♯07 報われぬ魂

 

 モラリアの非常事態宣言は直ちに全世界に向けて発信された。モラリアとCLANNAD、PMCトラストの合同軍事演習に、四機のガンダムが武力介入したからだ。

「……おかしいよ」

 自宅のニュースでそれを知った直枝理樹は、ポツリとそう呟いた。

「Kanonは僕達を助けてくれたのに、戦争なんかして……」

 そんな事をしても世界は変わらない、新たな憎しみを生むだけ。Kanonの存在は、世界を混乱させるだけだ。それはまるで世界中の悪意が聞こえるようでもあった。

「おい、理樹。この筑前煮美味いな。どうしたんだ?」

「ああ、それかい?」

 ニュースから目を離し、理樹は隣で筑前煮を食べている鈴に向き直る。

「今日、隣に住んでる人からもらったんだ。なんでも作りすぎちゃったから、おすそわけだって」

「そうか」

 綺麗な人だったな。と理樹はその時の事を思い返す。男の人と一緒みたいだから、結婚しているのだろうか。

 すると途端に鈴の機嫌が悪くなる。

「どうしたの? 鈴」

「なんかしらんが、急にむかついた」

 

 西暦二二九九年のクルジス共和国。そこはかつて、祐一が住んでいたところだ。

「君達がその身を神に捧げ、この聖戦に参加するために、やらなくてはならない事がある。それは……」

 街中に突如として響く銃声。それは一つだけではなく、あちこちの家から響いてくる。やがて、子供達が銃を片手に、一人の男のところに集まってくる。

「おめでとう。これで君達は神に認められ、聖戦に参加する事を許された戦士となった」

 

