第四十九話

 

 季節は流れて五月に入り、なのは達は研修期間を終えて正式に時空管理局に入局する事となった。

 なのはは将来的な戦技教導隊入りを目指し、まずはキャリアを積むために武装隊の士官候補生となる。

 フェイトは将来的に執務官を目指し、まずはクロノの補佐官候補生としてアースラに配属された。クロノの執務補佐官にはすでにエイミィがいるのだが、彼女は通信担当など後方支援がメインなので、現場で捜査官的に立ち回れる副官が求められた結果であると言えた。

 はやては個人戦力であるヴォルケンリッターと共に、必要とされる事件現場へ派遣される特別捜査官候補生となる。この背景には、人事を担当するレティ提督が大抵の任務に充当可能な高ランク魔導師を遊撃隊的に運用するための措置があったともささやかれている。

 それはともかくとして、こうしてなのは達の管理局勤務がスタートしたのだった。

 

「ユーノく〜ん」

「やあ、なのは」

 この日もユーノは司書として、無限書庫の整理に精を出していた。

「ごめんね、お仕事忙しかった?」

「いや、そろそろ休憩にしようかと思っていたところだけど……」

 そこでユーノはなのはの恰好をまじまじと見る。

「……制服、届いたんだ。その白ジャケ似合ってるよ」

「えへへ、ありがと」

 やっぱり家族に披露するより早くユーノに見せたのは成功だったかな、となのはは思う。まだフェイトやはやても来ていないようだし、インパクトという点では一歩先んじたようだ。

「ところで、今日はどうしたの? なにか用事の途中?」

「レイジングハートの調整が終わったから受け取ってきたの。機能が独特で結構ピーキーだし、こまめに微調整しないといけないらしくて」

「カートリッジシステムとか入っているからね」

 優れた拡張性を持つデバイスと言えば聞こえはいいが、実際にはミッド式のデバイスに無理やりベルカ式のカートリッジシステムを搭載し、それをインテリジェントデバイスの自己調整機能で作動させているのが現状である。そう言う無茶な改造をしているのだから、そこかしこに負担がかかってしまうのもやむを得ない事と言えた。

 もっとも、このあたりはシグナムのレヴァンティンやヴィータのグラーフアイゼンに搭載されている純正ベルカのカートリッジシステムの構造を解析する事による技術のフィードバックと、シュテルのルシフェリオンやレヴィのバルニフィカスの構造を参考にする事で、レイジングハートやバルディッシュの強化改造が行われている。

 はやてのシュベルトクロイツも蒐集行使というレアスキルとミッド式とベルカ式の双方に適性のある複合型という特殊性、さらには彼女自身が持つ大魔力との相性が悪く、これまでにも管理局が試作したデバイスを何本も破壊してしまっていたのだが、ディアーチェの持つエルシニアクロイツの構造を解析する事でバージョン8が試作されている。

 こちらが安定すれば今度は管制用のデバイスの製作に入るので、結構大変なのだった。

「それでね、ユーノ君。良かったらお昼一緒に食べようよ。お昼休みがとれるようにお手伝いするから」

「ありがとう、なのは」

「本当、助かります」

 いつの間にか、なのはの背後にはシュテルが立っていた。抜け駆けは許さないと言わんばかりのその態度に、ユーノの脳裏にお花見の悪夢がよみがえる。

 それはともかくとして、ミニスカートの少女が二人、ユーノの頭上付近で仁王立ちに近い姿勢というのはなんとかならないものだろうか。管理局謹製の女子用制服はミニスカートだが、それでも一応見えそうで見えないぎりぎりのラインで構成されているらしい。

 とはいえ、ここは無重力に支配された無限書庫。そんなわけで少々目のやり場に困ってしまうユーノであった。

 なのはとシュテルの間では次第に緊張が高まっていき、徐々に殺意が漲っていく。今にもバトルがスタートしそうな状況で、救いの手を差し伸べるかのごとくユーノに通信が入った。

「はい、ユーノです」

「スクライアか? シグナムだ。済まないが少し手を借りたい。実はな……」

「はあ、なるほど。訓練用の結界ですか……」

 

「レヴァンティンも中身はだいぶ新式だ。怪我をさせないよう気をつけるからな、テスタロッサ」

「おかまいなく。バルディッシュザンバーも元気いっぱいですから」

 ユーノ達が訓練室に入ると、シグナムとフェイトがどんどどんと対峙していた。正式にハラオウン家の養女となったフェイトは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンという二重姓となり、新しい自分をはじめるためなのかツーテールに結っていた髪をおろしていた。とはいえ、バリアジャケットを装着した状態ではいつも通りのツーテールなのだが。

