食い逃げの理由1

 

「うぐぅ……仕方なかったんだよ……」

「どう仕方無かったんだ?」

「話せば長くなるんだけど……」

「どうせ時間はあるんだから、気にするな」

「複雑な話なんだけど……」

「大丈夫だ」

「実は……」

 そう言ってあゆは語り始めた。

 

「それでね、そのときにボクのりんごを齧ったネズミを捕まえた猫の尻尾を踏んづけた犬がくわえていた棒を切ったのこぎりを持ったおじさんが……。ねえ、祐一くん。ちゃんと聞いてる?」

「あ……聞いてる、聞いてるから……」

 すでに日は落ち、あたりは真っ暗になっていた。商店街の店のほとんどは店じまいを始めており、風もだいぶ冷たくなってきていた。

「はい……。それじゃ、原稿は明日の朝一で……はい……」

 祐一は飢えと寒さにより、錯乱状態となっていた。

 そしてあゆは、それから実に千一夜にわたって、壮大な食い逃げストーリーを語り続けたのである。

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