 エクシアのコックピットで、祐一の意識は過去に飛んでいた。それは目の前のイナクトに搭乗している男の声に聞き覚えがあったからだ。

 コントロールスティックを握る手に力がこもる。古河秋生、その名前だけは決して忘れてはならない。

 祐一はエクシアの両手にビームサーベルを握ったまま、右腕にブレードと一体になったリニアライフルを装備した秋生のイナクトと対峙する。

『別に無傷で手に入れようなんて思っちゃいねぇ。リニアが効かねぇんなら、斬り刻むまでよっ!』

 一気に加速して突っ込んでくるイナクトを交わし、反転したエクシアは右腕のビームサーベルを突き出す。

『おせぇっ!』

 だが、その一撃はイナクトの蹴りで封じられ、右手のビームサーベルが飛ばされてしまう。

『この動きは……』

 祐一の脳裏にかつての光景が浮かぶ。ナイフを使った戦闘訓練を秋生とやっていたとき、祐一はその動きに翻弄されてあっさりナイフを飛ばされてしまったのだ。

『えぇぃっ!』

 続く左手のビームサーベルも、秋生が上手く合わせたブレードの先端ではじかれてしまう。あたかも昔の光景を見ているようで、祐一の心に焦りが広がっていく。

『くそっ!』

 今度は左腰のGNブレードを引き抜く。GN粒子が伝導した刀身は、かすかに振動を開始した。

『何本持ってやがるんだ? でもな……』

 エクシアはGNブレードを振り回すが、イナクトにはかすりもしない。

『動きが見えるんだよっ!』

 そして、肉迫したイナクトに、エクシアは鍔迫り合いに持ち込まれてしまう。

『うあぁぁぁぁぁぁっ!』

 祐一の叫びに呼応するように、フル稼働を開始したGNドライヴのエネルギーによって、斬れ味の増したGNブレードがイナクトのブレードを両断する。

『……なんて斬れ味だ。これがガンダムの性能って奴か……?』

 すばやく秋生はイナクトを後退させて間合いを取る。すると、目の前にいるエクシアから、光通信が送られているのに気がついた。

『コックピットから出てこいだ? 気でも狂ってるのか』

 静かにエクシアのコックピットハッチが開き、中からパイロットが姿を現す。祐一のその行動は、直ちに他のメンバーの知るところとなる。

『正気なの? 祐一』

 デュナメスのコックピットで、名雪が叫ぶ。

 イナクトのコックピットでも秋生が不思議に思う。どう見てもあのパイロットは、少年といっても差し支えないからだ。

『おもしれぇじゃねぇか』

 コックピットハッチを開き、秋生も姿を現す。

『素手でやりあう気か? ガンダムのパイロットさんよぉっ!』

 ヘルメットをはずしたその顔に祐一は見覚えがある。それはかつて祐一達を欺き、聖戦と称して親殺しをさせた男に間違いない。

 二人は互いに銃を構える。

『わざわざ呼び出してこれか? ツラぐらい拝ませろよっ!』

 そのトリガーに力がこもる刹那。一条のビームが二人の間を貫いていく。

『デュナメス、名雪か?』

『ハズレタ、ハズレタ』

『外したの』

 コックピットで陽気な声を出すけろぴーに突っ込みを入れる名雪。

『ここで当てたら、祐一まで巻き添えだよ』

 そのまま名雪はGNスナイパーライフルで威嚇射撃を続ける。するとイナクトが徐々に後退を開始した。

『離れた。狙い撃つよ〜』

 だが、それも秋生は難なくかわす。

『避けたの?』

 一瞬名雪の視界から外れたイナクトは、飛行形態に変形するとそのまま飛び去っていった。見事な引き際である。

『ねえ、ちょっと祐一』

『事情は後で聞かせてもらうわよ。ミッション、続けられるわね?』

『了解だ』

 コックピットに戻った祐一に名雪から通信が入るが、それを押しのけるようにして香里から通信が入る。祐一はそれに短く答えた。

『フェイズ五まですっ飛ばしてフェイズ六から続行よ。デュナメスはエクシアのサポートをお願いね』

 キュリオスとヴァーチェにも同様の指示が飛ぶ。祐一の身勝手な行動のせいで、ミッションプランが台無しだ。

『美汐さん、祐一くんがまたなにかやっちゃったみたいだよ』

『黙っていてください。今は誰かと話をしたい気分ではありませんから』

 

 モラリア軍司令部では、ガンダムによる武力介入の対応に苦慮していた。

「第三航空隊、通信途絶えました」

「燃料基地、応答なし」

「PMC第三二輸送隊、応答なし」

「ガンダムの放出する粒子により通信網が妨害され、状況が把握できません」

 関係各部署からの報告は、どれも絶望的なものだ。たった四機のガンダムにより、すでに戦線は崩壊しつつあった。

「モビルスーツ部隊の損害は?」

「甚大です。報告されているだけでも、撃墜三二機、大破二六機、CLANNADのモビルスーツも、一五機が撃墜されました」

「二……二時間もたたずに、半数以上を失ったとでも言うのか?」

 その報告には基地司令も驚きの声を上げる。

「司令、PMCトラスト側が撤退の意向を伝えてきております」

「バカな、どこに逃げ場があると言うのだ」

 たった四機だというのに、まさかこれほどまでとは。圧倒的なまでに戦闘力の差がありすぎる。これ以上の損害を出さないようにするには、降伏する以外に道は無い。

 モラリアに加担したCLANNADもこうなるであろう事は予測していたが、どうやらプランの中でも最悪の結果となりそうである。早速モラリアの復興支援の準備をはじめるCLANNADであった。

 そして、PMCトラスト本部の作戦会議室においても絶望的な状況に頭を抱えていた。

「ガンダムを全機ロストしただと? まさか、撤収したのか?」

「いや、次のミッションに入ったと考えるのが妥当だろう」

「古河秋生の部隊は?」

「通信状態が悪く、連絡が取れません」

「相手はたったの四機だぞ? これは断じて戦争などではない、一方的な蹂躙ではないか」

 そのころガンダムは予定ポイントに集結し、フェイズ六に突入していた。狭い渓谷を抜け、一気に敵の本拠地を急襲する作戦だ。

『うぐぅ……。こんなルートを通るなんて……』

『ぼやかないで、あゆちゃん。敵は電波障害が起こったポイントを重点的に狙っているんだから、隠密行動をとって一気に敵の本拠地を叩くんだよ』

 キュリオス、デュナメス、エクシア、ヴァーチェの順で狭い渓谷を抜けていく途中で、祐一は先程の事を思い返していた。

 古河秋生。クルジス共和国に居場所がなくなったから、PMCに所属したのだろうか。

(……だとしたら、やつの神はどこにいるんだ?)

