♯06 セブンソード

 

 ONEの所有する軌道エレベーター、その高度一万キロメートルに設置された低軌道ステーション『真柱』の重力ブロック脱落事故において、ヴェーダの推奨するミッションを無視して人命救助を行なった月宮あゆは、独房に入れられる事となった。

「よお、あゆちゃん」

「あ、北川くん」

 独房へ向かう途中、あゆはプトレマイオスの操舵士を務める北川潤に呼び止められた。

「これから独房に入るんだって? あそこは冷えるぜ、クッション持ってけ」

「ありがとう、北川くん」

「月宮、独房は腹が減るからな。たい焼き持っていけ」

「ありがとう、斉藤くん」

「あゆさん。独房は冷えますからね、この毛布を持っていってください」

「ありがとう、栞ちゃん」

「あゆ〜真琴の漫画、貸してあげるね」

「ありがとう、真琴ちゃん」

 みんなから手渡された荷物を両手に抱えながら独房の前に辿り着いたあゆは、そこに美汐が待っているのを見つけた。

「……これから独房に入るというのに、あなたはどうしてそんなに荷物を持っているんですか?」

「うぐぅ……」

 あたりに人がいないのを確認し、美汐はそっとあゆの耳元で囁く。

「これは私からです。飽きたら次のメディアを持ってきてあげますから」

 そう言って美汐はあゆにミュージックプレイヤーを手渡した。

「う〜ん、快適」

 そうしてあゆが独房で快適に過ごしていたころ、地上の祐一達は。

「やぁん……」

 キッチンで洗い物をしているときに突然背後に回りこんできた祐一が抱きしめてきたので、手を止めた名雪はくすぐったそうに身をよじった。

「な……なに? 祐一」

「いいだろ?」

 耳元で囁く祐一の声に、耳まで真っ赤になる名雪。確かに今は二人きりなのだから、いずれこうなるのではないかと思っていたが、まさかいきなりとは。

 祐一にしてみればあゆも美汐もいないのだし、いつ次のミッションにはいるのかもわからない。だからこれは、ある意味千載一遇のチャンスなのだ。

 エプロンドレスに包まれた、名雪のはちきれんばかりのボディは祐一の理性を蕩かすのに充分な破壊力があり、見た目よりも豊満なバストを揉みしだいたり、ロングヘアをかきあげて首筋に愛撫を加えたりすると、面白いように敏感な反応がある。

 ガンダム操縦するより簡単かもしれないな、とか思いつつ、祐一は手の中で名雪を弄ぶ。

 そして、祐一自慢のGNソードは、名雪の柔肌を易々と貫いていくのだった。

 

「……ったく、ひでぇもんだな。Kanonって奴らはよ……」

 ここは南アフリカにある鉱物資源採掘現場、かつて名雪がデュナメスで武力介入した場所だ。

「ここにある石っころが取れなきゃ、この国の経済は破綻。それによって影響を受ける国や企業がどれだけあるか……わかってんのか?」

 そう呟いてその男、古河秋生は紫煙を吐く。

「紛争を止められりゃ、下々のものはどうなってもいいらしいや……」

 するとそこに、秋生の雇い主であるPMCトラストから通信が入る。

「古河秋生だ……。おいおい、現地まで派遣しておいてキャンセルってのはどういう事だ? 戦争屋は戦ってナンボなんだよ! このままじゃモラリアが崩壊するぞ? ……わかった、本部に戻る……」

 ようやくCLANNADのお偉いさんが重い腰を上げやがったか。通信を切った秋生はそう自嘲気味の笑みを浮かべるのだった。

 そのころCLANNADの中央議会では、今後の方針に向けて議会が紛糾していた。それは今後のCLANNADの宇宙開発計画には、モラリアのPMCトラストの存在が必要不可欠だからであった。しかし、CLANNADがPMCトラストを擁護するためにモラリアへ軍を派遣したとなると、Kanonの武力介入を引き起こしかねない。

 当然の事ながら派兵するとなると、世論の反発も厳しいものとなる。とはいえ、軌道エレベーターの建造すらも終わっていないCLANNADが、これ以上他の勢力に遅れをとるわけにもいかない。AIRやONEに頭上を押さえられてしまっては、宇宙という最後のフロンティアすら失いかねないのだ。

