無限に広がる大宇宙

そこには、無数に輝く星のきらめきを我が物にしようと企む悪の組織があった

全銀河支配を企む悪の宇宙犯罪組織セイトカイ、その魔の手が地球へと迫る

事態を重く見た銀河連邦刑事警察機構は地球の平和、ひいては宇宙の平和を守るため、一人の戦士を地球に向かわせた

彼の名は

 

宇宙刑事カノン

 

これは、一人の少年の愛と勇気と友情の物語である

 

「祐一〜、放課後だよ〜」

「おお」

 いつものやりとりで、突っ伏していた机からゆっくりと身を起こす祐一。隣の席で穏やかな笑顔を浮かべているいとこの少女を見ているうちに、なぜだか祐一は平和であることを実感していた。

 祐一が宇宙刑事になるためにカノン星へ旅立ってから、すでに七年の歳月が過ぎ去っていた。そして、祐一は念願の宇宙刑事となり、宇宙犯罪組織セイトカイの野望を打ち砕くため、再び地球へ戻ってきたのである。

 祐一の父親はかつて地球の平和を守った伝説の宇宙刑事であり、現在はカノン星に本部を構える銀河連邦刑事警察機構の司令長官を務めている。その妻で副官を務める母親は地球人であるため、祐一にとって地球は母の故郷となる星だ。また、地球で幼少期を過ごした祐一にとって、そこはいとこの名雪や叔母の秋子が住む星でもある。かけがえのない大切な仲間がいる地球を守るため、祐一は宇宙犯罪組織セイトカイに敢然と立ち向かうのであった。

「どうしたの? 祐一」

「うん? なにがだ?」

「今、ちょっと難しい顔してたよ?」

 ついつい思索にふけってしまったが、名雪は心配そうな顔で祐一をじっと見ている。実のところ、祐一が宇宙刑事をしていることを名雪は知らない。これは叔母である秋子も知らない事実だ。それに祐一にしても自分が銀河連邦刑事警察機構から派遣されてきた宇宙刑事であることを話したところで、常識を疑われるのがオチだろうと思っている。

 しかし、いつまでも心配そうな表情を浮かべている名雪の姿を見ているのは祐一としてもつらい。そこで祐一は努めて明るい笑顔を名雪に向けた。

「いや、なんでもないさ。それより、名雪はこれからどうするんだ?」

「うん。今日は部活がお休みの日なんだよ」

「それじゃ、とりあえず商店街だな」

「うんっ!」

「……相変わらず仲がいいわね」

 そんな二人のやりとりを、クラスメイトの香里がじっと眺めていた。

「そんなことはないぞ、香里。こう見えても、顔を合わせるたびに生傷が絶えないんだ」

「ええっ? そうなの、祐一」

「冗談を本気にするな」

「本当、仲がいいわね」

 そんないつものやりとりに、香里は呆れたような溜息をついた。確かにこうした名雪との会話は、祐一にとっても多少マンネリ化しているような気がする。しかし、宇宙犯罪組織セイトカイの脅威が身近にある今、こんな些細なことでも祐一にはかけがえのない一時なのだ。

「そうだ。わたし達これから商店街に行くんだけど、香里も一緒にどう?」

「あたしは遠慮しておくわ。だって馬に蹴られたくないもの」

 そう言って、香里は意味ありげな微笑みを浮かべるのだった。

「あのなあ、香里。お前なにか誤解してるぞ」

 祐一が香里の誤解を解こうとしたその時だった。突如として凄まじい大音響が中庭から轟いてきた。

「ふははははっ! この学園は、今日こそ我がセイトカイが支配するっ!」

「なんだ?」

 あわてて祐一が教室の窓から中庭を見下ろしてみると、そこでは大勢の生徒が逃げ惑う中、なにやら派手な格好の男が一人に、黒い甲冑のようなコスチュームの少女と、白いゆったりとしたローブをまとった少女の三人組。それに緑色の巨大なカエルのような怪物が暴れていた。

「祐一くんっ! 大変だよっ!」

「中庭にセイトカイの怪物が現れたのよぅっ!」

 そこに駆け込んできたのが、あゆと真琴の二人だった。この二人も祐一と同じくカノン星で訓練を受け、宇宙刑事として地球にやってきたのである。祐一とは別のクラスになったあゆと、一学年下となった真琴は口々に中庭で起きている危機を話し続けている。

「ああ、それはわかってる。……だが、妙だぞ?」

「うぐぅ、なにが?」

「セイトカイの怪物だけならわかるが、あそこにはダークゼーにみらくるまいたん、それにまじかるさゆりんまで揃っている」

「そう言えば……」

 この三人はセイトカイの中でも中核を占めるメンバーだ。リーダーのダークゼー、黒い甲冑に身を包んだ幹部のみらくるまいたん。同じく幹部で白いローブ姿のまじかるさゆりんの三人は、いずれ劣らぬ強敵だ。

 なぜこの三人がここに集っているのか不明だが、セイトカイを壊滅させるのに好都合ではないかと思われた。

「ここにいたのか、相沢っ!」

「北川?」

 そんなとき、教室に北川が駆け込んできた。

「セイトカイの奴らが現れたんだ。お前達も早く逃げろっ!」

「そういや、名雪と香里はどうした?」

「そいつらならとっくの昔に逃げ出してるぞっ!」

 それだけ言うと北川は、他のクラスにも危機を知らせるべく走り去っていった。

「祐一くん、ボク達も早くっ!」

「そうよぅ、急ぐのよぅっ!」

「あ? ああ」

 普段はトロそうに見えるのに、こういうときだけは素早い名雪の行動に首をかしげつつ、祐一はあゆ達と一緒に中庭に向かった。

 

