第十二話

 

「ただいま〜」

「おかえりなさ〜い」

 ディアーチェ達がはやて達への顔見せを終え、アジトとなっているユーノの部屋に帰ってくると、奥のリビングからユーディがとてとてと駆け寄ってくる。

「おお、ユーディ。出迎えごくろう。今日はなにしておった?」

「うん。あのね、今日はリニスにミッド語教わっていたの」

「おお、そうかそうか」

 まるで仕事に出かけた母親とその娘みたいな会話をするディアーチェとユーディの姿に目を細めつつ、帰宅したユーノ達が奥のリビングに向かう。

「お帰りなさい。首尾はどう?」

「もちろん、大成功さっ!」

 プレシアの問いにレヴィが元気よく答えると、その場にいた一同の緊張が解けたように大きく息を吐いた。

「はうぅ〜……緊張しました〜……」

「はい。一時はどうなる事かと……」

 とりあえず首尾は上々のようなので、ヴィヴィオとアインハルトはほっと胸をなでおろした。

 なにしろ、これからユーノ達がやろうとしているのは管理局を巻き込んだゲームだ。いくら死傷者が出ないように配慮しているとはいえ、下手をすれば管理局法違反で書類送検されかねない。おまけに時間移動者やらマテリアル達をかくまっていると知れたら、ユーノの立場が完全に失墜してしまう。

 ユーノはいずれ無限書庫の司書長となる立場であるため、可能な限りスキャンダルになる様な事は避けなくてはいけない。下手をすれば、この時間軸の未来が変わってしまいかねないからだ。

「安心している暇はないよ。これからが本番なんだからね」

 ユーノがパンパンと手を叩き、一同の気を引き締める。

「とりあえず、ディアーチェ達が第九七管理外世界『地球』に干渉した事で、残っていた闇の欠片達が活性化しはじめている。その対処をトーマとリリィ、ヴィヴィオとアインハルトにお願いしたいんだ」

「了解です」

「任せてください」

「わっかりました〜」

「お任せを。覇王流、お見せしますっ!」

 ぐっと拳に気合を入れて、決意表明するアインハルトの姿に苦笑しつつ、ユーノは先を続ける。

「わかっていると思うけど、君達の存在はまだなのは達には秘密だからね。出会うのは闇の欠片ばかりじゃないから、それ以外の相手からは極力逃げるように。いいね?」

「はいっ!」

 未来組の元気な返事を聞いてから、ユーノはマテリアル達に向き直る。

「闇の欠片の対処には君達も参加してもらうよ。君達にとっては仲間を相手にするみたいで嫌かもしれないけど……」

「なにを言うか。これはいわば我らの蒔いた種ぞ」

「出来れば、私達の手で刈りたいところです」

「ユーノ任せてよっ! よ〜し、この力でボクは飛ぶっ!」

「わ〜」

 頼もしいマテリアル達の言葉に、ユーディがぱちぱちと拍手する。

「わかってるとは思うけど、なるべく関係ない人を巻き込まないようにね」

 いつの間にか遠足気分になっているような闇の欠片対策チームの姿に、そこはかとない不安を感じるユーノであった。

「ところで、ユーノ。私とリニスの出番はどうなっているのかしら?」

「プレシアさんとリニスさんはもうちょっと後になりそうですね。シークエンスの関係で最後の方になりそうです」

 パラパラと登場予定表を見ながら答えるユーノ。

「ああ……でも、この後のシークエンスにも出番があるみたいですね。一応、準備だけはしておいてください」

「わかったわ」

 ふと気がつくと、いつのまにかこうして進行を担当している事に、すっかりこの状況になじんでしまったんだとユーノは実感してしまう。

「そういえば、キリエよ。うぬの書いた台本、あれは一体なんだ?」

「えええええええっ? なにか問題でも?」

「なんだか我のセリフばかり、妙に頭が悪そうなものばかりチョイスされているのではないか?」

「そんなぁ、ちょっとは恰好いいセリフにしたのに……」

 キリエが一生懸命チョイスしたセリフは、どうもディアーチェには不評のようだった。これがレヴィあたりだと、きっとノリノリで叫んでくれるところだろうが、あまり難しいセリフを覚えきれるかが不安だったのだ。

