第四十話

 

「くっ……ユーディめ。まだこんな隠し玉があったとはな……」

「ヴェスパーレッドの覚醒モード。ここまでは僕の想定通りだよ。ああなったユーディはもう後がないからね、ここが正念場だよ」

 そのために、切り札となるなのは達を最後まで残しておいたのだ。ユーノはディアーチェをしっかり抱きしめて回復魔法を使いつつ、なのは達に指示を飛ばす。

「はやて! お願いねっ!」

「おし、行こかー? リインフォース! わたし達で決めに行くよ! ユニゾン、いけるな?」

「はい、我が主!」

「夜天の祝福、今ここに……。リインフォース、ユニゾン・インっ!」

 この日のために、リインフォースは破損が著しかった融合機能を最優先で回復させておいた。もはやこのような日が来るとは思っていなかっただけに、今こうして再びはやてと一つになって空を翔ける事ができるのを、リインフォースは心の底から嬉しく思った。

(融合完了……。インストールプログラム『ヴァフェントレーガー』ドライヴ!)

「うんっ!」

 みなぎるパワーに頷くはやて。彼女は自身の持つ大魔力故にデバイスとの相性が悪く、今までフルパワーで闘った事はほとんどない。しかし、こうしてリインフォースとユニゾンする事で出力調整が容易になり、思う存分闘う事が出来るようになるのだ。

「行こうリインっ! ヤミちゃんを助けにっ!」

(はいっ!)

「夜天の主……。君が、なぜここに……」

「最初に謝らせて……。ごめんな、ヤミちゃん。わたしは夜天の主やのに……あなたの事、気づいてあげられへんかった」

 闇の書のさらに奥の、管制人格すら気がつかないように偽装まで施されていたのだから、気づけという方に無理がある。しかし、はやてとしてはもっとちゃんと魔法の事や闇の書についての知識があったのなら、もっと別の未来があったのではないかと考えているのだ。

「わたしがちゃんと気付いてたら……こんなに寂しい思いは……」

「元より、君がどうこうできる事じゃない……」

 知らないのが普通なのであって、知っていたからといってなにが出来たというわけでもない。そう言う意味でユーディは、あきらめの境地にあった。

「それより君は、早くここから離れて。私のそばにいたら……私はきっと君を壊してしまう。夜天の力を取りこんだりしたら……私は本当に……」

「そんな事はさせへんよ。それに、わたしとリインフォースは、あなたを助けに来たんやから」

「助けに……?」

「王様が、あなたを待ってる……。あなたを助ける方法があるからって」

「シュテルもレヴィも、私が壊してしまった……。彼女と触れあうのも……私が救われるなんて事も……ただの幻です……」

 誰も傷つけたくない。だけど、触れたものはすべて壊してしまう。そんなユーディのジレンマが、ディアーチェを遠ざけた理由だった。

「それは、幻とちゃうよ……。曖昧かもしれへん。可能性は低いかもしれへん。そやけど、なんとかなるかもしれへんなら……。それは幻やのーて『希望』ってゆーんや」

 ユーディをなんとかするための策は、ユーノがしっかり立てているらしい。それがなにかはわからないが、それだけで可能性はゼロじゃないとはやては言いきれる。

「希望を持つから絶望する……。私はそうして長い時を過ごしてきた!」

 やはりな、とはやては思った。ユーディもまたヴォルケンリッターと一緒で、永劫とも取れる長い時の中を絶望と一緒に過ごしてきたのだろう。だけどそんな悪い夢はいつまでも続かない。出来る事なら、今ここで悪い夢を終わらせなくてはいけない。

 それにはやては、不可能と言われた闇の書の完全破壊に成功した事もある。だから、僅かでも可能性があるなら、それに賭ける価値があると思っていた。

「可能性があるなら、あきらめへん! 待っててヤミちゃん! わたしとリインフォースが……夜天の主従が、今、助けるっ!」

「夜天の主とその翼……。あなた達とは闘いたくなかった……。だけどここで……さよならです……」

(流石やな、ユーノ君……)

 ディアーチェの治療と並行して、ちゃんとこっちも防御してくれる。だからこそはやては、安心して闘える。

「行くよヤミちゃん! 夜天の祝福受け取ってっ!」

(響け角笛っ!)

