♯09 大国の威信

 

 西暦二三〇七年。Kanonが武力介入を開始してから、四ヵ月の時が過ぎようとしていた。彼らの介入行動回数は六〇を超え、人々は好むと好まざるとにかかわらず、彼らの存在を受け入れていく。Kanonを否定する者、あるいは肯定する者、どちらの気持ちも戦争を否定するという意味では一致していた。

 誰も、争いを求めたりはしないのだ。

 地球に三つある国家群のうち、AIRとCLANNADは同盟国領内での紛争事変のみ、Kanonに対して防衛行動を行うと発表。しかし、モラリア紛争以来、大規模戦闘は一度も行われていない。

 それを可能にしたのは、モビルスーツ『ガンダム』の卓越した戦闘能力にある。世界中で行われている紛争は縮小を続けていたが、武力による抑圧に対する反発は消える事はない。

 そして今、唯一Kanonとの対決姿勢を示したONEでは、ある特秘作戦が開始されようとしていた。

 

 エネルギーの枯渇状況が深刻なアザディスタン王国に、国連による援助がおこなわれる事となった。アザディスタン王国のアザディスタン国際空港では、王族以下の政府関係者が国連査察団を出迎えるべく待機していた。

「……佐祐理、来たみたい」

 年若い銀縁メガネの青年を先頭に、国連の視察団がやってくる。この国連大使との会談がまとまれば、アザディスタン王国にも太陽光発電システムが導入できるかもしれない。だとするなら、この青年がアザディスタンを救ってくれるのだと佐祐理は思った。

「はじめまして、国連大使の久瀬です」

 フルネームはアレハンドロ=久瀬というが、それは割とどうでもいい事だった。

「アザディスタン王国第一王女、佐祐理=イスマイールです。わたくし達の援助要請を受けていただき、この国を代表してお礼を申し上げます」

「あまり気にする事はありませんよ、国連とは本来こういう事を行うための組織ですから。とはいえ、加盟国からの分担金が滞っている現状では、やれる事は限られてしまいますが」

「それでも、感謝いたします」

 この時期で国連がアザディスタン王国に援助をしてくれるという。見返りは全くないというのに、この男は一体なにを考えているのだろうか。

 

「特務部隊『頂武』隊員諸君。諸君らは母国の代表であり、我がONEの精鋭である」

 ONEの所有する軌道エレベーターの高軌道ステーション内にあるブリーフィングルームで、渡辺茂雄中佐は対ガンダム特務部隊『頂武』の精鋭諸氏に訓示を行っていた。

「諸君らの任務は、世界中で武力介入を続ける武装組織の壊滅、及びモビルスーツの鹵獲にある。この任務を全うする事で我らONEは世界をリードし、人類の発展に大きく貢献する事になるだろう。諸君らの奮起に期待する」

 茂雄の立案した作戦は、ガンダムが放出する粒子が通信障害を引き起こす事に着目して、数一〇万基単位の双方向通信システムを静止軌道領域に放出し、通信障害がおこった付近を重点的に捜索するというものだ。

 通信不能領域があるという事は、そこにガンダムがいるという事になるのであるが、これでガンダムがつかまらなければ、壮大な無駄となる。このような物量作戦は、そう何度も出来るというものではないからだ。

 

 さて、一方宇宙に戻った祐一達はプトレマイオスの艦内で束の間の休息を楽しんでいた。この四ヵ月余りの戦闘でガンダムのオーバーホールも行わなくてはいけないし、休めるときには休んでおく必要がある。