 結局、モラリアへの軍隊派遣は賛成国のみで行われる事となったが、これがCLANNADの総意である事を強調した上で議会は解散となった。

 

 ONEの軌道エレベーターにある超人機関技術研究所の分室内では、突如として暴走を開始した折原浩平の徹底調査が行なわれていた。

「少尉の体を徹底的に検査しましたが、問題はありませんでした」

 調査を行なった技官は、淡々と事実のみを告げる。

「脳内シナプスの神経インパルス、グリア細胞も正常な数値を示しています」

「では、なぜ少尉はあのような行動をとったのだ?」

 茂雄は浩平が低軌道ステーションの重力ブロックに攻撃を加えたときの事を思い出していた。

「タオツーのミッションレコーダーを分析したところ、脳量子波に異常が検知されました。通常ではありえない現象です、外部から影響を受けた可能性も……」

「外部からの?」

「もしそうであるとすると、影響を与えた人物は少尉と同じく脳梁膝部分のグリア細胞を強化され、脳量子波を使う者に限定されます」

「同類だとでもいうのか?」

「可能性の問題を示唆したまでです」

 相変わらず能面のような技官の対応に、内心苛立ちを覚える茂雄。脳梁は左右の大脳新皮質をつなぐ部分にあり、脳梁膝とは脳梁の前端にある湾曲した部分を指す。グリア細胞は大脳神経系における神経細胞ではない細胞の総称であり、大脳内の細胞数では神経細胞の数を上回っている。

 グリア細胞の主な働きは神経細胞への栄養補給や機能維持のための代謝を行う事で、機能別に複数の細胞が役割分担して大脳内における神経細胞のネットワークを形成しており、記憶や学習といった大脳の持つ高次作用はこの細胞によって支えられている。

 超兵一号である折原浩平はこの細胞が強化される事により、通常の人間よりも早く左右の大脳の神経伝達を行う事で高い反射能力を持ち、その結果として浩平からは通常の脳波以外にも、物理的な干渉が可能となるエネルギーを持った脳量子波が検出されるのだ。

 また、人間の脳は外部から電波などの影響を受けやすい性質がある。つまり、浩平の持つ鋭敏な感性が相手の放つ脳量子波を感知してしまい、暴走状態に陥ってしまったものと推測された。

「対応策は?」

「少尉のスーツに外部からの脳量子波を遮断する処置をしました。同じ轍は踏みません」

「それほどまでして、少尉を戦場に出させたいのか?」

「Kanonなどという組織が現れなければ、我々の研究も公にはならなかったでしょう」

 なにかにつけてそれか、と茂雄は半ば諦めの息を吐くのだった。

 

 荒廃した祖国を救うため、エネルギーの供給支援を取り付けに佐祐理はCLANNADのフランス支部を訪れていた。

「太陽光発電の技術支援ですか……」

「ぜひとも、お願いしたいのです」

 佐祐理との会談に臨んだ外務省の担当官の様子は芳しくない。

「我が国としても協力はしたいところではありますが、貴国の情勢は極めて不安定。派遣する技術者達の安全が保障できなければ、議会の承認は得られないでしょう」

 なにしろ、CLANNADが所有する軌道エレベーターは完全稼動には至っていない。そちらに技術者を割かなくてはいけない関係上、他国の支援は難しい状況である。佐祐理としてもそうした事情はわからなくも無い。それだけに、無理も言えないのだった。

「アザディスタンへの食糧支援は続行させるよう、尽力させていただきます」

「感謝します」

 そう言って担当官が席を立ったので、その場はお開きとなる。うら若き王女が国を守るために、慣れない外交をする。哀れであるとは思うが、どの陣営も施しができるだけの余力はないのだった。

 なにしろCLANNADはモラリアに派兵するために、少しでも多くの物資を必要としている。アザディスタンに支援できるかどうかは、モラリア次第なのだ。

 ホテルへの帰り道、送迎の車内において佐祐理は深いため息をつく。それを隣で舞が心配そうに見つめていた。

「佐祐理……」

 予想通りの展開であったとはいえ、どうにか食料の支援は取り付けた。後は技術支援を取り付けるだけなのだが、それが最大の難関となるだろう。なにより現在一番の問題は、CLANNADがモラリアにおいてPMCトラストとの合同軍事演習を行っているという事だ。

