第二十五話 祈りは奇跡に

 

「……香里が消えちゃった?」

(落ち着け、名雪。香里は闇の書の内部空間に閉じ込められただけだ。バイタルは健在だし、助ける方法もあるから安心しろ)

 佐祐理達の救助に向かった祐一から念話が入り、少しだけ安心する名雪ではあるものの、まだまだ予断を許さない状況だ。

「これで栞ちゃんはずっとお姉ちゃんと一緒だよ。このまま幸せな夢の中で眠り続けるんだ。ずっと永遠にね……」

「永遠? そんなものはないよ……」

 名雪は知っている。永遠を求めた女がどのような末路を辿ったか。永遠を求めたが故に、どのような悲しみがもたらされたのか。

「ずっと同じで変わらないものなんてないよ。誰だって変わっていく……」

 あの冬の日。ただ泣いているだけだった自分がいた。そして名雪は、泣いているだけの自分が嫌だった。

「変わっていかなくちゃいけないんだよ。わたしも、あゆちゃんも……」

 だから強くなった。ブルーディスティニーを構える名雪の手に力がこもる。不退転の決意を秘めて、あゆを睨みつける名雪であった。

 

「……ん」

 いつもの目覚まし時計の音と、眩しい朝の光で香里は目を覚ました。

「ここは……?」

 ついさっきまで栞を飲み込んで顕現し、闇の書の化身となったあゆと闘っていたはずなのに、どうして自分の部屋に戻っているのか。

「お姉ちゃーん。朝ですよ〜、起きてくださ〜い」

 控えめにノックとは対照的に、元気な少女の声が響く。

「栞……?」

「もう、お姉ちゃん。もしかして、まだ寝てたんですか? これじゃ、名雪さんの事をねぼすけだって言えませんね」

 微笑みながら部屋に入ってきた栞の姿を見て、香里は愕然とした。臙脂のワンピースに白いケープ。胸元は学年を示す大きなリボンが飾る。ややクラシカルなデザインと言えなくもないが、それでもこの制服が着たくて受験する女の子も多い。それは栞が高校に入学して、たった1日しか着る事がなかった制服だったからだ。

「朝ご飯の支度は出来てますから、早く下りてきてくださいね」

 そう言って部屋から出ていく栞の後ろ姿を見て、香里はこれが夢だと気がついた。

 お姉ちゃんと一緒の制服を着て、お姉ちゃんと一緒に学校に行って、お姉ちゃんと一緒にお昼を食べて、放課後偶然商店街でお姉ちゃんと一緒になって、それで帰るのが遅くなってお姉ちゃんと一緒に怒られる。そんな夢と言っていいのかわからないくらいに、ほんの小さな栞の願い。

 栞の身体が健康であったなら、得られたはずの幸せだったからだ。

 

「……ん」

 なにやら騒がしい声に、栞は目を覚ました。

「やはりこのような方法はよくないのではありませんか?」

「なにを言うか。我らが砕けぬ闇として復活するために、他にどのような方法があるというのか? あるなら言ってみよ」

「も〜、さっきからどうでもいいよ〜。退屈だよ〜」

 黒っぽい紫色の服を着た茶色いショートヘアの少女と、6枚の羽根が生えた紫の服を着た先の方だけ黒く染まった白いショートヘアの少女がなにやら言い争いをしている中で、青を基調としたレオタードのような服を着た先の方が黒く染まった青いロングヘアの少女がふてくされている。

「あの……なにをしているんですか?」

「もう少し寝ておれ。まだ協議中だ」

「そうだぞ〜。この街に眠る記憶を呼び覚まし、砕かれた闇をもう1度蘇らせるんだ」

 つまり、闇の書の欠片がこの街に住む人達の強い願いや妄執を糧として、復活を遂げようというのだ。

「こんなにうるさくては、おちおち寝てもいられません。一体、あなた達は誰なんですか?」

「これは自己紹介が遅れました。私は理のマテリアルで星光の殲滅者、シュテル・ザ・デストラクターです」

「僕は力のマテリアルで雷刃の襲撃者、レヴィ・ザ・スラッシャーさ」

「そして、我こそが王のマテリアルで闇統べる王、ロード・ディアーチェだ」

 それは、闇の書の欠片が形となった、マテリアルと呼ばれる少女達であった。

 

