第三十一話 女の子の特権

 

「う〜……」

 再び訪れた駅前のデパート内にある女の子だけに許された空間へ足を踏み入れようとした時、やはり若干の違和感がある祐一。

「もう、どうしたの? 祐ちゃん」

 その隣でのほほんとした笑顔を浮かべている、最愛のいとこが少し恨めしい。とはいえ、今身に着けている下着が体に合わなくなってきているのでは、もう一度この空間に足を踏み入れる必要がある。

 女の子初心者の祐一にとってはとてつもなく恥ずかしい事ではあるが、やはり名雪が言うようにこれも大事な事なのだ。その意味で、名雪と二人で来たのは正解だったと思う。普通の女の子とは横に三メートルほどずれた発想の持ち主であるが、こう見えて名雪のセンスはいい方だし、下着選びは名雪に任せて大丈夫だろう。

 実際に身に着けるのは祐一なのだが、一人ではなにを選んでいいのか皆目見当がつかないからだ。

「あはは〜、お決まりですか〜?」

 名雪と二人で下着選びに夢中になっていると、さわやかな笑顔と共に店員が現れた。

「あ、倉田先輩。おはようございます」

 佐祐理の姿を見た途端、ぺこりと頭を下げてあいさつする名雪。

「おはようございます、名雪さん。佐祐理を呼ぶときは、名前でいいですよ〜」

 名雪に負けじと頭を下げかえす佐祐理。この二人が礼儀正しいのは祐一もよく知っている事ではあるが、下着売り場の店内で見るとなぜか異様な光景だった。

「それで、本日はどういったご用件でしょうか〜?」

「はい、実は……」

 二人で何事かを話しているうちに、不意に佐祐理の視線が祐一に向く。そのたおやかな佐祐理の笑顔を見ていると、なぜか祐一の背筋に悪寒のようなものが走る。

「それでしたらこちらのほうへ。いろいろ取り揃えておりますから〜」

 微笑みの悪魔。このときの佐祐理を、後に祐一はこう評した。

 

「うお……」

 佐祐理に連れられて入っていった部屋の様子に、思わず祐一は変な声を出してしまう。なにしろそこは見渡す限りに女性用下着が所狭しと陳列されており、その規模はとてもデパートの店内にあるとは思えなかった。

 こうして見ると、女性用下着というのは色も形も似たようにも見えるが、細かい部分を見ていくとやはりデザインが異なるものだ。大きな胸の人用にプチ胸の人用。上も下もフリルがついたりリボンがついたり。素材の方もシルクだったりコットンだったり。実に様々だ。

「え〜と、祐ちゃんに似合いそうなのはこれとこれと……」

「う〜ん、このあたりなんかは祐ちゃんには早いかもしれないけど……」

 そんな中で名雪と佐祐理の二人は、祐一が着る下着選びに余念がない。なんでも聞くところによると、祐一のような成長期の女の子が身に着ける下着というのは、特に神経を使わなくてはいけないのだそうだ。

 特に大きくなりはじめたばかりのバストは乳首の先の方がちくちくと痛みだし、ちょっとなにかが触れただけでも悶絶の苦しみを味わう事になる。成長に伴う痛み、と言えば聞こえはいいのかもしれないが、それは今祐一が現実に直面している問題だった。

 仮に男性が股間を蹴りあげられたとする。その痛みは女性には到底知る事が出来ない痛みであるが、それは一過性のものなのでわりとすぐに収まる類のものだ。ところが、この胸の痛みは寝ても起きても常に付きまとうもので、女の子になってしまってから祐一はその痛みで少々寝不足気味なのだ。

 女の子の日はまだ我慢が出来るが、こればかりは名雪に相談してもどうしようもない。実のところ名雪もこうした痛みを経験してきた先輩であるので、出来る限り祐一には肌に優しい下着を選んであげようと思っていたのだった。

