♯03 変わる世界

 

 西暦二三〇七年、私設武装組織Kanonは全世界で起こる戦争の根絶を宣言し、武力による介入を開始した。インド南部セイロン島での民族紛争に介入し、世界を震撼させたガンダムマイスターに、新たなミッションが下される。

 それは、人類に下す神の裁きか。それとも、変革への誘発か。

 

「武力による戦争の根絶とはな……。裏葉よ、どうやらKanonとやらは余達の代わりを務めてくれるらしいぞ」

 AIRの中核を成す翼人である神奈備命は、官邸において傍らにいた女性にそう話しかけた。

「彼らは……本気なのでしょうか? 神奈様」

 なんの見返りもなく行動するとは、裏葉には信じられない事だ。

「私達が他国の紛争に介入するのは、あくまでも我が国の国民達の安全と国益を確保するためです。決して、慈善事業などではありませんから」

「ならば、すぐにでも化けの皮がはがれるであろう? その時に彼らを裁くのが、余達の使命ではないか? 裏葉よ」

 そう言って窓の外の風景を見つめる神奈の瞳には、いつまでたっても戦いをやめない人類の愚かしさに対する蔑みの色が浮かんでいた。

 

『まさかな、よもや貴様に出会えるとはな』

 そのころ洋上でエクシアと交戦状態に入った往人は、コックピットの中で歓喜に打ち震えていた。こうなるともはや運命であるとしか言いようがない。それとも、エクシアが光の粒子を出していなかったおかげで見つける事が出来たのか。

 おそらくは後者だ。往人は自身のフラッグを加速させると、恐ろしい勢いでエクシアに迫る。

 だが、そんなものは意にも介さず、無造作ともいえるGNソードの一閃で強引に振りほどくエクシア。その衝撃でフラッグの右腕に握ったプラズマブレードが弾き飛ばされてしまった。

『圧倒された? だがな……』

 相対するエクシアは、左手のシールドに半身を隠す形で、右腕のGNソードを大きく振りかぶって突進してくる。

『そんな大きな得物が当たるかよっ!』

 その一撃を軽く半回転してかわすフラッグ。その動きには祐一も驚きの色を隠せない。

『手土産に、破片の一つもいただいていくっ!』

 フラッグの右手がエクシアの左肩を掴む。

『俺に触れるなっ!』

 だが、それもエクシアのパワーにより、強引に振り解かれてしまう。その卓越した戦闘能力を目の当たりにした往人は、コックピットで息を飲んだ。すかさず往人は左手でリニアライフルを発射するが、エクシアの運動性能の前ではまったく砲弾が命中しない。

 そして、シールドを投げ捨てたエクシアは左手で右の脇からビームサーベルを引き抜いてフラッグに迫る。

『ビームサーベルだと?』

 その一閃はフラッグのリニアライフルを破壊。攻撃の手段を無くした往人は、撤退するしかなかった。

(単独出撃? あのフラッグは誰なんだ……)

 性能的にはガンダムより遥かに劣るフラッグで、あそこまで祐一を追い詰めた男。ガンダムの高性能のおかげで勝てたとはいえ、もしも機体性能が同一であるならば、負けていたのは祐一のほうだ。

 あれが、エースパイロットの実力。機体性能を最大限に引き出す事で、基本スペック以上の高性能をたたき出す。その能力に、少しだけ戦慄する祐一であった。

 

「まったく、無茶しよるな。この居候は」

「ライフルを失ってしまった。これは始末書ものだな」

「いや、そうはならんと思うな、うちは。今回の戦闘で得たガンダムのデータは、フラッグ全損させてもおつりがくるくらいや」

 しかも、接触時に付着した塗料から、相手の正体が辿れるかもしれない。その意味でも往人が機体を持ち帰ってきてくれたのだから、ライフルの一丁くらい安いものだ。このあたりは往人がAIRで『人形遣い』の異名をとる所以だろう。

「それにしても若かったな。あのガンダムのパイロットは」

「まさか、話したんか?」

「いや、機体の動きに感情が乗っていた」

 あまりの往人らしさに晴子が口元に笑みを浮かべたとき、機内の放送でガンダムをロストした旨が告げられた。どうやら振られてしまったようだ。

 

