♯18 悪意の矛先

 

 祐一達トレミーのメンバーを助けた新たなるガンダムチームの存在は、各方面に様々な波紋を呼んだ。

「貴重な情報をありがとうございます。石橋先生」

「なに、気にするな。そのために俺はここにいる」

「全く、先生と出会えた事は、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられませんよ。僕がKanonの監視者になった事も含めてね」

 ほとんど狐と狸の化かしあいともいえるような状況の中で、不敵に微笑む久瀬を石橋は冷ややかに見ていた。

「それで? お前は世界をどうする?」

「なにもしませんよ」

「なにも?」

「僕はただの監視者ですよ。ただ世界の変革を見つめているだけの存在にすぎません」

 

 北米大陸にあるAIRのMSWAD基地を破壊した智代達は、世界各地の軍事施設を無差別に武力介入していた。CLANNADのイタリア北東部にある基地にもガンダムスローネが強襲し、それは大規模な殲滅戦の様相を呈する事となった。

 この基地に配備されているのは旧型のヘリオンが主力。兵士達は果敢に攻撃するも、ガンダムスローネとの基本性能の違いの前に次々に撃墜されていく。しかもその攻撃は祐一達とは違い、確実にコックピットを狙うものだった。

 その攻撃を受けた兵士は思う。こいつらはまるで、悪魔のようだと。

 自在に大空を舞い、航空戦力を一掃した智代のスローネアインは、眼下の森林地帯に隠れたヘリオンの集中砲火を受ける。それでもGNビームライフルの砲撃で一機ずつ破壊していくが、ヘリオンの数が多すぎてどうにも処理しきれなかった。そこで智代は右肩のGNビームランチャーで森林ごとヘリオンを焼き払うのだった。

 同じころ基地を強襲した鷹文のスローネツヴァイは、手にしたGNバスターソードで群がるヘリオンをなで斬りにしていく。

『もう、さいこ〜』

 その様子を上空のスローネドライから見ていた河南子はコックピットで歓喜の声をあげていた。長距離砲撃を得意とするスローネアイン。接近戦を得意とするスローネツヴァイ。そして、広域にGN粒子を散布してGNステルスフィールドを形成し、戦闘補助を務めるスローネドライ。この三機による攻撃によって、CLANNAD北イタリア駐屯基地は救援も呼べないまま灰燼と化した。

 

「智代ちゃん達の介入行動はこれで七度目。軍事施設を手当たり次第に攻撃して、しかも殲滅するまで叩いてるよ……」

 普段温厚な名雪にしては珍しく、その表情には怒りの色が浮かんでいる。しかもその口調は、呆れてものが言えないというものだ。

「あゆちゃんじゃないけど、世界の悪意が聞こえてくるみたいだね」

 太平洋上の無人島にあるKanonの秘密基地で、待機中の祐一と名雪は事が終わったベッドの上で、携帯端末を見ながらそんな事を話していた。

「トレミーから連絡は?」

「待機命令が継続中だよ。あの人達のせいでわたし達の計画が台無しだもん」

 きっと今頃は香里が対策にてんてこ舞いしてるだろうね。と、名雪は遠い宇宙にいる親友を思う。

「あれが、ガンダムのする事か? あれじゃまるで悪魔の所業だ」

 祐一にしてみれば、ガンダムは神にも等しい存在だ。しかし、祐一がどう思おうとも、所詮ガンダムは兵器であり、目的を達成するための道具でしかない。結局はパイロットの意思一つで神にもなれるし、悪魔にもなれるのだ。

 まさにガンダムはマシーン。魔神なのだ。

 新しいガンダムチームが、イタリア北部のCLANNAD基地を破壊したという情報はただちに世界各国に配信され、各陣営の首脳部はそれを深刻に受け止めていた。あのタクラマカン砂漠における一大軍事演習が、ガンダム達の逆鱗に触れてしまったのではないだろうか、と言う意見が多数派を占める中で、やはりこれまでのKanonの介入行動とは異なるガンダムの動きに疑問が残る。

 なぜなら、圧倒的なまでの機体の性能差を前面に押し出した殲滅戦であれば、今までの介入行動でもできたはずだからだ。

 いずれにしても、AIR、ONE、CLANNADの戦力だけではガンダムに対抗する事は不可能であり、結局のところ各勢力がこれまで以上に緊密な関係を結ぶ以外に方法はなかった。