 闇の書の化身となったあゆと名雪の闘いは続いていた。その闘いは一進一退の攻防を繰り広げていると言えば聞こえはいいが、どちらかと言えば名雪の方が押されがちである。

 あゆの繰り出す拳をなんとかシールドで受け止める名雪であったが、その一撃は予想以上に重く、たやすくシールドを撃ち抜かれてしまう。

『ブラックインパクト』

 魔力をこめたあゆの左拳が名雪に迫る。咄嗟に名雪はブルーディスティニーを構えて防御しようとするが、受けとめた瞬間に名雪の身体は大きく弾き飛ばされてしまう。かろうじて相手になっている状態であるものの、今の状態を続けていると徐々に名雪が不利になってくる。

 なにしろ、相手は闇の書。これまでに蓄積した魔力は無尽蔵レベルに達している。名雪も相当な魔力量の持ち主ではあるが、個人で保有できる魔力には限りがあるからだ。

 しかし、それでも名雪は闘う事をやめようとしない。それは僅かではあるものの、あゆをたじろがせるには充分だった。

(祐一に言われた通り、あゆちゃんを街から遠ざけたよ)

 闘っているうちにふたりは、ものみの丘の上空に到達していた。祐一が佐祐理達を安全圏に離脱させ、その間に街の火災を真琴が消し止める。ここなら周囲に与える影響も最小限にできると判断し、名雪が誘い込んだのであった。

(わかった。こっちももう少しで合流できそうだから、もう少しの間頑張ってくれ)

「うん、いくよっ! ブルーディスティニー」

『よっしゃあ! 任せときっ!』

 名雪は使い切ったカートリッジを差し替え、ブルーディスティニーを回復させる。残りのマガジンはあとひとつ。カートリッジはダブルカラム式で装填されているので、残り12発というところだ。これ以外にも名雪は祐一から、新開発のマグナムカートリッジを6発分受け取っている。マグナムカートリッジは通常の魔力カートリッジよりも高圧縮した魔力を蓄積する事で高容量化したもので、通常時で約15%の出力強化を可能とし、フルドライブ時でも約30%程度の高出力を得る事が可能となる。

 しかし、その分デバイスや使用者の負担にかかる負担も半端ではない。祐一のレイフォースや香里のシュトゥルムテュランに搭載されているリボルバータイプのカートリッジシステムは、システムが単純なので使用に耐えうるだけの頑丈さを有しているが、名雪のブルーディスティニーに搭載されているスライド式のカートリッジシステムは構造的にデリケートな部分があるので、使用するとデバイスに負荷がかかって破損する危険性もある。一応、名雪はお守り代わりに携行しているが、出来る事なら使わずにいたかった。

「……ディスティニーミラージュを撃つチャンスはあるかな」

 これが使えれば一発逆転も不可能ではないが、ディスティニーミラージュは名雪の持つ最大級の砲撃魔法であるため、チャージに時間がかかり過ぎるという欠点を内包していた。いくらあゆが広域殲滅型の魔導師であったとしても、ある程度の格闘戦にも対応しているのでそんな隙を見逃すはずがない。

『手はない事もないで……』

 そんなとき、ブルーディスティニーより、現状を打開する作戦案が提示された。

『アヴァランチ・モードを使うんや』

「それを使うと、ブルーディスティニーも無事じゃ済まないんじゃなかったっけ?」

 ブルーディスティニーはレイジングハートの改造強化プランに基づき、名雪の能力に合わせて能力調整されているが、未だ不安定な状態である事に変わりはない。もしも名雪がコントロールに失敗してしまえば、今度こそ完膚なきまでに破壊されてしまうだろう。

 だが、それでもブルーディスティニーは、アヴァランチ・モードの使用を提案したのだった。

「名雪さんもしつこいね。そろそろ眠ったらどう?」

「いつかは眠るよ。でも、香里に栞ちゃん。そして、あゆちゃんを救うまで、わたしは眠るわけにいかないんだよ……」

 カートリッジがひとつ消費される。

「いくよっ! ブルーディスティニー。アヴァランチ・モード……」

『ドライヴイグニッションや!』

 エクセリオンモードのレイジングハートによく似ているブルーディスティニーの形状が、名雪のトリガーワードと同時に変形を開始する。スッと真っ直ぐに伸びた穂先は鋭角さを増し、最後端部の石突きも太く力強い形状となる。これが、ブルーディスティニーのアヴァランチ・モードだ。

「いつまでも悲しみに浸ってたって、なにも変わらない。悪い夢は終わりにしないと、いつまでたっても前に進む事は出来ないんだよ……」

『フォトンアロー、ジェネシックシフト』

 そして、あゆはなによりも悲しい瞳をしたままで、香里のシュトゥルムランツェンレイターを上回る数のフォトンアローを生み出した。それに対して名雪も、静かにブルーディスティニーを構えて対峙する。

