♯02 ガンダムマイスター

 

 西暦二三〇七年。地球では石油資源をはじめとした化石燃料は枯渇し、人類は新たなるエネルギー資源を太陽光発電システムに委ねた。半世紀近い計画の末に、全長が約五万キロメートルにも達する三本の軌道エレベーターを中心とした太陽光発電システムが完成した。

 半永久的なエネルギーを供給する巨大建造物を建造するために、世界は大きく三つの勢力圏に集約される。北米大陸と南米大陸、そこに日本を加えた経済圏AIR。中国とロシア、そこにインドを加えたONE。そして、欧州の国家群とアフリカ大陸をあわせたCLANNAD。

 軌道エレベーターはその特異性と巨大さから防衛が困難であり、構造上の観点からもひどく脆弱な建造物であった。そんな危うい状況でありながらも各勢力圏では、その威信と繁栄のために紛争が繰り返され、それはいつしか大いなるゼロサムゲームの様相を呈してきた。つまり、経済的には損にも得にもならない無益な争いとなっていたのである。

 そう、二四世紀という時代となっても、人類は未だ一つになりきれずにいたのだ。

 そんな世界に対して、楔を打ち込む者達が現れる。モビルスーツ『ガンダム』を有する私設武装組織Kanon。彼らは世界から紛争をなくすため、民族や国家、宗教などを超越した作戦行動を展開していく。

 Kanonが、世界に変革を誘発する。

『私達はKanon。この世から戦争を根絶させるために創設された、武装組織です』

 このような理念を持って行われたKanonの所信表明は、関係各方面に大きな動揺をもたらした。

「犯行声明だと?」

 ONEの所有する軌道エレベーター『天柱』内部にあるブリーフィングルームでこの放送を聞いていた髭面の男、渡辺茂雄は眉をひそめ。

「こいつは……」

 経済特区『東京』の繁華街でこの放送を見たフリージャーナリストの棗恭介は、その映像に現れた見覚えのある人物に驚き。

「世界が、変わってゆく……」

 地球へ向かうシャトルの内部で、Kanonに協力するエージェントの里村茜が呟き。

「戦争を、戦争で解決するなんて……」

 中東、アザディスタン王国の王女、倉田佐祐理は疑問を抱き。

「石橋、はじまったよ。人類の変革がね」

 眼下に街並みを眺めながら、一人の男が楽しそうな表情を浮かべた。

 

「また、やってる。これで何度目だ?」

 放課後の雑踏。朝からずっと繰り返し放送されているKanonの所信表明に、棗鈴はなんともうざったそうな声をだした。

「ねえ、鈴。Kanonなんて、本当にいるのかな」

 その隣では、直枝理樹が至極真っ当な疑問を口にする。確かに、なんの見返りも求めずに行動するなんていうのは、常識的にいっても考えられない事だ。

「きっとボランティアなんだ。小毬ちゃんみたいな」

 という、のんきなやり取りとは裏腹に、関係する各勢力圏ではその対応に追われていた。

 ONEでは実際に、高軌道ステーション天柱のテロ事件に介入した未確認モビルスーツ。その映像を拡大すると、機体には確かにGUNDAMと刻印されていた。

 最新鋭モビルスーツをあっさりと倒されたCLANNADでは、新兵器開発に対する牽制と見ると同時に、条約で規定されている以上の戦力を保持している事が露呈してしまったためか、関係者が集う会議場は紛糾していた。

 ガンダムの介入は競合する他勢力の陰謀という見方も出来るが、極秘の内に最新鋭のモビルスーツを開発できるのは、相応の技術を持つ先進国レベルの組織と予算が必要になる事だ。

 現状ではどの諜報機関もKanonについて有力な情報を得ているわけではない。いずれにしてもただ一つわかっているのは、KanonがCLANNADの開発した最新鋭モビルスーツ『イナクト』を凌駕するモビルスーツを所有しているという事だけだった。

 