「これは一体どういう状況でしょうか?」

「デバイスの調整後慣らしが、模擬戦って流れになっちゃったんだよ」

 頬を膨らませたレヴィが、訓練室の壁に背中を預けながらシュテルの質問に応える。本当はレヴィがシグナムと模擬戦するはずだったのだが、フェイトにじゃんけんで負けてしまったらしいのだ。どうやら彼女は、自分が最初にチョキを出す癖がある事に気がついていないらしい。

「まったく、うちのリーダーもテスタロッサも呆れたバトルマニアだ」

「フェイトちゃんもまた嫌いじゃないから」

 それを見ていたヴィータとシャマルも呆れた様子だ。

「なのはちゃんもエクセリオン戻ってきてるんやろ? 参加するかー?」

 そして、はやてが能天気にあおってくる。それにシュテルは瞳を輝かせるが、なのはは難色を示す。バトルが嫌いなわけではないが、シグナムが相手だとどうしても真剣勝負になってしまうのでとにかくやりにくいからだ。

「えー、というわけで久しぶりの集団戦です。ベルカ式騎士対ミッド式魔導師、七対七のチームバトルとなります〜!」

 そんなこんなで、はやてをリーダーにしたシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、ディアーチェ、ユーリのベルカ式騎士チームと、クロノをリーダーにしたなのは、フェイト、アルフ、ユーノ、シュテル、レヴィのミッド式魔導師チームに分かれてのチームバトルとなった。

「ルールは局の戦闘訓練準拠で。攻撃の非殺傷設定は言うに及ばず。武器持ちの子は相手のバリアジャケットを抜かないようちゃんと威力設定してな〜」

「……まったく、なんで我がこんな事を……」

「まあまあ、ディアーチェ」

 不満そうなディアーチェを宥めるユーリ。ちなみにこうした模擬戦でユーリは少々卑怯すぎるので、彼女だけDSAAルールに準拠したポイント制でのバトル参加となる。

「どう言う状況?」

「知らん」

 突然呼び出されて、全く状況が理解できないアルフとザフィーラ。

「頑張りましょう、師匠」

「ああ、うん……」

 気合い十分なシュテルとは対照的に、なんで僕までと頭を抱えるユーノ。

 そして、このレベルでの団体戦が出来る喜びにドキがむねむねしてしまうシグナムと、とにかく楽しそうなレヴィという具合に様々な人間模様を描き出していた。

「ヴィータとザフィーラが前衛、シグナムは遊撃。シャマルとユーリは私と王様の後ろから支援や。マッチアップは入れ替え早め、主砲二人とクロノくんのバインドのチャージタイムを取らせたらあかんで」

「クロスレンジは引きつける程度であまりつき合うな。フェイトとレヴィはアルフと連携してはやて達後方支援組、特にシャマルとユーリの撃墜か捕獲を最優先に。なのはとシュテルはユーノを壁にして火砲支援を頼む」

 チームリーダーとなったはやてとクロノがチームメイトに指示を出す。

「管理局魔導師五名と使い魔二匹。高度な連携戦を教えに行くぞっ!」

「おーっ!」

 使い魔というところで文句を言おうとしたユーノであったが、クロノにしてみれば平常運転なのでまったく気にする様子はない。

「よっしゃ! 魔導師のみんなに騎士の戦闘を見せたろ!」

「おうっ!」

 こちらはこちらで気合い十分なヴィータと対照的に、やる気のないディアーチェに苦笑するユーリという構図であった。

 

 かくして、バトルがはじまった。

 開始と同時に飛び出した空色と金色の閃光が、前衛のヴィータと遊撃のシグナムと激しくぶつかり合う。

「あっははははははっ! こういうバトルは楽しいねぇっ!」

 真っ先に飛び出したレヴィが、シグナムに勢いよく斬りかかっていく。

 その太刀筋はまさに自由奔放。まったく型にはまらないレヴィの剣を、シグナムは軽くレヴァンティンで受け止める。鋭く的確に一撃を叩きこむフェイトの剣閃と比べると、レヴィはただ力任せにデバイスを振り回しているだけだが、それだけにその一撃は比較にならないほど重くて強い。

 次にフェイトがヴィータと激しくぶつかり合う。こうしてヴィータと闘うのは最初の時以来かな、とその時の事を懐かしく思いながら、フェイトは大鎌形態のバルディッシュで斬りかかる。意外と本気なフェイトに内心で驚きつつも、ほぼ完璧に対応して見せるのはヴィータの実戦経験の豊富さの賜物であろうか。

