それは、ある日の夜のことだった。祐一がなかなか寝付けずにいて、うっすらとまどろんでいると、小柄な影が祐一の部屋にゆっくりと忍び込んできた。

「あはは〜……」

 小柄な影は祐一の寝息を確かめると、低く笑い声を上げた。

「……って、その声は佐祐理さん? なんでこんなところに?」

 祐一が慌ててつけた部屋の明りの中には、寝巻き姿で微笑む佐祐理の姿があった。

「はい、了承と言われましたので」

 何を了承したんですか秋子さん。と、祐一は口の中で呟いた。

「それに佐祐理さんも、なんなんですか? その格好は……」

「なにって……ネグリジェですよぅ。もしかして、祐一さんご存知ないんですか?」

「いや、ネグリジェは知ってますけど、なんでそんな格好なんですか?」

「あの……やっぱり似合いませんか?」

 そう言う問題じゃないような気がする祐一であった。

「それより、なんなんですか? こんな夜中に……」

「はい、ちょっと恥ずかしいんですけど……」

 佐祐理はそっと頬を赤らめた。

「佐祐理、祐一さんには普段からお世話になってますから。そのお礼と言ってはなんですけど……佐祐理、今夜はどうしても祐一さんに楽しんでいただきたくて……」

「……お楽しみ、ですか……?」

「祐一さんは、そのままで楽にしていてくださいね。こう見えても佐祐理、尺八上手なんですよ」

「しゃ……尺八ですか?」

 祐一は思わず生唾を飲み込んだ。

「あ……祐一さん、そんなに見つめないでください……佐祐理、ちょっと恥ずかしいです……」

 そう言うと佐祐理は、そっと顔を背け、頬を桜色に染めた。

「じゃあ、いきますね。祐一さん……」

「はい、よろしくお願いします……」

 この舌の使い方もさる事ながら、佐祐理の咥えぶりは見事であった。まるで絡みつくような指の動きも、素晴らしかった。

 祐一は思わず感嘆のため息をついた。

「なるほど……お上手ですね。尺八……」

「はい。お父様も上手だって、ほめてくださいました」

「本当にお上手ですね、尺八……」

「はい」

 祐一の目の前には、尺八を持って微笑む佐祐理の姿があった。

 確かに尺八なのは間違っていないが、根本的に何かが間違っている様な気がする祐一であった。

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