♯08 無差別報復

 

 世界各所でkanonの武力介入に対し、即時武装解除を求める勢力が無差別テロを引き起こした。AIR、ONE、CLANNAD、いずれの勢力も問わずに、罪もない一般市民が大勢犠牲となったのである。

『私設武装組織Kanonによる武力介入の即時中止、及び武装解除が行われるまで、我々は報復活動を続ける事となる。これは悪ではない。我々は人々の代弁者であり、武力で世界を抑える者達に反抗する正義の使徒である』

「うぐぅ……」

 南海の孤島に設けられたKanonの秘密基地でテロリストからの声明を聞いたあゆは、低く呻き声を漏らす。それはテロを行った者に対する、呆れも混じったものだった。なんの罪もない一般市民を無差別に殺戮しておいて、正義の味方とは本末転倒もいいところである。Kanonが自らの行為を悪行としているのとは対照的だ。

 無差別爆破テロ。

 自分達より弱い勢力を相手にしているという点においてはKanonも同じであるといえるが、意図的に無力な一般市民を対象にしているわけではない。しかし、彼らは平然とそれをやってのけたのである。

 だが、彼らがいかにテロを起こそうとも、世の中は変わらない。なぜなら、彼らは自分達の主張を通すために、罪もない無力な一般市民を人質にするからだ。

 多少の例外はあるものの、世界の大半の国家が国民に主権があるとする民主政治の形態をとっている以上、一般市民を人質に取るテロリストを支持するはずがない。むしろ敵とみなすだろう。

 とはいえ、いつのその矛先が向けられるかもわからないのでは、表だってその行為を非難する事もできない。結果として怒りの矛先はKanonに向けられる事となる。

 国際テロネットワーク。実態を見せずに恫喝を行う隠れた組織。

 そんなとき名雪はただ一人、海辺でテロに対する怒りをあらわにしていた。普段温厚な彼女にしては珍しく、握りしめた拳に力がこもる。そう、テロさえ起きなければ、祐一は。

『ナユキ、ナユキ。オコッテル、オコッテル』

「ごめんね、けろぴー。今は一人にさせて……」

 足元ではしゃいだような声を上げるけろぴーに背を向け、名雪は一人で歩きだす。

(狙い撃つ。狙い撃つよ……)

 そして、軌道上を周回するプトレマイオスも、この情報を入手していた。

「無差別テロとはやってくれるな。まあ、これでオレ達の風当たりが強くなっちまうな」

 あるとは思ってたけどな、と呟きつつも、北川の口調はのんきだ。

「どうせぼく達は嫌われ者だしね。どのみち、宇宙にいるぼく達にはどうする事もできないさ。地上にいるメンバーでなんとかしてもらわないと」

 それに答える斎藤の様子も呆れた様子だ。

 

 そのころ茜は詩子と共に、テロ組織の情報を入手するために、世界各地にいるエージェントにコンタクトを取っていた。

「特定領域の暗号文で、全エージェントに通達を完了したわ」

「各国の状況は、どうなっていますか?」

「ん〜、被害にあった国の諜報機関は、国際テロネットワークの拠点を探すべく、すでに行動を開始しているわよ」

 そんな最中にもテロ発生の報が入ってくる。場所はONEの勢力圏だ。国際テロネットワークは、本気ですべての勢力を攻撃対象にするつもりのようだ。

「こうなると、やっぱ国際テロネットワークが関与していると見て間違いないわね」

「支援国家の存在も、否定できませんね……」

 待つしかないというのはつらいものだ。そう思って茜は唇を噛みしめるのだった。

 