 軌道エレベーターは地上と宇宙とを行き来する上で重要な設備であり、旧時代と違って特別な訓練を受けた者以外でも気軽に衛星軌道に到達できる施設となっている。

『天柱通行車、E‐二七三便に搭乗されるお客様は、A‐一二番ゲートにお集まりくださるようお願いします』

 軌道エレベーター基部にある発着ステーションにアナウンスが響く中、祐一が遅れて仲間と合流した。

「遅かったね、祐一」

 最初に気が着いた名雪が明るく声をかけ。

「死んでしまったかと思いましたよ」

 すました美汐はつれない様子だ。

「祐一くん、なにかあったの?」

 それとは対照的に、あゆは心配そうに訊いた。

「なにがあったかは、ヴェーダに報告書を提出しておいた」

「では、後で閲覧させてもらいますね」

「まあ、全員無事でなによりだったね」

 なぜか暗くなる雰囲気を名雪は明るくしようと努力するのだが、まったく視線をあわせようとしない祐一と美汐には閉口気味だった。

「宇宙のほうはよろしくね、美汐ちゃん。わたし達は次のミッションに入るけど」

「命令には従います。不安要素はありますが」

 美汐には別の任務があるので宇宙へ帰還しないといけない。いくらガンダムに大気圏突入能力があり、単独で飛行できても、重力から離脱できるほど高性能ではない。そこで宇宙へ上がるために、軌道エレベーターを利用しようというのだ。

「でも、本当に出来るのかな? ガンダムを軌道エレベーターで宇宙に戻すなんて」

 あゆが率直な疑問を口にする。

「それなら、心配いらないよ。香里の予定通りにガンダムをコロニーの開発資材の中に紛れ込ませてあるからね。重量が同じで搬入さえクリアしちゃえば、後のチェックは無いに等しいんだよ。特に、ここじゃね」

「まさしく、盲点だよね」

 美汐が無事にゲートへ入るのを確認して、あゆは軽く息を吐いた。

「ボク達に弱点があるとすれば、ガンダムが無いとプトレマイオスの活動時間が極端に限定されてしまうところぐらいかな。太陽炉は四つしか無いんだし……」

 そこまであゆが口にしたところで、祐一が止める。

「あゆ。それ以上機密事項を口にするな」

「うぐぅ、ごめんね祐一くん」

 そのとき、場内に発車を告げるチャイムが鳴り響いた。

「美汐ちゃんのトレインが出発するよ」

 宇宙へと続くリニアトレインが、ゆっくりと上昇を開始する。その車中において美汐は、やっと宇宙に戻れると安堵の息を吐く。彼女はどうも重力というものに慣れないのだ。

 美汐を見送った後、名雪達もその場を引き上げる事にした。

「CLANNADの新鋭機視察が、とんでもない事になってしまったね」

 帰還した往人と晴子を基地司令の橘敬介はそう労った。

「まさか、あんな機体があるとは……」

「研究する価値はあると思うんやけど」

「軍上層部も、そう思っているようだよ」

 敬介が机の引き出しから取り出したのは、作戦指令書だった。

「ガンダムを目撃した君達二人に、転属命令がおりた」

「対ガンダム調査隊?」

 文書に目を通した往人は、その内容に唖然とした。

「新設された部隊だ、正式名は追って司令部がつけてくれるだろう」

「霧島聖? あのせんせが技術主任を担当するやて?」

「上層部は、それだけ事態を重く見ているという事さ。君達には早急に対応してもらう」

「はい。国崎往人中尉、神尾晴子技術顧問。対ガンダム調査部隊への転属、受領いたしました」

 基地司令に敬礼をし、二人は部屋を退出した。

「しかし、居候。お前まさかこうなるんを予見してたんやかないか?」

「俺だってそこまで万能じゃない」

 人より多少モビルスーツを上手に操縦できる程度だ。

「ただ、因縁めいたものを感じちゃいるがな」

 新たな任務に、決意を固める往人であった。

 

