それは、ある日のことだった。
「祐一〜、いる〜?」
軽く扉をノックして名雪が部屋に入ると、祐一が机に向かって難しい顔をしていた。
「祐一、どうしたの?」
「ああ、名雪か……」
「ああ、じゃないよ。どうしたの? 祐一。なんだかすっごい難しい顔してたけど……」
「いや、実はさ。今度カノンがアニメ化される事になっただろ……」
「うん」
「それでさ、俺ヒロインのイベント全部こなさないといけないから。だから、ちょっとそのスケジュールをな……」
「スケジュール……?」
「ああ、大変だぞ。まず、朝お前を起こして朝食を食べるだろ。次に佐祐理さんたちとお昼を食べて。その後中庭で栞とアイスを食べて。放課後商店街であゆと一緒にたい焼き食べて。家に戻ったら夕食の前に真琴から肉まんを失敬して。夕食を食べたら夜の学校の舞のところに行って、一緒に夜食を食べるんだ……」
「……なんだか祐一、食べてばっかりだね……」
そう言って名雪は、祐一のスケジュール表を覗きこんだ。
「あ、ねえ祐一。ちょっと聞いていいかな?」
「なんだ?」
「わたしのイベントはどうなってるの?」
「え……?」
「もう、祐一。わたしのイベントだよ」
名雪はちょっぴり頬を膨らませた。
「あ……それは……」
すっかり忘れてた。とは口が裂けても言えない祐一であった。
「わたしの……イベント……」
名雪はじわりと涙目になった。
「あ……え〜と……その……」
祐一は必死に言い訳をしようとしたが、とっさになにも浮かんでこなかった。
「祐一なんて、知らない!」
名雪は、ぷい、とそっぽを向いた。
「あ……怒るなよ、名雪。かわりにお前の言う事、なんでも聞いてやるからさ、機嫌直せよ」
「本当に?」
名雪の目が、一瞬きらりと輝いた。
「ああ、本当だ」
「じゃあねえ……」
名雪はいたずらっ子の様に微笑んだ。
「イチゴサンデー七つ。それで許してあげるよ」
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