「未来よ開けっ! 届いて……」

「(ラグナロクっ!)」

「うう、ああ〜っ!」

 はやてとリインフォースの二人分の思いを乗せたラグナロクがユーディを包み込む。だが、まだユーディは揺るがない。先程の一撃で結構な魔力を削いだはずだが、まだ覚醒モードを維持していた。

「あかんわー、足りんかったか……」

(ここは引きましょう。我が主)

「せやな」

 

「フェイト・テスタロッサ、行きます!」

「君は、誰だ……? どうしてここに?」

「あなたを迎えに来たんだ。あなたを待ってる人がいるから」

「誰も待ってなどいない……。過去も未来も……私はずっと孤独でいい……。そうすれば、誰も悲しむ事はない……。私に近付きさえしなければ……」

「優しいんだね。だけどそれじゃ、あなたが悲しいよ。強がって意地を張るのもいいけど……。少しだけ頑張って、素直になってみたらいいと思うよ」

 思えば、自分も昔は随分と頑なだった。まだ一年にも満たないほんの少しだけ前の事なのに、なぜだかフェイトはそう思った。

「私には……そんな事は……」

「できるよ、きっと!」

 とびきりの笑顔で、フェイトはユーディに言い聞かせる。

「一人じゃないって、きっと気づく……。あなたには、待ってる人がいるんだもの!」

 今のフェイトにはなのはがいる。ユーノもクロノもいる。アルフしかいなかったころに比べたら、随分と多くの人に支えられてきた。それにユーディは一人じゃない。必死に助けようとしている王様がいる。

 後は、ほんのちょっとだけ勇気を出して、王様の手を取る事だけだ。

「強がりの殻を壊すの……。わたしとバルディッシュが手伝うから! プログラムカートリッジ『ホルニッセ』ロード! ドライヴ・イグニッション!」

「うう……うああああああっ!」

 覚醒モードは、ユーディにかなりの負担を強いるのだろう。だけど後もうちょっとの辛抱だと、フェイトはバルディッシュを握る手に力を込める。

「優しい閃光……。あなたを壊すのは……心が痛みます……。ですがここで……さよならです……」

 ユーノの翡翠の防御に守られているとはいえ、ただでさえ防御力の低いフェイトにユーディの攻撃は苛烈だった。

「目を閉じないで、心を開いて! 踏み出す一歩が、きっとあなたに未来をくれるっ!」

 ガンガンと二発カートリッジを消費し、大きく振りかぶったバルディッシュザンバーに濃い紫の雷が落ちる。

「ジェットザンバーっ!」

「うう、ああ〜っ!」

 ユーノのケイジングサークルごと斬り裂く一撃がユーディを襲う。これまでの魔力攻撃と違い、直接的な打撃にユーディの体が大きく揺らぐ。しかし、まだ覚醒モードは維持されている。

「なのはっ!」

「うんっ!」

 

「高町なのは、行きますっ!」

「君は……」

 もはや満身創痍という状態ながらも、ユーディは気丈になのはを見る。

「はじめまして、になるのかな……。高町なのはです」

 まずは笑顔で自己紹介。これが相手と仲良くなるための第一歩だ。そして、名前を呼び合って友達になり、ときにはぶつかり合ってお互いを理解する。なのははこうやって、仲間を増やしてきたのだ。

「迷子のあなたを迎えに来たの」

「私は、迷子などではない……。一人でいられる強さを……たった今、手に入れた!」

「迷子だよ……。きっと、ずっと迷ってる」

 なのはには、今のユーディの様子がよくわかった。

「昔、私も迷ってたんだ……。一人ぼっちが寂しくて……なにも出来ない自分が嫌で……」

 幼少期のなのはは、孤独の中にいた。

 ボディガードをしていた父が事故に遭い、重傷を負って長期の入院を余儀なくされた。はじめたばかりの喫茶店の経営が忙しい母は、家庭を顧みる余裕を無くしていた。年の離れた兄と姉は父の見舞いや母の手伝いを積極的に行っていたが、まだ小さかったなのははなにも出来ず、家に一人きりでいる事が多かった。