 こうして、運命の第3ステージは幕を開けるのだった。

 

「つまり、あなた方は闇ではあるが、悪ではない。その言葉を信じていいのですね?」

「信じる信じないはうぬの勝手ではあるがな」

「今は信じてくださいとしか言えませんね」

 栞としては、ディアーチェとシュテルの語る言葉を信じたい。しかし、信じるには、まだなにかが足りないような気がした。

 とはいえ、こうして言葉を交わしていると、彼女達が嘘を言っているようには感じない。少なくとも、あまりにも難しい話をしているせいか、シュテルの膝枕で眠ってしまっているレヴィのあどけない寝顔を見ているとそうは思えない。

「我らは同じ闇の書の人格プログラムではあるが、守護騎士プログラムや管制プログラムとは基本理念が異なる」

「私達は防御プログラムですので、主の安全よりも先ず蒐集した魔力データの保護を最優先とします。そのために、破損したプログラムを修復するための復旧システムも備えているんですよ」

 実はそれが、呪われた闇の書と呼ばれる所以であった。この復旧システムが、無限転生を繰り返す原因となっていたのである。

「それに防御プログラムである我らは、闇の書が悪用される事を防がねばならぬ」

「どういう事ですか?」

「闇の書は、その性質上多くの魔導を蓄積しています。それはいわば、図書館のようなものなのですよ」

「その中には禁呪と呼ばれる危険なものもある。いくら管理権限を得たマスターといえども、おいそれと使わせるわけにはいかぬのだ」

「ですが、蒐集した魔導を記録し続けるには、なんらかの形で魔力が必要となります。そのために歴代のマスターがいたわけですが……」

「つまり、歴代のマスター達は、あなた達にとっては『エサ』だったわけですね?」

「……そのような言い方はちょっと……」

「まあ、否定はせぬ」

 あっさり認めるシュテルとディアーチェだった。

「真なる夜天の主として認証されるには、闇の書に蓄積された膨大な力を私利私欲のために使う者であってはならぬ」

「世のため人のために使う、というのではダメなんですか?」

「いずれにしても自分の欲のために使うわけですから、どちらもあまり変わりません。マスターとしてふさわしいのは、これほどの力があってもなにも望まないくらい無欲でないとダメなんです」

「しかし、まさかあの子鴉が我らの呪いを解き、最後の夜天の主となるとは思いもよらなかった」

「まったくですね」

「どういう事ですか?」

「実のところ、我らは我らの意思で主を選ぶ事が出来ぬ。無作為に適任者の元へ転移してしまうからな。丁度今のうぬのようにな」

「マスターの認証にはいくつかのプロセスがあります。まずは無作為に適任者の元へ転移する事。次に、守護騎士プログラムの起動となります。この時に魔力の蒐集を行うと同時に、守護騎士プログラムがマスターの人となりを判断します」

 守護騎士プログラムと管理プログラムはリンクされており、その情報は防御プログラムにも伝達される。そこで防御プログラムが主にふさわしくないと判断した場合、その身を破滅させる事となるのだ。

「そして、ページの蒐集が終了すると管理プログラムが起動する。大抵の主はここまでいくが、実はその先には簡単に進めないようになっておる」

「どういう事ですか?」

 先程からこうやって訊き返してばかりのような気もするが、栞はとにかく情報が欲しい。もしかしたら、この現状を打破するための糸口になるかもしれないからだ。

「パスワードが必要なのだ。管理プログラムに主として認証され、夜天の魔道書のプログラムに介入する権限を得るには、それを正確に伝えねばならん」

「パスワード、ですか?」

「『強く支える者。幸運の追い風。祝福のエール、リインフォース』管理人格プログラムの名前を正確に伝える事です。これが出来てはじめて、闇の書は適任者を真なるマスターと認証し、管理者権限を委譲します」

