ユーノとフェイトの遺跡探訪記

 

「ん……」

「気がついたかい? フェイト」

「ユーノ……?」

 声はすれども姿は見えず。あたりが一切の光が差さない暗闇なのでお互いの位置関係まではわからないが、どうやらかなり近い距離にいるようだ。

「ここは……?」

「穴の底さ。トラップに引っかかってここまで落ちてきちゃったんだよ」

「落ちてきたって……?」

 それを聞いてフェイトは変だと思った。自分達は飛行魔法が使えるのだから、落とし穴に嵌まったくらいで下まで落ちるはずがないからだ。

「フェイトが疑問に思うのも無理はないよ。僕も見たのは初めてだったんだから」

 ユーノが生み出した魔力の光にあたりの風景が照らしだされる。よく見ると壁面にはびっしりとなにか文字らしきものと記号や図形の様なものが刻み込まれていた。

「ユーノ、これは?」

「文様法術だよ。まさかこんな形で見る事になるなんて、僕も思ってなかったけどね」

 聞き慣れない単語に首を傾げるフェイトを見て、ユーノはここぞとばかりに解説をはじめた。

「文様法術はミッド式ともベルカ式とも異なる独自の魔術体系で、現在ではすでに失われてしまっている術式の展開方法なんだ。その特徴は呪文やトリガーワードによる魔術の発動という運用方法と異なり、石などに刻み込まれた文字そのもので魔術を発動させる事にあるんだ」

「そんな事が出来るの?」

「次元世界の多くでは言葉になんらかのエネルギーが加わるというのは確認されているし、魔術の発動そのものもそうしたエネルギーによって行われている。しかし、言葉は空中に発した時点で消えてしまうので、なんらかの形で永続性を持たせる術式を併用しないと一瞬で効果そのものが失われてしまう。そこで魔力をこめた文字を物体に刻み込む事で、効果の永続性を付加させようとしたのが文様法術なんだ」

「それじゃあ、このあたりに展開している魔法って……」

「まず、間違いなくAMFだろうね。このあたりの壁面に刻み込まれている文様はあちこちが欠けているのでそこまで強い効果を発揮していないみたいだけど、僕達が落ちてきた落とし穴の入り口付近は、おそらくだけど虚数空間並みの魔法阻害空間を形成していたんじゃないかと思う。魔法効果が全部キャンセルされたんじゃ、いくら僕達でも穴に落ちるしかないさ」

 すでに展開しているバリアジャケットなどの魔法効果が消えてしまっているというわけではないが、それでも基礎防御や飛行魔法などがかなり妨害されてしまっている。下に落ちるにつれて魔法阻害効果も軽減されていったおかげで地面に叩きつけられるという最悪の事態は免れる事が出来たが、ユーノの言葉が正しければ飛行魔法を使って落ちてきた穴を上っていくという方法が使えなくなるのでそこからの脱出は不可能となる。また、念話も通じないため、助けを呼ぶ事も出来ない。まさに八方ふさがりの状態に陥ってしまっていた。

「でも、文字に魔力をこめるなんて出来るの?」

「そもそも文字は言葉を刻みこんで記録するためのものだし、第97管理外世界でもルーン文字と言う魔力を持った文字の話があるからね。珍しいけど、実例がないわけじゃないよ」

 ルーン文字の基本的な使い方は、刀剣類の刀身に刻み込む事で切れ味を増すなどの効果を付加するというものだ。もっとも、これらの文字にそのような効果はなく、単なるおまじない程度のものだったとする説もある。しかし、広い次元世界では魔力をこめた文字について真面目に研究がおこなわれた世界もあり、そうした結果誕生したのが文様法術であった。

 文様法術は物体に文字を刻みこんで発動させるので術式の永続性を獲得しており、特に魔導師を配置しなくても一定の範囲内に一定の魔法効果を与える事が可能となった。しかし、呪文やトリガーワードを唱えて発動する通常の魔法と比較しても柔軟性に欠け、結果的に城などの設備の一部に使用されるにとどまっている。おまけに建造物に設置する場合は設計段階からシステムとして組み込む必要があり、一度組み込んでしまうと用途を容易に変更出来ないという欠点もあった。