 それは少し成長した後も、あまり変わらなかった。友達と一緒にいる時でも、常に満たされないなにかを感じていたのだ。

「だけど変わったんだ。魔法と出会って、大切な友達と出会えて……いろんな人達と出会って!」

 それは些細なきっかけだった。ユーノ・スクライアと出会い、魔法と出会った事がなのはを劇的に変えた。

「私と君とは違う……」

「だけど今は同じ時間、同じ空にいるから……こうして話をできる。触れあえたら、世界はきっと広がるよ……」

「私の、世界は……」

 帰りたい。でも、帰れない。あの優しき闇に包まれた世界には。

「プログラムカートリッジ『ネーベルベルファー』ロード! ドライヴ・イグニッション! 変わっていこう、ユーディ! あなたを支えてくれる人が、待ってるからっ!」

「うああああああっ!」

 蝋燭は消える間際に一際大きく輝くという。これまでに決して少なくないダメージを受けてきたユーディの、これが最後の力なのだろう。

「あなたの翼は……きっと多くの人を救えたはず……。私にさえ……出会わなければ……」

 ユーディの一撃も、ユーノのバリアに守られたなのはには通じない。そして、これまでの戦闘で舞台はすっかり整っていた。

「行くよ、ユーディ! 私達が、きっとあなたを助けるからっ! 全力全開、スターライトブレイカー!」

 自身の魔力に加え、周辺に残留する使用済み魔力素までも集束した、なのはの全力全開史上最大最強最悪の魔力球が空を覆い尽くさんばかりに膨れ上がる。それはなのはだけではなく、この場に集った全員の、なによりユーディ本人の魔力まで結集した究極の一撃だった。

「ブラスト・シュート!」

 迫りくる魔力球をなんとか受け止めるユーディであったが、押さえたその場から凄まじいエネルギーに飲みこまれていく。これまでの闘いで極端に消耗したユーディには支えきれるものではなかったのだ。

「ああ……。ああ、うあああぁぁぁっ!」

「動きが止まった! ユーディ!」

 力尽きたユーディに手を差し伸べようとするなのはだったが、それを拒むかのようなバリアに阻まれる。そして、ユーディの体は、ゆっくりと闇の深淵へ落ちていった。

(機能破損……エグザミアにダメージ……)

 薄れゆく意識の中で、ユーディは体中の力が抜けていくのを感じた。

 

「あのバリアは……。間違いないわ……あれは闇の書の闇のバリアと同じものよ」

 闇の深淵に落ちたユーディを守るかのよう展開したバリアを、シャマルは冷静に分析した。

 やっとユーディを機能停止に追い込んだと思ったが、そうは問屋がおろさないとばかりに防御プログラムが最後の一手を打ってきた。おそらくはあの中でエグザミアのエネルギーを媒体に実体化するつもりなのだろう。

 言わばこれは、防御プログラムの最後のあがきだ。

 とはいえ、ここまでの闘いでクロノ達もかなり消耗してしまっている。もう誰にもあの四層構造のバリアを打ち砕く力は残されていなかった。

「ありがとうみんな。これでなんとかなりそうだよ。行くよ、ディアーチェ!」

「う……うむ」

 ユーノにぐっと抱き寄せられてちょっと恥かしいのか、顔を赤らめたディアーチェがうなずく。二人の体を一気に包み込むようなプロテクションスマッシュを展開し、ディアーチェをしっかり抱きしめたユーノは真っ直ぐバリアに突進していく。

「あのまま突っ込むつもりか? 無謀だぞ、ユーノ!」

「……いえ、ちょっと待って」

 どうやらシャマルだけがユーノの意図に気がついたらしく、クロノの叫びを制する。そして、みんなが見守る中、ユーノのプロテクションスマッシュはバリアの内側に消えていった。

「……すり抜けた……?」

 フェイトの乾いた声が静かに響く。

「やっぱり……思った通りだわ……」

「どういう事や? シャマル、説明してんか?」

「ユーノ君のプロテクションスマッシュは、砲撃魔法も拘束魔法も通じないのよ。それはユーノ君が任意にバリアの性質を変えられる事に由来しているわ」

 ここから先は、私の推測にすぎないけど。と前置きをしてからシャマルは説明を続ける。

「闇の書の闇のバリアは、魔法と物理のバリアが交互に四層になっているわ。つまり、そのバリアを中和するようにプロテクションスマッシュを調整すれば、すり抜ける事が出来るはずよ」