 当然の事ながら、これにはKanonが武力介入をしてくるだろう。その結果によっては、アザディスタンへの食糧支援すらままならなくなるかもしれないのだ。

 そうなれば、一度帰国する必要もある。行く手に見えるのは闇、振り向いても闇。光は遥か遠くに見えない。それでも真実は伝わるはずだと、佐祐理は少しだけ前向きになるのだった。

 

「GNドライヴ、接続良好。GN粒子のチャージ状況、現在七五%。散布状況、四〇%に固定。有視界領域に、アンノウン無し」

 地球の衛星軌道を周回するプトレマイオスのブリッジに、戦況オペレーターを務める美坂栞の声が淡々と響く。そんななか、独房で快適に過ごしていたはずのあゆは、少し不安になっていた。

 低軌道ステーションに到着した直後の原因不明の頭痛。なにかが自分の中に入ってくるかのような感覚。

(一体、誰だったんだろう……)

 あゆがそんな事を考えていると独房のロックが解除され、美汐が中に入ってくる。

「どうしました? あゆさん。顔色悪いですよ」

「そうかな……?」

 そう言ってあゆは笑顔を作るが、それが作り笑いであるのは誰の目にも明らかだった。

「ねえ、美汐さん。ボクはやっぱり、ガンダムマイスターにふさわしくないのかな……」

「そうかもしれませんね」

 冷たく美汐はそう言い放つ。

「ですが、そんな事も言っていられなくなりました」

「あたし達には、あゆちゃんの力が必要なのよ」

「香里さん……?」

 続いて独房に入ってきた香里が、あゆに優しく声をかけた。

「モラリア共和国大統領が、CLANNAD主要参加国の外相と極秘理に会談を行なっているっていう情報が入ったのよ」

 その時、あゆの脳裏になにかが閃いた。

「もしかして、PMCトラスト?」

「これは、私達に対する挑戦ですね」

「ハードなミッションになるわよ。あたし達も地上に降りてバックアップにまわるから、あゆちゃんの営倉入りは解除。直ちに出撃準備に取りかかって頂戴」

「了解」

 地上へ降りるメンバーは戦況予報士の香里、戦況オペレーターの真琴と栞の三人となり、プトレマイオスには北川と斉藤の男二人が残される事となった。

 

 モラリア共和国は、二三年前の二二八四年に欧州の南部に建国された小国である。人口は一八万人と少ないが、三〇〇万人を超える外国人労働者が国内に在住しており、国内に約四千社以上ある民間企業の二割がPMCトラストの関連企業となっている。

 PMCトラストは傭兵の派遣や兵士の育成、兵器輸送や兵器開発、及び軍隊維持といった軍需産業を民間で請け負う企業である。

「ずいぶん熱心ね、栞」

「これも任務ですよ、お姉ちゃん」

 地上へ降りる軌道エレベーターのリニアトレイン内で、今回のミッションの確認に余念が無い妹を、香里は苦笑しながら見守っていた。

「ねえ、香里。モラリアって確か、融資した民間軍事会社を優遇して発展してきた国よね。それでどうして今まで攻撃対象にならなかったの?」

「あたし達の介入で世界から戦争が無くなっていけば、軍事会社であるPMCトラストは必要なくなるからよ」

 真琴の素朴な疑問に、如才なく答える香里。

「このまま自滅してくれたほうが、あたしとしてはよかったんだけどね……」

 しかし、そう簡単に物事が進まないのも世の習い。

 CLANNADの後ろ盾を受ける事で、PMCトラストもKanonと事を構える気になったのだろう。宇宙開発で立ち遅れているCLANNADが太陽光発電システムを完成させてスペースコロニー開発に乗り出すためには、PMCトラストのような民間企業のもつ人材と技術が必要不可欠だからだ。モラリアとしても大規模な戦争が起きなくなった事で縮小してしまった経済を立て直したいという思惑がある。例え自国が戦場になったとしても、CLANNADの援助が必要なのだ。