 だが、それでガンダムが倒せるというのだろうか。八方ふさがりの状況の中で、次第に世界は変革を見せはじめる。それはガンダムが捕獲の対象から、殲滅の対象にシフトしつつあるという事だった。

 

 同じころ軌道上を航行するプトレマイオスの艦内でも、岡崎直幸が調査したガンダムスローネについて話し合われていた。

「あのガンダムを調査したところ、機体に使われているシステムや装甲材料とかは、私達と同じ技術が使われているよ」

 香里以下のクルーが集う中で、直幸はいつもの淡々とした口調で説明をはじめる。

「うぐぅ、それじゃボク達のガンダムと同型機なの?」

 それを聞いて、あゆがため息交じりに口を開く。

「でも、使われているGNドライヴは違います」

「ちがうって、栞ちゃん?」

「うん。機能的には私達のGNドライヴと大差ないんだが、炉心部にTDブランケットが使用されていないんだよ。だから、ドライヴ自体の活動時間に制限が加わってしまうんだ」

 トレミーが保有する四基のGNドライヴは半永久的に稼働できるが、Afterの所有するGNドライヴには活動時間に制限がある。当座の作戦行動には支障がないと考えられるが、そのあたりから考えてもAfterのGNドライヴはいまだ不完全なものと思われた。

「いわばこれは、疑似GNドライヴだろうね」

「そうなると、誰かがボク達Kanonの技術を盗んだって言う事なのかな?」

 GNドライヴの基本設計はヴェーダに記録されているが、一番肝心な炉心部分の構造は極秘扱いとなっており、関係者の間でしか通じない符丁となっている。確かにこの基本設計だけでもGNドライヴの稼働は可能だが、俗に太陽炉と呼ばれる半永久機関にはならないのだ。

 その意味でいえば、ガンダムスローネは恒常的にGNドライヴからGN粒子を放出し続けてしまう欠陥品とも言えるのである。逆にその現象を応用して戦闘領域全体にステルスフィールドを発生させたり、強力なGNメガランチャーを装備できたりするのであるが。

「それじゃ、誰かがヴェーダにハッキングしたの? そんな事……」

「ありえない、ってわけでもないわよ。真琴ちゃん」

 思わず叫びだしそうになってしまう真琴を、香里は冷静に制した。

「物事に絶対はないのよ」

 そんなものがあるなら、とっくの昔にKanonは目的を達成しているだろうし、香里だって作戦を間違えたりはしない。

「仮にそうだとしても、GNドライヴを作るにはすごい時間がかかるって……」

 GNドライヴの基本構造はそうでもないが、問題は燃料物質の生成が木星圏でしか行えないという事だ。Kanonの計画がスタートしたのが二〇〇年以上前だという事を考えても、そんな一朝一夕には不可能だ。だとするなら、組織内に内通者がいると考えたほうが妥当である。

 そのころ美汐はただ一人、ヴェーダのターミナルユニットの中でコンタクトを取っていた。

「……レベル三、クリア。レベル四、レベル五……」

 徐々にセキュリティレベルを上げていく中で、美汐は驚愕に目を見開いてしまう。

「レベル七の領域にあるデータが、一部改竄されています」

 ここまでのアクセス権限を有する者は、美汐を除いてそういるものでは無い。

「なんでしょう、このデータ領域は……」

 早速アクセスを試みる美汐であるが、その途端に『Access Deried』と表示される。

「私のアクセスが拒否された? そんな、どうして……。ヴェーダになにが起きているんですか……?」

 

「それで、香里ちゃんはこれからどうするんだい?」

「Afterがあたし達の新しい仲間だと世界が思っているなら、今作戦行動を起こすわけにもいかないわ。とりあえずは様子を見ながら、少しでも彼らの情報をあつめて対策をねらないと……」

 そう直幸に言う香里の表情は、苦悩の色があふれていた。

「だとすると、茜ちゃんの情報に期待するしかないね」

 そんな中、Kanonのエージェントを務める里村茜は、Kanonの監視者となるアレハンドロ=久瀬との会談に臨んでいた。

「そうですか。久瀬さんも新しいガンダムの存在を知りませんでしたか」

「僕は、ヴェーダの設定したアクセスレベルの情報しか知りませんよ。新しいガンダムのチーム名はAfter。操るモビルスーツはガンダムスローネでアインからドライまでの三機。僕が知っているのはこのくらいさ」