「そっか、さすがユーノ君」

 ある意味では、結界魔導師ならではの突破方法と言えた。

 説明の半分も理解できなかったが、なのははとにかくユーノが凄いという事だけ理解できた。あのバリアを見たときになのはは、どうやって打ち砕こうかそればかりを考えていた。だが、そんな事をしなくても、突破する方法はあるんだという事を教えてくれた。

「……どちらにせよ、これで二人に託すしかなくなったな……」

 低く唸るようなクロノの声が、苦々しげに響く。こうして戦闘魔導師が揃っているというのに、最後は非戦闘員に頼らなくてはいけない状況は、クロノにとっても看過できるようなものではないからだ。

(あとは頼むぞ、ユーノ)

 

「あそこだっ! ディアーチェ」

「あ……うむ」

 まったくこいつには驚かされる事ばかりだ。ディアーチェは心底そう思う。戦闘には向かない優男だと思っていたが、いざというときには誰よりも頼りになる。

(本当に不思議な奴だな、こ奴は……)

 ユーディが闇の深淵に捕らわれ、限りなく絶望的な状況であるというのに、それでもなんとかなってしまうのではないか。なぜだか、ディアーチェはそう思ってしまうのだった。

「うう……」

 ようやく辿りついた闇の深淵では、ユーディの背中の魄翼が肥大し、なにやら巨大なボディらしきものを作り出そうとしていた。

「ユーノ、あれは?」

「間違いない。あれは闇の書の闇だ」

 以前にもユーノはあの姿を見た事がある。闇の書の闇。闇の書の防御プログラムが実体化する時の姿だ。おそらくはエグザミアに残された魔力を使って駆体を構成しているのだろう。

「ユーディは……あそこか……」

 ユーディはその頭部の先の方に据えられているらしく、意識を失っているのか身動き一つしない。しかし、エグザミアからの魔力供給は続いているのか、徐々にその駆体は完成しつつあった。

「……そうか、あのとき闇の書の闇の頭の先についていた女性は、ユーディだったのか……」

 おそらくはエグザミアからの魔力供給を受けて駆体を構成した後、防御プログラムに逆侵食されてあのような姿になったのだろう。

「どうする気だ? もう余裕はないぞ」

「そうだね、そろそろユーディを返してもらおうか。いや……ここはスクライアらしく、頂いていくよっ!」

 ユーノの右手から伸びた翡翠のチェーンが、ユーディの体に絡みつく。エグザミアのエネルギーが尽き、再起動シークエンスに入るこの一瞬。これこそが、ユーノが待ち望んでいたタイミングだった。

「せぇーのっ!」

 そのまま力いっぱい引っ張ると、意外とあっさりユーディの体は闇の書の闇から離れた。受け止めたユーディの体をしっかりお姫様抱っこで抱えながらユーノは叫ぶ。

「ディアーチェっ!」

「おうっ! Out of the darkness you stumble into the light!」

「Fighting for the thing you know are right!」

 ユーディの胸の上に重ねられたディアーチェのエルシニアクロイツの上にユーノは手を合わせ、二人で力ある言葉を送り込む。すると、ユーディの体が一度小さくぴくんとはねた後、荒かった息が次第に安らかな落ち着いたものに変わっていく。

(私は……壊れたのでしょうか……)

 なにも見えない。なにも聞こえない。ただそこにあるのは、安らかな闇の世界のみ。先程まで体中が興奮していたのが、嘘のような静けさに包まれていた。

(……え?)

 その時ユーディは、優しいぬくもりの中にいるような感じがした。なんだかわからないが、自分を力強く守り、なにがあっても支えてくれるような、そんな不思議なぬくもりを感じたのだ。

「無事か? しっかりせぬか!」

「まあまあ、ディアーチェ。少しは落ち着いて……」

「このうつけが、これが落ち着いてなどいられるか! ユーディは無事なのだろうな? もしだめだったとなったらその時は……」

 うっすらと目を開けた先では、爽やかな笑顔のユーノと、取り乱したディアーチェがなにやら言い争いをしているようだ。

(そっか……私は戻ってこれたのですね……)