「それじゃ、祐ちゃん。ちょっと試着してみてくれる?」

「う……」

 さわやかな笑顔で名雪が差し出してくる両手いっぱいのブラジャーには、流石の祐一も困惑気味だ。

 ブラジャーを選択する際に重要なのが、トップバストサイズとアンダーバストサイズとの差と、実際にカップに収まるバストの容量である。ところが、バストのサイズはともかくとしても、バストの形状には個人差があるので市販品の中に自分にあったカップ容量を持つブラジャーがあるとは限らない。

 基本的にバストは直立した状態で計測するものであるが、バストの形状によってはきちんと計測できない場合も多い。特に祐一のような成長期のバストはデリケートであるため、下手にカップに押し込めるよりは自然な形で優しく保護してくれるようなブラジャーの方が望ましい。

 そこで名雪が選んだのがコットンを素材として柔らかく作られた、ワイヤーレスタイプのブラジャーだった。その中にジュニア用のスポーツブラが入っているのが、なんとも名雪らしいところではあるが。

 女性のバストは大変に柔らかくデリケートなものであり、普通にジョギングをしただけでも平均して上下に九センチほど動いてしまい、この事によってバストを支えるクーパー靭帯が損傷してしまう事で、バストがたれてしまう原因となるのだ。

 一度損傷してしまったクーパー靭帯は、二度と元には戻らない。また、バストに加わる激しい衝撃は、最悪の場合乳腺断裂などの障害をもたらす場合もある。そうしたバストのたるみや損傷を防ぐためにも、スポーツブラは必要なのである。

 スポーツブラは運動の衝撃からバストを守り、適切な位置に固定する機能がある。そのため、スポーツブラの素材には吸水性と伸縮性を持った素材がつかわれており、着用者に不快感を抱かせないように工夫が凝らされている。

 また、普通のブラジャーと違ってスポーツブラには、肌を傷める恐れのある形状維持のためのワイヤーや、固定用のホックなどの金属部品が使われておらず、バストの固定には伸縮性の強いベルトが使われている。おまけにスポーツブラは頭からかぶって着るのがほとんどなので、普通のブラジャーよりもつけやすいという特徴があるのだ。その意味でも、ブラジャー初心者の祐一には最適と言えるだろう。

「そちらの試着が終わったら、佐祐理の方もお願いしますね〜。あ、着替えにはそこの試着室を使ってください」

 名雪に負けず劣らずのさわやかな笑顔で佐祐理が差し出してきたのは、両手一杯のハーフトップだった。

 ハーフトップはどちらかと言えばタンクトップにも似た形状をしているが、基本的には短い丈でバスト部分だけを覆っているので、ブラジャーと同じ下着に分類されている。素材の伸縮性を利用してボディにフィットさせる構造をしているので、形状維持のためのワイヤーなどが用いられておらず、着脱を容易にするため、留め具に非金属性のファスナーやボタンを用いたりしているが、基本的にはスポーツブラと同様に頭からかぶって着用する。こちらも祐一のような成長期のバストに最適で、ジュニア用に種類も豊富だ。ちなみに、佐祐理が用意してくれたのはややバストが大きくなりはじめたばかりの祐一のために、フロント部分をファスナーやボタンで留めるものだった。

「う〜ん……」

 名雪と佐祐理が選んでくれたブラジャーは、まだ後ろや前でホックを留めるのに慣れていない祐一に配慮してくれただけあって、実に着心地がいい。試着室の中の鏡に映った自分を見ながらポーズを決めてみたりなんかする祐一。

(こうして見ると可愛いと言えなくもないかも……)

 名雪が選んでくれたスポーツブラは着やすいし、なんといっても普通のブラジャーと違って締めつけられるような感じがしない。佐祐理の選んでくれたハーフトップも、色やデザインも様々でなんとなく着けるのが楽しくなってくる。

「祐ちゃ〜ん、どう?」

 祐一が鏡を前にポーズを決めているところで、いきなり試着室のカーテンが開かれる。まずいところを、と祐一は思うが、試着室を覗き込んでいる名雪の格好に、思わず目を見開いてしまう。