「ゆけいっ! サイトーダー。今日こそこの学園を我が支配下に置くのだっ!」

「ゲシャシャシャシャシャシャ!」

 ダークゼーの命令で、緑色のカエルのような怪物、サイトーダーが逃げ惑う生徒にゆっくりと向かっていく。

「ギシャァァァァァァッ!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 大きな爪のついたサイトーダーの手が、足をもつれさせて転んだ生徒にかかろうとしたその時、どこからともなく飛来した一枚のカードがその腕に突き刺さる。

「そうはさせないよっ! ダークゼー」

「誰だっ?」

 ダークゼーがその声の方向を見ると、屋上のあたりに二人の人物が立っていた。体形からすると二人ともかなりプロポーションのいい女性のようだ。

「我ら、学園の平和を守るっ!」

「二人の美少女戦士っ!」

「ブルマー仮面っ!」

「同じく、スクミズ仮面っ!」

 正義のスーパーヒロインの登場に、逃げ遅れた生徒達がやんやと歓声を浴びせた。よく見ると、ブルマーに体操着のようなコスチュームに身を包んだ少女はストレートロングの青髪で、スクール水着のようなコスチュームに身を包んだ少女は緩やかなウェーブのかかったブラウンのロングヘアだった。

 仮面をつけているのでどこの誰かはわからないが、あえて誰なのかを突っ込まないのがお約束である。

「あなたの好きにはさせないよっ! ダークゼー」

「今日こそ引導を渡してあげるわっ!」

「くそ生意気な小娘どもが……。奴らから始末しろ、サイトーダー!」

「いくよっ! ブルマーキック!」

 屋上から飛び降りる際の加速度を上乗せしたブルマー仮面のキック力は、通常の三倍以上の破壊力を持つ。しかし、サイトーダーは微動だにせず、大きく口を開けた。

「ギシャシャシャシャシャ!」

「え? きゃああああああっ!」

 次の瞬間、ブルマー仮面はサイトーダーの口から飛び出した無数の触手にその体を絡め取られてしまう。しかもサイトーダーの触手からはぬるぬるとした粘液が分泌されており、ブルマー仮面はあっという間に身動きが取れなくなってしまった。

「な……よくもブルマー仮面をっ!」

 続いて飛び降りてきたスクミズ仮面は、両手にはめた銀色のナックルでサイトーダーに攻撃を仕掛けるが、体の表面にもぬるぬるとした粘液が分泌されているせいか、サイトーダーはいささかの痛痒も感じていないようだ。

「ギシ……ギシシ……」

「あ、いやぁぁぁぁっ!」

 絡みつくサイトーダーの触手が、徐々にブルマー仮面を締め付けていく。おまけにその途中でサイトーダーはブルマー仮面の手足に絡みついた触手で、描写に年齢制限が加わりそうな格好をさせていた。そして、ブルマー仮面のバトルスーツから、白い煙が上がりはじめる。

「! これは……」

 サイトーダーに攻撃を加えていたスクミズ仮面のナックルが、白い煙をあげて徐々に溶解をはじめた。そればかりかスクミズ仮面のバトルスーツは、飛び散ったサイトーダーの粘液が付着した部分を中心に白い煙をあげて穴が開いていく。

「ふははははっ! サイトーダーの粘液は触れただけでお前達のバトルスーツを溶かしていく。後十分もすれば、丸裸だっ!」

「くっ……」

 そうなると、スクミズ仮面もこれ以上攻撃ができない。ブルマー仮面を救いだす方法もない。正義のスーパーヒロインが絶体絶命のピンチを迎えている時、ダークゼーとサイトーダーは結構ノリノリであったが、女幹部であるみらくるまいたんとまじかるさゆりんの二人は、ただ冷ややかな視線を向けるのみだ。

「……どうしたらいいのよ……」

 打つ手なしのこの状況に、スクミズ仮面はただ唇をかみしめるのみだった。

 

「くそっ! 遅くなったか……」

 祐一達が中庭に到着した時、正義のスーパーヒロインがピンチに陥っていた。

「もう、遅くなったか、じゃないよっ!」

「そうよぅっ! どうして中庭に行くだけで迷子になるのよっ!」

 方向音痴の祐一について走っていたせいか、三人が中庭に到着するまでに随分と時間がかかってしまっていた。正義の味方らしからぬ失態である。

「そんなことよりっ! ブルマー仮面がピンチだよっ!」

「あう〜っ! 大変なのよぅっ!

「わかってるって、どうしたらいいんだ……」

 サイトーダーの触手に絡みつかれたブルマー仮面のバトルスーツはほとんど溶解しており、残るは上下のアンダーのみという格好だった。どうやらサイトーダーの粘液は中身に傷をつけず、彼女達のバトルスーツや武装のみを溶解するらしい。

「……ねえ、祐一くん」

 その時あゆは、難しい表情で事態の推移を見ている祐一を、冷ややかな視線で見た。

「なにか一生懸命対策を考えているように見えるけど。……もしかして、ブルマー仮面が全部脱がされちゃうのを待ってない?」

 なかなか鋭いあゆの突っ込みに、祐一は内心冷や汗をかいてしまう。

「ま……まさか、そんなことあるわけないじゃないか……」

「だったら早くなんとかしなさいよぅっ!」

「わかってるって、粘着っ!」

 絡みつく触手の粘液でブルマー仮面が丸裸にされようとした次の瞬間、どこからともなく飛来した光の玉がサイトーダーを弾き飛ばし、絶体絶命のピンチを迎えた正義のスーパーヒロインを救いだす。

