♯17 スローネ強襲

 

 タクラマカン砂漠におけるKanonの武力介入によって、大破以上の損害を受けたモビルスーツは八七機になり、死傷者は二〇〇人以上になったと各陣営は公式発表した。派遣した兵力の規模からすると、損害率はほぼ一割と言うところである。

 ガンダムを追いつめて鹵獲寸前となった時、ガンダムが増援に現れたというが、それについては未確認情報となっていた。

「ふあ〜……」

「どうした? 理樹。随分眠そうだな」

 朝の教室。眠そうな様子で机に突っ伏していた直江理樹に、棗鈴はいつもの様子で声をかけた。

「昨夜テレビでKanonが、タクラマカン砂漠での合同軍事演習に武力介入したってニュースがあってさ。それ見てて気がついたら朝になってた」

「そうか」

 しかし、鈴は興味がなさそうな様子である。

「鈴は大事だって思わないの?」

「そんな事より、あたしには明日からのテストのほうが大事だ」

「だよねぇ……」

 もともと理樹もテスト勉強の息抜きにテレビを見ていたら、このニュースだったのである。

 と、言う具合に地上で平和な一時が営まれているころ、軌道上を周回するプトレマイオスでは、祐一達ガンダムマイスターを助けたガンダムチームとの会合に臨むところだった。

「第一世代にも第二世代にも、ヴェーダのデータにも存在しないガンダムなんてね……」

 祐一達を助けたガンダムマイスター達が指定したポイントへ向かうプトレマイオスのブリッジで、戦術予報士の美坂香里は誰に言うでもなくそう呟いた。

「あう〜……。本当にそんな機体があるの?」

「本当もなにも、わたし達はその機体に助けられたんだよ? しっかり見ちゃったもんね、けろぴー」

「シッカリミタ、シッカリミタ」

 ブリッジに集った名雪達ガンダムマイスターは、その時の事を思い返す。ちなみに祐一は、万が一に備えてエクシアで待機中である。

「ガンダムらしきモビルスーツは、少なくとも三機存在しています」

 右肩に大口径砲を装備したタイプに、腰に無線誘導型の攻撃端末を装備したタイプ。そして、バトルフィールド全域にGN粒子を散布可能なタイプの三種類だ。

「ボク達のGNドライヴと同じなのかはわからないけど、その機体からもGN粒子みたいなのは放出されてたよ」

「で、月宮達はそのガンダムに助けられたって訳か」

 三人の話を聞いて、斎藤が口を開く。

「パイロットの人が通信で言っていたよ。自分達はガンダムマイスターだって」

「そして、去り際にこの宙域ポイントのデータを転送してきました」

「うぐぅ、あの人達はなにが目的なのかな」

 名雪、美汐、あゆの順で口を開くと、あたりには深刻な雰囲気が漂い始めた。

「案外、あいさつに来るのかもな。一応、オレ達は先輩なわけだし」

 北川が軽口を叩いて場を和ませようとするが、あまり効果はないようである。

「罠って事もある?」

 真琴の不安は、その場に集った一同の内心を表しているかのようだ。

「だけど、そいつらが相沢達を助けたんだろ?」

「あう〜、そうだけど……」

「会ってみればわかるわよ。あたし達は新しいガンダムマイスター達を出迎えるだけよ」

 とりあえず、こればかりは会ってみない事に話がはじまらない。

「光学カメラが、接近する物体を捕捉しました」

「メインモニターに出して」

「了解」

 外部監視をしていた栞は、早速メインモニターに接近する艦影を表示する。それは三基のコンテナを船体の中央から六〇度ほどの角度で取り付けた輸送艦のようで、シルエットとしてはONEのラオホゥに酷似している。

「栞はエクシアの出撃準備を、真琴ちゃんはあの船をスキャンしてみて」

「了解よぅ」

 

「ノゾカレテルゾ、ノゾカレテルゾ。イイノカヨ、イイノカヨ」

 プトレマイオスの動きは、智代達セカンドチームの知るところとなる。ブリッジにはけろぴーと同型で色違いの情報端末が警告を発していた。

「こちらを警戒しているのだろう。まあ、無理もないと思うが、今は好きにさせておけばいい」

「さて、そろそろ行こうぜ姉ちゃん」

「了解〜」

 