「ねえ、香里さん。もし、ガンダムのオーバーホール中を敵に襲われちゃったら?」

「神様を恨むしかないわね」

「うぐぅ」

 戦術予報士とは思えない香里のセリフに、それしか言えないあゆであった。

 そのころブリッジに戻った北川は、真琴が一人で作業をしているのを見つける。

「あれ? 真琴ちゃん一人? 栞ちゃんはどうした?」

「ん〜、なんかよくわかんないけど、気分が悪いみたい」

「じゃあ、真琴ちゃん当直連チャンなんだ」

「あう〜、そうなのよぅ……」

 そう言って真琴はぐだ〜、とコンソールに突っ伏した。

「それなら、ここはオレが代わっといてやるからさ。真琴ちゃんは飯食いに行ってきなよ」

「え? ホント? 北川、やさしぃ〜」

「いやぁ」

 真琴は北川の好みのタイプというわけではないが、こうまで喜んでもらえると北川のほうもついつい嬉しくなってしまう。

「ホント、北川っていい人よぅ」

 そのまま真琴はいい人、いい人と連呼しつつブリッジから出ていく。その背中を眺めつつ北川は、所詮はいい人止まりなんだよな、と小さく呻いていた。

「……あう〜……」

 そして、食事に行った真琴ではあったが、なんとなく険悪な様子の祐一と美汐の二人が一緒では全く味がしない。どう考えてもそれは、楽しい食事とは言えない雰囲気である。せめて名雪がいてくれればと真琴は思うが、ないものねだりをしている場合ではない。

 

 同じころ栞はプトレマイオスの展望室で、ただ一人物憂げな溜息をついていた。

「あれ? どうしたの、栞ちゃん」

「名雪さん」

 ちょうどそこに名雪が入ってくる。振り向いた栞の瞳からは、涙がこぼれおちた。

「なにかあったの?」

 栞の口から、意外な悩みが語られる。

「そう……」

 名雪はただ、それしか口にできない。

「お姉ちゃんは変わってしまいました……」

 あの事件からKanonに参加するようになり、それ以来香里はなにかを背負い、思いつめたような表情をするのが多くなったという。栞に対しても、妹なんてはじめからいなかったかのような振る舞いだ。

 なんとか昔の姉に戻ってほしいと栞は願う。しかし、Kanonの活動がある限り、香里の態度は変わらないのだろう。

「ごめんね、栞ちゃん」

 すべては、名雪の母親である秋子が計画した事だ。それに巻き込んでしまって、名雪は本当にすまないと思う。なにしろ今名雪が戦えているのは、そうしたスタッフの協力あっての事なのだ。

 もっとも、名雪もメンバーの詳しい事情は知らない。Kanonのメンバーには厳しい守秘義務があり、苦楽を共にする仲間なのに、以外とバラバラなのだ。

「大丈夫だよ」

 名雪はやさしく、栞の体を抱きしめた。そのあまりの心地よさには、つい栞も身を委ねてしまう。

「いつかきっと、香里と元通りの姉妹に戻れる日がくるよ。だから、それまでがんばろ。ね?」

「はい」

 やっぱり名雪さんは優しい人です。心の底からそう思う栞であった。

 そして、プトレマイオスのGN粒子チャージ率が一〇〇%になった頃、ブリッジに戻ってきた真琴は、あう〜、と一言いつもの口癖でため息をつく。

「……なんだか食べた気しなかったわよぅ〜……」

「どうした? 真琴ちゃん」

「なんでもないわよぅ」

 その時、真琴は栞のコンソールから、小さくアラームが鳴っているのに気がついた。

「なに? Eセンサーに反応……?」

 ポンポンとキーを操作すると、モニター上に通信装置が投影される。

「これって、通信装置?」

「なんだ? どうしたんだ?」

「北川のバカッ!」

 いきなり真琴に罵声を浴びせられ、少しだけたじろぐ北川。

「敵にこっちの位置が、探知されちゃってるのよぅっ!」

 

「AE‐三二八八の双方向通信が途絶えました」

「AR‐九七六三もです。位置は、エアン〇七」

 茂雄のもとに、各方面からの報告が続々と届く。まさかこれほど近くに潜伏していたとは、茂雄にも予想外だ。しかし、逆に考えれば木の葉を隠すには森の中、通信や索敵を無効に出来るのだから、近くに潜伏していたほうが情報収集をしやすいのだろう。

 だとするなら、Kanonの指揮官は相当に頭の切れる人物らしい。

「特務部隊『頂武』の総員に通達。モビルスーツ隊、緊急発進!」

 茂雄の命令を受け、ONE所属の多目的輸送艦『ラオホゥ』四隻が発進準備を整えていく。

『緊急出撃準備、〇六五五より、一番艦から順次出撃する。戦闘乗員は加速に備えよ、一四〇秒後に緊急加速を開始する』

「折原浩平少尉、全感覚投影システムの具合はどうか?」

『問題ない、中佐。オールグリーンだ』

 高軌道ステーションより発進後、茂雄は格納庫内のモビルスーツで待機している浩平に様子を訊く。

「少尉にとってはこれが初めての実戦となる。この前のような事はごめんこうむりたいものだがな」

『わかっている』

『全艦、加速可能領域に到達。加速開始します』

 オペレーターの声と同時に、ラオホゥは随時加速していった。

 