 そして、あわよくば手に入れようと考えているのだろう。圧倒的な高性能を持つガンダムを。

「ねえ、香里〜」

 地上についた香里達は、ホテルにチェックインを済ませた後部屋でくつろいでいた。

「モラリアにいくのは明日だから、それまでは自由行動でいい?」

「真琴ちゃんはそうしたい?」

「うんっ!」

 大きくうなずく真琴の元気さに、思わず香里から笑みがこぼれる。

「栞は?」

「データの解析がまだ……」

 口ではそういうものの、栞も行きたそうだ。

「それじゃ、二人とも。外出を許可するわ」

「やったぁっ! ほら、栞も行こう」

「でも……」

「いいからいいから。真琴達ががんばればがんばるほど物価が上がるんだって美汐も言ってたじゃない。欲しいものを買うんだったら今のうちなのよ」

 渋る栞を強引に連れ出す真琴を、香里は苦笑しながら見送るのだった。

「それじゃ、あたしは飲みに行くとしますか」

 

『こちらモラリア空軍基地、着陸を許可します。七番滑走路を使用してください』

『い〜やっほぅ〜っ! 春原、最っ高ーっ!』

 モラリアに到着した自称CLANNADのエース春原陽平は、飛行形態のイナクトを管制塔ぎりぎりまで接近させた後に着陸した。

「CLANNADのエース、春原陽平の到着だ。助太刀に来たぜ〜っ!」

 モラリア空軍の整備士達が唖然とする中で、さらに陽平は叫ぶ。

「早く来いっ! ガンダム。ギッタンギッタンにしてやるぜぇ〜」

 モラリアとCLANNADの合同軍事演習は連隊規模の派兵とPMCトラストの協力により、モビルスーツだけでも一三〇機を越える規模となった。これに武力介入するとなれば、世界はいやでもKanonに注視せざるをえなくなるだろう。

「合同演習ね……まさかCLANNADが参加するとはな」

「外交努力の賜物さ、我々ばかりがハズレを引くわけにもいかんよ。CLANNADにも骨を折ってもらわんとな」

「違いない」

 PMCトラストの武器格納庫に行く途中、秋生はPMCトラストの高官とそんな話をしていた。

「この機体をお前に預けたい」

「CLANNADの新型、イナクトか」

 新型機を前に秋生の口から歓喜の声が漏れる。

「開発実験用の機体を使っているが、我が社の技術開発部門でチューンを施してある」

「こいつでガンダムを倒せばいいのか?」

「いや、できれば鹵獲して欲しい」

「無茶言うぜ、まったく……」

 少なくともガンダムの高性能を把握する限りでは、それは限りなく難しい相談だ。

「一生遊んで暮らせるだけの額を用意してある」

 つまり、PMCトラストはそれだけ高くガンダムを評価しているという事だ。ガンダムが一機あれば、世界の支配も可能であるとでも考えているのだろう。

 

「やあ、遅かったね二人とも」

「すいませんね、直幸さん。名雪がまた寝坊したもんだから」

「寝かせてくれなかったのは、祐一のほうだよ……」

 祐一達はガンダムの秘密基地で、Kanonの協力者である岡崎直幸と会っていた。直幸はガンダムの整備や武装の開発などを行っており、今回のミッションにあわせてガンダムを調整してくれたのだ。

「デュナメスにはもう、追加武装を取り付けてあるよ」

「わぁ」

 デュナメスの両肩部からマントのように装備されたフルシールドに、名雪は感嘆の声を上げた。先程まですねていたのが、ウソのように笑顔になる。

「それでこっちが、エクシア専用の装備なんだよ」

 直幸が操作すると、コンテナの中から二振りの剣が姿を現す。

「これは、GNブレードって言うんだ。この武器はすごいよ、GNソードと一緒で刀身から高圧縮したGN粒子を放出するから、厚さ三メートルのEカーボンも簡単に切ってしまうんだ」

「これでガンダムセブンソード。やっとエクシアの開発コードみたくなったね」

 にこやかに名雪は声をかけるが、祐一の表情は硬い。

「祐一君はどうしたのかな? あまり、嬉しそうには見えないが」

「あれでも祐一は喜んでいるんですよ」

 一見そっけない態度を取っているようだが、付き合いの長い名雪にはよくわかる。

「だって、祐一。エクシアにお熱なんだもん」

 わたしなんかよりずっとね、と名雪は小さく口の中で呟いた。

 そして、そこに二機のガンダム、あゆのキュリオスと美汐のヴァーチェが降り立つ。これで役者は揃った。

 