「名雪……?」

 祐一と似たようなデザインのスポーツブラの上下、しかも名雪が前かがみになっているせいか、祐一には真似すら出来ないような谷間が目の前に迫る。しかし、それ以前に祐一の視線は、イチゴプリントの上下という方に目がいってしまったのであるが。

「どこか苦しいとかきついとかありませんか〜?」

 にこやかにそう聞いてくる佐祐理の格好も、胸元が大きく開いた3/4カップブラにレースをあしらった揃いの上下であった。色は清楚な佐祐理の雰囲気に合わせた白。まあ、いくらこの部屋には女性ばかりしかいないとはいえ、全員が下着姿というのもかなり壮観な眺めであった。

「ん〜、悪くないと思いますけど……」

 祐一はあちこち体を動かしてみるが、特に締めつけられるとか苦しいという感じはしなかった。そればかりか流石に運動をする名雪が選んだだけあって、結構派手に動いてもしっかりと祐一のデリケートなバストをガードしてくれていた。

「そうですか〜?」

 佐祐理は祐一の脇に指を入れたりして、痕になっていないかを確認する。

「そうなりますと問題は……」

「ぱんつのほうだね……」

 二人はなにかわかっている様子なのだが、祐一にはなにやら嫌な予感がしてしょうがない。詳しく話を聞いてみると、女性用の下着というのは基本的に上下がセットになっているものなのだそうだ。そう言われてみると、確かに上と下とでデザインが異なっているのは妙にアンバランスであるように祐一も思う。

 とはいえ、ぱんつと言えば女の子の一番デリケートな部分が直接触れる部分でもある。ある意味、ブラジャー以上に気を使わなくてはいけないのだ。

「祐ちゃんもヒップラインがはっきりしてきたから、そろそろお子様ぱんつは卒業だね」

「そうなりますと〜 このあたりなんかはどうでしょうか〜」

 佐祐理が差し出してくる両手一杯のジュニアショーツに、言葉を失う祐一。流石にこの中から選ぶというのは恥ずかしすぎる。

 祐一が男だった頃はぱんつといえばブリーフかトランクスぐらいしかなく、どちらかといえば祐一はトランクス派であったので、あるものを適当に穿いていればよかった。しかし、女の子用のぱんつは色や形などのデザインが様々で、どれを穿けばいいのか祐一にはまるで判断がつかない。

 そう考えると、上下がペアになっているというのも納得がいくものであった。

 

「う……」

「どうですか〜?」

「……なんだかその……おまたのところがちくちくして……」

「はえ〜これもダメですか〜」

 佐祐理は少し落胆した様子であったが、祐一の肌に合わないのではどうしようもない。祐一が今まで穿いていたお子様ぱんつは柔らかめの素材でできていたので気にならなかったが、佐祐理の用意したぱんつがデザイン重視であったせいか、クロッチ部分の肌触りが気になって不思議と穿き心地が悪かった。その意味では名雪の用意したスポーツブラとセットになったぱんつのほうがまだましと言えた。結局のところ、下着というのはいやでも毎日お世話になるものなのだから、こうしたフィッティングがなにより重要な事となるのである。

 しかも、これ以外にも女の子の日用のぱんつまで用意しなくてはいけないのが頭の痛いところだ。そう考えると、つくづく女の子というのは大変な生き物だというのを実感する祐一。

 着るものに気を使って、お金使って、まわりの目を意識して、ここ最近で祐一はその苦労をその身で知ったような気がした。

「それにしてもいいんですか? 佐祐理さん。お店の方にいなくて」

 こうして祐一達の相手をしてくれているのだが、佐祐理はこの店のアルバイトのはずだ。店員が店を放っておいていいのかと祐一は思う。

「それなら心配はいりませんよ。だって、佐祐理がこのお店のオーナーですから〜」

「はい?」

 衝撃の事実に、祐一は名雪ともども目を丸くする。言われてみると、今更ながらに店の名前が『KURATA』だった事を思い出した。

「ここはお父様の会社の系列なんですよ〜。お前もそろそろ経営を学ぶ必要があるからって、佐祐理がこのお店を任されたんです」

 そう誇らしげに胸を張る佐祐理の姿が、祐一にはやけに眩しく見える。名雪の時もそうだったが、一途に一つの物事に集中している人の姿は輝いて見えるものなのだろう。

「ところで、名雪さんの方はどうですか? 苦しいところとかきついところとかありませんか?」

「はい、大丈夫です」

 あつらえたようにぴったり。と、いうのが名雪の偽らざる感想だ。自分の体格に合わせて作られたオーダーメイド品ならともかく、こうした市販品でぴったりなものはあまりないからだ。

