今日は何の日?

 

「キシャアアアアアアアッ!」

 それはある晴れた日の日曜日。うららかな昼下がりの出来事であった。

 この日相沢祐一はかねてより計画していた『一日中ぼ〜っとして過ごす』を実行するため、昼食を終えた後は早々に自室に引き上げていた。しかし、なにをするでもなく、ただぼ〜っとしている状況に退屈したせいか、なぜだか奇声をあげてしまう。

 祐一がそんな馬鹿な事を考えていると、ためらいがちなノックの音が響く。

「祐一、いる〜?」

 扉の隙間からそっと顔をのぞかせたのは、この家の家主の娘、水瀬名雪その人だった。昼食の後片付けも終わり、彼女も自室に戻ってきたところなのだろう。

「おお、名雪か? どうした?」

「うん。なんだか変な声が聞こえてきたから」

 どうやら先程の奇声は、部屋の外まで響いていたようだ。

「……そんな事を言いにわざわざ来たのか?」

「ううん、そうじゃないよ」

 にこやかに微笑みながら部屋に入ってきた名雪は、祐一が胡坐をかいているベッドの端に腰かけた。

「祐一は、今日が何の日か知ってる?」

「今日?」

 確かこの日は、何の変哲もないごくありふれた日曜日のはずだ。だが、わざわざ名雪がこうして訊きにくるくらいだから、なにか特別な日なのかもしれない。

「二十二日だろ? なにかあったか?」

 毎月二十三日がふみの日だという事は知っている。しかし、その前日の二十二日となると、なんの日なのやらさっぱりだ。そんな事を考えつつも、祐一は考え続ける。そのそばでは、名雪がなにかを期待するような視線を投げかけていた。

「二十二日……二十二日か……。そうか、禁煙の日だなっ!」

「? 禁煙の日……?」

 目が点になった状態で訊き返す名雪。少なくともこの答えは、彼女の期待していたものとは違う。

「ああ。数字の2を白鳥に見立てるんだ」

「白鳥さんに?」

「白鳥は英語でスワン。つまりは吸わん。それがふたつ並んでいるから吸わん吸わんで、毎月二十二日は禁煙の日なんだ」

「ちがうよ〜」

 祐一が一生懸命ボケているというのに、まったく突っ込む事もせずに一瞬で封殺する名雪。これはもはや、職人芸の域に達していた。必死になってボケてるところにストレートな否定をされると、祐一としてもどう対応していいものやら。

「もう、祐一。カレンダーをよく見てよ」

 そう言って名雪は祐一にカレンダーを指し示す。

「ほら、二十二日の上には十五日があるでしょ?」

 言われてみると確かに、どの月でも二十二日の上は十五日だ。

「上にイチゴが乗っているから、毎月二十二日はショートケーキの日なんだよ」

「ふ〜ん」

「それでね、今日は日曜日だからイチゴサンデーの日なんだよ〜」

 それが狙いか、と思いつつも、この名雪の可愛らしい要求に思わず苦笑してしまう祐一。

「それは良かった。なるほどな〜」

 口でそう言いつつ、ベッドから飛び降りた祐一は名雪に背を向けたまま身支度を整える。

「祐一、どこかに出かけるの?」

「ああ。ちょっと商店街」

「そっか」

「ついでに百花屋に寄ろうかと思っているが、つきあうか?」

「うんっ!」

 思わず祐一の背中に飛びつく名雪。

「ありがとう、祐一。大好きだよ〜」

 

 ちなみに二十二日は、夫婦の日でもあったりする。これが十一月であれば、いい夫婦の日となる。

 

「そう言えば思い出したけど」

「なにをだ?」

「二月の二十二日は、ねこさんの日でもあるんだよ」

「どういう意味だ?」

「一月の十一日がワンワンワンで犬さんの日。だから、二月の二十二日はにーにーにーで、ねこさんの日なんだって」

「ふ〜ん」

 百花屋へ向かう道でそう語る名雪の笑顔に、毎日がなにかの記念日になりそうな予感のする祐一であった。

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