「あ、そうだ。王様」

「なんだ? レヴィよ」

「はい、あんぱん」

「ありがたいが……なぜだ?」

 レヴィからドサドサと大量のあんぱんを両手いっぱいに受け取るものの、ディアーチェは首を傾げたまま頭に疑問符を浮かべる。

「だって、王様が自分で言ってたじゃないか」

「……なにをだ?」

「震えるほどアンコ喰ぅっ、って……」

「暗黒だーっ!」

 その後もぎゃいぎゃいと騒ぐマテリアル達を見つつ、ユーノはふとある事が気になった。

「そういえば、キリエ。ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「うん。な〜に?」

「なんだかアミティエの様子がおかしいってディアーチェから聞いたんだけど、なにか知らないかな?」

「あ? え〜と……。あはは……」

 お姉ちゃんには猛烈に男が欲しくなるウィルスを撃ちこみました。流石にそれだけは言えず、ひきつった感じの苦笑いを浮かべるしかないキリエであった。

 

 さて、一方。ディアーチェ達マテリアル組とキリエが転移して消えた後の空域では、はやてとリインフォースがなのはとユーノ、フェイトとアルフと邂逅していた。

「……というわけで、なのはちゃん、フェイトちゃん」

「うん!」

「銃を持った青い服とピンクの服のお姉さんから事情を聞く」

 はやてからの事情説明を受けたなのはとフェイトは、二つ返事で引き受けてくれた。

「ほなら、三グループに分かれよ。私とリインフォースは、マテリアル達を探す」

「わたしとユーノ君は、青い服のお姉さんを追跡」

「わたしとアルフが、ピンクの人を追う!」

 とりあえず、はやて達は接触した事のある相手を追跡する事にした。特にはやてはマテリアル達が自分の持つ、かつての闇の書から現れたので、出来れば自分の手でなんとかしたと考えていたのだった。

「ほんでな、青い服着たお姉さんが『ギアーズ』のアミティエ・フローリアン。ピンクのお姉さんがキリエって呼ばれてたんよ」

「そうなんだ。出来れば厄介事になる前に、解決しちゃいたいね」

「そうしたいところだねえ」

 ユーノとアルフが顔を見合わせ、早いうちになんとかしようと誓いあう。早速3つに別れて捜索を開始しようとした時、ユーノがはやてとフェイトを呼びとめた。

「なに? ユーノ」

「どうしたんや?」

「二人とも、よく聞いてほしいんだ」

 ユーノに真剣な瞳で見つめられ、なぜかはやてとフェイトのハートがトクンと高鳴った。

「シャマル先生が言っていたんだけど、今度の相手は僕達の知らない未知の魔力運用技術を持っているみたいなんだ」

 ユーノはアミティエと接触した事があるだけに、その言葉には妙な説得力があった。

「それにあの人達は、異世界からの渡航者らしいからね。この世界でなにをしたいのかよくわかっていないけど、十分以上に注意する必要があると思う」

「そうだね、気をつける」

「ああ、うん……。そうやね……」

 フェイトは力強く頷いてくれるが、はやてはキリエに人違いであっさりとやられてしまっただけに言葉もない。しかし、一度戦ってみて相手の実力がある程度わかった以上、今度は負けへんよ、と思うはやてである。なにしろ、これではなんのためになのはとリインフォースから魔法を教わっているのかわからないからだ。

「フェイトの実力は僕も知っているけど、だからといって油断は禁物だよ」

「あ……うん。わかってる。わかってるけど……」

「ん?」

「手……」

 いつの間にかユーノは、フェイトの手を両手でしっかりと握りしめていた。あまりにも真剣なまなざしで見つめられているせいか、フェイトの頬がどんどん赤く染まっていく。

「あ。ごめん……」

 慌てて手を離すユーノであるが、一度立ち込めてしまった気まずい雰囲気まではどうする事も出来ず、フェイトは顔を真っ赤にしたままうつむいてもじもじとしはじめ、それを見たはやては諦めにも似たため息をつき、なのはからはなにやら怪しい気配が立ち上っている。

(うううううっ……ユーノくんがフェイトちゃんやはやてちゃんと仲良くするのはいい事なのに、なんでこんなに胸がざわざわするのっ!)

