雲を突き抜けてくる再びの砲撃と同時に、また一機ヘリオンが脱落していく。

『名雪か……』

 高速で飛行している敵機を相手にして、的確に一撃で相手の攻撃能力を奪っていく射撃のセンスは、まさに神業の領域だ。

『デュナメスは、目標を狙い撃ちだよ〜』

 地上からの名雪の砲撃によって、飛行部隊は壊滅。最後に残った一機もエクシアによって脱落した。

『セカンドフェイズ』

『終了だよ〜』

 

 そのころ、地球の衛星軌道を周回する一隻の宇宙艦があった。この艦はKanonが所有する輸送艦『プトレマイオス』である。

「トレミー(プトレマイオスの愛称)の周辺濃度、ミッションモードを持続。エクシア、ファーストフェイズの予定行動時間を終了しました。セカンドフェイズに入ったと推測します」

「ちゃんとやれてるのか? 祐一の奴……」

 オペレーターの沢渡真琴の報告に、ついつい斉藤はそんな事を口にしてしまう。

「じゃなきゃ、Kanonはこれまでって事だね」

「そこっ! 無駄口叩いてるんじゃないわよ」

 北川と斉藤の軽口に、真琴はつい声を荒げてしまう。

「もうすぐサードフェイズの開始時間なのよ?」

「そんなに固くなるんじゃないわよ」

 するとそこへ、この艦の実質的な責任者となる、戦術予報士の美坂香里が入ってきた。

「あたし達、Kanonの初お披露目なのよ? 派手にいきましょ」

「ああっ! 香里、お酒飲んでる〜」

 あたりに漂う匂いに、大きな声を上げる真琴。

「またかよ、美坂」

 いつもの事だが、北川も呆れ顔だ。

「いいでしょ? 別に。あたしは作戦を考える係、後の事はあんた達に任せるから」

 そう言って香里はぐびりと酒盃をあおる。だが、その目はまるで酔っ払ってなどいない。むしろこれから世界に起きる事、これから自分達が起こす事に対し、酒で恐怖を紛らわせているとでも言いたげな表情だ。

『コンテナ、ローリング終了。キュリオス、カタパルトデッキへ移動』

 もう一人のオペレーター、美坂栞のガイドでキュリオスが発進位置に移動していく。

『うぐぅ、実戦だよ』

 この日のために、厳しい訓練を受けてきたのだが、コックピットに納まる少女、月宮あゆの顔は憂鬱そのものだった。

『キュリオス、カタパルトデッキに装着。リニアカタパルトボルテージ、二三〇から五二〇へ上昇』

 栞の声が響くたびにキュリオスの機体に振動が伝わり、発進準備が整っていくのがわかる。

『キュリオスをリニアフィールドに固定。射出準備完了、タイミングをキュリオスに譲渡します』

『あいはぶこんとろーる。キュリオスは作戦行動に入るよ』

 あゆが発進レバーを引き倒すと同時に、プトレマイオスの艦首発進口から飛行形態のキュリオスは勢いよく飛び出していった。

 こうしてKanonのガンダムマイスター達の戦いが幕を開けた。

 

 同じころ、ONEが所有する軌道エレベーター『天柱』では、電力送信一〇周年を記念した式典が催されていた。そして、こういうイベントを、テロリスト達が見逃すはずもなかったのだ。

「また、Eセンサーに反応だ。今日はやけにデブリが多いな」

 軌道エレベーター『天柱』の先端部分にある高軌道ステーションでは、三人のオペレーターが先程から続いているセンサーの異常な反応に首を傾けていた。

「質量、大きくないか?」

 モニターに表示される数値は、どう見ても異常な計測値だ。

「旧時代の衛星の残骸でも引っかかったんじゃないか?」

「最大望遠で視認しろ、今は式典中だという事を忘れるな」

「了解です」

 基地司令の指示に従い、モニターを最大望遠に切り替えた途端、オペレーター達は信じられない光景を目の当たりにする。それはデブリにまぎれて防御シールドを突破しようとする、モビルスーツの姿だった。

「シールドの干渉で、機体どころか人体にまで……」

 オペレーターがそういった途端に一機が爆発した。残る敵は三機。そのモビルスーツはCLANNADの開発した『ヘリオン』で、無作為に第三国にまで販売した結果、こうしてテロリストも使う機体となっていた。このヘリオンは宇宙空間用に大気圏内を飛行するための装備が排除されており、一般的にCLANNADが使用する機体とは外観が異なっている。

「言わんこっちゃない……」

「それだけの覚悟があるという事だ。第三防衛隊にスクランブルを」

 突如として襲来したテロリスト達に、基地防衛隊のモビルスーツが次々に発進していく。

『コントロールより各機へ、アンノウン、ピラー接近まで〇二八七』

『各機、姿勢制御』

 隊長の指示により、宇宙空間用に調整されたONEのティエレンは機体各部のスラスターをふかし、姿勢を安定させる。

『敵、軌道を変更。リングに隠れやがった……』

 どうやら相手は宇宙慣れしているようで、訓練不足の新兵も含めた部隊では足止めにもならなかった。なにより相対速度がありすぎるせいか、ティエレンの攻撃はかすりもしない。