『相沢祐一さん』

 その時、美汐から通信が入る。

『今度また、勝手な行動をとるような事があれば、後ろからでもあなたを撃ちますよ?』

『GNドライヴを捨てる気か?』

『ガンダムの秘密を守るためです』

 

 秋生のイナクトは、無事に味方部隊と合流していた。

「ボーナスを取り逃がしちまったかな?」

 自分の部下を後方に下げておき、隠れているように命令しておいたのだ。とてもじゃないが、あんな化け物みたいなモビルスーツとまともにやりあう気にはならない。無駄に損害を出すだけだ。

 命あっての物種、という奴である。

(しかし、あの小僧は何者だ? 俺の事知ってやがるのか?)

 秋生の脳裏にはガンダムの動きが浮かぶ。

(しかも、あの剣捌き……。まさかクルジスの……?)

 流石にそれは考えすぎか、と秋生は自嘲気味の笑みを浮かべる。なにしろあの戦いで、生き延びた奴はいないからだ。

 そして、フェイズ六を終了したガンダム達は、いよいよラストフェイズの開始となる。

「ガンダム出現っ!」

「ポイント三二六.司令部の目の前ですっ!」

「渓谷を抜けてきたのか?」

「モビルスーツ部隊に応戦させろっ!」

 ガンダムの出現に、基地防衛のヘリオン部隊が迎撃を開始する。

『ヴァーチェ、目標を破砕します』

 天空高く陣取ったヴァーチェがGNバズーカを構え、両肩部のGNキャノンと軸線を合わせてビームを放つ。そのビームの渦に飲み込まれたヘリオンは、跡形も無く消滅していく。

『デュナメスは目標を狙い撃つよ』

 両手に構えたビームピストルで、デュナメスは的確にヘリオンを狙い撃っていく。

『キュリオスは、介入行動に入るよ』

 空中で一気に飛行形態からモビルスーツ形態に変形したキュリオスは、左手に構えたGNビームマシンガンでヘリオンを攻撃していく。

『エクシア、目標を駆逐する』

 そして、大地に降り立ったエクシアは右手にGNロングブレード、左手にGNショートブレードを構え、ヘリオン部隊に突入を開始する。

 その圧倒的な戦闘力の前に、ヘリオン部隊は成す術もなく撃破されていった。

「……モビルスーツ部隊、全機沈黙しました……」

「五……五分もかからずに全滅だと……? これは夢か幻か……」

 静かに大地に立つ四機のガンダムの戦闘力に、基地司令は呆然と呟いた。

 ガンダムのコックピット内でも、敵部隊の反応が無くなった事を知る。これ以上、まだ無益な戦闘を続けるつもりなのか、それとも……。

 その時、一発の信号弾が上がる。

『けろぴー、香里に連絡して。敵部隊の白旗を確認、ミッション終了だよ』

『リョウカイ、リョウカイ』

 

「無条件降伏信号確認。ミッション終了です。各自撤退を開始してください」

 けろぴーからの連絡を受け、戦況オペレーターの美坂栞は淡々と事実を報告した。それを受けて香里はほっと安堵のため息を漏らす。

「栞〜、戦況データのバックアップ、忘れないでね」

「わかってます」

 戦闘が終わるといつもの作業に入る二人。

「お見事です。さすがは美坂香里さんですね」

 そこに茜が賛辞を贈る。

「とんでもないハプニングがあったけどね」

 まさか祐一がコックピットから出てしまうなんて、香里にも予測できなかった事だ。

「とはいえ、ヴェーダの推測どおりに計画が推移しているのは事実です」

「……あたしとしては、その推測から外れたいんだけど……」

「それは、どうしてですか?」

 茜の問いには答えず、香里は撤収を指示した。

「機材の処分はよろしくね」

「それはかまいませんが……」

 部屋を出ようとする香里を、目で追う茜。よくはわからないが、香里の表情は苦渋がにじみ出ているようだ。

「ねえ、茜。このミッションでどれぐらい犠牲者がでたか、あなたにわかるかしら?」

「いいえ」

「あたしの予測だと、五〇〇人はくだらないでしょうね」

 非戦闘員も含めれば、もっと数は増えるだろう。

「それを承知の上で、Kanonに入ったのでは?」

「わかっているわ……」

 だが、香里の目はどこか空ろだ。

「ええ、わかっているわよ」

 

「終わったみたいだな」

 おなじころ、AIRの作戦司令室でも、Kanonの武力介入が終了した事を知る。ブリーフィングルームに入ってきた霧島聖が、ただ一言そう呟いた。

「どうやら、CLANNADは賭けに負けたみたいだな」

「それは、どうやろな……」

 往人の言葉を晴子がさえぎる。

「確かに、二〇機以上のモビルスーツを失しのうたんは痛いんやろうけどな。せやけどこれでCLANNADの連中は、軍備増強しやすくなるはずや。おまけにモラリアにも貸しをつくっとる。これでPMCの協力も、取り付けやすくなったはずやで」