「ええんか? 軍に戻らんで。今頃おおわらわしてるんやないか?」

「ガンダムとやらの性能が知りたいんだ。あの機体は特殊すぎるからな」

 最新鋭モビルスーツのお披露目に乱入したガンダム。国崎往人はその機体の性能に興味をもっていた。

「圧倒的な戦闘能力もそうだが、ガンダムが現れると途端にレーダーや通信機が使えなくなる。おそらくは、電子装置にも悪影響が出ているだろう。全てはあの光が原因だ」

 ガンダムから放出される謎の粒子が、そうした影響をもたらしていると往人は推測した。

「晴子はどう思う?」

「ん〜、せやな。今のところは特殊な粒子としかいえんな。たぶんやけど、あの光はフォトンの崩壊現象なんやないかと思うんや」

「特殊な粒子か……」

 晴子からそれを聞いて往人は、口元に不敵な笑みを浮かべた。

「粒子だけやないで、あの機体には他にも仰山秘密がありそうや」

「好意を抱くよ。興味以上の対象だと言う事さ」

 軌道エレベーターが本格的に稼動し始めてから一〇年。ある程度経済が回復してきた矢先にこの出来事だ。Kanonが投げかけた波紋は、ゆっくりと地球全体へ広がっていった。

 

「どの国のニュースも、わたし達の話題でいっぱいだよ。謎の武装集団が全世界に対して戦争根絶を宣言ってね」

 ここは絶海の孤島。どこの勢力圏にも近いこの島に潜んだ名雪は、祐一に明るく話しかけた。この島はGNドライヴより放出されるGN粒子によって隠蔽されており、少なくともレーダーなどの探査手段での走査は不可能となっていた。

 祐一の冷ややかな反応にもめげずに、名雪は言葉をつなぐ。

「もっとも、ほとんどの人達は信じていないみたいだけど」

「だったら、信じさせるまでです」

 その時、茂みを掻き分けて二人の少女が姿を現した。彼女達はKanonに協力するエージェント、里村茜と柚木詩子である。

「……茜か」

「茜ちゃん久しぶり、早かったね」

「やほー、二人とも」

 澄ました様子の茜と、やたら楽しそうな詩子は見るからに好対照だ。

「Kanonの理念は、行動する事のみで示されます」

「そんなわけで二人とも、セカンドミッションよ」

 コンテナに格納された二機のガンダムが、続けて発進準備を整える。コックピットに収まった二人の網膜をスキャンし、パイロット照合を行うと同時に機体が起動を開始する。

『GNシステム解除、プライオリティを相沢祐一へ』

『いくよ、けろぴー』

 デュナメスのコックピットに、サポートAIロボットのけろぴーをセットアップした名雪が発進準備を整えた。ちなみにけろぴーは実に優秀なサポートマシンであり、名雪が眠い時には替わってデュナメスの操縦をしてくれるくらい優秀なのだ。

『はっちおーぷん、はっちおーぷん』

 なんとも楽しそうなけろぴーの声が響く中、コンテナのハッチが開き、二機のガンダムが姿を現す。

『えくしあ、でゅなめす、シュツゲキジュンビ、シュツゲキジュンビ』

 コンテナから立ち上がると、名雪はデュナメスの右肩のマウントラックにGNスナイパーライフルを装備した。

『GNリュウシ、サンプカイシ、サンプカイシ』

 あたりに一際甲高い駆動音が響くと同時に、機体の背面部にあるスリットから輝く粒子が放出される。

『エクシア、相沢祐一。セカンドミッションを遂行する』

『デュナメス、水瀬名雪。出撃するよ〜』

 そして、大空高く舞い上がっていく二機のガンダムを、茜と詩子が見上げていた。

「あれが、ガンダムなのね」

「そうです。あれこそがKanonの理念を発現する機体です」

 