 AIRの所有する軌道エレベーターの付近にあるホテル。香里達がチェックインしているホテルの最上階付近にあるバーカウンターで香里は、一人グラスを傾けていた。

 カウンターの上の端末ではモラリアにおける合同軍事演習の模様が報道されているのだが、ムーディな店の雰囲気にはそぐわない内容だ。

「やっぱ、気になるんか?」

 その声に顔をあげると、香里のよく知った女性の姿がある。

「久しぶり、晴子さん」

「せやな、何年ぶりやろ」

「それは言わない方がいいわよ、晴子さん。女が実年齢を言うと、その分だけ若さが減るっていうわ」

「ほんまか? なら、うちも言わんとこ」

 久しぶりの再会だというのに、まったく変わっていない様子の晴子に香里からも笑顔がこぼれる。いつしか酒が潤滑油となったのか、お互いの近況を語り合っていた。

「対ガンダム調査隊? なによ、そのネーミングは」

「しかたないんや。なんせ設立されたばっかで、まだ正式な名前が決まってないんやから」

「晴子さんがその部隊に所属してるの?」

「いやぁ、うちだけや無い。あの霧島聖せんせも一緒なんや」

「へぇ……」

 若き天才教授の噂は、香里も聞いている。

「あのせんせはすごいで。ガンダムが放出する特殊粒子について、なにか掴んでいるようなんや」

「ふぅ〜ん、それって興味あるわね。一体どんな粒子なのかしら?」

「それがな、どんなにうちが聞き出そうとしても答えてくれないんや」

「そう、残念だわ……」

「まあ、そんな事より」

 不意に晴子は真剣な目を香里に向ける。

「今、香里はなにをしてるんや? さっきからうちばっかしゃべっとるようやけど」

「まあ、色々とね……」

「あの事はどないや……」

「もう……忘れたわ……」

「そっか……」

 そこで晴子はくいっと酒盃をあおる。

「まあ、せっかくこうしてあえたんや。湿っぽい話はここまでにしよな」

「そうね」

 そうして二人が少しだけいい雰囲気になったとき、部屋では真琴と栞が調達した戦利品に歓喜の声を上げていた。

 

 一夜明けた翌日。モラリアに到着した香里達一行は、里村茜邸を訪れていた。

「お待ちしていました」

「よろしくね、茜」

「では、こちらの方へ」

 茜の案内で通された部屋には、バックアップ用の機材が据えられている。そこにヴェーダのメディアを差し込むと、モニター上にモラリアの勢力分布図が表示された。

「うわ、すっご」

 モラリア軍のみならず、PMCトラスト、CLANNAD軍の配備状況まで表示されているのに驚く詩子。

「しかもリアルタイムで表示されるわ」

 そう言って香里は胸を張る。

「一体いつの間にハックしたんですか?」

「こんなの朝飯前の、お茶の子さいさいなのよぅ」

 そう言って栞に胸を張る真琴であるが、実のところこれができたのは美汐の作成したハッキング用のソフトに依る部分が大きい。

「予定通り、本日00時を持ってミッションを開始するわ。攻撃目標は、あたし達に敵対するもの全てよ」

「了解」

 

 Kanonの動きは直ちにAIRの知るところとなる。

「美坂さんと会ったのか。元気にしていたか?」

「はいな。昔と変わっとらんかったで」

 モニタールームで晴子は聖と雑談を交わしていた。

「……あの事件の事は?」

「忘れた、とは言うとった」

 その話を小耳に挟んだ往人は、その名前がかつて耳にした事のある戦況予報士である事に気がつく。

「現場からの映像、届きました」

 オペレーターの操作でモニターに四機のガンダムが表示される。四機の内二機のガンダムは資料に無い装備をしている。どうやらこの武力介入は、Kanonも本気のようだ。

 

『ガンダムを視認しました。ポイント、A‐四五七六』

 偵察行動をしていたモラリア軍のヘリオンはガンダムを発見、これによりモラリアは非常事態宣言を発動した。

『敵が気づいたみたいだね。みんなミッションプランに従って行動するんだよ。暗号回線は常時空けておいてね、香里から変更プランが来るから』

『了解!』

 名雪の指示で各ガンダムは散開し、それぞれのミッションプランに基づいて行動を開始した。

 

