ある日の放課後のことだった。
「おい、起きろよ北川。もう授業終ったぞ」
「ん……ああ……」
ホームルームの終了後、祐一は北川を起こしてやった。
「おはよう、相沢。グッドモーニング」
「グッドモーニングじゃねえよ。お前が授業中ずっと寝てるもんだから先生も呆れてたぞ。一体どうしたんだ?」
「なんでもないよ。ただ、ちょっとバイトがきつくてな……」
「そんなに必死にバイトして、どうするんだ?」
「それは男の秘密だから言えねえな。じゃ、お先」
そう言って北川は、足取りも重く教室を出ていった。
「一体北川の奴、なんであんなに必死になってバイトしてるんだ?」
「もしかすると……あれが原因かもしれないわね……」
それまで黙って話を聞いていた香里が、不意に口を開いた。
「何か知ってるのか? 香里」
「前に北川くんに聞かれた事があるのよ。なにか欲しいものはあるか? って……」
「なんて答えた? 香里……」
不意に嫌な予感が、祐一の脳裏をかすめた。
「大した事じゃないわ。わたしはただ……」
次の瞬間香里が口にしたものは、祐一の想像を遥かに越えるものだった。
「プラダのバックと、エルメスのスカーフと、シャネルのスーツと、フェラガモの靴が欲しいって言ったのよ」
「それが原因じゃないか!」
「相沢君、人聞きの悪い事言わないで。わたしは欲しいって言っただけで、北川くんに『買って』なんて言った憶えはないわ」
「え……そうなのか……。ごめん、香里……」
「北川くんが勝手に持ってくるのよ……」
「……………………」
なんとなく祐一は、女の怖さを垣間見た様な気がした。
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