 そのころ、衛星軌道上のプトレマイオスでもセカンドミッションに向けてガンダムの発進準備が行われていた。

『三三〇〇をもって、セカンドミッションを開始します。繰り返します。三三〇〇をもって、セカンドミッションを開始します』

「うぐぅ、機体のテストも兼ねた実戦なんて……」

 戦況オペレーターの真琴の声が艦内に響く中、通路を移動していたあゆは憂鬱そうに呟いた。

「これからのためにも、ガンダムの性能を見極めておく必要がありますよ」

「それは、そうなんだけどね……」

「ごめんね、二人とも。無理させちゃって」

 するとそこに、正面の方から香里が移動してきた。これから戦闘に向かう二人を労うつもりで、香里は優しく話しかけた。

「問題ありません。覚悟の上で参加していますから」

 だが、美汐の反応は、取り付く島がないという感じだ。

「強いのね、天野さんは」

「弱くはないつもりですよ」

「それじゃ、香里さん。行ってくるよ」

 出撃する二人に姿に、不思議と若さを感じてしまう香里であった。

『プトレマイオスのコンテナ、固定位置で静止。キュリオスはC装備でカタパルトデッキへ』

 栞のアナウンスに沿い、飛行形態のキュリオスは後部に武装コンテナを装備した状態で、カタパルトデッキへと移動していく。

『トレミーを、カタパルトモードに移行します』

 真琴の操作で、プトレマイオスの艦首発進口にリニアカタパルトが展開し、リニアフィールドが形成される。

『キュリオスをリニアフィールドに固定しました』

『射出準備完了。タイミングをキュリオスに譲渡します』

『あいはぶこんとろーる。キュリオス、月宮あゆは介入行動に入るよ』

 キュリオスを射出後、続いてヴァーチェがカタパルトデッキに移動を開始する。

『ヴァーチェ、カタパルトデッキに入りました』

『リニアフィールドに固定、射出準備完了』

『射出タイミングを、ヴァーチェに渡します』

『了解、真琴。ヴァーチェ、天野美汐。いきます』

 二機のガンダムは、地球の大気圏上層部にまで接近していた。

『GN粒子最大散布。機体前方に展開』

 ヴァーチェの機体各部が展開し、そこから放出された輝く粒子が機体を包み込み、GNフィールドを形成する。いよいよ大気圏突入だ。

『うぐぅ……シミュレーションでは何度かやった事はあるけど……』

 本番はこれがはじめてだ。緊張のせいか、スティックを握るあゆの手に力がはいる。

『降下ポイントに到着。大気圏突入を開始します』

『美汐さんは……すごい度胸だね』

 それだけ自分のガンダムを信じているという事なのだろう。美汐に遅れまいと、あゆも大気圏突入を開始するのだった。

 Kanonの活動は、直ちにONEの知るところとなる。

「大尉、Eセンサーに反応。大気圏に突入する物体があります」

「なに? そんな報告は受けていないぞ」

 静止軌道衛星ステーションの司令室では、オペレーターからの報告に基地司令が驚きの声を上げた。

「最大望遠映像、出ます」

 モニタースクリーンには、モビルスーツらしき機影が大気圏に突入しているシーンが映し出されている。

「……ガンダムだ」

 そこに姿を現したのは、ONEで中佐の地位にある渡辺茂雄だった。

「あの機体は、単独で大気圏突入が可能だとでもいうのか……。機体の進行ルートは?」

「お待ちください」

 突入角度と移動速度から、降下ポイントを計算する。

「現行のままですと……降下予測ポイントは……。インド南部、セイロン島です」

 そこはONEの領土内にある紛争地帯だ。そうなると、戦争に対して武力による介入をするという宣言は、嘘ではなかったという事だ。

『ヴァーチェ、GN粒子最大散布から通常モードへ』

『流石はキュリオスだね。でも、ミッションはこれから……』

 大気圏を突破した二機のガンダムは、ランデブーポイントに向けて通常飛行に入る。

『来たよ、祐一。あゆちゃんと美汐ちゃんだよ』

『確認した。予定ポイントで合流後、ファーストフェイズに入る』

 

 セカンドミッションの概要は、セイロン島における民族紛争の介入にある。

「セイロン島は現在、無政府状態にあるわ。多数派のシンハラ人と少数派のタミル人との民族紛争が原因よ。この紛争は、二〇世紀から断続的に行われているの。この民族紛争に、Kanonは武力介入します」

 ミッション前のブリーフィングで、香里はそう語った。

『……民族紛争か』

 目標地点に向かう途中で、祐一はふとそんな事を口にした。

 おなじころ、帰還命令を受けた往人は巨大な三角翼をした輸送機の機内で、ガンダムの軍事介入を知った。

「昔のスリ=ランカとは、またけったいなところに行きよるな、あの連中は。あそこは確か、一〇年ほど前からONEが少数派のタミル人に肩入れしとったとこやな」

「ああ、表向きはな。ONEは紛争の平和的解決を名目に派兵しているが、実際にはセイロン島東部にある太陽エネルギーの海底ケーブルの安全確保が目的だ。あの周辺はタミル人の勢力が強いからな」

 しかし、ONE軍が介入してくる事によって紛争が悪化してしまった結果、セイロン島は無政府状態にまで陥ってしまったのである。

「キャプテンに言って進路を変更してもらってくれ、それと、俺のフラッグの整備を」

 指示を飛ばす往人に、唖然とする晴子。

「そりゃ、無茶やで居候」

「わかっているさ」

 