「間違いありません。接近してくる船から放出されているのはGN粒子です。船内にGNドライヴを四基確認しました」

 栞からの報告に、プトレマイオスのブリッジに緊張が走る。それが本当であるのなら、一体どうやって彼らはGNドライヴを手に入れたというのだろうか。

「やはりですか」

 それを聞いて美汐は唇を噛む。

「みんな見て、ハッチが開くよ」

 名雪の声に、一同の目がメインモニターに集まる。上部に配置されたコンテナがゆっくりと開き、その中から一機のモビルスーツが姿を現す。それは名雪も見覚えのあるガンダムスローネ一号機、スローネアインと言う機体だった。

『鷹文、河南子、しっかりつかまっているんだぞ』

『了解』

 よく見ると、その手の上には二人の人物とけろぴーが乗っている。

「モビルスーツからの光通信を確認しました。トレミーへの着艦許可を求めています」

「着艦を許可すると返信して。それとエクシアの待機を解除、相沢くんへブリーフィングルームに来るように伝えて」

「了解」

 着艦許可を受け、スローネアインは舷側部のエアロックへと向かう。そこでは艦の責任者となる香里と名雪達三人のガンダムマイスターが出迎えていた。

『着艦許可をいただき、ありがとうございます』

 エアロックから、三人のパイロットが姿を現す。ヘルメットを外したその姿は、不思議な光沢をもつロングヘアの少女と、生意気そうな一人の少年。そして、両方のサイド部分で髪を留めた少女だった。

「スローネアインのガンダムマイスター、坂上智代だ」

「スローネツヴァイのガンダムマイスター、坂上鷹文」

「そんであたしがスローネドライのガンダムマイスター、坂上河南子なのさ」

 それを見て香里は、若いな、と思ってしまう。

「ねえねえ、エクシアのパイロットって誰? あなた?」

「違います」

 一緒にしないでください。と言わんばかりに美汐は否定した。

「俺だ」

 そこへ現れる祐一。

「エクシアのガンダムマイスター、相沢祐一だ」

「ふ〜ん、あんたが無茶ばかりするマイスターなんだ」

 そういうと河南子は一気に祐一に迫り、そのまま唇を奪う。

「んんっ……」

 だが、祐一の反撃にあい、河南子はそのテクニックの前に体がぐったりとなってしまう。

「俺に触れるんじゃないぜ」

「貴様っ! 僕の河南子に」

 それを見た鷹文が、怒りにまかせてナイフを抜き放つ。

「なに言ってるの? その子が悪いんじゃない」

「なんだと? その綺麗なツラ、切り刻んでやろうか?」

「よさないか、鷹文」

 間に入った名雪に鷹文が迫ろうとするのを智代が止めるのだが、その脇では彼らの連れてきた紫色のけろぴーが、ヤッチマエ、ヤッチマエ、とけしかけている。

「ニイサン、ニイサン」

 そんなとき、名雪の持つ緑のけろぴーがノタノタとやってくる。

「アイタカッタ、アイタカッタ」

「お兄さん?」

 けろぴーは嬉しそうなのだが、名雪には何の事やらさっぱりだ。

「ダレダオメー、ダレダオメー」

「ケロピー、ケロピー」

「シンネーヨ、シンネーヨ」

 そう言って紫色のけろぴーは、緑色のけろぴーを突き飛ばす。

「ニイサン、キオクガ……ニイサン、キオクガ……」

 通路を遠ざかっていきつつ、けろぴーはそんな事を口にしていた。

「まあ、とにかく。こんなところで立ち話もなんだから、詳しい事は部屋で話しましょ」

 香里の提案に、智代達もうなずくのだった。

(こいつらが新しいガンダムマイスターか……)

「はじめて意見が一致しましたね、相沢さん」

「俺……口に出してた?」

 突然美汐にそう言われて、唖然とする祐一。まさか二次創作でよくつかわれる癖が、こんなところでも発揮されようとは。

「なにも言わなくてもわかりますよ」

 少なくとも、あのガンダムマイスター達に不信感を抱いているという点で、祐一と美汐の意見は一致していた。

 

