ちぇんじ♪

 

 ある晴れた朝、俺が目を覚ますと……。

「……あれ……?」

 そこには俺が寝ていた……。

 ………………………。(考え中)

 ……………………。(考え中)

 …………………。(考え中)

 ………………。(考え中)

 ……………。(考え中)

 …………。(考え中)

 ………。(考え中)

 ……。(考え中)

 …。(終わり)

 

 落ち着け、俺は誰だ?

 俺は相沢祐一、十七歳、男。

 ピッチピチの高校生で、いとこの家に同居中。

 ついでにそのいとこと清い交際を……。

 

 いや、そういう事を考えている場合じゃない。

 とにかく、目の前で気持ちよさそうに眠っているこいつは誰なんだ?

 身体を起こすと妙な違和感がある。髪は長くて鬱陶しいし、胸は重い。

 いやまて……髪が長くて胸が重い?

 胸を触ってみると、そこには俺にあるはずのないふくらみ……。

「……まさかな……」

 俺は股間に手を伸ばしてみる。

「あは……あはは……」

 そこには、あるべきはずのものがなかった……。

「そんな馬鹿なっ!」

 鏡を見ると、そこには俺が最も良く知っている人物。名雪がいた……。

 

「うぐぅぅぅぅぅぅっ!」

「あうぅぅぅぅぅぅっ!」

 

 俺がパニックになりそうになったとき、突如として大きな声が響き渡った。

 この方向はあゆと真琴の部屋だ。

「どうした? 二人とも?」

 俺が部屋に入ると、お互いがお互いを指差してパニックに陥っていた。

「真琴ちゃんがボクで、ボクが真琴ちゃんなんだよ」

 と、真琴が叫び。

「あゆが真琴で、真琴があゆなのよ」

 と、あゆが叫んだ

 なにが言いたいのかはさっぱりわからないが、俺は二人の身に起きた事は理解できた。

「まあ、落ち着け。二人とも」

 俺が声をかけると、あゆと真琴は驚愕の表情で、大きく目を見開いた。

「名雪さんが……」

「名雪が起きてる……」

「そっちかっ!」

「おふぁようごじゃいまふぅ〜……」

 混乱に止めを刺すように、妙に間延びした声が響いた。

 ……それにしても俺の声で名雪の口調と言うのは、流石に背筋に寒気が走る。

 俺……名雪の物まねやめようかな……。

「……あれ? わたしがいるお〜……」

 どうやら名雪は起きたはいいが、事態を把握しきれていない様子だ。

「それに、みんな小さくなってる……」

「俺達が小さいんじゃなくて、お前が大きいんだ」

「うにゅ?」

 そう言って俺の身体は首を傾ける。名雪の身体なら可愛い仕草なのだろうが、俺の身体でやられるとえらく不気味だ。

 それにしてもこうして見上げるような形で自分の身体を見ていると、名雪はいつもこういう視点で俺の事を見ているんだと言う事が良くわかる。

「いいから名雪、胸に手を当ててみろ」

 言われて俺=名雪は胸に手を当てる。広い胸板をまさぐるうちに、俺=名雪の目が開いていく。

「……次に股間に手を当ててみな……」

 股間に手を当てた俺=名雪の顔から血の気が消えた。

「はう……」

 俺=名雪はその場に崩れ落ちた。

「祐一くんっ!」

「あうー、祐一しっかりして」

 真琴=あゆと、あゆ=真琴があわてて俺=名雪に駆け寄る。

「落ち着け、二人とも」

「うぐぅ?」

「あう?」

 二人の視点が名雪=俺に集中する。俺は慎重に言葉を選んで口を開いた。

「あのさ……あるはずのものがなくて……ないはずのものがあったら……。どうする?」

 俺の言いたい事がわかったのか、二人はぴくっと身を振るわせる。

 できれば俺だって気絶したかった……。

「え? それじゃあ……」

 真琴=あゆはまっすぐ俺をみた。

「名雪さんが祐一くんで、祐一くんが名雪さんなの?」

「祐一が名雪で、名雪が祐一なの?」

「そういう事だ……」

 

 一体どうしてこんな事になったのだろうか? 悪いものでも食べたとか……。

 いや、待てよ……。悪いもの?

「そうだ、あゆ、真琴。お前達夕べなに食べた?」

「なにって……」

「祐一と同じものだよ……」

 それを聞いて俺はなんとなく、この事件の犯人を知った。

 俺はその人物がいるはずのキッチンに向かった。

 

「秋子さんっっ!」

 

「あら、おはよう名雪。今日は早いのね」

「名雪じゃありません、秋子さん……」

「あらあら」

「……心当たりがあるんじゃありませんか?」

 そのときの秋子さんの微笑はいつもの微笑ではなく、ある意味確信犯的な微笑だった。

「どうやら実験は成功したようですね……」

「……実験ですか?」

 秋子さんは俺の言葉を肯定するように、静かな微笑を浮かべたまま頷いた。

「はい……これを服用して粘膜同士を接触させる事により、その人の中身を入れ替えると言うジャムを……」

「ジャム……ですか? でも、そんなものを食べた記憶は……」

「無味無臭ですから、食事のときにこっそりと……」

 秋子さんはしっかり確信犯でした。俺の後ろではあゆ=真琴と真琴=あゆがしっかり手を握り合って震えている。

「そんなに心配しなくても、もう一度粘膜同士を接触させれば元に戻りますよ」

「粘膜同士ね……。二人とも、なにか心当たりはあるか?」

「そう言えば……」

 真琴=あゆが何かを思い出したようだ。

「ボクね、夢を見てたんだよ」

「真琴もだよ」

「どんな夢だ?」

「祐一くんとデートしてる夢」

「真琴も〜」

「最後に祐一くんとキスしたと思ったら……」

「真琴があゆとキスしてたの……」

 俺はなんとなく原因がわかったような気がした。

「唇も粘膜の一種ですからね、あゆちゃんに真琴。もう一度キスをすれば元に戻れますよ」

 秋子さんに言われ、二人は静かに見つめ合う。

 やがてゆっくりとお互いの顔が近づき、唇と唇が触れ合ったとたん、まばゆい光があふれ出た。

「よかったぁ……。やっと元に戻ったよ……」

「あう〜、真琴の体……」

 キスが終わると、元通りになった二人がそこにいた。

 それにしても、妙にこの二人がキスしなれているように見えるのは気のせいだろうか……。

「俺も早く元に戻らないと。俺=名雪とキスをすればいいんですね?」

「祐一さん」

 二階に上がろうとした俺を、秋子さんが呼び止める。

「え?」

 そのときにそっと秋子さんが耳打ちした内容に、俺は言葉を失った。

「……そこも粘膜ですから……」

 ……どうやら夕べの出来事は、秋子さんには筒抜けだったようです……。

 

 こうして俺はなんとか元の体に戻る事に成功したが、それと同時に女の子の気持ちを理解する事となった……。

 いくらエープリルフールでも、少々やりすぎです。秋子さん……。

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