 そういって久瀬は、少し大げさに両手を開いて見せる。

「個人的な見解からいえば、彼らの作戦行動は少々いきすぎているようにも見えるけどね」

「では、久瀬さんはあのガンダムを、本計画の一部として容認すると?」

「そう考えるのが妥当だろう? なにしろ彼らは、ガンダムと言う機体を所有しているのだから」

 この男はなにかを隠している。そう思う茜ではあったが、確証が持てないのでは、その場は引き下がるしかなかった。

「大変よ、茜。トレミーから送られてきたAfterの生体データを調べてみたんだけど、該当する人物を発見できないわ」

 この時代はDNA鑑定による本人照合が可能となるが、彼らにはそれに該当するデータがなかった。そうなるとデータが改竄されているか、あるいは彼らがその目的のためだけに生み出されたデザインベイビーであると言う事だ。

「引き続き、調査をお願いします」

 そう詩子に指示を出した後、茜は一人考える。

 Afterのやり方は、確かに少々乱暴であるように思える。しかし、これが世界を一つにする契機となるなら、茜はそれを受け入れるつもりだった。

 

 MSWAD基地の戦いからしばらく過ぎたある日、国崎往人は戦死した神尾観鈴の墓参りに出かけていた。

「観鈴……」

 これまでの戦闘で戦死した人達の墓が並ぶ戦没者慰霊地で、往人は墓前に花を手向ける。そこには生前の観鈴が好きだった恐竜のぬいぐるみ『ぷろとんくん』が置かれている。

「観鈴ちんは、往人くんの事とっても好きだったのだ。往人くんと同じフラッグファイターになれて、とっても喜んでいたのに……」

 それに同行した佳乃は、人目もはばからずに両目から大粒の涙を流していた。あの戦いで佳乃は親友となる観鈴だけでは無く、実の姉となる聖も失っている。

「フラッグが正式採用になったのは、往人くんがテストパイロットを務めたおかげだって」

「俺がフラッグのテストパイロットを務めたのは、フラッグが一番高性能だと思ったからだ」

 往人の声は、重く苦しいものに変わっていた。

「しかも性能試験中の模擬戦で、俺は柳也殿を……」

「あれは不幸な事故なのだ。往人くんが悪い事なんて、なにもないのだ」

 その事を揶揄して往人の事を、上官を殺して隊長になった男と言う連中も少なからずいる。しかし、佳乃から見ればあれはどうする事もできなかった事だし、そのおかげでフラッグが主力機に選ばれたのだから。

「俺は観鈴、お前に誓うぞ。フラッグを駆って、ガンダムを倒すという事を」

 そういって、往人は観鈴の墓前に敬礼し、佳乃もそれに倣うのだった。生前観鈴はこうも言っていた。この広い空のどこかに、もう一人の自分がいるような気がすると。彼女にとってフラッグは、その少女に会いに行くための方便であったのかもしれない。

 だからきっと観鈴は風になって、その少女に会いに行ったのだろう。

 そして、往人が空を飛び続ける限り、いつでも観鈴がそばにいてくれる。往人はそんな気がしていた。

 

 ここはAIRのアメリカ南部の下町。

「わざわざ呼び出してすまないな」

「いや、かまわないさ」

 この日棗恭介は、場末のバーで一人の男と会っていた。

「軍のそばで会うよりはましだ。そんな事より、謝礼が先だ」

 言われるままに、恭介は男に封筒を差し出す。それはかなり分厚いもので、中に入っているのが札束なら相当な金額だ。

「で? 俺に訊きたい事って?」

「タクラマカン砂漠の合同軍事演習で、あんたは新型のガンダムを目撃したそうだな」

「ああ。確かに見たぜ」

「見ただけか?」

「偶然パイロットの声も聞いちまったけどな」

「声を?」

「ああ、俺の乗っていたリアルドがガンダムに撃ち落とされちまってな、救助を待っている間に見つけちまったのさ」

 撃墜されたその男は、岩場の影に隠れている見慣れないモビルスーツを見た。男が見ている前でコックピットのハッチが開き、中からパイロットが姿を現して大きく伸びをする。

 モビルスーツのコックピットは狭く、中はパイロットがギリギリ機嫌を損ねない程度の大きさしかない。しかもずっと椅子に座っているのでは、たまには大きく体を伸ばしたくもなるというものだ。