「悲しいな……」

 聖がポツリと呟く。

「どんなに華やかな勝利を得ても、Kanonは世界から除外される運命にある」

「聖はKanonが滅びの道を歩んでいるとでも言うのか?」

「それを求めているかのような行動じゃないか。少なくとも私にはそう見える」

 

 Kanonがモラリアへの武力介入を開始し、非常事態宣言が発令されてからわずか五時間弱。あまりにも早すぎる無条件降伏であった。

『最初は昨日モラリア共和国で起こった、モラリア軍とCLANNADの合同軍事演習に対する、Kanonによる武力介入についてのニュースです。非常事態宣言から無条件降伏までの時間は、わずか五時間あまりでした。モラリア軍広報部の報告によりますと、撃墜、あるいは大破したモビルスーツは六八機。現時点での戦死者は、兵士五三人を含めた五二七名で、行方不明者の数を合わせると犠牲者の数はまだまだ増えると予想されます』

「なあ、理樹。あたし達はKanonに助けられたんだよな」

「ああ、そうだ。そうだけど……」

 居間のテレビでそのニュースを見ながら、鈴がそう口にする。しかし、理樹にはなにも答えられない。

『ただ今、現地入りした特派員と中継が繋がったようです』

 すると、画面は切り替わり、モラリア共和国の惨状を映し出した。

『私は今モラリアの首都リベールにきています。見えますか? ここは撃墜されたモラリア軍のモビルスーツがビルに激突し、崩壊した現場です。ここに来るまでに、流れ弾を受けて破壊された民家をいくつも目撃しました。一般市民にも、多数の犠牲者が出ている模様です』

 そのニュース映像は、世界中へと配信される。生々しい破壊の爪あとを残す街並みと、途方にくれる人達の姿。

『私設武装組織Kanonから、犯行声明のようなものは出されていますか?』

『そのような情報は、私のところには入ってきていません』

 これで、世界はどのように動くのか。それが試される時がきていた。

 

「貴様っ! どこでなにをしていたっ!」

 PMCの本部では、帰還した秋生をPMCの高官がヒステリックに怒鳴りつけていた。

「どこって……ガンダムとやりあっていたに決まってんだろ?」

「ではなぜ、貴様の部隊にだけ損害が無い?」

「指揮官が優秀だからさ」

 秋生は高官の怒鳴り声を右から左にやり過ごしている。

「それよりも、さっき耳寄りな情報って奴が舞い込んできたぜ」

「その情報というのは?」

「ニュースを見てればわかるさ」

 そんな中で少しずつ、世界は変革を見せはじめていた。

 

「うぐぅ……」

 セーフハウスに満ちる重苦しい雰囲気に耐え切れなくなったのか、あゆが低く呻き声を漏らす。

「少しは落ち着いたらどうですか?」

 お茶を一口すすり、妙に落ち着いた雰囲気の美汐がたしなめる。

 モラリアへの武力介入を行なった後、セーフハウスに帰ってきてすぐに祐一は自室にこもってしまったのだ。ミッション中に祐一は、敵に姿をさらしてしまった。パイロットスーツを身につけていたので顔が見られてしまったというわけでもないのだが、少なくとも背格好はさらしてしまったのである。

「命令違反を犯したボクが言う事じゃないと思うけど、祐一くんにもきっとなにか理由があったんだよ」

「どんな理由があるにしても、相沢さんの勝手な振る舞いを許せば、私達にも危険が迫る可能性があります。適性に欠ける者がガンダムマイスターをするべきではありません」

 Kanonの行動はまだはじまったばかりだ。こんな事でつまづくわけにはいかない。

「ボク達は、ヴェーダによって選ばれたガンダムマイスターだよ。だから祐一くんが選ばれた理由だってあると思うんだよ」

「それなら、その理由とやらを見せて欲しいものです」

 美汐の口調は相変わらず冷たい。でも、あゆは知っている。本当の美汐は誰よりも仲間思いであるという事を。自分に厳しくある分、他人にも厳しく当たってしまうだけなのだという事を。