 その動きは、ただちにプトレマイオスの知るところとなる。

『トレミーを軌道変更、最短距離でオービタルリングに向かって』

 艦内に緊張が走り、その中を香里の指示が飛ぶ。プトレマイオスのクルーはそれぞれ宇宙服に着替え、戦闘態勢を整えていく。

『各マイスターはガンダムで待機。直幸さん、ガンダムの整備状況は?』

『エクシアは終わってるよ。だけどデュナメスは、脚部のジェネレーターが使えないんだ。装甲もまだ外したままだし』

 欲しい機体なのに、と香里は唇を噛む。攻撃能力のないプトレマイオスにとって、デュナメスの長距離砲撃能力は必要不可欠なものだ。

『キュリオスとヴァーチェを先行発進させて』

『わかりました』

 香里の指示が飛ぶ中、ブリッジに向かおうとした栞を名雪は呼びとめた。

「生き延びようね、栞ちゃん」

「はい、名雪さん」

『トレミー、カタパルトモードに移行します』

 プトレマイオスの艦首が大きく開口し、カタパルトデッキへと変形していく。

(数一〇万基もの双方向通信システムをばらまいて、GN粒子の通信遮断領域を特定してくるなんて……)

 どうやら敵は相当に本気のようだ。しかもこんな物量作戦ができるのは、今のところONEぐらいのもの。だとするなら、この作戦の指揮をとっているのはあの男で間違いない。

『状況は?』

『だめです。敵通信エリアから抜け出せません』

『オービタルリングの発電衛星に向かって。あそこは電磁波の影響で通信空白地帯になるわ。それなら状況を互角に持ち込める』

『了解』

 香里の指示で、北川はプトレマイオスの針路を変更する。そうしている間にも、先行してあゆのキュリオスが発進していく。

『キュリオス、発進しました。続いてヴァーチェをカタパルトデッキへ移動させます』

『ガンダム二機で陽動作戦か?』

『それもあるけど……』

 香里と斎藤が短く言葉を交わす中、栞がブリッジに遅れて入ってきた。

『すみません、遅れました』

『栞、ヴァーチェの発進シークエンスお願い』

『了解』

 早速栞はヴァーチェの発進シークエンスを開始する。

『ヴァーチェ、天野美汐。発進します』

 キュリオスに続いて、美汐のヴァーチェも発進していった。

 

「中佐。オービタルリングに向かっている通信遮断ポイントが、さらに二ヵ所増えました」

「ガンダムが分散したのか……」

 オペレーターからの報告に、茂雄は冷静に状況を判断する。

「いや、これはガンダム二機を発進させての陽動だ。となれば、第一通信遮断ポイントになるのは、Kanonの宇宙輸送艦である可能性が高い」

 変化するモニター画面の情報を見つつ、茂雄はそう判断した。

「それならその陽動に乗り、陽動をさせてもらう」

 即座に茂雄は命令を下す。

『一番から三番艦、モビルスーツ全機発進。二番、三番の操舵手は自動操舵に切り替え、ブリッジ分離の後基地に帰投せよ。三番艦は第三通信遮断ポイントをトレースするのを忘れるな』