『ん〜……けろぴー、ラグナに報告して』

『シャーネーナ、シャーネーナ』

「ヘルメット越しだったから顔まではわからないが、体格と声からしてパイロットは若い女だった」

「その会話の中で、その子はラグナに報告と言ったんだな?」

「俺の聞き間違いかもしれないがな、知っているのはこれぐらいだ」

「この話は軍も知っているのか?」

「いや、話していない。こういうのはお前みたいな連中が高く買ってくれるからな」

「悪いがその話、しばらく誰にも話さないでくれるか?」

「謝礼に上乗せが必要だな」

「後日、現金でそっちに送金してやるよ」

「それはありがたい。これで娘の誕生パーティーも華やかになるってもんだ」

 男と別れた後、恭介はサブウェイの中でラグナと言う言葉に思いを馳せていた。

(一体なんだ? なにかの名前か、それとも暗号。どっちにしても、調べてみる価値はありそうだ……)

 事実と言う名のピースを集め、真実と言う名のパズルを組み立てる。この時恭介は、自分がなにかとんでもない事実に巻き込まれているという事に気がついていなかった。

 恭介と別れたあと、男はほろ酔い加減のいい気分で歩いていた。男が路地に入った時、突然背後からものすごい勢いで車が迫り、まばゆい光が男を包み込んだ次の瞬間、銃声が鳴り響いた。

 

「やっほ〜、恭介。元気?」

 理樹達は試験休みを利用して、スペイン北部の田舎町に来ていた。試験も終わって楽しい一時、能美クドリャフカの帰省に合わせての小旅行を満喫していた。来ヶ谷も宇宙から戻ってきて、姉である佳奈多との和解を果たした葉留佳は、姉御と一緒だと大喜びだ。終始楽しそうな小毬は見ているほうが楽しくなってしまうような笑顔を浮かべている。真人と謙吾は相変わらずの様子だったが、いつも以上に楽しそうではある。そんななかで一人、窓辺で本を読む美魚。恭介が仕事で来れなかったのが残念ではあるが、それでもいつものメンバーがそろうと、いつもの風景がそこにある。

 山あいの峠道を走るバスの、刻々と変わる車窓の風景に鈴は釘付けであるので、そんなみんなの様子を恭介にも伝えようと携帯電話で話をする理樹であった。

『こっちは仕事中だ。そっちは楽しそうだな』

「まぁね」

 恭介がいないというのが少々残念であるが、それでもみんな精一杯にこの旅行を楽しんでいる様子だ。なにしろ、このメンバーがそろうのは今しかない。卒業してしまえば、みんなそれぞれの針路に向かっていく。

