すとーかー?
「ふあ……」
この日祐一は名雪の買い物に付き合って商店街に来ていたが、早くもその状況に退屈していた。
「今日のお夕飯、何食べたい?」
「なんでもいいぞ。名雪が作るもんならな」
「う〜ん、そういうのが一番困るんだよ」
などという具合に、先程まで名雪と新婚夫婦のような会話をしていたのが嘘みたいだ。急いで買い物に行ってくるね、とスーパーの奥に消えていった名雪を外で待ちつつ、祐一は自分も一緒に行けばよかったかなと思いはじめていた。
しかし、そうなると完全に新婚さんのノリで買い物をする事となってしまう。流石にそこまでは恥ずかしすぎる様な気のする祐一であった。
名雪はすぐに戻ってくるとは言っていたが、あれから結構な時間がたっているにも関わらず、店から出てくる気配がない。おそらくは生来の不器用さを発揮して時間がかかっているのだと思われたが、今からのこのこと店に入って行って名雪と行き違いになるのも避けたい。さてどうするかと祐一が思案しはじめたその時だった。
「そこの人っ!」
「え?」
突然の叫び声に祐一が振り向くと、そこには見知った顔があった。
「ちょっとこっちに来てっ!」
状況が飲み込めないうちに、祐一は走ってきた少女、美坂香里に手をつかまれ、なぜか一緒に走っていた。
「おい? 香里?」
「話はあとっ! 急いでっ!」
商店街の人込みをかき分けるようにして、二人は奥へ奥へとはいっていく。ふと気がつくと、祐一は名雪を待っていたスーパーからだいぶ離れてしまっていた。
香里は時折背後を振り返りながら、必死の表情で商店街をかけていく。
「なにがどうしたんだ? 一体」
「話はあとでするわよっ! 今はとにかく走ってっ!」
まさか香里もあゆのように食い逃げをして、店のおやじに追いかけられているとでも言うのだろうか。だが、香里になにかを持っている様子はない。そればかりか今の香里の恰好は、普段着というよりもデートかなにかをするような気合の入ったものだった。祐一が後ろを確認してみると、もう季節がだいぶ暖かくなったというのに、トレンチコートに身を包み、目深にかぶった帽子にサングラスをかけた男が追いかけてくるところだ。
(なんなんだ? 一体……)
状況のわからないまま、流されていく祐一であった。
「……嘘つき」
祐一が香里と走り去ってから数分、買い物袋を抱えてルンルン気分で店から出てきた名雪は、そこにいるはずの祐一の姿がないので愕然とした。以前にも何回かこういう事があったので不安になっていた名雪ではあったが、いざそれが現実のものとなってしまうと、どこかあきらめの気持ちに支配されてしまう。
「あれ? 名雪さん」
「栞ちゃん」
ちょっとだけ失意の底に沈んでいた名雪は、偶然出会った栞の笑顔に少しだけ救われたような気がした。
「もしかして、祐一さんとお買い物ですか?」
相変わらずらぶらぶですね〜、と我が事のように喜ぶ栞。しかし、名雪の表情は沈んだままだ。
「それで、祐一さんはどこですか? まさか、名雪さんを一人にしているとか……」
「その、まさかなんだよ……」
その名雪の失意の表情に、栞はすべてを察したようにうつむいた。
「祐一さんもひどいですね。自分の彼女を放ったらかしなんて……」
「きっと、祐一には祐一の事情があるんだよ……」
本来ならもう少し怒ってもいいところなのを、ただ力ない微笑みを浮かべているだけの名雪に、栞は女神か菩薩の姿を見た。
「そう言えば、栞ちゃんもお買い物なの?」
「それもありますけど、実はお姉ちゃんが……」
「香里がどうかしたの?」
栞は手短に事情を説明した。
「ストーカー?」
「それで今、お姉ちゃんが悩んでいるようなんですよ」
聞くところによると、ここのところ香里はストーカーに悩まされているらしい。確かに最近様子が変なので心配はしていたが、まさかストーカーとは思いもよらなかった。