「だから、それを今名雪さんが訊きに行ってるんじゃない」

 そこであゆは、ほふう、とため息をつく。

「でも、ちょっとだけ悔しいかな」

「なにがですか?」

「名雪さんじゃないと、ダメなんだって事」

 なぜ祐一がそのような行動をとったのか、それを訊きに名雪は祐一の部屋を訪れていた。

「祐一、いる?」

「来るな」

 真っ暗な部屋の中に、名雪の長い影が伸びる。どうやら祐一はベッドの上で横になっているようだ。

「明かり、つけてもいい?」

「ダメだ、つけるな」

 名雪は部屋に入ると、そっと扉を閉めた。再び、祐一の部屋は闇に閉ざされる。

「もっと真っ暗」

 どこか楽しげな様子で呟く名雪。やがて闇に目が慣れると、ゆっくりと祐一が横たわるベッドに腰掛けるのだった。

「……訊かないのか?」

「訊けば、祐一は答えてくれるの?」

 ガンダムマイスターの正体は、GNドライヴと同様にSレベルでの秘匿義務がある。それを破るからには、祐一には相応の理由があるのだろう。だが、名雪はそれを問いただす事無く、ただ祐一のそばで微笑んでいるだけだった。

「……なにしにきたんだ?」

「なにしにきたんだろうね」

 わからないよ、といつもの口調で呟く名雪。

「でも、今は祐一のそばにいてあげたほうがいいと思って」

「……余計なお世話だ」

「うん、そうだね」

 それっきり二人に会話がなくなり、部屋が静寂に包まれる。しかし、祐一はそんな静寂が嫌いではなかった。

「名雪」

「なに?」

 身を起こした祐一は、静かに名雪の唇を奪う。

「へ?」

 そのまま一気に押し倒されてしまい、名雪はなんとも間の抜けた声を出してしまう。

「俺は、エクシアから降りない」

 自分の腕の中に組みしかれるように横たわる名雪を眺めつつ、祐一は口を開く。

「俺の存在そのものが理由なんだ。だから俺はガンダムマイスターだ」

 俺は生きている。それを実感するかのように、祐一は荒々しく名雪を求めるのだった。

 突如として隣室から響いてきたくぐもったような声と、なにかがきしむ音。

「はじまったみたいですね」

「うぐぅ」

 そして、二人も祐一の部屋へ向かう。ガンダムマイスターは、一人では無いからだ。

 

 Kanonの武力介入が全世界に向けて発進されていたころ、香里はただ一人窓辺のテラスで酒盃を傾けていた。だが、それは祝杯をあげているのではなく、まるで酒で憂さを晴らしているかのようにその表情は重苦しいものだった。

 そんなとき、ヴェーダからの通信が携帯端末に入る。

「……やはり起きてしまうのね……」

 悪意に満ちた世界のはじまり。香里は物憂げにそう呟いた。

 突如として世界の主要都市七ヵ所で、同時にテロが発生した。

「多発テロ?」

 その情報は直ちに祐一達にも伝えられる。駅や商業施設などで時限式爆弾を使ったテロリズム、爆発の規模はそれほどではないにしても、大勢の人が集まる場所が狙われたのだ。このテロリズムによって、少なくとも一〇〇人以上の犠牲者がでたという。

 このテロリズムを引き起こした実行犯からは、ネットワークを通じて犯行声明が出された。それはKanonが武力介入をやめ、武装解除をしない限り無差別に報復を行なっていくというものだった。

「そんな事で、私達が武力介入をやめるとでも思っているんでしょうか」

 祐一のベッドの上で、全裸に近い格好の美汐がそう呟く。

「なんの罪も無い一般の人が犠牲になっているのに、美汐さんはなんとも思わないの?」

「思いません。このような事態が起きる事も、計画には予測されているはずですから」

 同じく全裸に近い格好で祐一のベッドの上にいるあゆの言葉に、美汐は冷たく言い返す。

「そんなにテロが憎いんですか? 世界から見れば、私達のしている事も立派なテロなんですよ?」

「その組織は、テロという紛争を起こした……」

 そこに少し休憩をとっていた祐一が口を挟む。

「その紛争に対して介入するのがKanon。行動するのは俺達、ガンダムマイスターだ」

「それはともかくとして相沢さん。私達のGN粒子のチャージはまだ七五%というところです」

「がんばってね、祐一くん」

 その横では、祐一にたっぷりGN粒子をチャージされた名雪が横たわっていた。

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