 一夜明けた南海の孤島。そこに現れた香里達の姿に、あゆは唖然とした表情で口を開いた

「……香里さん? その格好は一体……」

「ただのカモフラージュよ?」

 グラマラスな姿態を惜しげもなくワンピースの水着で包み、妙に艶っぽく髪をかきあげて誇らしげに胸を張る香里。その後ろに並んだ真琴と栞の格好も水着姿だ。

「今がどういう状況なのか、ちゃんとわかってるよね?」

 念を押すようにあゆは訊くが、どう見てもその格好はリゾートに来ているようだ。

「わかってるけど、今は茜からの連絡待ちよ」

 そう言って香里が胸を張ると同時に、豊かなバストがプルンと震える。

「それにしても、ここ暑いわね。冷えたビールとかないの?」

 その香里の態度は神経が太いように見えるが、付き合いの長い名雪には香里が強がっているように見えた。

「真琴達のほうから、エージェントに連絡が取れるといいんだけど……」

「実行部隊である私達が、組織の全貌を知る必要はありませんよ」

 不安げな様子の真琴に、冷静に答える美汐。

「そうだね。ボク達はヴェーダの采配に期待するしかないもんね」

 やがていくつかの情報が香里達のもとに届けられる。

「国際テロネットワークは、複数の活動拠点を持つものと推測されるわ。相手が拠点を移す前に攻撃するためにも、ガンダム各機は所定のポイントで待機してもらうわ」

 香里の指示により、ガンダムマイスター達はそれぞれの出撃準備を整えていく。

 パイロットスーツの背中にあるコネクターがシートと接続されると同時に、ガンダムが起動を開始する。レーザーによる網膜パターンの解析で、パイロット認証が行われる。

『GNシステムのリトワーズ解除。プライオリティを相沢祐一へ』

『GN粒子の散布濃度正常値へ、キュリオスは目標ポイントへ飛翔するよ』

 ひときわ甲高い駆動音を響かせて、あゆのキュリオスはONEの砂漠地帯へと飛び。

『ヴァーチェ、天野美汐。行きます』

 海中から発進した美汐のヴァーチェは、オーストラリアの山間部へ向かい。

『エクシア、相沢祐一。目標へ向かう』

『デュナメス、水瀬名雪。出撃するよ』

 そして、祐一のエクシアはCLANNADに所属するスコットランドの山間部へ、名雪のデュナメスはAIRに所属する南米の森林地帯へとそれぞれ移動を開始した。

 

 国際テロネットワークによるONE勢力圏内での無差別テロは、死者二四名、重軽傷者六七名となった。ニュースでそれを見た直枝理樹は、世界各地でテロが多発している状況を憂いていた。

 モラリア大規模戦闘に同時多発テロ、それらに対する各国首脳陣の公式声明の発表。世界中で起こっているKanonの排斥デモ。その意味では世界は目まぐるしく変わっていると言えた。

 いくらKanonが現われたといっても、彼らの攻撃対象はあくまでも軍事組織や戦争行為を行う者達であり、戦う術を持たない一般市民を無差別に殺戮する事ではない。だから、理樹自身は自分には関係ないんだと思っていたが、街中で突然バスが爆破される現場に居合わせたために、他人事とは思えなくなっていた。

 なにもしていないのに、ただその場に居合わせたというだけで、その人の一生は消えてしまった。

 戦争根絶という大義を掲げたKanon。だが、彼らの武力介入により、大勢の人が死んだ。それに端を発するテロでも大勢の人が死んだ。そうまでしても成し遂げたい、Kanonの真の目的とは一体なんなのか。

 

 おなじころ、荒廃した祖国を救うための外交をしている倉田佐祐理も、そのニュースに胸を痛めていた。

 モラリア紛争に同時多発テロ。これでは各国から必要な援助を得るだけでも一苦労だ。これもすべてはKanonの武力介入のせいだと言える。

 その結果として頼みの綱のイギリス外務省との会談も延期されてしまったのだ。

 休暇だと思って楽しめればまだ気も楽なのだが、アザディスタン王国の内情も危機的状況にある。佐祐理に入った情報によると、先日アザディスタン王国の議会が紛糾し、保守派の重鎮が改革派の暴行を受けて怪我を負ってしまった。そして、これが市民の紛争に発展するのも時間の問題である。

 文字通りの内憂外患に、佐祐理の外交旅行もこれが最初で最後になりそうであった。

 

 スコットランドの山間部に身を潜めた祐一は、クルジスでの出来事に思いを馳せていた。

「彼は神のために生き、神のために死んだ。彼の魂は、神の御許へと誘われる事だろう」

 誰もが秋生の言葉に耳を傾ける中、祐一はどこか冷めた感覚の中にいた。

「……死の果てに神はいない……」

 そんなとき、エクシアのセンサーが熱源反応を拾う。

「テロ襲撃予測地点が近いな……」

 モニター画面に黒煙を上げる映像が映し出された時、祐一はテロが起きた事を確信した。

『監視カメラを経由して、爆発現場から立ち去る不審者を発見しました。現場から一番近いのはあなたです、任されてもらえるかしら?』

「了解。現場に向かう」

 茜からの通信に、祐一は短く答える。

『街中でエクシアを使うわけにはいきませんよ?』

「わかっている」

 祐一は目立たないように着替えると、早速レンタルバイクで現場に向かった。

 