「なんだか妙におめかしして出かけたので、なにかあるんじゃないかと思っていたんですけど……」
それで栞は香里のあとをこっそりつけていたのだが、突然走りだしてしまったために見失ってしまったのだそうだ。
「この辺に来たのは間違いないと思うんですけど……」
「それじゃ、ちょっと探してみようか。もしかしたら祐一も一緒かもしれないし」
そして、香里を探して名雪達も商店街の奥へ進んでいくのだった。
「すとーかー?」
「そうよ」
買い物客でごった返す商店街を右に左に駆け抜け、もう追ってこないだろうと駆け込んだ路地裏で、香里は手短に事情を説明した。
「自動給炭機がどうしたって?」
「はあっ?」
なにやら真剣な表情で、唐突にボケをかます祐一に、思わず訊き返す香里。
「いや……そんなものが香里に興味を示すわけないか……。そうなると、罐焚きのほうか……」
「あ……あのねぇ……相沢くん……」
心底疲れ果てたような表情でため息をつくと、香里は綺麗に整えられた指先を額にあてた。
「確かに自動給炭機とか給炭夫もストーカーって言うけど、少しは真面目に聞いてよね」
「わかってる。香里は美人だから、ストーカーの一人や二人、いてもおかしくないだろ?」
「あ……ありがと……」
祐一に真顔で美人と言われたせいか、少し顔を赤らめてしまう香里。ある意味、こうしたところに無自覚なのが、祐一の罪なところだ。
「とにかく、あたしとしてはこれ以上付きまとわれたくないのよ」
「なるほど、それで俺か」
彼氏がいる様に見せかければ、相手もあきらめてくれるかもしれない。それは香里の希望的観測だが、祐一としてはそれであきらめてくれるようなら、そもそもストーカーになどならないだろうと思う。
形や手段に問題はあるものの、ストーカーの想いとはかなり純粋なものだからだ。
「それでどうやってあきらめさせるんだ?」
「それが問題なのよね……」
そう言って形の良い眉を寄せた香里の目に、あるものが飛び込んでくる。
「あそこに逃げ込むわよ、相沢くんっ!」
「お……おい、香里っ?」
香里に手をひかれた祐一が飛び込んだ場所。そこは素敵な感じのお城だった。
「……こっちのほうだと思うんだけど」
「本当に、あってるんですか?」
「……たぶん」
栞はずんずんと商店街の奥に進んでいく名雪のあとを、不安げに追いかけていた。以前に姉から訊いた事がある『祐一センサー』が働いているのかどうかはわからないが、今はとにかく名雪についていくしかない。
もっともそれは、香里が祐一と一緒にいるという条件のもとであるが。
「でも、香里のストーカーさんか……。一体どういう人なんだろうね」
「こ〜んな感じの人なのかもしれませんよ?」
ほっぺたをむに〜、と引っ張る栞の顔に、思わず苦笑してしまう名雪。
「……名雪さん、あれを」
不意に真剣な表情を見せた栞が、先程香里が祐一と駆け込んだ素敵なお城を、物陰から凝視する不審人物を発見した。もうそろそろ暖かくなるというのに、その人物は襟を立てたトレンチコートに身を包み、目深に帽子をかぶっていたからだ。
「変な人がいます……」
「暑くないのかな……?」
なんとも怪しげな人物が目の前にいると言うのに、相変わらずどこか論点のずれている名雪であった。
「まさか……あの人が例のストーカーなんじゃ……」
「行くよっ! 栞ちゃん」
「え? えぅっ?」
言うが早いか名雪は栞に持っていた買い物袋を渡し、一気にストーカーに迫るとその後頭部に有無を言わせぬ見事な飛び後ろ回し蹴りを叩きこんだ。
「ぐあ……」
あっけなく地面に伸びる不審人物の姿に、少々やりすぎなのではと思う栞。しかし、その鮮やかな手並みもさることながら、普段から愛用しているタイトなロングスカートが半ばまで裂け、綺麗な生足を半分ほど露出させて一息つく名雪の姿を目の当たりにしては、なにも言う事が出来なかった。
「あれ……? この人……」