「こっちはいいよ。空気はおいしいし、まわりの風景だって……」

 だが、通話中に突然画像が途切れてしまう。

「あれ? もしもし、恭介?」

 理樹はあわてて通話ボタンを押してみるが、画像は回復しないし通話も途切れたままだ。

「どうした? 理樹」

 脇から鈴がのぞき込んでくる。恭介に電話をかけるから、なにか話すかい。と理樹は聞いてみたのだが、いい、と言って小毬のほうにいってしまったのだ。

「わかんないよ。突然電話が切れちゃってさ……」

 事情がよくわからず、理樹は鈴と顔を見合わせるばかりだ。

「みんな〜、あれ見て」

 葉留佳の声にバスの窓から外を見ると、青空に三つの光跡が浮かんでいるのが見える。

「もしかして、あれガンダムかな?」

「わふ〜、はじめて見ました」

「おおっ! 俺生でガンダム見ちまったぜ」

 途端に車内からは歓声が上がる。今まではテレビ画面の向こうでしか見る事がなかったが、こうしてみるのは理樹もはじめてだった。

『ラグナから次のミッションが入った。目標ポイントに向かう』

 上空を飛行するスローネアインから、智代が各機に通達する。

『またかよ、人使い荒いな』

『ここんとこずっと作戦続きじゃないの』

 すると、途端に鷹文と河南子から不平の声が上がる。

『我慢するんだな。戦争根絶と言う目的を達成するためだ』

 智代はそういうが、河南子はもう我慢の限界のようだ。そんなとき河南子は眼下に一台のバスが走っているのを見つける。

『なによあれ』

 モニター画面にアップにしたバスの車内では、乗客たちが楽しそうにしていた。

『こっちは一生懸命お仕事してるってのに、なんであいつらは遊んでんのよ』

 河南子はそっとスローネドライを降下させる。

『あんた達わかってないでしょ? 世界は変わろうとしてるんだよ』

「おい、なんか近づいてきてないか?」

 真人の声に、再びみんなは窓の外を見た。ほとんどバスと並走するような形で、ガンダムが近づいてきている。

「え?」

 突然ガンダムが銃口を向けた時、一瞬理樹はなにが起きているのかわからなかった。

『死んじゃえ』

 河南子がトリガーを引くと同時に、発射されたビームがバスを横転させる。その瞬間、理樹には真人が、鈴には謙吾が覆いかぶさり、車外へと避難させた。

「くっ……鈴、大丈夫?」

「あたしは大丈夫だ。謙吾が助けてくれた」

 幸いにして、二人は車外に放り出された時のかすり傷程度だ。しかし、横転したバスの中にはみんながいるし、二人を外に出したところで力尽きたのか、今にも爆発しそうなバスのそばには、真人と健吾の姿がある。

「はやく、みんなを助けなくちゃ」

 理樹が倒れた真人に駆け寄ろうとした、その時だった。再び飛来したビームが完全にバスを破壊し、その爆風に飛ばされて理樹と鈴は意識を失ってしまう。

『河南子、なにをしているんだ』

『先輩、ごめんね〜。ボタン間違っちゃったみたい』

『作戦続きで疲れてるんだろ? しょうがねぇな』

『とにかく、勝手な行動は慎め』

『はぁ〜い』

 スローネドライを先行した二機に追いつかせる一方、コックピット内部で可愛らしく舌を出す河南子であった。

 

「Afterが一般市民を攻撃したって、どういう事よ?」

 臨戦態勢を整えたプトレマイオスのブリッジで、宇宙服に身を包んだ香里が入ってくるなり怒鳴り声をあげる。

「攻撃した中に、紛争幇助者でもいたんじゃないのか?」

 斎藤はそう言うが、それは真琴によって否定される。

「あう〜、そうでもないみたい。ヴェーダに記録されてるAfterのミッションデータにも、そんなの記載されてないもの」

「それじゃ、意味もなく攻撃したって言うの? それじゃまるで……」

 この報告は、ただちに地上にいる祐一達にも届けられた。

「なんの罪もない人達に攻撃するなんて、あの人達はなにをやってるんだよ。これは、遊びじゃないんだよ?」

 普段温厚な名雪がここまで怒るのは、祐一もはじめて見るものだ。それでなくても人一倍優しい名雪は、彼らの行動が許せないのだろう。

「一般市民を、ガンダムが攻撃した……」

 それはまるで、神が生殺与奪の権利を握っているかのようだ。こんな無差別な攻撃は、ガンダムマイスターと言うよりも単なるテロリストの所業だ。

「それが、ガンダムマイスターのする事なのか?」

 

 アメリカ、イリノイ州にあるAIR軍の基地では、MSWAD基地の崩壊に伴ってオーバーフラッグス隊が駐留していた。飛行形態のオーバーフラッグが翼を休める格納庫にきた往人は、今となっては聖の形見となった愛機を見上げた。

「どうしたんや? 居候。こんな時間に」

「晴子?」

 MSWAD基地の崩壊に巻き込まれ、入院しているはずの晴子が、往人のオーバーフラッグを整備していた。まだ頭と左手の包帯が取れないままだが、きっと晴子にも思うところがあるのだろう。

「なんせこのオーバーフラッグは、あの女せんせが直々にチューンした代物や。うちやなきゃ整備もできへんで……」

 だが、そう言う晴子の顔は苦痛にゆがみ、工具をとり落としてしまう。

「あまり無理をするな」

「そうもいかん……」

 悲しみをこらえているかのような表情で、晴子はぽつりと呟く。

「居候にも譲れんもんがあるように、うちにも譲れんもんがあるんや」

 あの新しいガンダムの攻撃で戦死した観鈴は、晴子にとっては娘だ。たとえそれが仕事が忙しい姉の娘を預かっていただけであっても、観鈴は晴子を母と呼んで慕ってくれたのだ。それを思うと、往人もなにも言えなくなってしまう。

「強情だな、晴子は」

「お前ほどやない……」

 オーバーフラッグの整備を続けながら、晴子は口を開く。

「あんな居候、うちはこう思うとるんや。なんでガンダムが、オーバーフラッグスの基地を襲ったんか。きっと本当の目的は、あの女せんせや」

「どういう事だ?」

「あの女せんせは、ガンダムのエネルギー機関と、特殊粒子の本質に迫ろうとしてたんや。だから、なんらかの方法でそれを知ったKanonに、基地の攻撃を装って殺されてしもたんやと思う」