「銀河連邦刑事警察機構オリオン腕方面太陽系三番惑星地球アジア地区日本国北方担当ものみの丘分室所属特務捜査官巡査部長、宇宙刑事カノン!」

 救いだしたブルマー仮面をお姫様のように抱きかかえたまま、正義のスーパーヒーローが名乗りを上げた。

 

 宇宙刑事カノンが、コンバットスーツを装着するまでのタイムは、僅か一ミリ秒しかかからない。では、その粘着プロセスをもう一度見てみよう。

「粘着っ!」

 祐一の発した粘着シグナルは、タキオンパルスを応用した量子通信によって、ただちに地球の静止衛星軌道上に待機する機動母艦カノンベースへと転送される。量子の持つ特性を応用したこの通信は、どんなに距離が離れていてもタイムラグ無しのリアルタイム通信を可能としているのだ。

「はいはい、今出ますよ」

 カノンベースのコントロールブリッジに、割烹着に三角巾という格好の少女が慌てて駆け込んできた。赤い警告灯が明滅するコンソールに手を伸ばし、少女は状況を確認する。祐一達の仲間であるこの少女の名前は天野美汐。多少おばさん臭くもあるが、こう見えても銀河連邦刑事警察機構に所属する宇宙刑事なのだ。ちなみに、美汐は祐一やあゆ達のように前線で活躍するのではなく、普段はカノンベースに待機してコンバットスーツの転送などを行う後方任務に従事している。

「ええっと……これは相沢さんからの粘着要請ですね。相沢さんのコンバットスーツは……」

 のんびりとした口調ながらも、美汐はてきぱきとコンバットスーツの転送準備に取りかかった。ちなみに、祐一の装着するコンバットスーツはシルバー地に黒のストライプが入ったシンプルなデザインだ。

「頭部、胸部、腕部、腰部、脚部、これで準備オーケーですね」

 転送装置にコンバットスーツを丁寧に並べ、腰部のホルスターに収められた専用銃と専用剣のエネルギーカートリッジを確認して転送装置のシャッターを閉じる。こういうときに生来の几帳面さを発揮してしまうのが、美汐という少女だ。

「相沢さんの座標は……」

 祐一が粘着シグナルを発した地点を、美汐は正確に割り出していく。このときに少しでも転送ポイントがずれたりすると、後で大変なことになってしまうからだ。

「これで準備完了です。転送開始っ!」

 美汐がスタートボタンを押すと、転送装置内部で原子レベルにまで分解された特殊軽合金製のコンバットスーツが、タキオンパルスを応用した量子通信によって祐一の元まで転送される。

 転送されたコンバットスーツは、黒地のバトルウェアに身を包んだ祐一の体に張り付くようにして実体化する。実はこの装着方法が、粘着の由来だ。

「銀河連邦刑事警察機構オリオン腕方面太陽系三番惑星地球アジア地区日本国北方担当ものみの丘分室所属特務捜査官巡査部長、宇宙刑事カノン!」

 

「大丈夫か? ブルマー仮面」

「え……? あ、宇宙刑事カノン……」

 宇宙刑事カノンの腕に収まりながらブルマー仮面は、また助けられちゃったな、と小さく呟く。普段は学園の平和を守ると豪語しているものの、いざセイトカイの怪物が出てくると、どうしても戦力不足なのだ。

 ザコ戦闘員ばかりならなんとか相手ができるのだが、セイトカイ怪物が相手となると、宇宙刑事カノンにバトンタッチしなくてはいけない。ちなみに、宇宙刑事カノンにしても、ブルマー仮面達がザコ戦闘員を片付けてくれるので、戦闘面での楽ができるのだ。

「ありがとね、いつも助けてくれて」

「いやいや」

 毎度のことながら、コンバットスーツ越しに感じるブルマー仮面の感触は実に心地よい。それで感じるのかという疑問もあるが、実のところこういうのは気分の問題なのだ。ちなみに今回はブルマー仮面のバトルスーツがボロボロであるせいか、宇宙刑事カノンには結構な目の保養になっていたのである。

「あ……」

「お?」

 しばしの間二人きりの世界に入っていたが、そんなときにブルマー仮面の胸を覆っていたバトルスーツの最後のひとかけらが、風に飛ばされてはらりと落ちる。

「サーチスキャン!」

 ブルマー仮面の豊かなバストがポロリとなった瞬間、宇宙刑事カノンの目がそこに釘付けとなる。ヘッドゴーグルに隠されたツインアイがきらりと光り、顔を真っ赤にしたブルマー仮面が手で隠す一瞬のうちに素早く分析を開始する。

(やはり数字の上では83なれど、その容積は流石の領域だ。あゆに真琴、それに美汐ではこれは望めない)

 まったくの余談だが、このデータはリアルタイムでカノンベースに転送されており、これを見た美汐が顔面蒼白になったのは言うまでもない。

「どこ見てんのよ、宇宙刑事カノン!」

 そこに的確な突っ込みを入れたのが、スクミズ仮面であった。見ると彼女のバトルスーツもあちこちに大きな穴が開いている。

「ブルマー仮面はあたしに任せて、あなたはちゃっちゃとあの怪物を倒して頂戴っ!」

「あ? ああ、よろしく頼む」

 半裸のブルマー仮面をスクミズ仮面に任せ、宇宙刑事カノンはサイトーダーと対峙する。

「待たせたなっ!」

「え〜い、戯言をいつまでも……。ゆけいっ! サイトーダー。今日こそ宇宙刑事カノンの最後の日としてやるのだっ!」

「ギシャァァァァァッ!」

 お楽しみタイムを邪魔されたせいか、サイトーダーは怒りの形相で宇宙刑事カノンに迫ってくる。

「レーザーマグナム!」

 右腰のホルスターに装着されたレーザーマグナムを引き抜き、レーザービームを連射する宇宙刑事カノン。通常より多くの熱量が集束するレーザーマグナムのレーザービームが、粘液に包まれたサイトーダーの表皮を容赦なく灼いていく。