「あなた達は、なぜガンダムを所有しているのかしら?」

「そうです。ヴェーダのデータバンクに、あの機体がないのはなぜですか?」

「それは答えられない。我々にも守秘義務と言うものがある」

 香里と美汐の質問を、智代は軽く受け流した。

「あなた達のGNドライヴは、どこで調達したの?」

「それも答えられない」

 名雪の質問も彼らには答えられないらしい。

「それでは、あなた方はなにしにここへ来たのですか?」

「旧型機にやられそうになった、情けないガンダムマイスターを見に来たのさ」

 鷹文の返答に、美汐は形の良い眉を吊り上げた。

「……気分が悪くなりました、退席させていただきます。後でデータをヴェーダに報告してください」

「わかったわ」

 香里にそう言い残して、美汐は部屋を出て行った。

「せんぱ〜い、あたしつまんないんだけど」

 今度は河南子が不満を口にする。

「この船の中、探検してもいい?」

「……それは構わないけど」

 香里の許可をえて部屋を出ようとするとき、河南子は祐一を見る。

「一緒に行く?」

 河南子は明るく祐一に呼びかけるが、どうも子供っぽい雰囲気のあるこの少女が苦手なので、とりあえず祐一は無視しておいた。それを見て河南子はそっと祐一のそばによると、その耳元で囁いた。

「あんま、あたしを怒らすんじゃないぞ……」

 祐一にそう言い残し、部屋を出ていく河南子。

「とにかく、これだけは教えてくれないかしら? あなた達は、あのガンダムでなにをするつもりなの?」

「もちろん、戦争根絶です」

 香里の問いに、智代はよどみなく答える。

「あなた達がそうであるように、私達もまたガンダムマイスターだ」

「それじゃあ、わたし達の仲間になるって事なの?」

「んなわけねぇだろ?」

 名雪の言葉を、鷹文は鼻先で笑い飛ばした。

「そっちがちんたらやってるから、こっちにお鉢が回ってきたんじゃねぇか」

「うぐぅ、どういう意味?」

 あゆとしては、自分達の介入行動に誇りを持っている。だから鷹文の発言が乱暴なように思えてしまう。

「言葉どおりさ。お前達が当てにならねぇって事だよ、不完全な改造人間風情が」

「うぐぅ……」

「申し訳ない。弟の無礼は、姉のわたしが代わって謝罪する」

 それでなくても、子供っぽい容姿のあゆが落ち込んでいるのは、智代としても見ているのがつらい。

「しかし、私達に命令を下した存在は、あなた達の介入行動に疑問を抱いているのではないか?」

「あたし達は、おはらい箱って事?」

「いえ、そちらは今まで通りに作戦行動を続けてほしい。私達は独自の判断で武力介入を行っていく」

「あなた達は、秋子さんの計画に必要な存在なのかしら?」

「それは、今後の私達の行動で示していく」

 一方、部屋を退出した美汐は、あのガンダムマイスター達に疑問を抱いていた。あの三人にガンダムを与えたのは、はたして誰なのか。とにかく美汐は一刻も早くヴェーダにアクセスし、情報を検索してみる必要があった。

「あれは……」

 プトレマイオスの船内に設置されている、ヴェーダのターミナルユニットが開いている。ここにはいる事が出来るのは、ガンダムマイスターの中でも美汐だけのはず。それなのにどうしてここが開いているのか。

「そこにいるのは誰ですか?」

 その中にいたのはガンダムマイスターの一人、坂上河南子であった。

「どうやってここにはいったのですか?」

「普通にはいれたよ?」

 出てきた河南子は、美汐ににっこりと微笑みかける。

「一体……あなた達は何者なんですか?」

「ないしょ」

 用事が済んだ三人は、プトレマイオスから帰って行った。結局、言いたいことだけ言って帰ってしまったのである。

「ねえ、香里。あの人達を簡単に帰しちゃってよかったのかな」

 向こうの情報はほとんど引き出せなかったが、きっと香里にはなにか策があるのだろう。そう思って名雪は香里に聞いてみる事にした。

「そうでもないわ」

「やあ、みんな」

 するとそこに、技術主任を務める岡崎直幸が入ってくる。

「みんなが話をしている間に、あのスローネっていう機体を調べておいたよ」

 このあたりは、流石の戦術予報士である。

「報告書は、独立端末でお願いします。絶対にヴェーダには入力しないでくださいね」

「了解したよ」

 ヴェーダへのハッキングの可能性を考えると、迂闊に入力するわけにもいかない。美汐あたりならそんな事は不可能だと言うかもしれないが、所詮は人間の作ったものである以上、絶対などと言う言葉は存在しない。香里としては、この事実を知る者が少なければ少ないほうがいいと考えていた。