 ちょうどそのころ、テロが起きた現場近くのホテルに投宿していた佐祐理は、安全のために移動を開始するところだった。

「テロが起きたというのは本当ですか? 舞」

「確定情報みたい」

 周囲を厳しく警戒しながら先導する護衛役の少女、川澄舞の表情は硬い。

「一応、郊外のホテルをとってある」

 そこなら安全と考えたが、そこに行くまでが大変そうだ。なにしろ街はテロの影響で混乱している。下手をすると犯人の狙いは佐祐理なのかもしれないからだ。

『不審者は車に乗って逃走しました。茶色のクーペです』

 現場に到着した祐一に、茜から通信が入る。その目の前で、ものすごい勢いで路地から茶色のクーペが飛び出し、そのまま走り去って行く。

「あれか……」

 祐一は即座に追跡を開始した。

 逃げるクーペ、追う祐一。その時、対向車線を通りかかった佐祐理が窓の外を見ると、アザディスタン風の装束に身を包んだ少年がバイクで走り去って行くところだった。

「目標を確保する」

 祐一はバイクをクーペに並走させると、窓を狙って発砲した。しかし、防弾ガラスになっているのか、相手の車は銃弾をはじき返してしまう。

 そうこうしているうちに加速したクーペは、しばらく走るとそのまま一気にスピンターン。祐一も後を追おうとするが振り切られてしまう。

 祐一はバイクから降りて銃を構えるが、そのころには相手の車ははるか彼方を走り去っていた。

 するとそこにタイミングよく警戒態勢にあったパトカーが通りかかる。

「おい、なにをしている!」

 あわてて銃をしまう祐一。そして、背後から近寄ってくる警官に対し両手を上げる。

「貴様、なにをしようとしていた?」

「いや、別に……」

「IDを確認する」

 これはこの時代の市民が普通に持っている身分証明書である。それがないというのは、犯罪者か密入国者であり、いずれにしてもここで捕まってしまうと後が厄介だ。

「どうした? 早くIDを出せ」

 もはや絶体絶命となったその時、一台の高級車がその場に停車した。

「失礼する。この少年は、私達の連れ」

 車から降りた長い黒髪の少女が、短く警官に告げる。

「あなたは?」

「こういうもの」

 その少女が提示したIDを見た途端、警官は驚愕の表情を浮かべた。

「し……失礼しましたっ!」

 どうにか難を逃れたようだ、と祐一が両手を下ろしたとき、開いた車の窓から一人の少女が微笑みかけていた。

 

「すみません。佐祐理、余計な事をしてしまいましたでしょうか?」

「いや、助かった」

 二人は、近くの公園に来ていた。ここは緑が多く、梢では小鳥が盛んにさえずっている。

「こんなところで同郷の人に出会うなんて、思いもしませんでした。あなたはアザディスタンの出身ですよね?」

「いや、クルジスだ」

 本籍地は日本だが、クルジスでの生活のほうが長いので、祐一にとってはそこが故郷と言えた。

「クルジス……?」

 それを聞いた途端、佐祐理の瞳は驚愕で大きく見開かれる。

「そうでしたか……。すみません、なんて言ったらいいのか……」

 二人の間に、妙な沈黙が走る。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。佐祐理です。佐祐理=イスマイール」

 本名は倉田佐祐理であるが、それは母方の姓なので公務のときに佐祐理はイスマイールと名乗っているのだ。

「倉田一弥だ」

「……そうですか。この国には観光でいらしたんですか?」

 その質問には答えず、祐一はその場を去ろうとする。助けてもらった事に感謝はしているが、こんなところで足止めされているわけにもいかない。

「はえ〜、待ってください。もう少しだけお話しさせてください。お願いします」

 すがるような佐祐理に、祐一も足を止めてしまう。

「外交?」

「そうです。一弥君も知っていると思いますが、アザディスタンは改革派と保守派に分かれ、国内は乱れています。原油の輸出規制を受けているアザディスタンの経済を立て直すためには、どうしても太陽光発電システムが必要なのです。ですが、アザディスタンの生活が悪くなったのは、太陽光発電システムができたせい。保守派の人達は、それを快く思っていないんです。両者の対立を止めないと、彼らがやってきてしまいます……」

「Kanonが」

「狂信者の集団です。武力で戦争を止めようなんて。確かに戦争はいけませんが、一方的に武力介入を受けた人達が現実に命を落としています。経済が傾いてしまった国だってあります。彼らは自分達の事を、神様だとでも思っているんでしょうか」