 経済特区となった東京では、平和の最中に退屈な授業となっていた。

「アイルランドのアルスター地方では、散発的ではありますがテロ行為が四世紀近くにわたって続いています」

 講師の語る歴史を、直枝理樹はほとんど聞き流すようにして聞いている。

「カソリックとプロテスタントという、キリスト教の宗派同士の対立が発端と言われていますが、両者の溝はそれだけではありません。今度のレポートは、北アイルランドの対立図式を取り上げて提出してください」

 授業が終るなり理樹は、学食で大きくため息をついた。宇宙工学を専攻しているはずなのに、どうして歴史の授業なんて受けなくてはいけないのか。

「また、レポートか……」

 とはいえ、単位取得のためには仕方のない事だ。

「これからの技術革新は軌道エレベーターの保持と、スペースコロニーの開発が中心になる。他の国の技術者と交流には、正しい歴史観が必要なんだとくるがやが言っていた」

 完全に他人の受け売りだが、妙に鈴は誇らしげだ。それは理解できるが、どうにも理樹は歴史が苦手だ。

「理樹は、将来の事は考えているのか?」

「漠然とだけどね」

「そのなかに、あたしの事は入っているのか?」

「漠然とだけどね」

 その答えに不満があったのか、いきなり鈴は席を立ち上がった。突然の出来事に、理樹はどう対応していいのかさっぱりわからなかった。

「こういうときは、追いかけるものだ、とくるがやが言っていたぞ」

 その言葉に、あわてて鈴の後を追う理樹であった。

 

 美汐が宇宙へ上がったのと前後して、地上にはONEの中佐、通称ヒゲと呼ばれる渡辺茂雄が降り立っていた。こちらは美汐とは対照的に、久々の重力に心地よさを感じている様子だ。

「お待ちしておりました。中佐」

「早速、セイロン島へ向かわせてもらう」

 ガンダムが現れたセイロン島。基本的にこの目で見たものしか信じない茂雄は、襲撃を受けた駐屯基地へと赴いていた。

「こちらです、中佐」

 格納庫の内部では、キュリオスが投棄した武装コンテナの検証が行われている最中である。

「これか。それで? なにかわかったのかね?」

「あれは、どうやらモビルスーツの爆撃用に使われるオプションパーツのようです。材質はEカーボン。最新素材ではありますが、構造上目新しい技術は確認されておりません」

「搭載されていたミサイルは?」

「残留物を調査したところ、ミサイルは射程距離が三〇〇キロ程度の誘導タイプ。ちなみに、このタイプを開発している国やメーカーはありません」

「やはり、独自開発か」

 予想通り、といった様子で茂雄は呟いた。

「それと、ガンダムからは謎の光が」

「光?」

「ガンダムの機体から、光る粒子のようなものが放出されていたそうです」

「納得できる証言だな。レーダーやセンサーに引っかからなかったのはそのせいか」

 今までのガンダムの出現のパターンから推測すると、どうしてもそういう結論となる。

「水瀬秋子か……。太陽光発電システムの産みの親とも言うべき存在だったな」

 ONEの諜報部はその線からガンダムを追いかけているのだが、今のところどこの諜報部もある一定のところまでいくとその先に進めなくなってしまっているのだ。

「叩いて出るほこりは無いだろうな」

 茂雄はガンダムの置き土産を眺めつつ、低く唸った。

「このパーツもそうだ。見せていい技術は使い捨てにしている」

 そのとき、茂雄の元にガンダムが現れたと言う情報が入った。

「場所は?」

「二ヵ所です」

「二ヵ所? 同時行動か」

 

 最初にガンダムが確認されたのが南アフリカ。おそらくは鉱物資源の採掘権を発端とした、内戦への武力干渉と推測された。

『うう〜、なんだか弱いものイジメをしているみたいだよ……』

 そこに現れたデュナメスのコックピット内部で、名雪は低く呻いた。なにしろ相手は作業用のワーカーマシンをマシンガンなどで武装した、ワークローダー程度の戦力でしかない。当然高台に位置する名雪のデュナメスに相手の砲撃は届かないので、攻撃は一方的なものとなっていた。