 そして、アルフとザフィーラのバトルはもはや定番といってもいいだろう。相手のダメージを気にする事無く打ちこめるというのは、アルフにとってはやりやすいのだが、当のザフィーラにしてみればやりにくい事この上ない。いくらアルフに容赦なく打ちこみが出来ると言っても、相手が女性であるというところが問題だ。そんなわけでアルフの攻撃を適当にあしらって防御に徹するザフィーラであった。

 前衛が激しくバトルしている最中でも後方からの支援砲撃が続く。そんなわけでシグナム達もマッチアップ相手にばかり気を取られているわけにもいかない。クロノ達のチームではなのはとシュテルが互いに誘導弾と直射砲を打ち分けて的確な火砲支援を行い、その間隙を縫うようにしてフェイトとレヴィが素早い動きで本陣へと迫る。一方、はやて達のチームでははやてとディアーチェが分担して火砲支援を行おうとしているものの、彼女達のケタ外れの魔力ではチャージに時間がかかってしまい、素早い火砲支援が行えずにいた。

「ええーいっ! 子鴉っ! 我の邪魔をするでないわっ!」

「ごめ〜ん、王様」

 そればかりか連携しようと焦るあまり、お互いの魔法で相手の魔法を打ち消してしまったり、ポジショニングの際にお互いの体がぶつかり合ってしまったりする事態も招いていた。

「二人とも、喧嘩はダメです」

 形の良い眉を吊り上げてユーリは怒っているが、ぷんぷんです、という感じなのでまったく迫力はない。とはいえ、これでは満足な火砲支援も出来ないまま終わってしまう。

(やむを得ん。こういうときに子鴉ならどう動くか……)

(こういうとき、王様ならどう動くかな……)

 その時、はやてとディアーチェは下手に連携を取ろうとするよりも、相手が自分だったらどう動くかについて考えた。相手がどう動くかについてはなんとなくわかるし、個別に動いたほうが効果的ではないかと考えたのだ。するとなぜか二人の動きが妙にかみ合い、濃密な火砲支援が開始された。広域型の二人による支援砲撃は面制圧にも等しいため、こうなると防御力に難のあるフェイトとレヴィでは迂闊に近づけなくなってしまう。

 そこで一旦二人は後退し、その後は防御に専念した激しい魔力砲の撃ち合いへと移行する。本来であるなら、はやての砲撃能力ではなのはとシュテルの多彩な砲撃を耐えきる事は不可能なのだが、恐ろしく息の合ったディアーチェとのコンビネーションが倍以上の効果を発揮し、ほぼ互角かそれ以上の砲戦能力を獲得していた。

 なにしろはやてとディアーチェは容姿のみならず、服装の趣味から行動パターンをはじめとして、炊事洗濯といった家事能力まで全てがそっくりなのである。このあたりはディアーチェがはやての能力コピーであるのが一因で、考える事がほぼ同じなのでぶつかり合う時はとことんぶつかり合ってしまい、そうかと思えば恐ろしく息の合った連携プレイも見せてしまうのだ。

「ユーノ?」

「大丈夫、このくらいの砲撃で僕の結界は破れないよ」

 いくら訓練室がAAAランクの魔力砲の直撃に耐えられるように設計されていても、許容範囲を超えてしまうと流石に破壊されてしまう。いくらなんでもそれはないだろうとクロノも思いたいが、万一の事も考えてユーノに結界を強化してもらっているのだ。

「フィールド形成! 発動準備完了っ! お待たせしました。大きいのいきますっ!」

 その時、悪魔の叫びが木霊した。

「N&F中距離殲滅コンビネーション!」

「空間攻撃ブラストカラミティ!」

「どっこいこっちも詠唱完了やっ!」

「広域攻撃Sランクの我が闇の力! とくと思い知るといいわっ!」

「私達もいきますよ、レヴィ!」

「おっけー、シュテるん!」

「全力全開!」「疾風迅雷!」「「ブラストシュート!」」

「響け終焉の笛! ラグナロク!」

「いでよ巨重っ! ジャガーノート!」

「轟熱滅砕!」「轟雷爆滅!」「「イグナイトスパーク!」」

 なのはとフェイトの攻撃とシュテルとレヴィの攻撃は、図らずも相手を挟みうちにするバスターシフトになっていた。それに対抗するために、はやてとディアーチェは背中合わせになってそれぞれに最高の魔力砲を解き放つ。