『E‐三三二より敵飛行部隊を捕捉』

 香里さんの予報はいつも正確だね、とキュリオスのコックピットで呟きつつ、あゆは左腕に装着されたGNビームマシンガンを一連射する。それによって散開した敵ヘリオン部隊めがけ、後部のコンテナユニットから空対空ミサイルを発射。

 すれ違いざまに放たれたミサイルの傘をかわせず、ヘリオン部隊はなすすべも無く撃破されてしまう。

『キュリオス、敵機編隊を撃破。ミッションプランに変更なし』

『了解。キュリオスは介入行動を続けるよ』

 デュナメスとヴァーチェはB‐八八三で介入行動に入る。

『けろぴー、シールドの制御は任せたよ』

『マカサレタ、マカサレタ』

 ヘリオン部隊の攻撃も、デュナメスのフルシールドによって弾かれてしまっている。そんな中ロックオントリガーを引いたデュナメスは、GNスナイパーライフルを撃つ。

『これなら狙い撃つまでも無いね』

 彼我の交戦距離が短いせいか、名雪にとっては実に簡単な射撃である。一発撃つたびにヘリオンが撃破されていく。

『このままでは……』

 背面からの攻撃も、デュナメスはシールドで防御してしまう。

『コウホウチュウイ、コウホウチュウイ』

『不意撃ち?』

 名雪は素早く膝のホルスターからGNビームピストルを引き抜くと、そのまま左手で背後のヘリオンを撃つ。

『ヴァーチェ、ヘリオン部隊を一掃します』

 美汐はGNバズーカを構えると、無造作という表現がしっくり来るくらいの動作で発射、その軸線上にいたヘリオン部隊を殲滅する。

『見つけたぞ。前とは違うタイプだが、お前もガンダムなんだろう? それなら、僕の敵に決まっているよねぇ』

 上空からは春原陽平率いる航空部隊が、ヴァーチェに向かっていた。

『今度はこの前のようにはいかないぞ、どんなすごいピッチャーだって登板間隔が空けば打たれる事だってあるんだからな』

『G‐六五三から、敵モビルスーツが急速に接近しています』

『了解』

 栞からの通信に、美汐はヴァーチェの両肩部に装備されたGNキャノンを上空に向ける。

『目標を殲滅します』

 上空の敵部隊に向け、発射されるビーム。

『おっと』

 かろうじて陽平のイナクトは回避に成功するが、後続のヘリオン部隊はビームに飲み込まれていく。

『なんじゃそりゃぁ……』

 圧倒的なまでのガンダムの破壊力に、陽平の叫び声だけがむなしく響いていく。

『ミッション続行します』

 

「ヴァーチェ、フェイズワンクリア。フェイズツーに入りました」

「キュリオス、敵航空部隊を制圧。フェイズツーに突入」

「デュナメスのミッションプランを、C‐五に変更して」

「了解」

 状況をモニターする真琴と栞の報告に、茜は思わず息を飲む。

「これが、ガンダムマイスター達の実力ですか……」

「まだまだはじまったばかりよ。エクシアの状況は?」

「予定通り、T‐五五四で敵部隊と交戦中です」

 祐一のエクシアは右手のGNソードと左手のGNロングブレードによる二刀流で敵ヘリオン部隊を切り裂いていく。近づいてくる敵機にGNソードとGNロングブレードを収めたエクシアは、腰に装備されたビームダガーを投擲して敵を粉砕。そして、ビームサーベルで残る敵を切り裂くのだった。

『エクシア、フェイズワンを終了。フェイズツーへ……』

 その時、エクシアのセンサーが急速に向かってくる機影を捉えていた。

 リニアライフルの連射を回避する祐一。しかし、敵の射撃は次第に正確になっていき、ついにはその動きを捉えられてしまう。

『はっはっはっ! 機体はよくてもパイロットの腕はいまいちのようだな。ええっ? ガンダムさんよっ!』

『あの声は……』

 敵のイナクトから聞こえてくる声は、祐一に聞き覚えがある。

『商売の邪魔ばっかりしやがって!』

 そのとき、祐一の脳裏にはかつての光景が思い出された。

『まさか……』

『こちとらボーナスがかかってんだ。いただくぜ、ガンダム!』

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