 しかし、名雪の表情は暗い。

「はえ? どうされましたか?」

「実は……あまり予算の方が……」

 今日は祐一のための買い物をしなくてはいけないので、なるべくなら自分の分は我慢しようと思っていた名雪。しかし、ここ最近はなぜかブラがきつくなったような気がするので、そろそろ新しいのを買わなくてはいけないのだ。少しは秋子から資金援助をしてもらったとはいえ、名雪の手持ちは少なかった。

 祐一の分か名雪の分か、どちらか一方を選ばなくてはいけないため、名雪は祐一の分を優先しようとしていたのである。

「それなら安心してください。実は名雪さんにはモニターを依頼したいんです」

「モニター、ですか?」

「はい」

 陸上競技をはじめとしたスポーツを本格的にやっている女性は、バストも筋肉に変わってしまうせいかあまり巨乳というのは存在しない。しかし、名雪は結構本格的に陸上競技をしているにもかかわらず、モデル並みの体型を維持しているのだ。

 そうした人のデータは貴重であるため、佐祐理としては名雪にモニターしてもらって、いろいろと意見を聞きたいところなのである。

「でも、これ……オータムブランドじゃないですか。それはちょっと……」

「大丈夫ですよ、佐祐理のお店はオータムブランドの直営店ですから。モニターに関しては佐祐理のほうからデザイナーの方にもきちんと話を通してありますし、問題ありません」

 オータムブランドは、ジュニア用から体形補正を目的としたシニア用まで幅広く取り扱っているランジェリーメーカーで、特にここ最近はジュニア用の下着に力を入れている。ちなみに、祐一が今試着している下着もみんなオータムブランドだ。

「名雪さんに色々とモニターしていただけるんでしたら、今回お買い上げの品も値引きして差し上げますよ〜」

 佐祐理にそうまで言われてしまっては、名雪も了承せざるを得なかった。

 

「う〜ん」

 家に戻ってから祐一は、みんなで夕飯を食べた後にお風呂に入ろうとしていた。入浴前のひと時、祐一は鏡の前で今日買ってきたばかりの下着を着けて、鏡の前でついついポーズをとってみたりなんかしていた。

 祐一はちょっと前かがみになって、胸元を強調するようなポーズをとってみる。とてもじゃないが名雪ほどの谷間は望めないが、それでもしっかりと自己主張しているようには見えた。

 しかし、自分の体が着実に女の子の体に成長しているというのは、喜ぶべきなのか悲しむべきなのか祐一には判断がつかない。とはいうものの、こういう可愛い恰好が出来る自分を楽しんでしまっている時点で、もう後戻りはできないのだろうかと、嫌な予感が祐一の脳裏をかすめるのだった。

「あら、祐一さん」

「あ……秋子さん……?」

 ちょうどそんな時に、脱衣所に秋子が入ってきた。

「それが祐一さんの新しい下着ですね? どうです、どこか苦しいところとかきついところはありますか?」

「あ、はい。大丈夫です」

 秋子は祐一の脇とかに指を入れて痕になっていないかどうか確認してみるが、特に締めつけられているというところはなさそうだ。一昔前には寄せてあげるブラというのが流行ったが、結構肌とかを締め付けて無理やり谷間を作るというものであったため、あまり着け心地が良いものであるとは言えないものもあったので、秋子も気になっていたのだった。