 ユーノの部屋で見た、いつもの光景。ずっと取り戻したいと願っていて、それはできないとあきらめ続けていた日常が、少し手を伸ばせば届くところにある。

 それがなんだかユーディには嬉しかった。

「王……? それに、ユーノ……」

「あ、気がついたんだね『ユーリ』」

「ユー……リ……?」

「そう。ユーリ・エーベルヴァイン。それが、人として生を受けたときの君の名前だよ」

「ユーノ……」

「うん?」

「ユーリ……」

 なにか自分の中で納得するものを見つけたのだろう。ユーリはユーノにはじめての笑顔を見せた。

「ところで、私は一体どうしたんでしょうか?」

「なに。我が戦術が上手く嵌っただけよ」

「なのは達の飽和攻撃でエグザミアの魔力を消耗させ、丁度使い切ったところで再起動シークエンスにはいるときに、ディアーチェがシステム全体を上書きして誤作動を止める」

「どこぞの子鴉が、かつて闇の書の融合騎にやったのと同じ作戦だ……。癪に障るがな」

「本当です……。本当にエグザミアが止まっています……」

「我が闇の力とシュテルの発案、レヴィの出力にユーノの作戦があってはじめて成し遂げられた……。まあ、必然の結果よ」

「それだけじゃないでしょ? ディアーチェ。みんなが協力してくれたから、出来た事でもあるんだから」

「無いよりはましな程度にな」

 相変わらずのディアーチェの態度には、ユーノもついつい苦笑してしまう。なのは達が最大級の魔力攻撃でユーリの魔力を消耗させるのと同時に、ユーリにもエンシェント・マトリクスを空打ちさせて消耗を強いた。

 エグザミアの恩恵により、ユーリは通常の魔力攻撃であれば損失分を即座に補填する事でほぼ無敵に等しい存在になるが、一度に消耗する分が激しいと補填が追いつかなくなり、その分消耗していく。そこでユーノは最大級の魔力攻撃による波状攻撃を行い、干渉制御ワクチンの影響で機能が低下していたエグザミアの回復が追いつく前に消耗させていったのだ。

「ともあれ、ユーリ。君はもう無闇な破壊を繰り返す事もない。しばらくは不安定な状態も続くかもしれないけど安心して。ディアーチェが君をしっかり守ってくれるから」

「シュテルが思い出したのだ……貴様の事。我らは元々一つだった。エグザミアと、それを支える無限連環機構の構成体。すなわち、我らは四基が揃って初めて一つの存在となるのだ」

 今やっと、こうして一つの存在に戻る事が出来た。

「闇から暁へと変わりゆく、紫色の天を織りなすもの……紫天の盟主とその守護者。我が王、シュテルとレヴィがその臣下。そしてお前は、我らの主であり……我らの盟主なのだ」

 随分と長い時がかかったようだが、ようやくこうして再び一つの存在となる事が出来た。もうこれでユーリも一人で泣く事もなく、望まぬ破壊の力を行使する事もない。

「もう君達が離れる事もない。シュテルとレヴィもすぐに戻るだろうから、安心していいよ」

「はい」

「じゃ、最後の仕上げだ」

 ユーノはユーリをディアーチェに預けると、闇の書の闇に相対した。

 魔力の供給源を失った事で、闇の書の闇の駆体は緩やかな崩壊をはじめていた。本来なら無限の魔力を発生させるエグザミアの恩恵で無限の再生能力を発揮するのだが、急速にボディを形成したのとエグザミアの喪失で巨大な駆体が維持できなくなったのだ。

「ありがとう。今まで守ってくれていて……」

 聞こえているのかどうかは疑わしいが、ユーノが闇の書の闇に向かって感謝の言葉を述べた。

「でも、もういいんだ。君の役目はもうおしまいだ……。だから、ゆっくりとお休み……」

 そして、ユーノは静かに魔力を高める。

「広がれ、戒めの鎖……。捕らえて固めろ、封鎖の檻っ! アレスターチェーン!」

 ユーノから伸びた翡翠の鎖が闇の書の闇に幾重にも絡みつき、やがて集束した魔力が一気に大爆発を起こす。

「グーテナハト……。ふう……これで、なんとか……」

 やがてゆっくりと振り向いたユーノは、ディアーチェとユーリに笑顔をむける。

「さあ、帰ろうか」

「阿呆と塵芥どもが、馬鹿面下げて気を揉んでおるだろうからな」

 光あふれる世界へ、三人はゆっくりと上がっていった。

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