 実際、彼らが所有していた紫色のけろぴーはなんらかの形で情報が引き出されており、そこからGNドライヴに関する機密が流出した可能性も否定できない。けろぴーはペットロボットとしても優秀であるが、本来はヴェーダとのアクセス認証を行うために独立したAIを搭載した、キーとしての役割も果たしているのである。けろぴーにある一定の人格が備わっているのは、実はそのためなのだ。

 

「与えられたミッションを完遂できなかったばかりか、優秀なフラッグファイターを三人も失ってしまうとは……。隊長失格だな、俺は……」

 タクラマカン砂漠の合同演習を追え、太平上を帰還していた空母内で往人は自嘲気味にそう呟いた。

「がお、それはしかたないよ往人さん。新型のガンダムが出てくるなんて、誰も予想してないよ」

「うぬぅ、基本の性能が違いすぎるのだ」

 少しだけ落ち込んでいる様子の往人を、観鈴と佳乃が慰めるように口を開く。

「せめて、ガンダムと同性能の機体があれば……」

「でも、佳乃りん。フラッグはAIRの最新鋭モビルスーツだよ? これ以上は望めないよ」

 観鈴達が所属している第八独立航空戦術飛行隊は別名オーバーフラッグスと言うように、通常のフラッグをさらに強化したオーバーフラッグが配備された特殊部隊だ。観鈴達にもフラッグファイターとしての矜持があるし、ガンダムに対抗できないのが機体の性能差だという事を認めたくないという思いも働く。

 そんな中、往人に通信が入る。

「なんだって? 大気圏を突破してくる機体があるだって」

 そんな真似が出来るのは、ガンダムくらいなものだ。

「それで、降下予測ポイントは?」

 その報告には、流石の往人も耳を疑わざるをえなかった。

 同じころ北米大陸に本拠を構えるAIRのMSWAD基地では、聖がこれまでのデータをもとにガンダムの秘密に迫りつつあった。

「私の予想した通り、ガンダムの動力機関がトポロジカルディフェクトを利用したものであるなら、すべてのつじつまが合う」

 トポロジカルディフェクトとは極端な言い方をすれば、エネルギーの高い偽の真空状態から、エネルギーの低い真の真空状態に相転移する際に生じる位相の構造的欠陥を示す。要は古い位相が新しい位相に取り込まれる際に相転移しきれなかった部分とも言えるのだ。これは温度の低下によってエネルギーの極小点が変化する際に、エネルギーが自然にその方向へ向かっていくために生じるものであるが、すべての空間が同じエネルギー最小点に向かいうわけではないために位相の欠陥が起きてしまうのである。この反応が生じる際には陽子レベルでの核融合や核分裂にも似た核反応により、単純なエネルギーや粒子などの物質の生成を可能としている。

 聖にとっても仮定の段階でしかないが、おそらくガンダムの動力部分ではトポロジカルディフェクトを利用して燃料物質を生成し、〇次元的な磁気単極子となるモノポールを利用して燃料物質の陽子崩壊を促してエネルギーを得ているものと思われる。つまり、ガンダムの放つ特殊粒子は動力部分の位相欠陥からこぼれおちた副産物と言え、さまざま性質を併せ持った多様性変異フォトンとなるのだ。

 この理論を用いて作られた動力機関は高出力を得られる反面、製造できる環境が限定されてしまうため、ガンダムの量産が不可能なのも、基礎理論の完成から二〇〇年以上の歳月を経てKanonが活動を開始したのもうなずけた。