「ウガガガガガァァァァァッ!」

 たまらず悲鳴をあげ、もんどりうってのたうち回るサイトーダー。そして、その隙を見逃す宇宙刑事カノンではない。

「レーザーブレード!」

 レーザーマグナムをホルスターに納め、続いて左腰に装着された剣の柄部分を引き抜くと、集束したレーザービームの刀身を持つ光の剣となる。

「とどめだっ! カノンダイナミック!」

 レーザーブレードを最上段に振りかぶり、大きくジャンプした宇宙刑事カノンはサイトーダーをそのまま一気に両断した。サイトーダーは断末魔の悲鳴をあげる間もなく爆炎に消える。それを背景にして宇宙刑事カノンは、ダークゼー達に向き直った。

「こんなザコ怪物で、俺の相手が務まるとでも思ったか?」

「あはは〜、もちろんそんなことは思っていませんよ?」

「……悲しいけど、こいつは捨て駒」

「なに?」

 ダークゼーを守るようにそろい踏みを決めた二人の女幹部が、宇宙刑事カノンと対峙する。

「必殺剣を使った今のお前はかなり消耗しているはずだ。さあ、やってしまえ! みらくるまいたん! まじかるさゆりん!」

「あはは〜いきますよ〜」

 かなりのんびりとした口調でまじかるさゆりんが火球を放つと同時に、みらくるまいたんが黒い影をひくような勢いで迫りくる。

「くっ……」

 鈍い金属音が鳴り響き、宇宙刑事カノンとみらくるまいたんの剣が激しく打ち合わされる。流石にセイトカイの幹部を務めるだけあって、この二人の息の合った連係攻撃に宇宙刑事カノンは翻弄されっぱなしだった。

「ああっ! 宇宙刑事カノンのピンチよぅっ!」

「こうなったらボク達も粘着だよ」

「わかってるわよっ! 粘着!」

「粘着!」

 次の瞬間、まばゆい光を放つ赤い光球とオレンジ色の光球が、みらくるまいたんの猛攻の前に苦戦する宇宙刑事カノンの前に割って入る。

「銀河連邦刑事警察機構オリオン腕方面太陽系三番惑星地球アジア地区日本国北方担当ものみの丘分室所属特務捜査官巡査、宇宙刑事ウイング!」

「銀河連邦刑事警察機構オリオン腕方面太陽系三番惑星地球アジア地区日本国北方担当ものみの丘分室所属特務捜査官巡査、宇宙刑事フォックス!」

 

 宇宙刑事ウイングと宇宙刑事フォックスが、コンバットスーツを装着するまでのタイムは、僅か一ミリ秒しかかからない。では、その粘着プロセスをもう一度見てみよう。

「粘着っ!」

「粘着っ!」

 二人の粘着シグナルは、ただちにカノンベースへ転送される。

「今度はあゆさんと真琴の粘着要請ですか。忙しいですね……」

 普段は祐一が一人で戦えばいいため、この二人が粘着することは少ない。しかし、万が一に備えて、あゆと真琴のコンバットスーツも用意されているのである。

「え〜と、真琴のコンバットスーツは……」

 シルバー地にオレンジとグリーンのストライプが入った真琴専用のコンバットスーツを、転送装置内に美汐は丁寧に並べていく。

「それから、あゆさんのコンバットスーツは……」

 シルバー地に赤のストライプが入ったあゆ専用のコンバットスーツを転送装置内に並べていく途中で美汐の手が止まる。

「……そう言えばあゆさんは、前の戦いのときに胸が苦しくなってきた、と言っていました……」

 コンバットスーツは着用者の体格に合わせて作られており、基本的にそれ以外の者が着用することが出来なくなっている。ある程度成長の終わった成人男子ならともかく、成長期まっただ中の若者であると、着用者の成長に応じてコンバットスーツの更新を行わなくてはいけないのだ。

 特にこれは着用者が女子であった場合、著しく成長する部分に応じて逐一オーダーメイドしていかなくてはいけない。多少のコストはかかるが、着用者の保護を最優先した場合には必要なことだ。

 しかし、あゆとは違い、ここ最近で真琴や美汐はそうした装備の更新をしたことがない。先程祐一がスキャンしたブルマー仮面のバストデータが頭にこびりついているせいか、美汐はかなり複雑な表情であゆ用の新しいコンバットスーツを入れ、転送装置のシャッターを閉めた。

 カノンベースから転送されてきたコンバットスーツは、赤いバトルウェアに身を包んだあゆと、グリーンのバトルウェアに身を包んだ真琴の体に密着するように張り付いていく。

 こうして宇宙刑事ウイングとなったあゆは、背中につけられた銀色の翼が特徴的なシルバー地に赤のストライプの入ったコンバットスーツとなり、宇宙刑事フォックスとなった真琴は、ヘルメット部分に狐の耳のようなセンサーがついた、シルバー地にオレンジとグリーンのストライプの入ったコンバットスーツとなる。