 術式の永続性をはじめとしたいくつかのメリットも確認できたものの、扱いにくいというどうする事もできないデメリットのために、文様法術は歴史の闇に消える事となったのである。

「僕も文献でしか見た事なかったからね。まさかこんな形で見る事が出来たなんて驚きだよ」

「そうなんだ……」

 相変わらず、自分の好きな事を語っている時のユーノは格好いいな。とフェイトは思う。この情熱の半分でもいいから自分達に向けてくれていれば、もう少し違った関係になれたかもしれないと思うくらいに。

「……さて、いつまでもこんなところにいるわけにもいかないな。フェイトも気がついた事だし、先に進んでみよう」

 語り終えて満足したのか、不意にユーノはフェイトの手を取って歩き出した。

「ユ……ユーノ……?」

「ここ暗いからさ、はぐれたらやばいと思って……。もしかして、迷惑だった?」

「ううん、そんなことはないんだけど……」

 フェイトは慌ててかぶりを振り、それと同時に真っ赤になった顔を見られなくて良かったと安堵していた。

「それじゃ、行こうか」

「うん」

 壁面に彫られた文様法術によるAMFの影響で、照明の魔法もほとんど効果がない暗闇の中をユーノとフェイトはお互いにしっかり手を握り締めたままそろりそろりと歩いていく。ユーノが先頭に立って足元を確認しながら歩き、フェイトがその後を追うという形だ。

(フェイトの手って、こんなに小さかったんだな……)

 触れると折れそうなくらい細い手足なのに、いざ戦いとなれば巨大なザンバーを振り回して一歩も引かない覚悟を見せる。しかし、そんな彼女がもっとも得意とする高機動空中戦はこのような狭い閉所空間では全く意味をなさない。おまけにこのような遺跡内部の探索は、執務官であるフェイトにとってはほとんど未知の領域だろう。

 だからこそ自分がしっかりしてフェイトを守らなければ。そうユーノは決意を新たにした。

(ユーノの手って、こんなに大きかったんだ……)

 つながっているのは手のひらだけなのに、なぜだか全身を包み込まれているような安心感がある。遺跡内部の探索という、自分にとっては最も苦手とするフィールドではあるが、なぜだかユーノと一緒にいれば大丈夫だという気がした。

 そうしてお互いに言葉をあまり交わさないまま、ユーノとフェイトは暗い通路を歩いていくのだった。

 

 ユーノとフェイトがこの遺跡を探索しているのには理由があった。

 スクライア一族は遺跡発掘を生業とする流浪の民で、次元世界ではかなり名の知られた存在である。普段は無限書庫で司書長をしているユーノもその一族の出身であり、今回は族長からの依頼もあって出土品の鑑定を行うためにこの地を訪れたのである。

 久方ぶりの一族との再会に喜んだユーノであったが、それもつかの間で今回の発掘現場が非常に微妙な立ち位置にある事に気がついた。本来であれば遺跡の管理はその土地の所有者か管理世界の中央政府によって行われるのだが、この遺跡は時空管理局が管理を代行していたのだった。

 通常、遺跡などの発掘で得られる出土品の所有権は遺跡のある土地の所有者に帰属するが、発見者や発掘者をはじめとして発掘の資金を提供したスポンサーまでもが所有権を主張する場合があるので、こうした問題を管轄する時空管理局としても対処に苦労する部分があった。

 これらの事情は、1990年にアメリカで発掘されたティラノサウルスの化石がいい例となっている。このティラノサウルスの化石は前腕部の第一指まで保存され、実に全身の90%以上の骨格が残されていたという、当時では世界でもほとんど例のない完全骨格だったのだ。

 そして、この化石の所有権を巡って土地の所有者と発掘者との間で裁判が起き、その過程で化石を保有していた発掘者からFBIと軍隊が共同で押収し、所有権が確定するまでの間調査が出来ないように国の管理下に置かれた事もあった。裁判の結果化石の所有権は土地の所有者にあるとされたのだが、その間に7年という気の遠くなる歳月が過ぎ去っていた。