「じゃあ、晴子は軍内部に内通者がいると?」

「いないとも限らんで」

 そんなとき、非常警戒警報が基地内に鳴り響いた。

『アイオワ上空、F‐三九八八ポイントにガンダムらしき機影を発見。確認された機影は、合同軍事演習に現れた新型モビルスーツと断定。第六航空編隊、及び最寄りの基地の飛行部隊はただちに急行せよ。くりかえす、アイオワ上空……』

「ガンダムだと?」

「そのポイントは……アイリス社の軍需工場があるはずや」

「アイリス社?」

 オーバーフラッグのリニアライフルは、往人が使っていたカスタムフラッグのリニアライフルに、さらに改良を加えたものだ。

「んな、あほな。いくら兵器工場ちゅうても、そこで働いてるんはただの民間人やで」

「晴子、フラッグを出すぞ」

 ただちに往人は発進していく。

『国崎往人、先行して出撃する』

『単独出撃なんて無茶やで、居候』

 管制塔からの指示も待たぬまま、往人は直接格納庫からフラッグを離陸させる。

『そんな道理、俺の無理でねじ伏せてやる』

 アイリス社の工場はガンダムの攻撃によって各所から火の手が上がり、その中を工員達が逃げ惑っている。それを智代は上空のスローネアインから興味なさそうに見つめ、機械的にトリガーを押してビームを発射していた。

『ん?』

 その時、スローネアインのセンサーが接近してくる機影を捉える。

『接近する機体? このスピードは……』

『やはり新型かっ!』

 往人は急降下から機首部のバルカンを連射すると、スローネアインのビームをかわしつつすれ違いざまに変形、それを利用した重心移動で急制動をかけると同時にフラッグを上昇させる。

『やるな』

 その鮮やかなテクニックには、思わず智代も息をのむ。

『どれほどの性能差があろうとも……』

 その勢いを殺さぬまま左手でプラズマブレードを引き抜くと、往人は一気にスローネアインに切りかかる。

『今の俺は、阿修羅すらも凌駕する存在だっ!』

 それをなんとか左手のGNビームサーベルで受け止める智代であったが、往人の迫力に気おされてしまったのか押し負けてしまう。

『なに?』

 次いで往人は、右手にもプラズマブレードを持たせた二刀流でスローネアインを追いつめる。なんとかそれをGNビームサーベルで受け止める智代であるが、往人が素早くプラズマブレードを払ったためにGNビームサーベルを弾き飛ばされてしまう。

 それを見た往人はプラズマブレードを捨て、GNビームサーベルを握る。

『くっ』

 智代はGNビームライフルを構えるが、一瞬の交錯の後にスローネアインの右腕が切り飛ばされてしまう。

『……ばかな』

 性能的には圧倒的なまでに劣るフラッグに、ここまで追い詰められようとは。自らの慢心が招いた事とはいえ、切り飛ばされてしまった右腕を見て智代は唇を噛む。

 このままでは不利だと見た智代は、即座に撤退を開始した。

『一矢は報いてやったぜ、観鈴……』

 だが、不意に往人はせきこんでしまう。抑えた手のひらには、鮮血がべっとりとついていた。

(……この程度のGに、体が耐えられないとはな……)

 

「え?」

 祐一と一緒のベッドの中で、名雪は突然入った知らせに愕然とする。

「アイリス社の兵器工場が、Afterの人達に襲われて死者は八〇〇名以上? いくら兵器工場でも、あそこで働いているのはみんな民間人だよ……」

「……なんだって?」

 それは、名雪もはじめて見る祐一の怒りの表情だ。

「祐一?」

 呆然とする名雪をおいて、祐一はエクシアで出撃していくのだった。

『まさか、姉ちゃんをてこずらせる奴がいるなんてな』

『本当、油断大敵ってやつですよね』

『まったくだ。これは肝に銘じておくほかはない』

 洋上を飛行していたガンダムスローネに、突然粒子ビームが襲いかかる。

『ガンダム……エクシアか?』

 なんとかかわしつつも、智代達は目前に迫る機影を確認する。

『エクシア、目標を捕捉。三機のガンダムスローネを紛争幇助対象と断定し、武力介入を開始する』

 これはヴェーダのプランにはない、完全な祐一の独断行動だ。しかし、ガンダムスローネの武力介入が、いらない紛争を巻き起こしている事も事実だ。

 祐一は一気にGNソードを攻撃位置へ移動させる。

『エクシア、目標を駆逐するっ!』

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