「これはやばい……」

 どう少なく見積もっても訓練室の許容範囲をはるかに超える魔力の高まりに、ユーノはただ唖然とするばかりだ。結界魔法に絶対の自信はあるのだが、なのはの砲撃にはバリアブレイクの機能もあり、防御してもその上からゴリゴリと削っていくので、とてもじゃないが安心する事はできない。

 そこでユーノはプロテクションスマッシュで砲撃をかいくぐり、一気にシャマルとユーリのところへ向かった。

「シャマル先生! ユーリ! 協力してくれっ! みんなでせーのであの砲撃を封じ込めるよっ!」

「え? ええ、わかったわ」

「はい〜」

「せーのっ!」

 ユーノがシャマルとユーリの力を借りて結界魔法を強化した次の瞬間、眩い閃光があたりを包みこんだ。

 その光が訓練室を満たすと同時に、凄まじい大音響と共に激しい震動が襲いかかってきた。

 なんとか個人の結界で防御には成功したものの、みんな一様にボロボロの状態だった。訓練室を守り抜いたユーノも力を失い、ユーリの膝の上でフェレットモードになったまま目をまわしている。

 そして、爆心地付近ではなのは、フェイト、はやて、シュテル、レヴィ、ディアーチェの六人が、全ての力を使い果たしたのか車座になったまま微笑みあっていた。

 

 まったくの余談だが、この模擬戦は後に管理局本局の語り草となった。

 確かにユーノの結界魔法のおかげで訓練室そのものに目立った損害はなかったのだが、この時に炸裂した魔法の威力は管理局本局全体を大きく揺るがす事態となっていた。

 これにより、ドックで整備中だったL級巡行艦が係留場所から三〇センチずれた。食堂では棚に並べられた皿が落ちて割れてしまった等々、訓練室以外の場所では地味に甚大な被害が出ていた。

 そんなわけで、訓練室はこのメンバーが一堂に会しての使用が禁止になってしまったのであった。

 

「この間の模擬戦は、大変だったね〜」

「ほんまやな〜」

 あの後色々と謝りに行ったりしてかなり大変な思いをしたが、それすらもいい思い出になっている。春の陽だまりの中でそんな事を呑気に話しているなのはとはやての姿を見て、フェイトは軽く微笑んだ。

 そんな三人の姿を見ていると、なぜだかアリサは妙に仲間外れになっているように感じる事がある。少し前まではなのはとすずかの三人で一緒に行動する事が多かったが、最近はなのはが魔導師になってしまった所為かフェイトやはやてと一緒にいる事が多くなっている。

 特に話が魔法関連になってしまうと、もはや会話についていけなくなってしまう。それが寂しいというわけでもないが、友達が困っている時に力になってあげられないのがどうにも歯がゆいのだ。

(あたしも魔法少女だったらな……)

 ここ最近のアリサは、ふとそんな事も考えてしまうのだった。

「あんた達、そろそろホームルームがはじまるわよ」

 パンパンと手を叩いてアリサはなのは達の話を中断させる。これもクラス委員としての務めだ。

「きりーつ!」

 担任教師が姿を現すと同時に、号令をかけるアリサ。

「れい!」

「おはようございます!」

「はい。おはようございます」

 朝のあいさつが終わると、そのままホームルームがはじまる。

「え〜、今日は皆さんに新しいお友達を紹介します」

「新しいお友達?」

「と、いう事は転校生?」

「こんな時季外れに珍しいね」

「男の子かな? 女の子かな?」

 予期せぬ担任教師の一言に、途端に教室内がざわめきだす。

「それでは、みんな入ってきてください」

 そして、教室にぞろぞろと四人の女の子と一人の男の子が入ってくる。

「皆さん、自己紹介してくださいね」

「おぃーす! ボク、レヴィ・ラッセル。よろしくね!」

「シュテル・スタークスです。よろしくお願いしますね」

「我はディアーチェ・キングス・クローディアだ。よろしく頼む」

「私は、ユーリ・エーヴェルヴァインです」

「……ユーノ・スクライアです……」

 教卓の前にずらりと並んだ知り合いの姿に、アリサ達一同は一様に驚愕で目を見開いた。素っ頓狂な叫び声をあげなかったのは、彼女達が淑女である事も一因であるが、実際にはあまりのインパクトに言葉を失っていたのが正しい。

 一体ユーノ達はなぜこの学校に転入してきたのか。なにか目的があるのか。

 以下、次回。

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