 ラオホゥのコンテナハッチが開き、一艦当たり一二機のモビルスーツが次々に発進していく。

『一番艦から三番艦、モビルスーツ全機発進。予定通り、一番艦の後方で縦列隊形に入ります』

『二番、三番艦。ブリッジ離脱』

『三番艦、第三通信遮断ポイントへのトレース開始。二番艦、第二通信遮断ポイントをトレース、軌道変更に入る』

『本隊は一番艦を主軸として、第一通信遮断ポイントをトレース。目標は敵輸送艦と推測、捕捉次第作戦行動に入れ』

 そのころプトレマイオスは、オービタルリングの電磁波干渉領域に突入していた。

『光学カメラが敵部隊を捕捉しました』

『最大望遠でモニターに出ます』

 ブリッジ正面のメインスクリーンに、敵艦の姿が映し出される。

『接近する艦船はONE軍所属の多目的輸送艦、EDI‐四〇二『ラオホゥ』四隻と断定』

『二隻がそれぞれ左右に展開、キュリオスとヴァーチェの攻撃に向かったと思われます』

『……やられた』

 栞と真琴の状況報告に、香里は低く呻く。

『あゆちゃん達に通信は?』

『電磁波干渉が強すぎて無理です』

 最初はそれが狙いだったのだが、今となってはそれが仇となっていた。

『北川君、軌道を急速変更、オービタルリングを盾にして敵艦との距離をとって』

『了解』

 ゆっくりと進行してくる敵部隊に対し、プトレマイオスはオービタルリングを盾にして時間を稼ぐ。

「敵艦軌道変更、オービタルリングの影に隠れました」

「なかなかやるな……。敵艦の船影は出せるか?」

「AIによる補正が入りますが……」

「かまわん。出せ」

 モニター上に、プトレマイオスの船影が投影される。

「これがKanonのスペースシップか。このようなものを所有する規模が、あの組織にはあるというのか?」

 

『全乗組員に、戦術予報士の状況予測を伝えるわ』

 ブリッジのキャプテンシートについた香里から、現在までに得られたデータからの戦術予測が告げられる。

『接近する輸送艦はラオホゥ二隻。そこに敵戦力の全てが集中しているはずよ』

『それってどういう事なの? 敵艦二隻がキュリオスとヴァーチェに向かったはずでしょ?』

『本来はそうしてほしくなかったのよ』

 真琴の疑問に香里は簡潔に答えた。

『最初のプランではこちらの陽動を見抜いた敵艦隊があゆちゃん達を無視、直接トレミーに向かってくる。そうすれば予定通りに、敵艦隊の後方に回り込んだあゆちゃん達とで敵を挟撃できたの。だけど、敵はこっちの陽動を陽動で答えたのよ……』

 香里は唇をかみしめた。

『おそらく、攻撃に向かった敵輸送艦に搭載されたモビルスーツはすでに発進済み、逆にあゆちゃんと天野さんは無人になった敵輸送艦の迎撃に時間をとられているはずよ』

 その予想通り、無人艦に攻撃をしている最中の二人であった。

『モビルスーツが乗っていない?』

『手間をとらせてくれますね』

 四散した破片に、まんまと敵の作戦にはまってしまった事を悟る二人。

『敵の陽動を受けたあゆちゃん達が戻ってくるのは、あたしの予測だと六分。その間、敵モビルスーツ部隊の波状攻撃を受ける事になるわ』

『香里がそう予測する根拠は?』

 デュナメスから名雪が訊いてくる。

『ずっと前の第四次太陽光紛争時に、これと同じ作戦が使われたのよ。その作戦を指揮していたのが、ONEで『ヒゲ』の異名をとる、渡辺茂雄よ』

 

『本隊の作戦開始時間だ。命を無駄にするなよ』

 茂雄の号令で、作戦が開始される。

『エクシア、デュナメス、コンテナハッチオープン。エクシアはプトレマイオス前面で、迎撃態勢で待機』

『デュナメスは脚部をコンテナ上面に固定。GNスナイパーライフルによる迎撃射撃状態で待機してください』

『トレミーのプライオリティを防御にシフト、通常電源をカットする』

 プトレマイオスの砲術士を務める斎藤の操作によってブリッジの電源が落ち、必要最低限の部分を除いてあたりは真っ暗となる。

『ほ……本当に戦うの? この船、武装無いのに……』

『大丈夫、ガンダムがついてるから』

『ついてるったって、二機だけでしょぅっ?』

 おびえる真琴を、なんとかなだめようとする北川であったが、どうやらそれは逆効果だったようである。

『さあ、そろそろ敵さんのお出ましよ。三六〇秒耐えて見せて』

『リングの影から、敵輸送艦出現』

『デュナメス、砲射撃戦開始!』

『狙い撃つよ〜』

 名雪はGNスナイパーライフルを発射するが、そのビームは輸送艦の脇をかすめて通り過ぎていく。

『照準が狂ってる?』

 調整中だったデュナメスは機体各部の装甲が取り外されたままであり、左足には仮設のジグが付けられたままだ。フルシールドも動けないデュナメスの防御用に左肩にのみ取り付けられているために、恐ろしくバランスが悪くなっていた。

