狼と七匹の子ヤギと一匹の子狐
「それじゃ、私は出かけてくるから。留守をよろしくお願いしますね」
「はい、佐祐理に任せてください。それではお母様、いってらっしゃいませ」
一番上のお姉さんヤギ佐祐理に見送られ、お母さんヤギの秋子さんが出かけていく。ちなみに、秋子さんがどこで何をしているのかは謎に包まれている。
この家には上から順番に佐祐理、舞、名雪、あゆ、香里、美汐、栞の七匹の子ヤギと、居候の子狐、真琴が一緒に住んでいました。
するとそこへ、とっても怖い狼さんがやってきました。
「くそっ……。なんで俺が狼なんだ……」
そう文句を言いながら狼さん、祐一は家の前に立った。
「お母さんだよ、開けておくれ……」
祐一はとりあえずお約束の言葉をかけた。このあと『声が違う』とか『手が黒い』とか散々文句言われるんだよな、と祐一は、ある程度先の展開を読んでいた。
とか考えていると、唐突に扉が開いた。
「随分と早いお帰りですね、お母様」
「え? あの……」
「疲れたでしょう? 早くお入りになって」
「は? はあ……」
応対した佐祐理の態度に不思議なものを感じた祐一であったが、佐祐理に勧められるままに奥に招かれた。
「はい、どうぞ」
「あ、どうも」
祐一は佐祐理に勧められた紅茶を一口飲む。口の中にかぐわしい香りが広がり、それだけで上等な茶であることがわかる。
だが、次の瞬間祐一は体の自由を奪われた。
「ぐあっ!」
「流石に、栞さんの作った薬は良く聞きますね……」
「一体……なにを……」
その祐一の質問には答えず、佐祐理はただ笑顔で祐一を見つめていた。そのときの『佐祐理スマイル』はとてつもなく恐ろしいものであったと、後に祐一は語った。
「ふぁ……いいです、祐一さん……。ああ……」
「佐祐理ばかりずるい……」
「そうだよ、ボクにも」
「祐一は、わたしのものなんだよ〜」
そういういかがわしいことをしていると、ふいに玄関の扉が開いた。
「ただいま……あら?」
「あ……秋子さん? これは……」
「了承」
「は?」
「私も……久しぶりですから……」
「あはは……」
もはや乾いた笑いしか出てこない祐一であった。
こうして、子ヤギを食べに来た狼さんは、逆に食べられてしまいましたとさ。
とっぺんぱらりのぷぅ。
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