それは穏やかな春の日だった。その日名雪は香里と一緒に春休みの宿題を片付けていた。
「うにゅ〜ん祐一……だめだよそんな事しちゃ。あ……だめだってば……。やめて祐一……いや〜っ!」
「名雪。名雪ってば」
香里は、名雪の体をゆすって起こした。
「はれ? おはよう、香里……」
「おはよう、じゃないわよ。名雪」
香里は少し口の先をとがらせた。
「名雪が一緒に勉強しよう、って言うからこうしてるのに。寝ちゃわないでよね」
「ごめ〜ん、香里……」
「そんな事より名雪、なにかあったの?」
「へ……?」
「だいぶうなされてたわよ。わたしでよければ、相談にのってあげるわ」
「もう、聞いてよ香里。祐一ったらひどいんだよ」
「それは、今にはじまった事じゃないと思うけど?」
「わたしがやめてってお願いしてるのに、祐一ったら強引に……」
「ご……強引に?」
香里は思わず机の上に身を乗り出した。
「コタツ、片付けちゃったの」
ドガシャア、とものすごい音を立てて、香里は机に頭をぶつけた。
「もしかして……それだけ……?」
「うん。でもね、その後で祐一ったら言ってくれたの『寒い時は、俺が暖めてやるから』って……」
「そう……よかったわね……」
「それでね、それでね、祐一ったらね……」
このあと香里は、延々一時間半にわたって名雪のノロケ話に付き合わされた。
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