それはある晴れた朝のことだった。祐一は秋子さんと二人でキッチンにいた。テーブルの上の祐一の手は激しく動いていた

 ぐしゅぐしゅぐしゅぐしゅ……。

「祐一さん……そんなに激しくしたら、壊れちゃいますよ……。もっと……ゆっくりお願いします……」

「こうですか? 秋子さん……」

 祐一は少しペースを落とし、大きくこねるように手を動かした。

 ぐしゅ、ぐしゅ、ぐしゅ、ぐしゅ……。

「そう、そんな感じで……。お上手ですね、祐一さん……」

「見てください秋子さん。ほら、こんなにたっぷりと糸を引いてますよ……」

「やだ、祐一さんったら……」

恥ずかしそうに秋子さんは顔を背けた。それを見て祐一はずずっ、と音を立てて豆を吸い上げた。

 たっぷりと糸を引いた豆の、ねっとりと舌に絡みつく様な、この感触がたまらなかった。

「あ……祐一さん。お行儀、悪いですよ」

「すみません、秋子さん。あまりおいしそうだったんで、つい……」

「もう……しかたがないですね……」

「うにゅ……?」

 そこに、寝ぼけ眼の名雪が現われた。

「な……名雪っ?」

 名雪の姿を見たとき、祐一の手が一瞬止まった。

「おふぁようございまふ……」

「ああ、おはよう……」

「祐一、何してるの?」

「な……何って、これは……」

 なぜか知らないが、祐一は妙にうろたえていた。

「あら、おはよう名雪。納豆あるわよ、食べるでしょ?」

「うん」

 名雪は線になった目のまま自分の席につくと、お箸で納豆をかき混ぜはじめた。

「なっと、なっと」

 名雪は豆を壊さない様に、丁寧にお箸で納豆をかき混ぜていた。

「びよん、びよん」

 糸を引くのが本当に楽しそうだった。

 それにしても、名雪が誰にも起こされずにこんなに早く起きるなんてな。その事に少しだけ驚いた祐一であった。

「秋子さん、おかわり」

「はいはい」

 いつもの平和な朝だった。

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