 これは恐竜の化石であるので不動産として扱われた結果と言えるが、管理世界の場合では極めて危険で貴重なロストロギアとして出土する事もあり、時空管理局としては迅速な対応が求められていた。そこで時空管理局では遺跡発掘に関してはどんなに規模の小さなものでも時空管理局の遺失物管理課に連絡し、民間からロストロギア鑑定士と管理局から法務手続きを行う局員を派遣してもらう事を義務付けている。そうする事でその場でロストロギアの鑑定を行い、所有権の確定を行う事が出来るからだ。実際、レイジングハートもそうした過程で発見者であるユーノに所有権が認められたものである。

 また、そうした手続きがきちんと行われていないと盗掘とみなされるため、場合によっては管理局が武装局員を派遣して発掘者から出土品の押収を行う場合もある。それらは基本的に強制執行という形で行われるため、そうした部分を揶揄して『盗掘者の上前をはねる管理局』や『管理の名を借りた強盗組織』などと影で呼ばれるのであるが。

 とはいえ、極端な言い方をすればそうした法関係の手続きさえしっかりやっておけば商取引に支障はなくなるため、発掘者がロストロギアを闇に転売する目的で民間のロストロギア鑑定士に金を渡してわざと事実とは異なる鑑定をさせるなどの絡め手を使ってくる場合もある。時空管理局と言っても所詮はお役所仕事なので、正規の手続きさえ取ってしまえばそれ以上の干渉が出来ないのだ。

 実のところ、考古学者と言っても遺跡発掘で得られる収入はほとんどない。極端ないい方をすれば、考古学者が得られる収入は遺跡の研究成果をまとめた本を出版するぐらいでしかなく、仮に研究成果を論文にして学会に発表しても、それで得られるのは名誉ぐらいのもので直接的な収入には結びつかないのだ。

 かつてユーノはとある遺跡でジュエルシードを発見して命名者となったが、遺跡の所有権が管理局にあったので自分のものとはならなかった例もある。このように遺跡の調査でロストロギアを発見してもそれが必ず自分のものになるとは限らないため、古くから無断で遺跡発掘を行う盗掘者とそれを取り締まる管理局の間で激しいイタチごっこが繰り広げられていた。スクライア一族もかつてはそうした盗掘なども行ってきた歴史もあったが、ユーノが無限書庫の司書長となり、時空管理局の協力者となる事でその地位は劇的に向上し、現在では時空管理局から直々に発掘調査の依頼が来るまでになった。

 ある意味ではスクライア一族最大の功労者である自分を族長がわざわざ呼び出すところから、ユーノはこの遺跡の発掘調査がかなり重要なものである事を意識した。ユーノの探索能力は一族の中でも高いレベルであるし、ロストロギア鑑定士としても有名なので、一族にしてみればこれ以上に無い優秀な存在だった。

 とある管理世界にある、現在では廃れてしまった宗教の神を祭った神殿はこれまでにも何回か発掘調査が行われているが、神を祭ったと思しき祭壇が発見された程度で、めぼしい宝物はすでに盗掘者達によって持ち去られた後だった。しかし、この神殿の最深部には、一生をかけても手に入らないかもしれないほどの価値のある宝が眠っているという噂もある。

 今回スクライア一族が管理局からこの遺跡の発掘調査を依頼されたのは、ここを観光名所としたい管理世界から危険な罠が仕掛けられていないかを調べてほしいとの要請があったからだ。何事もなければ、時空管理局より管理世界へ遺跡の所有権が委譲される手筈となっている。

 しかし、下手にロストロギアが発見されてしまうと今度は遺跡のある管理世界と、スクライア一族に調査を依頼した時空管理局との間に無用なトラブルが発生する可能性もある。これはユーノのロストロギア鑑定士としての能力が試される機会でもあるので、これから派遣されてくる管理局の法務担当官との間で綿密な打ち合わせをする必要があった。

 そして、時空管理局より派遣されてきた法務担当官が、たまたま近くを航行していた次元航行艦勤務のフェイト執務官だったのである。

 それが現在二人して神殿のトラップに引っかかり、あてもなく通路をさまよっているのは何の皮肉なのだろうか。

 

