それは、春の日の出来事だった。
「あの、秋子さん。ちょっとお話、いいですか?」
「了承」
「あのですね、秋子さん。話の内容も聞かないで、了承しないで下さい……」
秋子さんはいつもの様子で、冗談ですよ、と微笑んだ。
「どうしたんですか? 祐一さん。そんな改まった言い方をして……」
「あのですね、実は……」
祐一は言いにくそうにうつむき、指を絡めた。
「実は、名雪のお腹に俺の子供が……」
秋子さんはいつもの笑顔だった。
「はうっ……」
その笑顔のまま、秋子さんは卒倒した。
「秋子さん? しっかりしてください、秋子さんっ!」
「名雪、秋子さんの具合はどうだ?」
祐一は、秋子さんの看病をしていた名雪に声をかけた。
「すっごいうなされてるよ……」
名雪は少し睨むような視線を祐一に向けた。
「お母さん『わたしがおばあさんに、わたしがおばあさんに』ってうわごとを言ってるんだよ……」
「そうか……」
「祐一が悪い」
「反省してるって」
今日は4月1日。これは、エープリルフールに祐一が用意した嘘だった。
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