エピローグ

 

「ここは……」

 柔らかな日差しの中で、祐一は目を覚ました。白い天井が見え、祐一はどうやら自分が病院の一室にいるらしいことを確認した。

「……祐一……よかった……」

 その声に祐一が顔を向けると、そこには心配そうな表情の名雪がいた。どうやらずっと祐一のことを看病していてくれたらしい。

「名雪……」

 祐一が声をかけると、名雪の目から大粒の涙が溢れ出した。

「よかった……」

 名雪は祐一の胸に顔をうずめると、静かに泣き始めた。祐一はそんな名雪の髪をやさしくなででやった。

 名雪の話によると、祐一が電脳虚数空間に向けて旅立ってから一週間ほどたったころ、突然飛来した謎のクリスタルによって火星のテラフォーミングが終了し、調査の結果祐一のVRが発見されたのだそうだ。元々白虹(びゃっこう)騎士団のテムジンはVR単体での定位リバースコンバートを可能にしているのだが、それでもなぜ無事に帰還できたのかは不明だった。

 なんでも祐一を発見してくれたのは北川で、そのときのテムジンはグリンプスタビライザーを片方失っており、あちこち装甲が剥げ落ちて見るも無残な姿だったそうだ。

 その後、祐一は三ヶ月近くも昏睡が続いていたのだそうだ。

 また、ダイモンの影響が少なくなった火星戦線は各地で小規模な戦闘が続いてはいるが、おおむねMARZの制圧下にあり、MARZのもたらした改革攻勢は収束の方向へ向かっているのだという。それは赤かった大地が、青い空に包まれていくようであった。

「そうか……だから名雪も出撃してないんだ」

「それだけじゃ……ないんだけどね……」

 そう言って名雪は顔を赤くした。

「どういうことだ?」

「あのね……」

 名雪はそっと祐一の耳元でささやいた。

「え……?」

 祐一の声が裏返る。名雪は嬉しそうにうなずいた。

「三ヶ月だって……」

 その名雪の笑顔に、小悪魔的なものを感じる祐一であった。

 ここにいたって祐一は、あゆの最後の言葉の意味を知った。そして、名雪の胎内で静かに息づく生命のことを。

「そういうことか、あゆ……」

 人生の皮肉、そして自分が選んだ運命というやつに、祐一はただ笑うしかなかった。

 

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