『早く武装解除してくれないかな……』

 この程度の相手にGNスナイパーライフルを使うまでも無いので、GNビームピストルで攻撃をしている名雪ではあるが、その射撃は正確に相手の武器を装備している腕だけを破壊していた。

『そうしないと当てちゃうよ〜』

 直撃をさけ、名雪はワークローダーの周囲に至近弾を集中させるように攻撃を続ける。すると、とても勝てないと踏んだのか、ワークローダー達は武器を投げ捨てて我先に逃げ出していくのだった。

『テキ、ニゲタ。テキ、ニゲタ』

『やれやれだよ……』

『ヨカッタ、ヨカッタ」

 コックピットに響くけろぴーの声に、安堵のため息をつく名雪であった。

 

 おなじころ、AIRでもガンダムと交戦した往人のフラッグの調査が行われていた。

「機体の受けた衝撃度から推測すると、あのガンダムの出力はフラッグのざっと六倍やな。まったく、一体どないなモーター積んどるんやろな」

 なにしろこの機体はガンダムと交戦して生還した機体だ。きっとガンダムの高性能の手がかりが残されているに違いない。

「出力もそうだが、厄介なのはあの機動性のほうだ」

「一応、戦闘データで確認しとるで。やっぱ、あの機動性を実現させとるんは、その光の粒子で間違いないやろな」

「あの特殊粒子はステルス性の他に、機体制御にも使われている」

「おそらくは、使用している火器にも転用されているだろうな」

 するとそこに、一人の女性が姿を現した。この女性こそがAIRの頭脳ともいえる、霧島聖教授である。

「水瀬秋子は恐ろしい女よ。我々の持つ技術の十数年は先を行っている」

 その名を口にしたとき、聖はわずかだが苦々しげな表情だった。

「出来る事なら、ガンダムという機体を捕獲してみたいものだな」

 その聖の言葉は、往人にとっても同意である。

「そのためにも、こいつをチューンしてもらいたいんだ」

「面白い事を言うな、君も。パイロットへの負担はどうする?」

「そいつは無視してくれ」

「ほう?」

 その時の聖の瞳は、あたかも面白いおもちゃを見つけたようだった。

「ただし、期間は一週間で」

「無茶を言うな」

「多少強引でなければ、ガンダムは口説けないさ」

「ほんま、メロメロやな。居候は」

 晴子がからかうような口調で口を開いた時、往人に報告が入る。いよいよガンダムの登場だ。

 早速出撃しようとする往人を聖が止める。

「やめたまえ、国崎君」

「なぜだ? 一機はタリビアだ。ここからならいける」

「生憎、私は麻薬が嫌いなんだ。ガンダムがそこを焼き払ってくれるのなら、私はガンダムを応援する」

「麻薬?」

 確かに往人にも心当たりがある。南アメリカのタリビアは有名な麻薬の産地であるが、政治上の関係から誰も手が出せない場所なのだ。

「連中は、紛争の原因を断ち切るつもりなんだ」

 そこへは、あゆのキュリオスが向かっていた。

『旋回行動開始から三〇分経過。警告は終了。キュリオスはこれから作戦行動を開始するよ』

 キュリオスの後部に接続された武装コンテナが開き、多数のナパーム弾が投下される。するとたちまちのうちに麻薬畑は火の海となり、あたり一面を焼き尽くした。

『目標達成率九七ぱーせんと、みっしょんこんぷりーと。こういうのだったらいつでもやるんだけどね……』

 少なくとも、誰も殺さないですむ。帰還するキュリオスのコックピットで、心底あゆはそう思うのだった。

 

「三機目がこのセイロン島に現れただと?」

「はい、第七駐屯地です」

「使えるティエレンはあるか?」

 自分の目で見たものしか信じない。だからこそ茂雄は出撃する必要があるのだった。

『三番機、やられました』

『化け物かよっ! ガンダム』

 エクシアの持つ圧倒的なまでの戦闘力の前に、ティエレンは無力だった。それでも戦わなくてはいけないのが、軍人の悲しい務めなのであるが。

『エクシア、紛争介入継続。目標を駆逐する』

 機体の周囲に光の粒子が広がると同時に、信じられない速度でティエレンに迫るエクシア。

『早いっ!』

 果敢に応戦するも、残った二機のティエレンはGNソードの一閃であっさり破壊されてしまう。

『ファーストフェイズ終了』

 祐一がそう呟いた時、エクシアのセンサーがなにかが高速で近づいてくるのを捉えた。

『援軍か?』

 それは、高機動用にフルチューンされたティエレンだった。ブースターユニットの追加により飛行する能力を獲得したティエレンであるが、それに比例して扱いが難しくなっている機体だ。