名雪に蹴り飛ばされてかぶっていた帽子が取れ、その下から現れた金色の髪と、頭頂部から生えた特徴的なくせ毛に二人は見覚えがあった。
「もしかして、北川くん?」
「そんな、北川さんがお姉ちゃんのストーカーだったなんて……」
この衝撃の事実に、二人はただ呆然と立ち尽くすのみだった。
「……なるほどな。だからってこんなところに逃げ込まなくても」
「あたしにその気はないんだって事を、相手にはっきり伝える必要があるのよ」
香里に連れ込まれた素敵なお城の中にある一室で、祐一は香里から手短に事情を訊いた。確かに相手をあきらめさせるには決定的な方法であると思うが、それにしてはかなり強引で大胆なやり方であるといえた。
「しかしだな、香里。ここがどこだかわかっているのか?」
「わ……わかってるわよ……」
とは言うものの、香里は真っ赤な顔でうつむいたままだ。
「まさか……はぢめてとか言うなよ?」
「う……」
確かにこういう場所については、知識でしか知らない香里。具体的にここでする事とかも、当然知識でのみだ。
室内の中央に置かれた大きなベッドの上に二人で並んで腰かけながら、祐一は顔を真っ赤にしたまま身動き一つしない香里を眺めていた。ベッドの上のほうにはきちんと折畳まれたガウンが二着置かれており、枕元には照明関係のスイッチが並んでいる。壁の一角にはベッドの上を丸ごと映せるような大きな鏡があり、先程から二人の姿を映し出している。
ここに女の子と二人で来たのならやる事はひとつなのだが、相手が名雪ならともかくとしても香里が相手ではそうするわけにもいかない。
実のところ名雪は結構潔癖なところがあるせいか、家だとあまり声とか出さずに淡白に終わる場合がある。しかし、こういったまわりに遠慮しなくていいような場所での淫れっぷりは、普段の彼女をよく知る祐一にとっては豹変ともいえるものだ。こうしたお部屋に備え付けてある、それ系のアイテムを使ったときなど特に。
もっとも、そんな可愛い名雪の姿が見たくて、月に一度はこういう素敵なお城を利用している祐一であったが。
「あ……あの、相沢くん……」
普段の勝気なイメージとは裏腹に、なんとなくしおらしい女の子のような香里を可愛いなと思っていると、その香里が今にも消えそうな声を出した。
「なんだ? 香里」
「その……シャワー浴びてきてもいいかな……?」
「え?」
「ご……誤解しないでよっ!」
香里はあわてて手を振った。
「ほ……ほら、さっき走っちゃって汗かいちゃったでしょ? だから……」
「あ? ああ、そうだな。いいぞ、浴びてきて」
「う……うん」
「とにかくたくさん、精一杯浴びてこいよ」
精一杯ってなによ、と思いはするものの、あまりにも緊張していたせいかなにも言わずに香里は、枕元に置いてあったガウンとタオルをひったくるようにしてつかむと、一目散に浴室に向かった。
「……覗くんじゃないわよ?」
「それは安心しろ。正直なところ香里の裸に興味はあるが、覗くような真似はしない」
「……信じていいんでしょうね?」
「なにを言うんだ、香里。これが嘘をつくような男の目か?」
かなり濁った瞳に釈然としないものを感じるが、それ以上なにも追及する事も無く、ドアをばたんと閉じて香里が浴室に消える。
「……覗きはしないさ」
祐一が枕元のスイッチを押すと壁の鏡が透過し、その向こう側にある浴室の様子が丸見えとなる。そこではそんな事に気がついた様子もなく、香里がいそいそと服を脱いでいるのが見える。
(まあ、これくらいの余禄はあってもいいよな)
やがて全裸になった香里が泡でいっぱいになった透明なバスタブで、念入りに体を洗っているところを堪能する祐一であった。
「見損なったよ、北川くん」
「そうですよ。まさか、北川さんがこんな人だったなんて……」
「あ……あのさ、なにか誤解してないか……?」
名雪と栞に睨まれながら、北川はしどろもどろと弁解をはじめた。
「オレはな、美坂に頼まれたんだよ」