 この動力機関を開発可能な環境は木星の近傍。そこで聖はある事実に思い至る。

「そうか、一二〇年前の有人木星探査計画……」

 木星の磁気圏は、強力な粒子加速器となっている。それは少なくとも地球上に存在するどの加速器よりも巨大であり、その中には強力なエネルギーを持った粒子が多量に存在している。有人木星探査計画とはその事象を確認するために編成され、同時に軌道エレベーター建設に必要な資材をアステロイド帯から調達する事も行っていた。

 その計画は失敗に終わったが、今から八〇年前に木星宙域で一隻の宇宙船が遭難しているところが発見された。それだけなら特に問題はないのだが、このときに名雪の持つけろぴーと同型の情報端末が、この遭難船の調査に訪れたある男達の手に渡ってしまった。

 その男達は有人木星探査計画を知り、六年の歳月をかけてその探査船を発見したのだが、主要なデータ類は乗員の脱出時にすべて持ち去られており、これが唯一の戦果であった。この情報端末は一見するとペットロボットにしか見えなかったため、それに気がつかなければ見過ごされていただろう。

 そして、この事実がのちの歴史に大きな転換点をもたらす事となる。

「だとするなら……水瀬秋子の目的は戦争根絶などでは無い。もっと別の……」

 そこまで聖が口にしたところで、パソコンのディスプレイにある一文が表示される。

「なんだ?」

 

You have witnessed too much…

(あなたは知りすぎた…)

 

「なんだこれは……」

 その途端に、基地内にけたたましい警報音が鳴り響く。

『観測室より通達。ガンダムと思われるモビルスーツが三機、EW‐九八七七方面から当基地に向けて進行中。全モビルスーツ部隊は緊急発進せよ』

「まさか……狙いはこの私か……?」

 聖が驚愕に目を見開き、緊急警報が発令される中、基地の司令部は対応に追われていた。

「各基地に、増援の要請を」

「アンノウン、肉眼で捕捉」

「……早すぎる」

 突然の警報に、神尾晴子はあわてて地上の格納庫から飛びだした。見上げる空には三機のモビルスーツ。おそらくはあれが報告のあった新しいガンダムなのだろう。

『目標ポイントに到達。河南子、ドッキングしてくれ。一気に殲滅する』

『了解』

 スローネアインの背後に回り込んだスローネドライは、背面のアダプターにGNビームライフルの先端を差し込む。すると先端部分からエネルギーチューブが伸び、そのままスローネドライはスローネアインが展開した右肩のGNメガランチャーのグリップを握る。

『高濃度GN粒子、転送開始』

 智代は右手のGNビームライフルをGNメガランチャーに接続し、狙いを定める。

『GN粒子、転送完了』

『了解。スローネアインGNメガランチャー、発射する』

 智代がトリガーを引くと、ヴァーチェのGNバズーカを凌駕する高出力のビームが解き放たれ、基地の施設を次々に破壊していく。

 ヴァーチェのGNバズーカも高出力の武器であるが、基本的に単機での運用が前提となるために、発射の際にはあらかじめエネルギーチャージを行っておく必要がある。ところがこのスローネは基本的な構造は同一の機体に異なる運用方法を与え、常に三機での運用を前提としているために、一機をエネルギーチャージ用のユニットとして活用する事が可能なのだ。その間は二機のガンダムが動けなくなってしまうが、攻撃中は残りのスローネツヴァイが広い攻撃範囲を利用した防衛行動をとるのである。

 この運用方法は正に三位一体、二機一組でのバディシステムが基本となる祐一達とは本質的にモビルスーツの運用方法が異なるのだ。

 すさまじい破壊のエネルギーは容赦なく襲いかかり、その爆風によって晴子は弾き飛ばされてしまう。ついには三つある塔のうちの一本を完全に破壊し、その中にいた聖を消滅させた。留まる事を知らないビームは中央の塔の司令室を破壊し、残る塔も破壊された。