 そうしている間にも敵はミサイルの発射態勢に入ってしまう。そしてついに、三発のミサイルが発射されてしまった。

「迎撃、間に合いませんっ!」

 絶望的なオペレーターの声が響く中、突如として飛来した一筋の光芒がミサイルを射抜いた。それは急行したキュリオスによって放たれたビームだった。

 炸裂した弾頭からは多数の散弾が放出されるが、軌道ステーションはその程度で破壊されるほど脆弱な構造はしていない。

『やっぱり、香里さんの予報は大したものだね』

 テロリスト達は迎撃体制に移るが、キュリオスとの相対速度差があるためか、GNビームマシンガンの連射で瞬く間に二機が撃破されてしまう。だが、残る一機はまっすぐ軌道ステーションに向かっていた。

『特攻? これだからテロリストって言うのは……。そっちにいったよ、美汐さん!』

 自己の思想のためなら平然と命を投げ出す。しかも自分と他人の区別もなしに。

「アンノウンが、突っ込んできますっ!」

 オペレーターの悲鳴にも近い声が響く。もはや迎撃は不可能と思われたその時、その進路上に一機のモビルスーツが割り込んだ。その途端に基地のモニター機能が全て麻痺する。

『ヴァーチェ、目標を破壊します』

 GUNDAMと書かれたモビルスーツが真正面に構えた大型のGNバズーカに、機体の中央部に設置されたGNドライヴからエネルギーが供給される。そこから放たれたビームは容易くヘリオンを破壊し、原子の塵へと変えた。

『サードフェイズ、終了』

『うぐぅ、やりすぎだよ。美汐さん……』

 

 一夜明けた早朝。ここはAIRに所属する日本の経済特区である東京。この日は朝早くから各メディアがこぞって、ONEの高軌道ステーションで起きたテロについて報道していた。

『おはようございます。JNNニュースの時間です。最初のニュースは、ONEの軌道エレベーター『天柱』の高軌道ステーションでおきた襲撃事件の続報です。日本時間の今日未明、テロリストのものと思われるモビルスーツにより、ONEの高軌道ステーションが襲撃にあいました』

 ここで画面が切り替わり、高軌道ステーションからの中継となる。

『グリニッジ標準時、午後六時ごろ。テロリストと思われるモビルスーツにより、高軌道ステーションにミサイルが発射されました』

 テレビの画面には、破壊されるテロリストのモビルスーツと、それを迎撃したモビルスーツの姿が映し出された。

『しかも、正体不明のモビルスーツがこれを迎撃。この映像は、偶然居合わせたJNNのクルーがカメラにおさめたものです』

「なにか、あったのか?」

 ここは東京にあるとある学校。大勢の生徒がテレビを見ている中、一組の男女が登校してきた。この二人は直枝理樹と棗鈴。鈴はそばにいた男子、井ノ原真人に話しかけた。

「よう、理樹に鈴。いやあ、俺にもよくわかんねえんだが、こいつがテロをやっつけたらしいんだ」

「モビルスーツか……」

「どこの軍隊なんだい? 真人」

「それもわかんねえんだとよ」

 おどけた様子で真人は両手を開いて見せた。

「どういう事なんだろう……」

 呆然と呟く理樹の前で、ニュースは淡々と進行していく。

『事件の最新情報です。たった今JNNにテロを未然に防止したと主張する団体から、ビデオメッセージが届けられました。彼らが何者であるか、その内容の真偽の程は定かではありませんが、事件との関連性は深いものであると考えられます。ノーカットで放送しますので、どうぞご覧ください』

 画面が切り替わると、そこには髪を三つ編みにした妙齢の美女がたおやかな微笑を浮かべていた。

『地球で生まれ育った、全ての人類に報告させていただきます。私達はKanon、機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です』

「武装組織?」

「Kanon?」

 理樹と鈴の呟きをよそに、テレビの中の美女の話は続く。

『私達Kanonの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶する事にあります。私達は、自らの利益のために行動はしません。戦争根絶という大きな目的のために、私達は立ち上がったのです。ただ今をもって、全ての人類に向けて宣言します。領土、宗教、エネルギー、どのような理由があろうとも、私達は全ての戦争行為に対して、武力による介入を開始します。戦争を幇助する国、組織、企業なども、私達の武力介入の対象となります。私達はKanon、この世から戦争を根絶させるために創設された、武装組織です』

 この放送は、AIR、ONE、CLANNADの区別なく放送され、おそらく全ての人類がこの宣言を聞く事となっただろう。聞きようによっては犯行声明とも取れるこの内容は、少なからず各陣営に影響を及ぼした。

「こりゃ傑作だ」

 それを聞いた往人は、大笑いした。

「戦争をなくすために武力を行使するとはな。存在自体が矛盾しているぞ、Kanon」

 そして、この放送は宇宙に浮かぶプトレマイオスのKanonメンバーにも届いていた。

「うぐぅ、世界の悪意が見えるようだよ」

「人類は、試されています。私達、Kanonによって……」

 呟きにも似た、あゆと美汐の声が漏れる。

「それは、悪行よ……」

 香里の呟きは、そこにいるクルーの気持ちを代弁しているかのようだった。

 地上でこの放送を聞いていた名雪は、黙って端末の電源を切った。それはまるで、全世界に向けて犯行声明をするかのような母親の姿を、これ以上見ていたくないという感じだ。

「はじめちゃった……。ううん、はじまっちゃったのかな……」

 もう、止められない。トマラナイ、トマラナイと、はしゃぐようなけろぴーの声が響く前で、名雪は唇をかみ締めた。

「これでわたし達、世界にケンカを売っちゃったんだよね……」

「それはわかっているはずだろ? 名雪」

 ふと、祐一はガンダムを見上げる。

「俺達はKanon。ガンダムマイスターだ」

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