 セイロン島ではシンハラ人のモビルスーツ『アンフ』と、タミル人側に軍事介入したONEの『ティエレン』が熾烈な攻防戦を繰り広げていた。アンフは果敢に応戦するも、ティエレンの数は多く、一機、また一機と撃破されていった。なにより、後方に位置する長射程用のティエレンの砲撃の前には無力であり、抵抗らしい抵抗も出来ないまま撃破されていったのである。

『敵部隊の三〇%を叩いた、このまま一気に殲滅させるぞ』

『大尉、本部から緊急連絡です』

『なんだ? どうした』

『Kanonが来るそうです』

『そうか……ここに来るか……』

 コックピット内部で、部隊を指揮する大尉は毒づいた。Kanonの理念が武力による戦争解決であるのなら、いずれ遠からずここにもやってくる事は明白だからだ。

『各部隊に通達しろ』

 残敵を掃討しつつ、ガンダムの襲来が各部隊に伝えられた。

『香里の戦況予測どおりに各自対応するよ。それなりの戦果を期待しているから、みんなよろしくね』

『うぐぅ、それなり……』

『私は派手にいきたいところですが』

 指示を飛ばす名雪も、あゆと美汐の反応には思わず苦笑してしまう。

『祐一は聞いてる?』

 だが、祐一の反応はない。

『ちょっと、返事くらいしてよ。ねえ、祐一ってば!』

 その時、祐一の心は過去へ飛んでいた。

 今から六年前、祐一は中東のクルジス共和国で銃を手に戦わされていた。それは祐一が乗っていた飛行機がテロの犠牲となり、生き残った祐一が生き延びるためには仕方のない事だったのである。

『この戦いは、神の御前に捧げられる聖戦である。伝統を軽んじ、神の土地を荒らす不信仰者どもに、我々は鉄槌を下すのだ。不信仰者どもに屈服してはならない。我々は戦いで死す事によって、神の御許に導かれるだろう』

(神なんているかよ……)

 アザディスタン王国からの軍事介入を受け、民族自決権を選択したクルジス共和国では、過酷な掃討戦が行われていた。一丁の小銃を手にモビルスーツに挑みながら、祐一はそんな事を考えた。この放送を流している政府関係者は、おそらく真っ先に自決したのだろう。その意味では、もはや誰にも止める事の出来ない戦いが続いていた。

 そして、そのモビルスーツ、アンフの長く伸びた頭部の直下にすえられた砲口が祐一自身に向けられた時、天空の彼方より飛来した一条のビームがその機体を貫いた。続けて放たれたビームは、その場にいたアンフを次々に全滅させていく。

 その時、祐一は見る。背面部のスリットから輝く粒子を翼のように展開した、モビルスーツの姿を。

 モビルスーツの名前が0ガンダムである事を知ったのは、そのあとの事だった。

『……ガンダム……』

『祐一、なに言ってるの?』

『俺が、ガンダムだ』

 そう言うと祐一は、エクシアを急加速させる。

『ねえ、ちょっと祐一っ!』

『それじゃあね、名雪さん』

『作戦行動に入ります』

 そう言うと、あゆのキュリオスと美汐のヴァーチェも離脱していくのだった。

『みんなバラバラだよ……』

『ビンボウクジ、ビンボウクジ』

 けろぴーの声は妙に楽しげだが、それに名雪は大きくため息をついた。

『わたしは砲撃に集中するよ。回避運動はお願いね、けろぴー』

 コックピット内部のロックオントリガーを名雪が構えると同時に、デュナメスの頭部がガンカメラモードへと切り替わる。これが、名雪の本気モードだ。

 

 アンフが一機、脚部を破壊されて行動不能となる。すかさずとどめを刺そうとカーボンブレイドを構えたティエレンの腕部を、一条の光弾が破壊した。

『来たのか……Kanon』

 ゆっくりと大地に降り立ち、右腕のGNソードを構えたエクシアに、ティエレンのパイロットは毒づいた。

『エクシア、紛争を確認。根絶する』

 GNドライヴのもつ重量軽減効果とホバーリング機能による高速疾走により、それまでのモビルスーツとは一線を画する運動性能を持つエクシアにとって、ティエレンの動きは止まっているようなものだ。一機、また一機とGNソードの餌食になっていく。

 その時、長射程型のティエレンが放った砲弾が命中するも、シールドで受け止めたエクシアは無傷で黒煙の中から姿を現す。パイロットが驚愕したのも束の間、遅れて到着したデュナメスの高空からのピンポイント射撃により、後方部隊が砲撃される。