北川はそう言うが、栞は疑惑の視線を解かない。そればかりか、なにをぬけぬけと、とでも言いたげな態度だ。
「ほら、最近美坂の奴ストーカーに付きまとわれて困ってただろ?」
「え? そのストーカーが北川くんなんでしょ?」
「だから違うって!」
普段からポケポケのほほんとした天然娘の名雪なだけに、この誤解を解くのはかなり大変そうだなと思いつつ、必死に北川は説明をはじめる。
「だからな、オレは美坂の頼みでこうしてるんだよ」
「お姉ちゃんに、なにを頼まれたんですか?」
「もしかして、ストーカーを?」
「……頼むから水瀬、そこから離れてくれ」
この時北川は、天然というのは見ているのが楽しいのであるという事を知る。その意味で名雪と清い交際をしている祐一の事を、真剣にすごいと思うのであった。
「美坂がストーカーに悩んでるって聞いてな。それでオレが美坂のあとをつけて、ストーカーを捕まえようとしたんだ」
「そうだったんですか」
「それでそんな恰好を?」
事情はよくわかった二人ではあるが、これでは北川のほうがストーカーのようだ。
「尾行をするならトレンチコートだろ? だから見た目から入ってみたのに、美坂の奴オレを見た途端に逃げ出したんだ」
なんとなく、わかるような気がする栞であった。
「それで、逃げる途中で相沢と一緒になって、あそこに入るところまでは見たんだが……」
「あそこって……」
北川が見上げる素敵なお城を、一緒になって見上げる名雪。つられて見上げた栞の顔が真っ赤に染まるのとは対照的に、名雪の表情はいつもと変わらぬ笑顔であった。しかし、その笑顔こそがなによりも恐ろしいものであったと、後に北川は語る。
「……まあ、ストーカーをあきらめさせるには、手っ取り早い方法なんじゃないか?」
そう北川が軽口をたたいた時だった。
「おっと」
路地から突然飛び出してきた女の子が、北川にポスンとぶつかってきた。
「おい、大丈夫か?」
北川はその女の子を優しく抱きとめるが、女の子は謝りもせずに走り去っていく。
「なんだ? 今の子は……」
「でも、あの子泣いてましたよ」
次第に小さくなる女の子の後ろ姿を見つつ、栞がポツリと呟いた。
「それにしても、女の子のストーカーとはね……」
「本当に困ってるのよ」
男が相手なら殴り飛ばせば問題解決であるが、女の子だとそういうわけにもいかない。
「水瀬さんは良くって、あたしはダメなの? って泣かれた時には、どうしようかと思ったわよ」
「そりゃ香里が悪いんじゃないか……?」
普段の香里の行動。あいさつ代わりに名雪に抱きついて、いつも名雪と一緒にいる。栞相手には、ほとんどシスコンともとれる溺愛ぶりだ。香里がそう言う趣味の持ち主だと思われても不思議ではない。
「失礼ね。あたしはノーマルなのよ?」
香里はそういうものの、祐一的には説得力がないように感じる。
「それで、香里はその子にどう答えたんだ?」
「愚問ね、って」
「どういう意味かな?」
「言葉通りよ?」
なんとなく祐一は、それで香里の事をあきらめなかった女の子を、不思議と応援したくなった。
「つまり、香里は俺とこういうところに来る事でノーマルだと証明し、その女の子をあきらめさせようとしたわけか……」
「……そう言う事になるわね」
最初香里は北川にこの役を頼む予定であった。しかし、呼び出した北川がなにを勘違いしたのか、まるで尾行をするかのような恰好であったため、つい逃げ出してしまったのだ。
その途中で祐一に会い、現在に至るというわけである。
「親友の彼氏をホテルに誘い込むとは……」
「う……」
その辺は香里も考えないではなかったが、ある意味では祐一が最適であったと言える。彼女のいる男性であれば、こういう場所での身の危険は少なくなりそうだったからだ。しかし、こういう場所で二人きりになり、シャワーまで浴びて準備万端整ったというのになにもないというのは、どこか釈然としないものを感じる香里ではあったが。
