プロローグ
「あ」
窓辺で灰色の空を見上げていた小さな女の子が、肩までかかる長い髪を揺らして嬉しそうな声をあげた。
「お母さん、雪だよ〜」
「あら、本当ね」
その声につられて秋子も空を見上げる。どんよりと曇った灰色の天井からは、まるで吐き出されるように小さな白い結晶が舞い降りて来る。
また、この街にも雪の季節がやってきたのだ。
「それにしても……」
秋子はそっと、娘の小さな肩に手をかけた。
「名雪は本当に雪が好きね。そんなにめずらしいものでもないでしょ?」
「うん、わたし雪は大好きだよ。わたしの名前にも使われてるし、それに……」
「それに?」
秋子は先を促してみたが、名雪はなぜか顔を赤らめてうつむいてしまった。
きっと毎年冬になると遊びに来る、いとこの祐一に何か言われたのだろう、秋子はそう思って静かに微笑んだ。
(俺、雪は好きだぜ)
次第にあたりを白く染め上げていく雪を眺めつつ、秋子はそんな言葉を思い出していた。
かつて雪が好きだといった、あの人のことを。
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