 もっとも、このコンバットスーツとヘルメットのゴーグル形状のせいか、マニアの間で宇宙刑事ウイングは京葉線、宇宙刑事フォックスは湘南新宿ラインと呼ばれているのだ。

「銀河連邦刑事警察機構オリオン腕方面太陽系三番惑星地球アジア地区日本国北方担当ものみの丘分室所属特務捜査官巡査、宇宙刑事ウイング!」

「銀河連邦刑事警察機構オリオン腕方面太陽系三番惑星地球アジア地区日本国北方担当ものみの丘分室所属特務捜査官巡査、宇宙刑事フォックス!」

 

「大丈夫? 宇宙刑事カノン」

「助けに来たわよ」

「おお、宇宙刑事ウイングに宇宙刑事フォックス」

「この人の相手はボク達がするよ」

「宇宙刑事カノンはあっちの相手して」

「よしっ!」

 宇宙刑事ウイングと宇宙刑事フォックスはみらくるまいたんと相対し、宇宙刑事カノンはまじかるさゆりんと対峙する。

「いくよっ! シルバーウイング」

 背中のシルバーウイングを大きく広げ、宇宙刑事ウイングは大空高く舞い上がる。

「シルバースナイパー!」

 宇宙刑事ウイングは、左腰のホルスターに納められたレーザーマグナムと右腰に装着されたロングバレルを接続する。そうして長銃身となったレーザーライフルを上空から構えた。彼女は遠距離からの狙撃を得意とする宇宙刑事なのだ。

「行くわよぅっ! レーザークロー!」

 宇宙刑事フォックスの両手の甲部分より、集束したレーザービームで形成された三本のクローが現れる。彼女は近距離の格闘戦を得意とする宇宙刑事なのである。接近戦を得意とするみらくるまいたんを相手にするには、二人の連係が重要となる。

「くっ……」

 二人の予想通り、連射はできないが正確無比な宇宙刑事ウイングの狙撃と、嵐のような宇宙刑事フォックスの連撃がみらくるまいたんを追い詰めていく。だが、劣勢のはずのみらくるまいたんの口元は、余裕の笑みで彩られていた。

「なにがおかしいのよぅっ!」

「そこっ!」

「……残念」

 宇宙刑事ウイングの放ったレーザービームを、みらくるまいたんはみらくるそーどの側面部で反射させ、迫りくる宇宙刑事フォックスの胸元で炸裂させた。

「あうっ!」

 特殊軽合金と特殊繊維の複合装甲で構成されたコンバットスーツは、レーザービームの直撃にも耐えられるように、装甲表面にはメタリック状の鏡面処理がなされている。しかし、着弾時の衝撃までは相殺できず、宇宙刑事フォックスはその場に膝をついてしまう。

「……正確な射撃。だからこそ読みやすい」

「くっ!」

 今度の射撃も簡単に弾きかえされてしまい、そのレーザービームはなぜかダークゼーの足元で炸裂した。

「ちょ……危ないじゃないですかっ!」

「……ちっ」

 みらくるまいたんは狼狽するダークゼーを一瞥し、小さく舌打ちをする。

「大丈夫? 宇宙刑事フォックス」

「だ……大丈夫よぅ」

 あわてて舞い降りてきた宇宙刑事ウイングにそう答えはするものの、宇宙刑事フォックスのコンバットアーマーはかなり損傷している。特にレーザービームの直撃を受けた胸部の破損がひどく、特殊コーティングがはげ落ちた無残な姿になっていた。

「どうすれば……」

 このままレーザーライフルで攻撃しても、あっさり弾きかえされてしまうのがオチだ。反射の仕方によっては、宇宙刑事カノンにまで危害が及んでしまうだろう。打つ手なしのこの状況に、宇宙刑事ウイングは思わず息をのんだ。

 

「宇宙刑事ウイング! 宇宙刑事フォックス!」

 仲間の危機に駆けつけてやりたいが、宇宙刑事カノンもそういうわけにはいかない。

「あはは〜、余所見をしている暇はありませんよ〜」

 口調こそ丁寧だが、まじかるさゆりんの攻撃はかなり熾烈だった。離れれば得意の魔法による遠距離攻撃、接近すれば手にしたまじかるすてっきによる直接攻撃と、意外なまでのオールラウンダーぶりを発揮しているのだ。

「こうなったら、一気に決めさせてもらうぜ! レーザーブレード、エネルギーチャージ!」

 宇宙刑事カノンのレーザーブレードにさらなるエネルギーがチャージされることにより、刀身部分が一際大きく輝きを放つ。

「いくぞっ! カノンエンド!」

 コンバットスーツの脚部に装備されたブースターにより、一気に加速した宇宙刑事カノンはまじかるさゆりんとすれ違いざまに、レーザーブレードを横なぎに一閃する。

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 宇宙刑事カノンの必殺剣を受け、その場に崩れ落ちるまじかるさゆりん。しかし、振り向いた宇宙刑事カノンは、意外なモノを見るように立ち尽くしていた。

(今、当たってなかったよな……)

 レーザーブレードが命中する寸前、まじかるさゆりんはその攻撃をしっかりまじかるすてっきで受け止めていた。そして、まじかるすてっきが破壊された瞬間、その流れに逆らわないよう自分から仰向けに倒れたのだ。

「はえ? はえぇぇぇ〜?」

 半身を起こしたまじかるさゆりんは、なにが起きたのかわからない、という感じの狼狽した表情であたりを見回した。

「佐祐理っ!」

 その姿を見たみらくるまいたんは、宇宙刑事ウイングと宇宙刑事フォックスとの戦いを放棄してまじかるさゆりんの元へ駆けつけた。

「はえ? 舞? 佐祐理は今までなにを……?」

「……よかった、洗脳が解けた」

「ふえ?」

「……もう、あいつに従う必要はない」

 そして、しっかりと抱き合う二人の少女。本来なら感動的なシーンであるのだが、まじかるさゆりんの素振りがわざとらしいのと、みらくるまいたんのセリフが棒読みであるせいか、少しも雰囲気が伝わってこなかった。

(もしかすると、これは裏切られたというのか……?)