「まあ、後はホテルから出るときに、なにかありましたって顔をしていればいいんじゃないか?」
「そ……そうね」
その時、二人のいる部屋に電話が鳴り響く。
「どうやら時間切れのようだ。延長をする気はないし、ここでお開きだな」
「うう〜……」
「お? 誰か出てくるぞ」
北川の声で物陰に身を隠した三人は、いかにもなにかありました、という風情で素敵なお城から出てくる祐一と香里の姿に愕然とした。
「……そんな、まさか美坂が……」
北川にとって香里はクラスでもよく話をする間柄だ。その意味で気心は知れているし、その類稀なる容姿には心惹かれるものがあった。所詮は高嶺の花だと諦めてもいたが、こうして祐一と一緒に素敵なお城から出てくる姿を見てしまうと、内心の動揺が隠せなかった。
「そんな……お姉ちゃんが……」
「香里……」
おそらくは名雪と栞の胸中にも似たような思いが渦巻いているのだろう。特に自分の恋人が他の女と仲良く素敵なお城から出てくるところを見てしまっては、名雪の心痛はどれほどのものだろうか。
「……あのさ、香里」
「なによ?」
祐一の左腕をとり、妖しくしなだれかかる姿は、香里の容姿と相まってまさに妖艶といえるものだった。
「もうちょっとこう……離れるって出来ないか?」
「あらやだ」
そう言って香里は軽く微笑むと、祐一との密着度をさらに高めてきた。
「いかにもなにかありましたっていう風に見せかけろ、っていったのは相沢くんよ?」
先程は割と期待していたのになにもなかったため、せめてこれくらいはしとかないと、という香里の想いが、普段より彼女を大胆にさせていた。そんな二人が素敵なお城から通りへ出た時、その前に立ちふさがった人物の姿に愕然とした。
「祐一、香里……」
「な……名雪?」
「それに栞まで……」
「ひどいよ、二人とも……」
「ひどいです……」
これから起こるであろう惨劇に、北川は物陰に身を潜めたまま頭を抱えていた。
(骨は拾ってやるぞ、相沢……)
そうして北川はメッカのほうに一礼してから十字を切り、南無阿弥陀仏と唱えて黙祷した。宗教的にはかなり罰あたりであるものの、今の祐一のために祈るとしたら、これくらい神様が必要であると思えた。
「ああ、その……名雪。これはだな……」
「栞、そのね……」
祐一と香里は必死にうまい言い訳を考えるのだが、いざとなると全くいいアイディアが浮かんでこない。名雪を放ったらかしにして香里と素敵なお城に行ったのは事実であるし、なにもなかったと言っても信じてもらえるかどうか。
「どうして……」
大きく見開いた瞳に涙を浮かべつつ、名雪はきっぱりとこう言い切った。
「どうしてわたしも仲間に入れてくれなかったんだよっ!」
「そうですっ! お姉ちゃんばかりずるいですっ!」
意外といえば、あまりにも意外なその言葉に、目を点にしたままただ呆然と立ち尽くす二人。普通なら嫉妬のあまりグサリ一突きにされても文句は言えないというのに。
「さ、行くよ。祐一」
「え? おい、名雪?」
言うが早いか、名雪は祐一の右腕をとって素敵なお城に向かう。
「そ、そうね。あたしもまだ物足りないし」
名雪のウインクを受け、その意図を察した香里が祐一の左腕をとって素敵なお城に向かう。
「さあ、行きましょう祐一さん」
そして、栞は祐一の後ろからぐいぐいと押してくる。
「ちょっと待て、俺の意見は?」
「聞く必要もないよ〜」
「そんなの考慮するわけないじゃない」
「そうですよ、祐一さん」
四人が素敵なお城に消えていく姿を、ただ一人取り残された北川はただ呆然と見送っていた。
「……骨は拾ってやるからな、マジで……」
そして、北川は暮れかけた日の光の中を長い影を引きずって去って行くのだった。
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