 撃てればいいと思っていた名雪ではあったが、どうやらそれはかなり軽率だったようだ。

『けろぴーシュウセイ、けろぴーシュウセイ』

『時間がないよ、手動でやるから』

 名雪がライフルの調整をしている間にも、刻々と近づいてくる敵輸送艦からミサイルが発射される。

『ミサイル接近、数二四』

『狙い撃つよ〜』

 今度は的確にミサイルを狙い撃っていく名雪。祐一もエクシアのGNソードをガンモードにして応戦する。しかし、その迎撃をくぐりぬけたミサイルがプトレマイオスに迫る。

『GNフィールド展開!』

『あう〜っ!』

 その間にも敵輸送艦は急速に接近してくる。

『この速度は……無人艦による特攻だわ』

 その証拠に、ラオホゥからはブリッジ部分が切り離されている。

『特攻って……あう〜っ!』

『やらせないよっ!』

 名雪は素早くデュナメスを操作すると、腰部フロントアーマーに内蔵されたGNミサイルを射出する。艦体に突き刺さった弾頭は、内部でGN粒子を放出して炸裂し、内側からラオホゥを爆散させた。

『GNフィールド再展開!』

 香里は叫ぶが、パニック状態に陥った真琴は頭を抱えて悲鳴を上げるだけだ。

『真琴ちゃん?』

 敵艦の破片がぶつかり、プトレマイオスを大きく揺るがせる。

『いや……いやよぅ……。真琴、死にたくなんかないわよぅ……』

『生き残るのっ!』

 その時、凛とした声がブリッジに響く。

『みんなで、生き残るんです』

『栞……?』

『栞の言う通りよ。あたし達はみんなで生き残る。しのぐのよ、なんとしても』

『敵モビルスーツ部隊接近。どうやら輸送艦の後ろに隠れていたみたいだね』

『敵総数、三六機』

 名雪はGNスナイパーライフルによる迎撃を試みるが、プトレマイオスに固定された本調子ではないデュナメスでは全く狙いが定まらない。そればかりか死角に入られてしまうと迎撃は不可能だった。

 祐一も果敢に攻撃を仕掛けるが、近接戦闘に特化したエクシアでは、距離が離れてしまうと途端に不利になってしまう。

『誘っているのか?』

 しかし、だからと言ってあまりプトレマイオスから離れるわけにもいかない。前に出てしまえば、艦の防御が薄くなってしまうのだ。

『捉えたよ〜』

 コンテナを回してもらい、ティエレンに狙いをつける名雪ではあったが、またしても敵は死角に逃げてしまう。敵は先程からこのような散発的な攻撃を繰り返しており、全くまともに戦おうとしない。

 確かにまともにガンダムとやりあって勝てるというわけでもないが、このような長距離戦闘はモビルスーツの艦船攻撃のセオリーからも離れすぎている。

(そういう事だったの……)

 ここで香里は、やっと相手の意図がわかった。

(ONEの……いえ、渡辺茂雄の今回の作戦目的はトレミーじゃなくて、ガンダムの鹵獲……)

 不覚、と香里はコンソールに拳をたたきつける。

『あたしの予測が外れたとでもいうの? もう間違わないって決めたのに……』

 

 そのころあゆは全速力でプトレマイオスに向かっていた。

『よぉ〜し、捉えたよ』

 だが、そのモニター上には異様な物体が映し出されている。

『これって……』

 機雷だと気付いた時には、キュリオスは高速で機雷原に突入してしまっていた。それを見たONEの本隊となる輸送艦からは、次々に一二機のモビルスーツが発進していき、その中には折原浩平が乗るティエレンタオツーの姿もある。

『この程度で、やられるようなキュリオスじゃな……うぐぅっ!』

 突然あゆは頭を刺すような痛みを感じた。それはかつてONEの低軌道ステーションで感じた痛みと同じものだ。

『あの機体は……』

 モニター画面には浩平の乗るティエレンタオツーが映し出されている。

『知ってる……。ボクはあの機体を知ってるよ……」

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