『あれが、ガンダムか……』

 茂雄のティエレンはエクシアに正対すると右腕の火器をパージし、腰の後ろからカーボンブレイドを引き抜いた。

『火器を捨てた? 試すつもりなのか』

『戦争根絶とやらの覚悟、見せてもらうぞ』

 脚部のスラスターをふかし、一気にエクシアに迫るティエレン。だが、次の瞬間にはGNソードの一閃で右腕を切り飛ばされてしまう。

『肉ならくれてやるっ!』

 反転した茂雄のティエレンは、そのまま一気に左手でエクシアの頭部をわしづかみにした。まさにこれこそ、肉を切らせて骨を断つ。素人め、間合いが遠いわ。とでも言いたげな攻撃だ。

 片手で宙吊りに近い状態にされてしまったのでは、エクシアのGNソードも威力が半減してしまう。世代的には旧型の部類に入るティエレンではあるが、そのパワーは圧倒的だ。エクシアのダメージゲージが一気にレッドゾーンまで跳ね上がる。

『その首、もらったぁっ!』

『やるかよぉっ!』

 すかさず左腕のシールドをはずし、ビームサーベルを引き抜く祐一。左腕を切り裂いた後は、一気に右腰のあたりから脚部を破壊した。

『俺に、触れるな……』

 ガンダムの頭部を掴んだままだったティエレンの左腕をはずし、そう言い放つ祐一であった。

 

 さて、一方宇宙へと上がった美汐のヴァーチェは、プトレマイオスとの合流ポイントに到着していた。

『ヴァーチェ、確認しました』

 真琴の明るい声の響きに、不思議な懐かしさを感じる美汐。

『着艦準備開始、相対誘導システム作動』

 ヴァーチェの前方から、ゆっくりとプトレマイオスが近づいてくる。

『コンテナ、オープン』

 コンテナのハッチが開き、ガイドビーコンが放出される。

『連動システム良好。ヴァーチェ、着艦します』

 美汐は機体を反転させ、丁度仰向けに寝かせるような形で着艦していく。宇宙空間では厳密な意味での静止が出来ないため、こうした正面からのアプローチだとそのまま衝突してしまう危険性がある。そうならないためにはお互いの相対位置を常に把握し、その上で効率よく減速していかなくてはいけないのだ。

 ゆっくりとヴァーチェの機体がプトレマイオスのコンテナに収納されていく。両肩がブレーキユニットと接続されると同時に脚部が固定される。

『着艦完了。ヴァーチェのGNドライヴ、プトレマイオスとの連結作業開始』

 コンテナのハッチが閉じると同時に、ヴァーチェの機体背面部にアダプターが接続される。

『エネルギー、ヴァーチェからトレミーへの転送準備完了。転送を開始します』

『やはり、宇宙はいいですね……』

『ご苦労様、天野さん』

 やっと帰ってきたと言う安堵に包まれたのも束の間、モニターには香里の姿が映し出されていた。

『ミッションはどうなりましたか?』

『無事終了したわ。天野さんも早く来て、一緒に祝杯をあげましょう』

『謹んで、辞退します』

 モニターの向こうでは、香里が少々すねたような表情をする。特に香里は酒乱というわけではないのだが、騒がしいのが嫌いな美汐であった。

 そしてこの日、テレビのニュースでは北アイルランドでテロ活動をしていたリアルIRAが、武力によるテロ行為の完全凍結を宣言した。この事で実に四〇〇年以上続いていたアイルランドの紛争が、事実上消滅した事となる。それは、新たなる平和への道が開かれた事を意味する事だ。

 これを見た理樹は、世界が変わりはじめた事を実感するのだった。

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