 そう思うと、宇宙刑事カノンはなぜかダークゼーが可哀想になってくる。

 結局のところ、この展開についていけなかった三人の宇宙刑事とダークゼーは、ただ呆然と立ち尽くすのみだった。

 

「ああ……と」

 目の前で二人の女幹部にあっさりと裏切られたダークゼーは、しばらく呆然自失としていた。このあまりの急展開に宇宙刑事カノンは、なんと言えばいいのか言葉を失っていたが、やがてゆっくりと口を開く。

「残るはお前一人だなっ! ダークゼー!」

「ええ〜い、どいつもこいつも役立たずがっ!」

 お前が一番役立たずなんじゃないかと思いはするが、気を取り直して宇宙刑事カノンはダークゼーにレーザーブレードを突きつけた。

「まあ、ここまでは敵ながら天晴れ。よくやったとほめてあげよう……」

 ダークゼーは余裕たっぷりといった感じで、かけていた銀縁のメガネをクイと押し上げる。

「だが、君にはもはやエネルギーも残ってはいないだろう。それでこの僕と、どう戦うと言うんだい? 宇宙刑事カノン」

 確かに、今日はすでに二回も必殺剣を放っている。その意味で宇宙刑事カノンの消耗具合はこれまでの比ではない。しかし、今ここでダークゼーを倒しておかないと、セイトカイの野望を打ち砕くことができない。

「甘く見るなよ? お前を倒すくらいは残してあるんだ」

「残しておかなくても良かったものを……」

 宇宙刑事カノンとダークゼーは静かに対峙した。

「いくぞっ! ダークゼー。レーザーツインブレード!」

 宇宙刑事カノンは柄の両端からレーザーブレードを形成し、頭上で大きく回転させる。ツインブレードを両手で構えたその姿は、某SF映画の悪役を彷彿とさせるものだ。

「レーザーブレードの数を増やしただけで、この僕に勝てると思うなっ!」

 対するダークゼーも、昔の王様が持つような杖を構える。その時、一陣の風が二人の間を吹き抜け、いやがおうにも最後の戦いを盛り立てた。

「カノンインパルス!」

 最初にこの均衡を崩したのが宇宙刑事カノンだった。ダークゼーに向けて構えたレーザーブレードの一方が一瞬にして伸び、その体を串刺しにする。

「うがっ……」

 そして、伸ばしたレーザーブレードを元の長さに戻す勢いで急接近した宇宙刑事カノンは、ツインブレードを両手で大きく回転させながらダークゼーをめった切りにしていく。容赦ない宇宙刑事カノンの斬撃を受けたダークゼーは、体のあちこちから火花を散らした。

 やがてダークゼーががっくりと膝をついたのを見て、宇宙刑事カノンは勝利を確信したポーズを取る。正義の味方が使うにしては、やけにせこい必殺技が炸裂した瞬間だった。

 

「……相変わらず、えげつない技よね」

「……もう、それはいいっこなしだよ」

 呆れたような宇宙刑事フォックスの言葉に、短く答える宇宙刑事ウイング。正義の味方を自称する以上、敗北は許されない。ある意味、手段を選ぶなどという悠長なことをしている余裕はないのだ。

「でもさ、ツインブレードを両手で頭上に構えたまま、バイクに乗って突っ込んでいくよりはましなんじゃない?」

「あうぅ〜、それはそうだけど……」

「ぐ……」

 宇宙刑事ウイングと宇宙刑事フォックスが宇宙刑事カノンの放った必殺技のえげつなさをこっそり話していると、体中からぶすぶすと黒い煙をあげながらもダークゼーがよろよろと立ちあがる。

「くそっ……これで勝ったと思うな……。弟よっ!」

 その時、突如として暗雲が空を覆い、激しい稲光が鳴り響く。そして、どこからともなく飛来したダークゼーそっくりの巨大ロボが大地に降り立った。ダークゼーを約十倍程度に拡大したであろう巨大ロボの額より発射されたトラクタービームに吸い上げられ、頭部のコックピットに収まったダークゼーにすぐさま再生治療が施される。

「た、たたた、大変だよっ! 宇宙刑事カノン」

「あうぅぅ〜、きょだいろぼっとなのよぅっ!」

「心配するな。カノンベース発進!」

「了解、カノンベース発進します」

 宇宙刑事カノンからの救援要請を受け、地球の静止衛星軌道上を周回していたカノンベースが軌道から離脱し、空間転送によって学園上空にその姿を現した。

「バトリングフォーメーション」

 カノンベースのコントロールブリッジで、操艦を担当するのがコンバットスーツを装着した美汐である。パープルのバトルウェアの上からシルバー地にグリーンのストライプが入ったコンバットスーツを装着した彼女は、銀河連邦刑事警察機構オリオン腕方面太陽系三番惑星地球アジア地区日本国北方担当ものみの丘分室所属特務捜査官巡査、宇宙刑事バジャーとなる。コンバットスーツを装着した宇宙刑事バジャーはそのカラーリングから、マニアの間では埼京線と呼ばれているのだ。