(なんなの? ユーノが凄く格好いい……)

(今日のユーノ君、えらい男前やなぁ……)

 いつもと違うユーノにそれぞれの思いを抱く中、それを疑問に思う者もいた。

「なあ、リインフォース。ユーノの奴、なにか変じゃないか?」

「確かに……」

 普段なのは達と一緒にいても、妙に恥ずかしがって慌てふためいてばかりいるようなユーノの姿を知るだけに、アルフとリインフォースにとって今のユーノは違和感の塊だった。とはいえ、なのはやフェイト、はやてがユーノを気にしてくれているようだから、とりあえずはこれで良しとするかと思う。

 そういえばゲーム開始前に、ユーディが闇の欠片でユーノを作ったと言っていた事をリインフォースは思い出した。とりあえずのところ実害はないようだが、このおかしなユーノの事を後でユーノに報告しておかないといけないな、とリインフォースは思った。

「と……とにかく」

 ユーノはなのはの手を握り、その瞳をじっと見つめる。

「ここからは三つに分かれての行動だ。さあ、行こうなのはっ!」

「あ……うん」

 そんな二人の仲睦まじい様子にはやては、ええなあ、と呟き、フェイトは諦めにも似たため息をつくのだった。

 

「それじゃあ、みんな。次のシークエンスをはじめるよ。準備はいい?」

「はい」

「いいですよ」

「は〜いっ!」

「はいっ!」

 四者四様の返事をして、トーマ達はユーノが生み出した転送の光の中に消えていく。ようやくこれで一息つけるかと、ユーノが思ったその時だった。

『スクライア、ちょっといいか?』

「どうしたの? リインフォース」

 ウインドゥが開き、少し困惑気味のリインフォースから通信が入った。彼女はなるべくはやてのそばにいるようにして、現地の状況を教えてくれる事になっている。

『いやなに、実はお前の闇の欠片とやらにあったのだが……』

「闇の欠片……?」

 そういえば、前にユーディがそんなのを作ったと言っていたな。そう思ってユーノはユーディを見るが、相変わらず眠そうな瞳をしたまま、不思議そうな表情で見つめ返してくるのみだった。

「僕の闇の欠片がどうかしたの? リインフォース」

『……なんと説明したらいいものか。お前の闇の欠片は、妙に変だ』

「具体的にはどう?」

『女の子を見ると、手当たり次第に口説きまくっているようだ……』

「ちょっと待ってよーっ!」

 ついついユーノは大きな声を出してしまう。

「なにそれ? 僕の闇の欠片が女の子を口説いてるって? え? えーっ?」

 闇の欠片はベースとなった人の願望や無念の気持ちなどの強い想いや、闇に囚われていた過去の自分の姿などが具現化したものだ。当然の事ながら、裏表のない人がベースであると本人とあまり変わらない性格の持ち主として具現する事もあるが、稀に本人でも気がつかない裏の性格を持った闇の欠片が具現する事もある。

 おそらく今回ユーディが作ったというユーノの闇の欠片は、そうした性質のものなのだろう。

 しかし、ここでユーディを責めるわけにもいかない。作ったのがユーディだとはいえ、それがどういう性格になるかはユーディ自身にもわからないからだ。

 とりあえず、リインフォースの話によると今のところは女の子達を口説いて回っているだけなので実害はないと言えるのだが、自分と同じ顔でなのはやフェイト、はやて達を口説きまくっているのだとしたら後々厄介な事になりかねない。

 なるべく早いうちになんとか対処しないといけないと思い、いずれは自分も参戦する覚悟を決めるユーノであった。

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