雪が降りしきる深夜の公園で、祐一は栞と最後の時を迎えようとしていた。
二人が並んで腰掛けている後ろでは、カクテルライトに照らされた噴水がきらびやかに輝いていた。
「祐一さんは、わたしの命の恩人なんですよ」
「そんな、大げさな」
栞は不意に席を立ち、祐一に背を向けた。
「祐一さんは……わたしとはじめて出会った時の事を憶えていますか?」
「中庭での事か?」
「違います。その前の事です」
祐一はその前の事に思いを巡らせた。
「思い出したぞ、確かあゆの食い逃げに巻きこまれて遊歩道に逃げ込んで、それで栞に会ったんだ」
「はい、あの時の祐一さん、とても面白かったですから……」
「俺が……面白い……?」
栞は笑顔でそう言うが、祐一にはなにも思い当たる事がなかった。あの時祐一は、ただ普通にあゆをからかっていただけだったので、今の栞の台詞がうまくかみ合わなかった。
「だって……あの時の祐一さん……」
栞は不意に頬を赤くし、祐一から視線をそらした。
「……チャック、全開だったんですよ……」
「……え?」
栞の言葉に、祐一の目が点になった。
「あゆさんもそれに気がついた様子が無くて『感動の再会シーンだよ』って言ってましたけど……」
あの日を懐かしむ様に栞は話を続けた。
「あの後わたし家に戻って……。誰もいない暗い部屋で……。買ってきた買い物袋の中から黄色いカッターナイフを取り出して……。銀色の刃を押し出して左の手首に当てたんです……。そしたら、不意にその時の光景が浮かんできて……」
栞は真っ直ぐに祐一を見た。振り向いた栞の顔には笑顔があふれていた。
「笑いました、思いっきり。心の底から、涙を流して」
「ぐあぁぁぁぁぁ」
祐一は頭を抱えてもだえ苦しんだ。
「笑って……笑って……笑い終えたときにはもう、死のうなんて気は起きなくなっていました。だから祐一さんは、わたしの命の恩人なんです」
そう言ってくれるのは嬉しいのだが、あまり嬉しくない祐一であった。
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