 ちなみに、バジャーとは英語でアナグマの意味であるのだが、日本では昔からタヌキとアナグマを一緒にしてむじなと呼ぶ場合があり、その意味ではタヌキと同義と言える。まったくの余談ではあるが、英語でタヌキはラクーンドックという。

 バトリングフォーメーションはセイトカイ怪物が断末魔の際に巨大化、あるいはセイトカイ怪人が弟(妹とも。この場合はセイトカイ怪人の性別による)と呼ぶ巨大ロボを召喚した際、通常は宇宙船形態であるカノンベースが巨大ロボに変形して最終決戦を行うための戦闘形態である。

 宇宙船形態のカノンベースの形状は、ホワイトベースとマクロスクォーターを足して二で割ったようなものだと思えばわかりやすい。カノンベースの後方左右両舷部に展開していた、二基の超時空間双転移エンジンがまっすぐに伸びて脚部となり、右舷に突き出すように装着された巨大な銃の下部に大型のブレードのついたバトルユニットが右腕となる。左舷に突き出すように装着された大型のシールドのようなプロテクションユニットが左腕となり、艦体を垂直に立ててコントロールブリッジが頭部になることで変形は終了する。

「よし、バトル開始だ」

 巨大ロボとなったカノンベースのかかとにあるハッチから内部に入り、頭部のコントロールブリッジを目指して三人の宇宙刑事は階段を駆けあがっていく。その姿はまるで、東京タワーの非常階段を最上階目指して駆けあがっていくようだった。

「向こうはトラクタービームなのに、どうしてこっちは走って行かなくちゃいけないのよぅっ!」

 コンバットスーツを着ているので、多少はパワーアシストされているのだが、やっぱり疲れるものは疲れる。宇宙刑事フォックスは毎度のことながらも、ついつい愚痴をこぼしてしまう。

「ぼやくな。口を開いている暇があったら走れっ!」

「ボク、先行ってるからね〜」

 そう言って空を飛んでいく宇宙刑事ウイングの姿を、心底恨めしそうに見上げる宇宙刑事フォックスであった。

「遅いですよ、皆さん」

「……あのなぁ」

 呆れたような宇宙刑事バジャーの言葉に、宇宙刑事カノンはなにか言いかえしてやりたいのだが、大きく肩で息をしている状態ではそうもいかない。

 バトルフォーメーション時のカノンベースの身長は約二十メートルあるので、いくらコンバットスーツを着ているとは言っても、その最上部まで狭い通路や階段を駆け上がっていかなくてはいけないせいか、どうしても相応の体力を消費してしまうのだ。

「どうでもいいですから、早く配置についてください」

 コントロールブリッジの座席は上から見てひし形になるように配置されている。メインの操縦を担当する宇宙刑事カノンは後方のマスタースレイブ式のコックピットに入る。これは宇宙刑事カノンの動きをカノンベースの動きに拡大するもので、レバーやボタンなどの入力に頼らないスムーズな動きが可能となる。

 右舷部分のバトルユニットを担当する宇宙刑事フォックスは右側の席に着き、左舷部分のプロテクションユニットを担当する宇宙刑事ウイングが左側の席に着く。そして、宇宙刑事カノンの前の席で艦全体の管制と動力ユニットを担当する宇宙刑事バジャーの四人により、カノンベースは完全稼働するのだ。

「バトルユニット、異常なし」

「プロテクションユニット、異常ないよ」

「動力ユニット、問題ありません」

「よしっ! バトルスタートだ」

 

「バトルフィールド、展開っ!」

 左腕のプロテクションユニットから放出した力場により、カノンベースは周囲に空間を歪曲させた特殊空間を形成する。このバトルフィールドを生成することで、このような巨大ロボット同士の戦いでも周囲に被害を及ぼさずに済むのだ。

 ちなみに、バトルフィールド内のカノンベースは、通常の五倍以上の戦闘力を発揮することが可能となる。

「……相変わらずせこいんだから」

「ぼやくなっつーの」

 呆れたような宇宙刑事フォックスに短く答えつつ、宇宙刑事カノンは右腕をまっすぐ巨大ダークゼーに向ける。すると、カノンベースの右腕部を構成するバトルユニットの中核を占める巨大砲、バスターカノンの砲口が巨大ダークゼーに向けられた。まだ内部のダークゼーの再生治療が終了していないせいか、全く動かないのでバスターカノンの狙いはつけるのは容易い。

「バスターカノン、発射用意」

「エネルギー充填開始、セーフティロックオープン」

「ターゲットスコープオープン、電影クロスゲージ明度二十」

「最終セーフティロックオープン、全艦異常なし」

 右腕をまっすぐ構えたままの宇宙刑事カノンにヘッドユニットが装着され、彼我の相対距離やエネルギーの充填率の数字が表示される。

「発射準備完了。トリガーはそちらに、タイミングは私に」

「よし」

 エネルギーが臨界を迎えるまでのカウントダウンを宇宙刑事バジャーがはじめる。その間に宇宙刑事カノンはゆっくりと腰を落として右脚を後ろに引き、構えた右腕にゆっくりと左手を添え、カノンベースに発射態勢をとらせる。

「五、四、三、二、一……」

「バスターカノン、発射っ!」

 宇宙刑事カノンがトリガーをひくように人差し指を動かすのと同時に、バスターカノンに蓄積されたエネルギーが一気に巨大ダークゼーに向けて解放された。

「……やっと再生治療が終わったかって……。なに?」

 その時、ダークゼーが見たのはモニター画面いっぱいに映るまばゆい光だった。次の瞬間、機体に激しい震動が走る。バスターカノンの圧倒的なエネルギービームに貫かれた巨大ダークゼーの腹には巨大な風穴があき、その場にがっくりと膝をついてしまう。

