第十六話 明かされた真実

 

 いつもの夜の真琴の悪戯をかわし、いつものあゆの夢を見て、いつもの名雪の声の入った目覚ましで起きて、祐一はいつもの朝を迎えた。

 そして、いつものように寒さを感じる前に制服に着替え、いつものようにカバンの中身を確認し、いつものように部屋を出る。こういうのも慣れというのだろうかと思いつつ、いつものように魔力ゲージが一杯にたまったカートリッジチャージャーを香里と一緒に止め、いつものように名雪を起こす。

「あれ?」

 そんないつも通りの朝を迎えるはずだったのだが、今日はなぜか違和感がある。それは名雪を起こそうとしているのか、柔らかそうなほっぺたをぺちぺちと叩いている緑色の小さな手だった。

「あら、けろぴー。名雪を起こそうとしてくれているの?」

 こういう事には慣れているのか、香里がにこやかに緑色のカエルのぬいぐるみと言葉を交わす。けろぴー、と呼ばれたかえるのぬいぐるみは、寝ている名雪に抱きしめられている腕を外そうと、必死にもがいている様子だった。

「……って、ちょっと待て。どうしてぬいぐるみが動いているんだ?」

「けろぴーは名雪の使い魔、というかゴーレムみたいなものなのよ」

 割とあっさりとした様子で、香里が説明してくれる。けろぴーは名雪が寝るときの抱きまくらにしているぬいぐるみで、魔力を供給する事によって簡易的なゴーレムとしたものである。

 秋子は家族が増えたと喜んで、名雪もお友達ができたと大喜びして、現在に至ると言うわけである。ここ最近は名雪の魔力量が不安定で、魔力供給用のリンクシステムにもエラーが生じていたためにけろぴーが動く事はなかった。それが動いているという事は、名雪の魔力量が安定してきた証拠といえた。

「おはようございます……」

 その後、寝ぼけた名雪がキッチンにけろぴーを連れてきて、5人と1匹という奇妙な朝食の風景となる。この異常事態に慣れていないのか、真琴は終始並んで座る名雪とけろぴーを気にしていた。

 

「よし、行くぞ名雪!」

「あ……。ちょっと待って祐一。わたしまだパジャマだよ」

「俺は気にしないぞ」

「すっごく気にするよ」

「じゃあ、5秒だけ待ってやるから着替えてこい」

「短いよ〜、部屋にも戻れないよ〜」

「じゃあ、8時間」

「学校、終わるよ?」

「普通に待っててやるから、早く着替えてこい」

「うん」

 パタパタとスリッパを鳴らして階段を駆け上がり、やがて扉のしまる音が響く。

「仲がいいわね……」

 そんなふたりのやりとりは横目で見つつ、香里がポツリと呟く。結構引っ込み思案で男の子と会話する事も滅多にない名雪が、こうまで無防備な姿をさらしているのは瞠目に値する。とはいえ、割とそわそわしながら待っている様子の祐一には、こういう微妙な乙女心は理解できないものであったが。

「お待たせ」

 そうこうしているうちに着替えを終えた名雪が、パタパタとスリッパを鳴らして階段から下りてくる。

「今度こそ行くぞ」

「ちょっと待って、わたしのぬいぐるみがなくなってるんだけど……」

「けろぴーならキッチンで食事中だ」

 今頃は秋子の後片付けを手伝っているころかもしれない。

「どうしてどのぬいぐるみがなくなったか知ってるの? それに、けろぴーって名前まで……」

「今度説明してやるから、今はとにかく急ぐぞ」

 のんびり会話している間にも、デッドラインは刻一刻と近づいてくる。名雪と登校するのは、毎日がスリリングだ。

 