 はやては名前をあげる、としていたが、実際にはマスター認証のパスワードを唱えていただけだったのだ。

「ところが、誤算だったのはその後だ。あろう事かあの子鴉は我ら防御プログラムを悪と断じ、その機能の大半を切り捨ててしまった」

「なんとか私達も復活を遂げ、真実を伝えようとしましたが、欠片になってしまった所為か、その思いが正確に伝わる事はありませんでした」

 その結果、この一件は闇の書による余波災害として片づけられてしまい、管理プログラムであるリインフォースの消滅と共に終局を迎えたのだった。

「それでは質問です。あゆさんは一体どうなってしまったんですか?」

「正確な事は我にもわからぬ。だが、おそらくは防御プログラムの自動防衛システムに身体が乗っ取られてしまっているのだろう」

「止める手段はないんですか?」

「管理者権限が使えれば、あるいは……」

「わかりましたっ!」

 シュテルの言葉に、栞は胸を叩いて立ち上がった。

「今のあなた達のマスターは私です。私がまとめて面倒を見ようじゃないですかっ!」

 その根拠のない自信に呆れつつも、なぜか栞に対して妙な期待をしてしまうシュテル達であった。

 

「動かないでくださいっ」

 栞はぷくっと頬を膨らませながら、スケッチブックを抱えて困ったような声を上げる。

 暖かい日差しが降り注ぐ中、香里は公園で栞の絵のモデルになっていた。ちなみに、栞の絵の腕前は下手の横好きというレベルだ。見る人が見ればとんでもないほどの芸術作品に見えるかもしれないが、そうした素養のない人が見たら単なる落書きにしか見えない。

「なによ。ちょっとくらいいいじゃない」

 さっきから何時間スケッチブックとにらめっこしてるのよ。と言外に伝えながら香里は口を開く。

「ダメですよ、お姉ちゃん」

 しかし、それは栞の真剣な表情と共に、きっぱりと却下されてしまった。

「今日は最後まで付き合ってもらう約束なんですから」

「最後って……後どれぐらいなのよ?」

「ちゃんと描けるまでです」

「それは無理ね……」

「うー……そんな事言う人、嫌いです」

 上目遣いで非難の視線。そう言う表情をすると余計に子供っぽく見えてしまうのだが、不思議と栞にはよく似合っていた。

「ひどい事を言った罰です。やっぱり最後まで動かないでください」

 栞は穏やかに表情を崩して、たおやかな笑顔をのぞかせた。

「背中が暑いわ」

「寒いよりはいいです」

 そう言いきって栞は、再びスケッチブックに視線を落とす。

「ねえ、お姉ちゃん。例えば、ですよ……」

 スケッチブック越しに、栞の穏やかな声が聞こえる。

「例えば……今、自分が誰かの夢の中にいるって、考えた事はないですか?」

「ああ……」

 その台詞を訊いて、香里は今の状況に思い当たる。なぜなら、今まさに香里は夢の中に状態だからだ。おそらくは、誰かが作ったであろう、最も幸せで最も残酷な夢の世界。

「わかってるわよ。ここが夢の世界だって事ぐらい」

「お姉ちゃん」

「だからね、栞。あたしは一刻も早く現実に戻らないといけないのよ」

「戻っても、辛いだけかもしれませんよ? それなら、ここでずっと幸せに暮らそうよ」

 確かにここなら、香里の望んだ幸せはすべて手に入るだろう。だが、幸せとは与えられるものではなく、自分の手で勝ち取ってこそなによりも価値があるものとなる。香里はその事を誰よりもよく理解していた。

 起こらないから奇跡、と栞は言う。その通りだと香里も思う。しかし、起こそうとしないのに、奇跡は絶対に起こらない。名雪と付き合っているうちに、香里はその事がよくわかった。

「ごめん、栞。あたしは行かなくちゃいけないのよ」

「そう……ですか……」

 栞は寂しげな表情を浮かべつつも、そっと立ち上がると香里に近づき、赤い宝玉を手渡した。それは待機状態のシュトゥルムテュランだった。

「ありがとう……ごめんね、栞」

「いいんです。お姉ちゃんのやりたいようにしてください。待っているんですよね? 優しくて強い人達が……」

 香里がこうして優しい夢に浸っている間も、きっと名雪は決してあきらめる事無く闘っているのだろう。それが香里達を救う唯一の方法だと信じて。

「いってらっしゃい、お姉ちゃん……」

 栞の姿が霞みの様に消え、あたりの風景も消えて暗闇に包まれる。

「いくわよ、シュトゥルムテュラン」

『御意』

 香里の呼び掛けに応じ、シュトゥルムテュランは直ちに戦闘態勢を整えてくれる。本当によく出来たデバイスだ。

「助けるわよ。名雪も、栞も」

『御意』

 