「ぐうっ……卑怯だぞ、こっちが動けないうちに攻撃を仕掛けてくるなんて……」

「やかましいっ! 正義は必ず勝つっ!」

 そして、カノンベースは右腕を大きく頭上に振りかざしたまま、巨大な翼を背面部に展開して大空高く舞い上がる。

「カノンブレード!」

 バスターカノンの下部につけられた巨大なブレードが、まばゆい輝きを放つ。そして、空中で前方宙返りを鮮やかに決めたカノンベースは、巨大ダークゼーめがけて急降下してきた。

「一刀両断っ!」

「ぐあああああああっ!」

 カノンブレードが一閃し、真っ二つとなった巨大ダークゼーは大爆発を起こした。こうして、ダークゼーと共に、セイトカイの野望は潰えたのであった。

 

 かくして、戦いは終わった。地球に再び、平和が訪れたのだ。

「真琴達、勝ったのよね……」

 オレンジ色の夕日が彩るものみの丘の上で、真琴は感慨深げにそう呟いた。

「そうだといいんですけど……」

 ため息交じりに呟いたのが美汐だ。確かにダークゼーは倒したものの、地球に別の脅威が来ないとも限らない。

「うぐぅ、大丈夫だよね? 祐一くん」

 そのことを心配し、あゆが祐一に訊く。

「ああ、任せろ」

 沈みゆく夕日に祐一は誓う。

「この地球の平和は俺が……。いや、俺達が守り抜くんだ!」

 祐一達がものみの丘で勝利を喜びあっていた時、学園に近いとある施設は重苦しい雰囲気に包まれていた。

「あ、お帰りなさい。今回は……残念でしたね……」

 基地に帰還した名雪と香里を出迎えたのは、香里の妹の栞だった。彼女もまた学園の平和を守る正義の美少女戦士、ストール仮面として活躍する予定であったが、彼女自身が病弱であるのと、似合わないからやめときなさい、という香里の一言によって後方要員となっている。確かにスレンダーな栞のボディラインでは、グラマラスな名雪や香里と比較しても格段に見劣りするものだ。

「……今回だけじゃないんだけどね」

「うう〜……」

 連戦連敗のスーパーヒロインというのもかなり珍しい存在なのかもしれない。しかも今回は、名雪が丸裸にされるところだったのだ。

「おかえりなさい、二人とも。今回も御苦労さまでした」

 栞に続いて、基地司令となる秋子が二人を出迎える。娘達の消沈した様子には、秋子としても同情の念を禁じえない。祐一を預かるにあたって姉から連絡を受け、地球に宇宙からの脅威が迫っていることを知った秋子が、独自のネットワークを駆使して正義の秘密組織を立ち上げたところまでは良かった。しかし、宇宙の技術に対抗するには、地球の技術はあまりにも未熟すぎたのだ。

「ただ今戻りました〜」

「……ただいま」

 するとそこへ入ってきたのが、まじかるさゆりんである佐祐理とみらくるまいたんである舞の二人だった。実はこの二人、宇宙の技術を盗み出すために悪の組織に身を投じたスパイだったのである。

「御苦労さまでした、佐祐理ちゃんに舞ちゃん。首尾はどうでしたか?」

「ばっちりですよ〜」

 そう言ってにこやかに微笑む佐祐理の姿をみて、舞はこの色仕掛けにあっさりと引っかかったダークゼーが気の毒に思えてきた。とはいえ、地球の技術を宇宙の技術に追いつかせるためには、綺麗事では済まされない事情がある。

 これまでに佐祐理がダークゼーやセイトカイ組織から入手したデータにより、名雪達の装着するバトルスーツは格段に進歩している。いわば、セイトカイ怪人達との交戦は、耐久性を確かめるための壮大な実験であったと言える。

「このデータがあれば、今まで以上に耐久力のあるバトルスーツが作れそうですね」

 佐祐理から渡されたデータを見て、栞が嬉しそうに微笑む。今まではバトルスーツの耐久性能に問題があったため、体力的な不安のある栞は後方要員を余儀なくされていたのだが、このデータを反映した新型のバトルスーツが完成すれば、彼女も正義のスーパーヒロインとして活躍することも夢ではない。

「お姉ちゃんと同じバトルスーツを着て、お姉ちゃんと一緒に敵と戦って、それで敵の強さに負けそうになってしまうんだけど、お姉ちゃんが力強く守ってくれるんです」

 と、いうのが栞の夢だ。

「このデータがあれば、当初の目的が達成できそうですね」

 このバトルスーツが完成すれば、もう宇宙刑事カノンにばかり活躍させずにすむ。そう考えると香里からも自然に笑顔がこぼれる。

「え? それじゃあ、お母さん」

 名雪の明るい声に、秋子は優しく頷く。

「はい、奇跡戦隊ミラクルファイブ。地球の平和は、私達で守りましょう」

 ミラクルレッド美坂香里、ミラクルブルー水瀬名雪、ミラクルイエロー倉田佐祐理、ミラクルピンク美坂栞、ミラクルブラック川澄舞。地球の平和を守るため、今ここに五人の少女が一つに結ばれるのだった。

 

「ふふ、ダークゼーも情けない。宇宙刑事カノンを倒し、地球を支配するのは我々だ」

そんなわけで、地球支配を目論む新たなる宇宙犯罪組織が、その魔の手を伸ばそうとしていた

粘着気質を持った悪の組織を倒すため

戦え、宇宙刑事カノン

戦え、奇跡戦隊ミラクルファイブ

平和が戻るその日まで

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