「寒いぞ……」

 誰に対する文句というわけでもないが、表に一歩出た途端祐一はそう口にしてしまう。いつもの日常にかなり慣れたとはいえ、これだけはいつまでたっても慣れそうになかった。

「名雪、時間は?」

「8時16分」

 左手に巻いた腕時計を見て、律儀に応える名雪。なんとなくだが、日に日に制限時間が短くなっていくような気がする。

「よし、走るぞ!」

「あ、待って」

「今度はなに?」

 いい加減にイライラしてきたのか、香里が強い口調で聞き返す。

「植木に水を上げないと……」

「なにも今じゃなくてもいいでしょ?」

「でも、植木だってお腹空かせてると思うよ……」

 名雪の言いたい事はわかるのだが、切羽詰まっている今じゃなくてもいい。

「あとで秋子さんがやるだろ? 今はとにかく急ぐぞ!」

 祐一の声に名雪は渋々ながらも走ろうとするが、すぐになにかに気づいたように足を止めてしまう。

「今度はなんだ?」

「回覧板まわさないと」

「それこそ後でもいいでしょ?」

 香里は完全に逆切れ状態だ。

「で……でも、燃えないゴミの日が代わったんだよ」

「そうですか。では、プレシアにはそのように伝えておきますね」

 その時、祐一達3人以外の声がした。

「あら、リニスさん」

「あ、リニスさん、おはようございます」

「……リニス?」

 まじまじと見たその顔は、プレシア・テスタロッサ事件の関係者で、データベースにも登録されているリニスにそっくりだ。というよりも、本人そのものである。おまけにプレシアという名前を聞いてしまっては、本人以外には考えられないだろう。

「でも、珍しいですね。リニスさんがこんな時間に……」

 香里の言葉に、リニスはそっと目をそらせた。

「うわっ! 遅刻遅刻〜っ!」

 リニスの背後から、金色の髪を緑色のリボンでツインのハーフサイドテールに結び、セーラー服のような服を着た少女が、トーストを口にくわえたまま勢いよく飛び出してきた。

「あ、名雪お姉ちゃんに香里お姉ちゃん。おはようございます」

 口にくわえたトーストをそそくさと後ろに隠し、少女がぺこりとお辞儀をする。

「あ、アリシアちゃん。おはよう」

「おはよう、アリシア」

「今度はアリシア?」

 プレシア事件の顛末を知る祐一からすると、死人のオンパレードで頭がおかしくなりそうだ。しかし、名雪達はそんな事を気にした様子もなく、極めて普通に会話を楽しんでいる。後で聞いた話では、彼女達が水瀬家の隣に住んでいるテスタロッサ一家なのだそうだ。

「あの……えっと……」

 ふと気がつくと、アリシアがもじもじとした様子で祐一を見ていた。そういえばまだ自己紹介していなかったな、と思い、祐一はアリシアに微笑みかける。

「俺は相沢祐一だ。祐一でも祐ちゃんでもお兄ちゃんでも好きに呼んでくれ」

「うん、祐一お兄ちゃんだね。あたしはアリシア、アリシア・テスタロッサって言います」

「祐ちゃん、ですか。私はリニスです。よろしくお願いしますね」

 天然相手に冗談は通じない。この時、祐一はその事を思い知った。

「どうでもいいが、俺達遅刻寸前なんだぞ」

 祐一がそういった途端に女性陣が一様に、あ、と口を大きく広げた。

「すっかり忘れてたよ〜」

 気がついた時には、完全に走らないといけない時間にまでなっていた。

「よ〜し、走るよ〜」

「お〜」

 気の抜けるような名雪の掛け声にアリシアが合わせて走り出す。

「あっ! ちょっと待ちなさいよ」

 それを追って香里が走りだし。

「それではリニスさん。また」

「はい。気をつけてくださいね」

 最後に祐一がリニスに見送られて走りだした。

 

「間に合うかな……」

「間に合わなかったら、名雪のせいね……」

 小学校へ向かうアリシアと途中で別れた後、名雪はポツリと呟いた。息も絶え絶え、という状況にありながらも、名雪に突っ込みを入れるのは香里の才能かもしれない。

 流石に陸上部というだけあって、名雪の足は速い。普段のスローペースを見ているので余計に速く感じるのかもしれないが、祐一や香里が息切れしているような状況でも名雪はけろっとしたままで、息ひとつ乱していなかった。

「なあ、名雪。近道とかないのか?」

「近道……?」

「この辺って結構道が入り組んでるだろ? だったら地元の人間しか知らないような、ナイスな近道があるんじゃないか?」

「……知ってたら、とっくに使ってると思うよ?」

 名雪にしては、もっともな意見だった。ため息とともに吐き出された空気は白く、ここが今まで住んでいた世界とは遠く離れているんだと言う事実をいやがうえにも祐一は思い知らされた。