「フェイト、ごめん。ちょっといいかな」

「ふえっ? ユーノ?」

 突然ユーノにお姫様抱っこで抱き上げられたせいか、フェイトはやや上ずったような変な声を出してしまう。

「床の感じが変わったんだ。もしかすると、なにかトラップがあるかもしれなくて」

 これまでは土を削り取っていったかのような感触だったが、それが石畳に変わった。床石になにか仕掛けがしてある可能性もあるため、迂闊にフェイトを歩かせるよりかは抱き上げてしまえばいいとユーノは判断したのだった。

「その……重くない……?」

「大丈夫。問題ないよ」

 女の子を抱きかかえて歩けないようでは、スクライアの男は務まらない。高機動空戦魔導師として贅肉を削れるだけ削り取ったボディを持つフェイトは、ユーノが知る限りの女性の中でも軽量の部類に入る。そんな彼女を抱き上げるのは、ユーノにとっては造作もない事だ。

 次元世界の中には、新郎が新婦を抱き上げて結婚式場から新居まで歩いていけないと婚姻が認められない地域もあるという。この抱き方は男性側のたくましさをアピールする手段として最適と言えるが、女性側も男性の肩や首に手を回すなどして体を支える必要があるので、よほど男性に対して心を許していないと成立しない体勢でもある。また、ある程度女性が軽くないとこのポジションをキープするのも辛くなるため、その意味においてフェイトは理想的な存在といえた。

 実のところフェイトが9歳の時には同い年のなのはにこうやって抱きかかえられた事があり、19歳のときには10歳のエリオに抱きかかえられた事がある。そのせいかフェイトはこういう抱かれ方には慣れているものの、相手がユーノだと思うと胸の鼓動が高まっていくのを感じる。

 バリアジャケットやデバイスのデザインが死神をモチーフとしたものであるのに、なぜかフェイトはこういうお姫様ポジションにいる事が多い。これはバリアジャケットのデザインが天使をモチーフとしたものであるのに、なぜか悪魔と呼ばれるなのはと対照的ですらある。

 一方のユーノも、いざやってみるとお互いの密着度が高いせいかどうにも緊張してしまう。フェイトのいい匂いや甘い吐息を間近に感じるためか、思考に霞みがかかっていくように思えた。

「おや?」

「どうしたの?」

「いや……。今足元でカチッとか言った様な……」

 それは通路が石造りに変わってから、結構な距離を歩いたあたりだろうか。フェイトを抱きかかえていてよほど注意力が散漫になっていたのか、どうも足元に仕掛けられていたトラップを発動させてしまったらしい。その途端に石造りの通路が振動をはじめ、背後の方から徐々に崩壊をはじめていく。

「見て、ユーノ」

 フェイトが促した先では、巨大な石の扉がずりずりと下がっていくところだった。どうやらこの罠はここに閉じ込めて崩落する床と一緒に奈落の底へ叩きこむつもりのようだ。

 今から走ったところで、たどり着く前にあの扉が閉まってしまうだろう。こうして迷っている間にも、通路の崩落は迫ってくる。一体どうすれば、とユーノが悩んだ時だった。

「そうだユーノ、フェレットになれる?」

「なれるけど……」

「じゃあ、急いでっ!」

 ユーノの腕から飛び降りると、フェイトはバリアジャケットをインパルスフォームからソニックフォームに変更する。そして、フェレットモードになったユーノを即座に抱き上げた。

「ユーノはここにいてっ!」

「きゅ? きゅ〜っ!」

 フェイトは胸元の構成を大きく開くように変更し、そうしてできた谷間にユーノを押し込むと即座に崩落を開始した石畳を蹴る。

「バルディッシュ!」

『Yes sir.sonic move』

 電光石火の動きで崩落する石畳を駆け上がり、強大な石の扉が閉まりきる前にその向こうの部屋へと到達するフェイト。

「きゅうぅ……」

 しかし、その間にユーノの意識は闇に引き込まれていた。

 フェイトが動くたびに、左右から柔らかいものに体が強く挟まれる感触。その豊かなバストが天然のショックアブソーバーとして機能してくれたおかげで、ソニックムーブの激しい動きにもユーノの体に全く負担はかからなかったのだが、自らが置かれているシチュエーションに神経が耐えきれなかったのだ。