「戦争が起これば、人が死ぬのは当然だ」

「介入のしかたが、一方的すぎるんです。話し合いもしない、平和的な解決手段も模索しないで、暴力という圧力で人を縛っています。それは、おかしな事だと思いませんか?」

「こうして、話をしている間にも人は死ぬ……」

「ですが」

「クルジスを滅ぼしたのは、アザディスタンだろ?」

「それは……確かにそうですけど、二つの国は最後まで平和的な解決を……」

「その間にも大勢の人が死んだ」

 祐一の強い口調に、佐祐理は一瞬気おされてしまう。

「戦いが終わったのは六年も前の事です……。まさかとは思いますが、一弥君は戦っていたんですか?」

「今でも、戦っている」

 決意を込めた祐一の瞳に、佐祐理は言葉を失う。

「一弥君は、もしかして保守派の? 佐祐理を殺しに来たんですか?」

「悪いが、あんたを殺したところでなにも変わらない。世界も変わらない」

「一弥……君……?」

「違う、俺の本当の名前は相沢祐一。Kanonのガンダムマイスターだ」

 そこで祐一は、そっと佐祐理に背を向けた。

「紛争が続くようなら、いずれアザディスタンにも行くだろうな」

「そんな……」

 そのまま佐祐理は、がっくりとひざをついた。

「あの人がKanon……。笑えない冗談です……」

 

「実行犯の一人を確保しました。はい、バイオメトリクスをそちらに転送します」

 バイオメトリクスとは本人の遺伝情報を登録しておくもので、たとえ整形で顔や指紋を変えたとしても、確実に本人照合を行うためのものだ。

「茜、確定情報よ。国際テロネットワークは欧州を中心に活動する宗教団体『MOON.』と断定したわ」

「各活動拠点の割り出しを急いでください」

 詩子の指がキーボードの上を踊る。

「各エージェントからの情報によると、MOON.の主要な活動拠点はほとんどが引き払われているみたいね」

 一人取り逃がしたのはまずかったわね。と詩子は低く呻く。この組織は世界各地に拠点を分散させており、そのうちのいくつかの拠点を失っても、総体として組織が存在し続けるのである。そのため、確実にダメージを与えるには、主要な拠点を同時に攻撃する必要があるのだ。

「周到ですね。これでまた振り出しですか……」

「ちょっと待って、テロメンバーのものと思われるバイオメトリクス抽出情報がネットに流出してるわ」

 モニター画面に、次々とその情報が表示されていく。

「NROの主要暗号文。BNE、DGSEのほうまで……」

「世界が私達に動けと言っているみたいです」

 これらの情報は、テロの被害を受けた各勢力の諜報機関から意図的にリークされたものだ。他国への軍事介入が困難な彼らと違い、Kanonならそれができる。そう、このとき両者の利害は一致していたのである。

 ある意味においてはいいように使われているだけだともいえるが、各国の諜報機関が協力してくれるというのはKanonにとって喜ぶべき事だ。

『MOON.の主な活動拠点は三ヵ所。グリニッジ標準時一四〇〇に、同時攻撃を開始します』

 茜からの連絡を受けた香里から、ただちにガンダムマイスター達にミッション開始の指示が飛んだ。

『了解。ヴァーチェはテロ組織の活動拠点への攻撃を開始します』

『キュリオスはバックアップに回るよ』

 ヴァーチェとキュリオスは行動を開始。

『敵戦力は不明。モビルスーツを所有している可能性もあるわよ』

『そんなの、狙い撃つだけだよ……』

 デュナメスは敵拠点へ向かい。

「了解、エクシアはミッションを開始する」

 街から戻る途中でそれを聞いた祐一は、バイクの中からエクシアの起動シークエンスをはじめた。

「GNシステムのリトワーズを解除。プライオリティを相沢祐一へ」

 祐一の声紋を認識し、エクシアが起動を開始する。

「外壁部迷彩皮膜解凍。GN粒子散布状況のまま、ブローディングモードへ」

 エクシアの装甲表面から、周囲の風景に溶け込むように設定された迷彩が剥離していき、そのままコックピットハッチを開いた待機モードに移行する。バイクでその足元を走り抜けながら祐一は、コックピットわきから降りた乗降用のはしごをつかむ。

『エクシア、介入行動に移る』

 そして、エクシアも敵拠点に向けて飛び立っていく。

「ガンダム、各機発進しました」

「香里〜、他に指示は?」

「特にないわね。後はマイスター達に任せて、あたし達はビーチに行きましょ」

「あう〜、いいの?」

 みんなが戦っているというのに、遊んでいていいのかと真琴は思う。

「作戦終了後に、あたし達は宇宙に帰るんだけど?」

 それを聞いた途端に真琴の目が輝く。

「そうよね。ほらっ、栞も行こっ」

 そして、三人はビーチに向かい、つかの間の休息を満喫するのだった。

 