「それじゃあ、試しにその辺の脇道に入ってみるとか?」

「そんな事をしたら、道に迷うのがオチよ」

 今度は香里に釘を刺されてしまう。原住民がそう言うのだから、ここは素直に従っておくのが吉だろう。

「なあ、名雪。もうちょっと早く起きられないか?」

「ずっと努力はしてるんだよ……。なにかいい方法はないかな?」

「そうだな、寝ないってわけにもいかないし、学校に泊まるってわけにもいかないしな……」

 寝ないと言うのはカートリッジに魔力をチャージする関係上無理だし、学校に泊まると言うのも現実的ではない。結局、良いアイディアが浮かばない祐一であった。

「大体だな、カエルのぬいぐるみを抱いて寝てるって段階でダメだな」

「けろぴーは関係ないと思うけど……」

「とにかく、もう少し早く起きるように努力だけはしてくれ」

「う、うん。頑張ってみるよ……」

 そんな感じでふたりが話をしている間、香里はなんとも言えない疎外感を味わっていた。

「そう言えば気になっていたんだが、あのアリシアやリニスさんって言うのは一体……」

「細かい話なら、後でいくらでもしてあげるわよ。今はとにかく走らないと!」

 やがて見慣れた校舎が見えはじめたころ、まだ校門にも入っていないというのに無情にも予鈴のチャイムが鳴り響く。

「まだ予鈴だ。とにかく急ぐぞっ!」

 なだれ込むように昇降口へ突入してゴールにたどり着いたときには、幸いな事に担任の姿はなかった。

「……相変わらず心臓に悪い登校をしてるな、お前達」

「好きでやってるわけじゃない……」

 もはや肩で息をする状況になりながらも、後ろの席からの突っ込みに祐一は律儀に応えた。

「そんな相沢に朗報だ」

「……なんだ?」

 朝のHRはあっさりと終わったのでゆっくり休憩する間もなく、1時間目の授業の準備に取り掛からなくてはいけない。息も絶え絶えという様子で後ろの席の北川を見ると、なにか含むようなにやにや笑いを浮かべている。

「今日の1時間目は体育だ。更衣室があるから、着替えはそこでな」

「……もうこうなったら、倒れるまで走ってやる」

 この世には神も仏もないという事に、祐一はたった今気がついた。そこで祐一は、半ばやけくそ気味に他のクラスメイトに混じって教室を出た。

 ちなみのこの日の体育は女子が体育館でバレーボールとなり、男子は日ごろの行いが功を奏したのか表でマラソンだった。

 

(そういえば、朝の話なんだが……)

 2時間目の古典、3時間目の数学をほとんど昏倒するように過ごしていた祐一が、4時間目の日本史の途中で香里と名雪に念話で話しかけた。

(朝のって……。アリシアちゃんとリニスさんの事?)

(説明してあげたいけど……。ちょっと複雑な事情があるんだよ……)

 マルチタスクを駆使すれば、授業中でも会話は出来る。祐一としては、朝に会ったふたりの事が気になってしょうがないのだ。

(相沢くんは、プレシアさんの事件についてどれくらい知ってる?)

(一応、一般常識レベルにはな。事件の概要は無限書庫にもあるし、一般の閲覧も可能だ)

 事件後に時空管理局に提出された事件報告書によると、プレシア・テスタロッサは魔道技術研究院を優秀な成績で卒業した才媛で、ミッドチルダの中央技術研究所の第3局長を務めていた。当時アレクトロ社では新しい次元航行エネルギー駆動炉『ヒュードラ』を開発しており、プレシアも出向という形で技術開発に協力していた。

 しかし、駆動炉の持つ危険性を理解しなかった上層部と、杜撰な管理体制によって作動実験中に暴走事故を引き起こしてしまい、その規模は中規模次元震が発生するほどだった。この事故によってプレシアは最愛のひとり娘であるアリシアを失い、さらに事故の責任を取らされたプレシアは地方への移動を余儀なくされ、結果としてプレシアはすべてを失ってしまったのだった。

 とはいえ、事故に関しては実験を強行した上層部に原因があるので、その意味で言えばプレシアは被害者であるといえる。しかし、その後プレシアは、失われたアリシアを蘇らせるために、人造魔導師開発計画『プロジェクトF.A.T.E.』に参加した。