 

「ユーノ! ユーノってばっ!」

「ん……フェイト……?」

 そうか気絶してたんだっけ、とユーノが目を開けると、すぐ目の前にフェイトの白い谷間が飛び込んでくる。どうやら、先程バリアジャケットの構成をいじったままの様だ。

「良かった、ユーノ……」

「むぶっ……」

 ようやく目を開けてくれたので、感極まったのかフェイトはしっかりとユーノの頭を抱きしめた。しかし、先程の白い胸の谷間の感触を思い出してしまったユーノは、自分の意識が再び闇に落ちていくのを感じていた。

 

「ごめんね、ユーノ……」

「いや、気にしないで。フェイトが悪いんじゃないから」

 再びお互いの手を握り、薄暗い通路を歩いている最中にずっとフェイトは謝り続けていた。しかし、あまりそんな事をされると、なんとなくユーノも悪い気がしてくる。そこでなんとかなだめようとしているのだが、こうなってしまったフェイトを立ち直らせるのはかなり苦労しそうだった。

 そんな二人はやがて一つの部屋にたどり着いた。

「どうやら、ここがこの遺跡の最深部みたいだね……」

 この部屋には一生をかけても手に入らないかもしれないお宝が眠っているという噂であったが、ここにあるのはダブルベッドが中央に一つ置いてあるばかりで他にめぼしい調度はない。おまけにこの部屋の雰囲気は、その独特の薄暗さから神殿の一室というよりもラブホテルの様だ。

「ねえ、ユーノ。ここって……」

 その言葉を言い終えないうちに、フェイトはベッドに押し倒された。

「え? ユーノ……?」

「じっとして……」

 有無を言わせず、ユーノはフェイトのバリアジャケットの大きく空いた胸元に手をかけ、そのまま一気に引き裂いた。防御を度外視して構成されたソニックフォームのバリアジャケットは、ちょっとした衝撃でも容易く破壊されてしまう。

 薄暗がりの中で、あたかも光り輝いているかのようなフェイトの白い裸身があらわとなる。

「少しだけ痛いの我慢して」

 ユーノの豹変ぶりに気圧されていた事も事実だが、なぜかフェイトの体はしびれたように身動きが取れなくなってしまう。この時フェイトは思い出した。フェレットと言えば愛玩動物として有名であるが、その原型となったイタチは自分より体の大きな獲物にも果敢に立ち向かっていく獰猛な肉食獣である事を。

 そして、ユーノのフェレットは剣となり突き抜けた。

 

(ああ……そういうことだったのか……)

 ユーノはようやくこの神殿の最深部に眠る宝の意味を知った。事後の疲れか隣で安らかな寝息を立てているフェイトを見ていると、確かにこれは一生かけても手に入らないような宝物なんじゃないかと思えてくる。

 壁面に書かれた碑文の一部を解読してわかった事だが、この神殿は愛の女神を祭っていたもので、その教義によると男女の自然な営みが五穀豊穣を約束し、子孫繁栄をもたらすものとされていたのだ。この部屋もそうした儀式のために用意されたものらしく、自然に男女の営みが出来るように周囲の壁や天井には文様法術が施されている。どうやらユーノはそれに気づく間もなく、部屋の魔力に支配されてしまったようだった。

 だが、後悔はしていない。それだけは自信を持って言える。ただ、問題なのはこれからどうしようかということだけだ。

 その時、遠くの方でなにかが破壊されるような音が鳴り響いた。おそらくフェイトが遭難した事を知って、シスコンの提督が持てる限りの権限を総動員して捜索隊を組織したのだろう。そうなると、無駄に優秀な彼がこの部屋に到達するのも時間の問題である。

 二人で裸になって一つのベッドで寝ているところを発見された時、どのような説明をしたらクロノが納得してくれるのか。

 そのことだけをユーノは、必死になって考えていた。

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