 ONE勢力圏内のマーシャル諸島に到着した美汐は、ヴァーチェの両肩部に装備されたGNキャノンを敵拠点に向ける。

『ヴァーチェ、目標を完全破壊。ミッションコンプリート』

 わずか一回の斉射により、すべては一瞬のうちに炎に包まれた。

 AIRの勢力圏内にある南米地方の山岳地帯にある敵拠点に到着した名雪は、GNビームピストルの両手撃ちで攻撃を開始した。

 敵は果敢に応戦するも、モビルスーツ相手に小銃では分が悪い。たちまちのうちに、ビームの餌食となってしまう。

『もびるすーつセッキン、もびるすーつセッキン』

 MOON.の所有するヘリオンの接近に、名雪はGNビームピストルをホルスターにしまい、GNスナイパーライフルを構える。

『今日のわたしは……』

 名雪がロックオントリガーを引き下ろすと同時に、デュナメスの頭部がガンカメラモードに変形する。

『容赦しないよ』

 普段は意図的に急所を外し、必要以上に死傷者を出さないように、手足の関節部分や頭部などを狙い撃っている名雪であるが、今回ばかりは一切の容赦をせず、瞬く間に三機のモビルスーツを撃墜するのだった。

『エクシア、目標を駆逐する』

 洋上を航行するMOON.の大型船を捕捉し、祐一は攻撃を開始した。エクシアの強引な着艦により船体は二つに曲がる。そして、一閃したGNソードによって艦橋が破壊された。

 ミッション終了。祐一がそう思った次の瞬間、甲板を突き破ってきた大型のクローに掴まれ、エクシアは海中に引きずり込まれてしまう。

『モビルアーマー? 旧式とはいえ、こんなものまで』

 水中戦なら、いくら相手がガンダムでも分があると踏んだのだろう。地上や空中、宇宙空間を含めた全領域戦闘をこなすモビルスーツといえども、水中という環境に適応するのは容易ではないからだ。

 水中では周囲を取り囲む水の抵抗もさる事ながら、深度に応じた水圧がモビルスーツの行動を制限してしまうのである。また、この時代のモビルスーツは多少の例外はあるが、基本的には軌道エレベーターからのマイクロウェーブ送電を受ける事で稼働している。

 ところが、水中では水面でマイクロウェーブが反射してしまい、エネルギーの供給が受けられなくなってしまう。その結果として機体に内蔵されたバッテリーだけが動力源となってしまうのだ。そのため、その環境に適応した少数のモビルアーマーだけが、水中でも戦闘力を発揮しうるのである。

 長く伸びたモビルアーマーの爪にとらえられたエクシアは、GNソードでその腕を切り落とし脱出に成功する。だが、続けて発射された魚雷の爆発に巻き込まれてしまった。

『やったか?』

 しかし、コックピット内部にはエクシアの接近を告げるアラームが鳴り響く。

 ガンダムの機体の周囲には、GN粒子によるフィールドが形成されている。このフィールドは、水中では超電導推進を可能とするため、エクシアは水中行動でも高い機動力を有しているのだ。

 エクシアは両手に持ったGNビームダガーを相手に突き立てると、両手にGNビームサーベルをもって敵機体を切り裂いた。

『うあぁぁぁぁっ!』

 バランスを崩した敵モビルアーマーは海底へと沈んでいき、やがて耐圧限界を超えたところで圧壊した。

『エクシア、目標を破壊』

 

 ガンダムマイスターによる敵拠点破壊の報は、ただちに茜の元にも届けられる。

「ガンダム各機、目標を破壊したわ」

「引き続き、MOON.の活動を監視。支援国家の割り出しを続けるように指示してください」

 これで肩の荷が下りた。と、言わんばかりに茜は大きく息を吐いた。

「まったく、世界というのは……」

「見て、佐祐理。モビルスーツだ」

 佐祐理がアザディスタンへの帰路、その飛行機の中で舞が口を開く。その声につられて佐祐理が外を見ると、エクシアが飛行機と並んで飛行していた。

「ガンダムだ」

 すると機内からは、子供の、格好いい、という声が上がる。

「ガンダム……」

 佐祐理の可憐な唇からは、そんな乾いた声だけが漏れる。やがてゆっくりとエクシアは飛行機から離れていった。

(いいわ、祐一さん。早く佐祐理を殺しにいらっしゃい)

 次第に遠ざかっていく機影を見ながら、佐祐理はそんな事を思った。

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