 それにより誕生したのが、アリシアの遺伝情報を持つ人造生命体に記憶を転写したクローン『フェイト』である。

 だが、アリシアとフェイトには、大きく異なる点があった。アリシアがあまり受け継がなかったプレシアの魔法資質をフェイトは強く受け継いでいる他、明るく元気な性格であるアリシアに対してフェイトは引っ込み思案でおとなしめの性格であるとか、アリシアが左利きであるのにフェイトは右利きであるなど、細かいところでオリジナルとは異なる点が明らかとなる。フェイトが成長していくにつれて、その差は顕著なものとなっていった。

 いくら同一の遺伝子情報を有していても、性格などの問題からオリジナルと同等のパフォーマンスを発揮するとは限らない。なまじフェイトの容姿がアリシアに似ているところがプレシアの神経を逆なでし、この事からプレシアはアルハザードに眠る神秘の秘術でアリシアを蘇らせる事を望むようになった。

 そして、プレシアは集めたジュエルシードで次元災害を引き起こし、虚数空間の中へ消えていった。これがプレシア・テスタロッサ事件の概要である。

(結局は、事故でひとり娘のアリシアを亡くしてしまったのが原因なんだよな)

(要するに、その死因が問題だったのよ)

 アリシアの死因については諸説ぷんぷんで定説を見ない。魔力駆動炉の暴走によって引き起こされた反応によって酸素が消費され、酸欠状態に陥って死に至ったという説や、暴走した魔力駆動炉の反応魔力素を大量に吸い込んでしまった事でショック性の心停止を引き起こしたという説など、現在までに様々な死因が提示されている。

(どういう事だ?)

(その事故で死んだのは、アリシアちゃんひとりだけなんだよ)

 名雪のポツリと呟くような一言に、祐一ははっと息をのむ。

 中規模次元震が発生するような状況下で、現場にいたプレシアをはじめとした研究員達は怪我こそしたものの、ひとりの犠牲者も出していない。で、あるにも関わらず、現場から離れた研究員の宿舎でその様子を見ていたアリシアだけが犠牲者となったのである。

 また、いくつかの説にあるような死因であるなら、当時アリシアと共にいたペットのヤマネコも死んでいなくてはいけない。後にこのヤマネコを素体にした使い魔のリニスが誕生している事からも、これまでに提示されたような死因はすべて否定されるものだ。

(相沢くんは、死の定義については理解してるわよね?)

(ああ。心拍の停止、自発呼吸の停止、瞳孔の拡大、体温の低下、色々あるが、基本は心臓死と脳死に分けられるな)

 事故当時に駆け付けた救急隊によって、アリシアの死は確認されている。しかし、それはあくまでも医学上の死という定義にあてはめた場合でしかない。

(相沢くんの言う死の定義は、あくまでも定義でしかないわ。そうして死亡が宣告された後でも、生き返る可能性がないわけではないし……)

 俗に言う、早すぎた埋葬、というものである。日本の場合では、医師に死亡診断書を書いてもらい、特に異状がない場合はそれを役場に持っていって火葬許可書と埋葬許可書を発行してもらう。この時、死亡診断書の時刻より24時間が経過しないと、いずれも行う事が出来ない。

(厳密な意味での死を語るのであれば、肉体の腐敗がはじまったらそうだと言えるわ。でも、アリシアちゃんはそうじゃなかった)

(どういう事だ?)

(アリシアちゃんは綺麗すぎたのよ。死んでいるのであれば、皮膚にはその証拠となる死斑が現れるものなんだけど、アリシアちゃんにはそれすらなかったわ)

 死斑は血流の停止に伴って皮膚上に現れるもので、遺体を検死する時に、死後どの程度経過しているかの指標にもなる。

(それに、どんなに上手に保存したからといって、細胞の劣化そのものは止められないわ。そういう意味でも、アリシアちゃんは綺麗すぎるのよ)

(まさか……)

(そう。アリシアちゃんは、生命活動そのものを行っていなかった。で、あるにもかかわらず、その肉体が劣化する事はなかった……)

 あまりにも異常な出来事に、祐一は思わず息をのんだ。

(アリシアちゃんはね、自分の時間を止めちゃったんだよ……)