 わずか一回の斉射によって、MSWAD基地は瓦礫の山に姿を変えたのだった。

「さすが姉ちゃん」

 コックピットで鷹文が快哉をあげたとき、警報音が鳴り響く。

「雑魚がわんさかきやがったか」

 そこに駆けつけたのは、往人率いる合計一二機のオーバーフラッグス隊であった。基地の惨状に、往人の中に怒りの炎が湧き上がる。

『隊長、新型が三機です』

『見ればわかるっ!』

 そこに、通信が入った。

『……おい、居候』

『晴子か?』

『あんな……女せんせがやられてしもて……』

『聖が……?』

 その報告に、往人はさらなる怒りをたぎらせた。

『堪忍袋の緒が切れたっ! 許さんぞ、ガンダム!』

 往人の怒りが乗り移ったかのように加速するカスタムフラッグ。

『撤収するぞ』

 それを見た智代は冷静に撤退を指示した。

『なんでだよ、姉ちゃん。少しは遊ばせてくれよなっ!』

 迎え撃つスローネツヴァイ。オーバーフラッグに向かって突っ込んでいく。

『どうせ、すぐに済むんだから。破壊して、蹂躙して、殲滅してやる。いけよっ! ファング』

 両腰のサイドアーマーから、六本の攻撃端末が射出される。

『それがどうしたっ!』

 ファングの攻撃を難なくかわし、リニアライフルの一撃を加える往人。連射モードでは無く、出力の高い単射モードの砲弾を胸部に直撃されると、流石のスローネツヴァイもわずかに機体が揺れる。

 それを見た残りのオーバーフラッグも三機が一組となり、単射モードのリニアライフルを的確に命中させる。その徹底した一撃離脱戦法に、スローネツヴァイも防戦一方となってしまう。

 そんな中、一機のオーバーフラッグがスローネツヴァイに迫る。

『観鈴ちん?』

『見せてあげる。これがフラッグの力だよっ!』

 観鈴は一気に空中変形を決め、プラズマブレードを抜き放ってスローネツヴァイに切りかかっていく。

『おおっと』

 だが、それをスローネツヴァイは右肩に装備した大型の実体剣で受け止める。エクシアのGNソードと基本構造を同一にするこのGNバスターソードは、刃の部分から高圧縮されたGN粒子を噴出させる事で鮮やかな切れ味を見せる。

『このままではやられちまうかな?』

 その攻撃を受け止めつつ、鷹文はコックピットで歪んだ笑みを浮かべる。

『なんてな、ファング!』

 観鈴のオーバーフラッグに、GN粒子をブレード状に展開したファングが次々に突き刺さる。

『観鈴ちんっ!』

『観鈴ーっ!』

 往人と佳乃の叫びもむなしく、観鈴のオーバーフラッグは機能を停止していく。

『ゆ……往人さん……。観鈴ちん、がんばったよね? だからもう、ゴールしてもいいよね……』

 オーバーフラッグの爆炎が、観鈴の体を焼き尽くす。

『気は済んだか? 鷹文。撤収するぞ』

『へいへい』

 鷹文には少し不満だが、ガンダムマイスターは多忙だ。次のミッションもあるし、あまり長居もしていられない。

『往人くん、観鈴ちんが……』

『わかっているっ! 無策で追うな』

 コックピットで、往人は唇を噛みしめる。

『聖……観鈴……。俺の顔に、何度泥を塗れば気が済むんだ、ガンダム……』

 

 智代達がMSWAD基地を襲ったという情報は、ただちにプトレマイオスにも報告される。

「あの人達がAIRの基地を襲ったの?」

「うぐぅ、なにが目的なんだろう」

「それは不明よ。ヴェーダにも情報が来ていないみたい」

 名雪とあゆは彼らの突然の行動が理解できず、香里にしても判断材料に乏しいのでは明確な判断が下せない。

「まったく、勝手な事をしてくれますね……」

 これには美汐も憤りを隠せない様子だった。

「これでまた、わたし達の風当たりが強くなっちゃうね……」

 沈痛と言う表現がしっくりくるくらいの表情で、名雪は重苦しく息を吐いた。

 アザディスタンでの一件で、多少は世間の見る目も変わってきたというのに、これでまた逆戻りだ。名雪達が武力介入する際に、なるべく死傷者を出さないように配慮していたのも、この介入行動で水の泡になってしまったかのようだ。

「本当にマイスターなのか?」

 祐一の声に、その場にいた全員の視線が集中する。

「あいつらは、本当にガンダムマイスターなのか?」

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