 それに比べたら最近は自然な形で谷間を作るデザインのものが主流になっているので、着け心地に関してはかなり改善されていた。

「昔はそういうところに気を使ったものがありませんでしたからね。だからブラをつけるのを嫌がる女の子も多かったんですよ」

「そうなんですか」

 秋子と一緒の湯船の中、祐一はそんな話を聞いていた。聞くと昔は名雪も自分にあったブラもなく、着けるのも恥ずかしがったために相当なブラ嫌いになってしまったのである。

 そんな名雪のために秋子は、自分の手縫いでブラを作ってあげた事もあるのだ。そのおかげで今は名雪もブラ嫌いでは無くなっている。

「確かに下着は恥ずかしいものかもしれませんけど、体を守る働きは勿論、保温や体の補正効果もあるんですよ。こんな素敵なものを身に着ける事が出来るのは、女の子だけの特権なんですから」

 そう言われてみると、女の子用の下着にはレースやプリント、フリルに刺繡という具合に、どれも可愛く綺麗に作られている。その意味で男の下着とは大違いだ。

「……いや、まあ……。それはそうなんでしょうけど……」

 秋子の豊かなバストの感触を背中で感じながら、祐一は湯船の中で頭を抱える。

「……なんで俺は秋子さんと一緒にお風呂に入っているんでしょうか……?」

「別にいいじゃありませんか? 昔は一緒に入っていましたし」

「そりゃまあ、そうでしょうけど……」

「それに今は女の子同士なのですから」

 女の子、と秋子がいうところに多少引っかかるものを感じるものの、同性である事には変わりない。

「ですから、なんの問題もありません」

「う〜……」

 妙に釈然としないものを感じながら、のぼせるまで秋子と一緒にお風呂にはいっていた祐一であった。

 

「ふぅ……」

 祐一とお風呂に入った後、自室に帰った秋子はほっと一息ついた。

「やっぱり、祐一さんにモニターをしてもらって正解でしたね」

 成長期の女の子のための下着を考える上で、今まで秋子のモニターを務めていたのがあゆだったが、ここ最近はかなり成長が著しいせいか、ジュニア用のモニターには適さなくなっていたのだ。

 その点、祐一ならまだ成長途上であるために、秋子にしてみればジュニア用の下着をデザインする上で、祐一が女の子になってしまったのは丁度よかったのである。

「新しいデザインのためにも、祐一さんにはもう少しの間女の子でいてもらいましょう」

 実は、オータムブランドの創始者である秋子。祐一を元に戻すためのジャムと、新しい下着のラフスケッチを交互に見ながら、秋子はいつもの微笑みを浮かべるのだった。

 

 後日、ある日の百花屋。

「香里さん、こちらですよ〜」

 店内に足を踏み入れた途端ににこやかな声が響く。佐祐理の座る窓際の席に着いた香里は、早速ブレンドコーヒーを注文する。

「はい、香里さん。これがご依頼の品です」

 佐祐理が差し出した二枚のメモ。そこには祐一のシークレットデータが記載されていた。実は文華祭の出し物である、祐ちゃんが一人でコスプレする喫茶店のため、衣装を用意する関係上香里には祐一の最新データが不可欠だったのだ。

 そこで香里は佐祐理に頼み、祐一の最新データを入手したのである。

「一応、それが祐一さんのデータですけど、香里さんは二枚目の方は見ない方がいいと思いますよ〜」

 そう言われると、見たくなるのが人情というものである。しかし、二枚目に記載された名雪のシークレットデータを見た時、香里の目が驚愕に大きく見開かれた。

「うそ……」

 名雪とは親友だと思っていた。それはこれから先も、ずっと変わらないものだと香里は思いこんでいた。

 だが、名雪のバストが香里より3センチも大きくなっている事実に、香里は裏切られたような気持ちでいっぱいになった。

(名雪ったら、一体どうやってバストアップを? まさか、相沢くんのおかげ……?)

 顔面蒼白になって狼狽する香里の様子を、佐祐理はただ穏やかな微笑みで見守っていた。

 

 文華祭当日まで、あとわずか。

 悲喜こもごものドラマはまだ続きそうであった。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送