 名雪の語る意外な事実に、祐一は思わず聞き入ってしまった。

(わたしと同じで、アリシアちゃんも『凍結』の魔力変換資質があったみたいなんだよ。それがアリシアちゃんの危機に発動して……)

(アリシアの肉体時間を止めてしまった。と、言うわけか……)

 これにはミッドチルダにおいても凍結の変換資質を持つ者の絶対数が少なく、その当時では凍結系の魔法に関する研究もあまり進んでいなかった事から、冷凍睡眠に近い彼女の状態を正確に把握する事が出来なかったのだ。その結果として、アリシアには死亡の判定が下されたのである。

 アリシアの魔力量はEランクとされているが、これは当時の彼女が5歳であったので魔導師ランク試験を受けておらず、あくまでも推測であるにすぎない。また、魔力量と魔力変換資質は関係ないため、このような事態を引き起こしてしまったのだと考えられた。

 魔法の発現はなにがきっかけになるかわからず、アリシアの場合はこのように皮肉な形で現れてしまったのである。

(アリシアの状態はよくわかった。しかし、なんで隣の家に住んでいるんだ?)

(あ〜、あれね……)

(あれはびっくりしたよね〜)

 名雪と香里は、祐一そっちのけで当時を振り返る。自分の知らない名雪の歴史がある事に祐一は内心憤りを感じたが、誰にぶつけるわけにもいかないので話の先を急がせた。

(今から5年くらい前だったかしら? プレシアさん達が、名雪の家の庭にできた次元の隙間から出てきたの)

(うん。確かそのくらいだね)

 公式記録では、プレシアはアリシアの入ったカプセルと一緒に虚数空間の闇へ消えていった。この事によりプレシアは事実上死亡したものとして扱われ、この事件は容疑者死亡のまま裁判が行われ、実行犯となったフェイトの無罪という形で結審している。

 虚数空間はあらゆる魔力を遮断するために飛行魔法も使えなくなり、一度落ちたらどこまでも落ちていくしかないという暗黒の空間だ。まさかそれに出口があったとは、祐一も初耳だった。

(プレシアさんの目が覚めた時、ここがアルハザードじゃないって知ってがっかりしてたけど……)

(でも、名雪の再生治療魔法を受けてからは、見る目が変わったわよね)

 当時プレシアはレベル4の肺結腫に蝕まれており、身体の各所に転移していたために手の施しようのない状態であった。ところが、名雪の再生治療魔法によって正常細胞の活性化と癌化細胞の不活性化が行われた事で一命を取り留めた。その治療の副作用かどうかは定かではないが、還暦間近だったプレシアの肉体も40代前後の若さを取り戻してしまったのであるが。

 そして、冷凍睡眠状態だったアリシアの蘇生も無事に行われ、テスタロッサ一家はここであの頃の平穏な日常を取り戻す事が出来たのだった。

 もしかすると、ここは本当にアルハザードなのかもしれない。と、言うのはプレシアの談だ。

 その後、空き家となった隣家にテスタロッサ一家が住みつき、凍結の魔力変換資質を持つアリシアが暴走しないように、家庭教師兼メイドとしてリニスを復活させたのだった。その際にリニスの素体となったのが、昔名雪が祐一と一緒に拾った猫なのだが、それは全くの余談である。

 前回のリニスはフェイトを一人前の魔導師に鍛え上げるという契約によって、誕生からおよそ1年7ヶ月後に消滅した。今回のリニスはその時のバックアップデータをもとに再契約を結び、今度はプレシアかリニスのいずれかが死に至るまでという長期契約となっている。そのため、正確にはリニス2と呼ぶべき存在なのであるが、使い魔契約の延長という形なので呼び方はそのままである。

(リニスさんには本当にお世話になっているのよね)

(魔法の指導もしてくれるし、デバイスの調整もしてくれるしね)

(そうか、なるほどな……)

 ここで祐一は、ふたりのデバイスの改造を担当したマリーの言葉の意味がわかった。ただ、わかったからといって他言は出来ない。おそらく名雪と香里は、祐一を信頼して話してくれたのだろうからだ。嘱託とはいえ、祐一が管理局の人間とわかっていて話しているのだったら、かなり問題があるが。

 そんな話をしているうちに4時間目の授業が終わり、お昼休みの時間となった。

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