 そして、あゆと名雪の攻防戦は、若干名雪が押され気味のまま継続していた。ふたりの魔力光が描く光のラインが、夜天に様々な文様を描いて激しくぶつかり合う。

「うにゅぅぅぅっ!」

 あゆの鋭い一撃が名雪の身体を大きく弾き飛ばすが、それでも名雪はブルーディスティニーを構えて一歩も引かない。

「そんな攻撃が、このボクに通用すると思う?」

「通してみせるよ。祐一だって、真琴だって、香里だって、栞ちゃんだって闘っている。ブルーディスティニーも命と心をかけてわたしに応えてくれている」

 カートリッジがスライドし、使用済みのカートリッジが排夾されていく。名雪の背中の光翼が一際大きく輝きだし、足元を支えるフローターフィールドの魔法陣も輝きを増す。

「ただ泣いて拗ねているだけのあゆちゃんを助けてあげてって」

『準備完了や、名雪』

「アヴァランチ・バスター・ストライクアタック。いくよ〜」

『ドライヴやっ!』

 ブルーディスティニーを構えた名雪が、そのまま一直線にあゆに向かって飛ぶ。即座にあゆはシールドを展開して迎撃するが、名雪の突進は止まらない。

 激しくぶつかり合う魔力と魔力が激しく火花を散らす。

「届いてっ!」

 その瞬間、ブルーディスティニーの穂先があゆのシールドを突き抜ける。

「まさか……」

「アヴァランチバスター!」

 名雪の背中の光翼が大きく広がった次の瞬間、すさまじいまでの魔力光があたりを包み込んだ。

「……ほぼゼロ距離で、シールドを抜いてのアヴァランチバスターの直撃。これでダメなら……」

 交戦距離がゼロに等しい間での砲撃は、名雪の身体にも少なからずのダメージを与えてしまう。これまでの闘いよりもひどいダメージが名雪を襲っていた。

『こら、あかんわ。名雪……』

 ブルーディスティニーの声に顔を上げると、そこには無傷のあゆが佇んでいた。

「もう少し、頑張らないとダメみたいだね……」

『せやな……』

 

 どうしたらあゆを助ける事が出来るのか。そんな事を考えていると、不意にあゆの動きがおかしくなった。

(そこの人、聞こえますか? えっと……管理局の人?)

「この声……栞ちゃん……?」

(あれ? もしかして、名雪さんですか? どうして、名雪さんが……?)

「いろいろあって、管理局に協力してるんだけど……」

(ごめんなさい、名雪さん。なんとかあゆさんを止めてあげてくれませんか? あゆさんは今、魔道書の自動防御プログラムに身体を乗っ取られてしまっているんです。私もなんとかあゆさんを助けようとしているんですが、そのプログラムが動いていると私からは干渉できないみたいなんです)

「それはわかったけど、一体どうすれば……」

(いや、これで望みはつながった)

 今度は祐一から念話が入る。

(闇の書完成後に、マスターの意識が健在であるなら話が早い。今から俺が言う事を名雪が出来れば、栞達を救い出す事も出来るはずだ)

「わかったよ、祐一。どうすればいいの?」

(今そこにいるあゆを、魔力ダメージでぶっ飛ばすんだ。どんな方法でも構わない、とにかく手加減なしでぶちかませっ!)

「……思ったよりも簡単だったね」

『せやな……』

 栞からの干渉で身動きのとれなくなった防御プログラムが、最後のあがきとばかりに足元に広がる雪原から触手を繰り出してくる。

「アヴァランチバスター、バレルオープン。中距離砲撃モード」

『よっしゃあっ! いくで名雪っ!』

 ブルーディスティニーが僅かに伸長し、名雪の背中の光翼が大きく翼を広げると同時に、先端部分に魔力が集束していく。それと同時に解き放たれた衝撃波の鎖が、あゆの身体を拘束した。

「アヴァランチバスター、フォースバースト!」

 ブルーディスティニーの周囲にリング状の魔法陣が形成され、穂先に集中した魔力が一際大きく膨れ上がる。

「ブレイクシュート!」

 解き放たれた青い魔力光があゆの身体を包み込むと同時に、赤い魔力光が内側から突きあがる。事前に打ち合わせをしたわけでもないのに、名雪と香里の息の合った同時攻撃が、外側と内側から防御プログラムに支配されたあゆの身体を打ち砕く。

 そのまばゆい光の中で解放された栞が闇の書を抱きしめ、不敵な微笑みを浮かべる。

(さあ、スーパーしおりんタイムのはじまりですよ)

 そして、闘いはついに最終局面を迎えた。

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