アニメの製作も順調なうちに進み、今日の撮影が終わった祐一はスタジオ内でのんびりくつろいでいた。
「あ、祐一〜」
名前を呼ばれて祐一が振り向いてみると、体操服姿の女の子が小走りに駆け寄ってきた。
「え〜と……誰だっけ……?」
一応アニメに出てくるヒロインは全部押さえていた祐一であったが、この女の子に祐一は見覚えがなかった。
何処かで会った様な気もするのだが、どうにも思いだせなかった。
「もう、わたしだよ祐一」
「……名雪か……。いや、一瞬誰だかわからなかった」
「……一瞬にしては、ずいぶん間があったよ……」
流石になにも言い返せない祐一であった。
「それよりどうしたんだ? その格好……」
「ああ、これ? 今走るところの撮影が終ったところなんだよ」
「そうか……」
それにしても、と祐一はふと思った。
普段見慣れたいとこも、着るものが変わっただけで、こうも印象が異なるものなのか、と。
「何? 祐一。じろじろ見ないでよ……」
「あ、いや。その……」
出来ればこの格好の名雪を、心の中のスクリーンセーバーに、いやデスクトップの壁紙に、と言うよりもむしろなにかの記念に残しておきたいと思った祐一は、ある事を思いついた。
「あのさ、名雪。ちょっと悪いんだけど……」
「なあに?」
「その格好で、ちょっとアイキャッチやってくれないかな?」
「え……?」
名雪の頬が、さっと赤くなる。
「あ……でも、わたしこんな格好で……」
「いや、その格好だからいいんだ」
「なんで?」
名雪は笑顔で聞き返してくる。普段見慣れた名雪の笑顔が、今の祐一には妙に痛かった。
「いや、なんでって言われてもな……」
流石に本音は言えない祐一であった。
丁度その時である。
「うおおぉぉぉぉ……!」
突然二人の後ろから叫び声が響いた。
「うおわっ?」
「北川くん……?」
「うおおぉぉぉぉ……!」
二人が振り向いたその先で、北川は再度吼えた。
「水瀬の体操服姿……。くぅ、こいつはいいぜえ、萌え……」
そこまで言ったあたりで、突然鈍い音が響いた。
ゆっくりと崩れ落ちる北川の背後には、いつのまにか香里が立っていた。
「二人共邪魔したわね。じゃ、お先」
そう言って香里は北川の足をつかむと、そのままずるずると引きずっていった。
「今香里の右手に、メリケンサックが握られてなかったか……?」
「それより北川くんの後頭部、陥没してたような気がしたけど……」
不思議な沈黙が、二人を包んだ。
「まあ、それはさておき。頼むよ、名雪」
「うにゅうぅ……わかったよ……」
じゃあ、本番行きます。
5・4・3・2・1・キュー!
「……かのん……」
はい、オッケー。お疲れ様〜。
「うにゅぅ、すっごい恥ずかしかったよ〜」
「お疲れさん」
「あ、でもさ祐一」
「なんだ?」
「このアニメ、なんだかわたしばっかりアイキャッチしてるみたいだけど……いいのかな……?」
ああ、いいんだ。と祐一は内心口にした。
「そんなことより、早く着替えてこいよ。まさかその格好のまま帰る気じゃないだろうな?」
「あ、うん。待っててね、祐一。すぐ着替えてくるから」
そう言って走り去る名雪の後ろ姿を見ながら、祐一は心の中で名雪に謝った。
(ごめん、名雪。本当はこのアニメ、あゆエンドなんだ……)
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