『デュナメスは目標を狙い撃ちだよ〜』

 砲口を上空にいるデュナメスに向け、ティエレンは果敢に応戦するも、運動性能の違いからまったく歯が立たない。後方部隊が壊滅するのに、さほど時間はかからなかった。

『祐一は?』

 上空から祐一の姿を探す名雪。見ると眼下では祐一が次から次へとティエレンを破壊しているところだ。

『もう、気合入れすぎだよ。祐一』

 そのころ、モビルスーツ部隊の発進準備を整えた後方の駐屯基地には、あゆのキュリオスが向かっていた。

『キュリオスは、目標を爆撃するよ』

 後部に接続されたコンテナから、多数のミサイルが発射される。この攻撃によって、多数の命が奪われた事だけが事実だ。

『……これでボクも殺人者だよ……。だけどね……』

 コンテナを投下したあゆは、そのままキュリオスを飛行形態からモビルスーツ形態へと変形させ、上空から基地を攻撃する。

『それが、Kanonなんだよ』

 そして、美汐も洋上に浮かぶONEの特殊空母に向けてGNバズーカを構えていた。この武器は通常右手で保持しているが、最大出力で発射する際には機体の正面に構えてGNドライヴと接続するため、両手で保持する必要があるのだ。

『ヴァーチェ、目標を捕捉。排除行動に移ります』

 GNドライヴより充填されたエネルギーが、GNバズーカにチャージされていく。その砲撃は一発で敵艦を駆逐するのだった。

『撤退、撤退だ』

 ガンダムの持つ圧倒的なまでの戦闘力の前に、残った敵は即座に撤退していった。

『ここまで。ここまでだよ、祐一……』

 名雪の声は悲痛そのものだが、果たしてそれが祐一に届いているのかどうか。それでも祐一が逃げる敵を追うような真似をしなかったのが、唯一の救いといえた。

『協力を感謝する』

 その時、シンハラ人のパイロットから通信が入る。

『敵は崩れた、今までの借りを返してやる』

 逃げる敵を追い、アンフが動いた。あわてて名雪はGNスナイパーライフルを構えようとするが、エクシアの脇を通過しようとした刹那、GNソードで切り裂かれてしまうのだった。

『祐一……』

『これが、ガンダムマイスターだ』

 安堵した名雪の声に応えるように、祐一の冷静な声が響いた。

 

「お、あったあった。やっぱり水瀬秋子、太陽光発電システムの生みの親だ」

 古い資料をあさっていた恭介は、Kanonの創設を宣言した女性の正体に行き着いていた。

「Kanonが?」

 その時恭介は、誰かの叫び声を聞いた。それによるとKanonはセイロン島における紛争に介入し、双方のモビルスーツを撃破したとの事だった。

「おいおい、そんな事したらどちらの感情も悪化させるだけじゃないか」

 Kanonの行動は、恭介にとっては呆れるだけだ。

 たった一度の介入で、三〇〇年以上も続く紛争が終わるとは思っていない。だから戦争をやめるまで、何度でも介入する。全ての憎しみが向けられる日まで、それがKanonの存在意義。物事が変革されるまで付きまとう痛みなのだ。

『名雪さん、エクシアは? 祐一くんはどうしたの? まさかやられちゃったの?』

 任務を終えて帰還する途中で、キュリオスのあゆが話しかけてきた。彼女にとってはかなり久しぶりに祐一に会うのだから、その安否が気になるのも当然だろう。

『祐一なら先に帰投してるよ。初めての紛争介入だからね、きっとなにか思うところがあるんだよ』

『わかりませんね。どうして相沢さんがガンダムマイスターなんでしょうか……』

 そのころ、ただ一人先行していた祐一は、AIRの輸送機と接触した。なんでこんなところを飛んでいるのかいぶかしげに思ったところ、後部のハッチが開いて一機のモビルスーツが飛び出してくる。

『フラッグか?』

 AIRではわりとポピュラーなモビルスーツであり、イナクトの原型にもなっているくらいだ。空中で飛行形態からモビルスーツ形態に変形すると、右手でプラズマブレードを抜き放ち、一気に切りかかってきた。

『くっ』

 咄嗟にGNソードで受け止める祐一であるが、相手のパイロットからは尋常ではない気迫を感じた。

『はじめましてだな、ガンダム』

『誰だ?』

『俺の名前は国崎往人。お前の存在に心を奪われた男さっ!』

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