しりとり
「……………………」
この日舞は、いつまでも降り止まない雨を物憂げな瞳で見つめていた。
「いくら眺めてたって、雨は降り止まないぞ。舞」
祐一の声に振り向いた舞ではあるが、その瞳からはまだあきらめきれない様子が窺える。
今度の日曜日に、みんなで動物園に行こう。そう提案したのは祐一だ。その日なら佐祐理のアルバイトも休みだし、都合がいいと思われたからだ。
しかし、祐一の日ごろの行いが悪いせいか、生憎の雨。せっかくの動物園行きも中止となってしまったのだった。
「仕方がありませんね〜」
いつもの、あはは〜、という笑い声もどこか力なく聞こえる佐祐理。
「それじゃあ、舞。佐祐理としりとりをしましょうか」
「……しりとり」
舞の瞳が輝く。どうやらやる気のようだ。
「舞からでいいですよ〜」
「きりんさん」
いきなり自爆する舞に、思いっきりずっこける祐一。
「ンジャメナ(チャドの首都)」
しかし、佐祐理は気にした様子もなく、続けていく。
「なまけものさん」
「ンゴロンゴロ(ケニアの国立公園)」
「ろばさん」
「ンドゥトゥ(タンザニアの地名)」
「うしさん」
「ンヴェネ(アフリカ北部に伝わる文化英雄の名前)」
「ねこさん」
「ンガ(ロシアに伝わる神様の名前)」
「かもしかさん」
ちなみに、しりとりのルールでは、濁点や半濁点はとってもいいことになっている。
「ンガンガ(アフリカにおける呪医の呼び名)」
「かるがもさん」
「ングウォレカラ(コンゴにおける魔物の王様)」
「らいおんさん」
「ンゲ(ラオスの少数民族)」
「けむしさん」
「ンゲウォ(西アフリカの天空神の名前)」
「おおありくいさん」
「ンゴツィ(ジンバブエに伝わる邪悪な精霊の名前)」
「いぬさん」
「ンゴナ(ジンバブエの民間伝承にある、精液と男根を象徴するアイテム)」
「なまこさん」
「ンザンビ(中央アフリカ西部に伝わる最高神の名前)」
「ひよけざるさん」
「ンジャムビ(ンザンビの別称)」
「ひょうさん」
「ンデンゲイ(フィジーにおける最高神で、蛇の神様)」
「いるかさん」
「ンドグボジュスイ(西アフリカに伝わる魔神の名前)」
「いんこさん」
「ントロ(アフリカ西部の民間伝承で、霊を意味する言葉)」
「ろぶすたーさん」
「……ちょっと待ってくださいね、舞……」
「……佐祐理さん、事典で調べてまで付き合う必要ないと思うんですけど……」
平和なひと時であった。
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