第一話 死闘、あゆVS舞
祐一への告白権をかけた世紀の戦い、その名もギャラクシアンウォーズ。その注目の試合の幕が切って落とされた。
ペガサスの聖衣を装着し、手にはミトンをはめて気合十分のあゆ。
同じくドラゴンの聖衣を装着し、冷静なまなざしで相手を見つめる舞。
この戦いで勝利の栄冠を手にするのはメインヒロインのあゆか、それとも実力人気共にトップクラスの舞か、リングの上で対峙する二人の姿に観客はあらん限りの歓声を上げた。
試合開始を告げるゴングが、高らかに鳴り響く。
「まずは先手必勝。いくよ、舞さん!」
あゆの両手が大きく虚空を走り、その軌跡は大きなたい焼きの姿を映し出す。
「くらえっ! タイヤキ流星拳!」
あゆの右こぶしから、大量のたい焼きが放たれた。
「これがあゆのタイヤキ流星拳……一秒間に百個前後のたい焼きを放っていると見た……」
舞は冷静な様子であゆの放つたい焼きをかわしていく。
「うぐぅ〜……ボクのタイヤキ流星拳が全部かわされた……」
「たかが音速のたい焼き……。聖闘士なら、かわすのは造作もない……」
憮然とした様子で応じる舞。
「今度はこっちの番」
「うぐぅ、あのどんぶりは……」
舞の手には大きなどんぶりが乗っていた。
「牛丼昇龍覇!」
「うぐぅ〜っ!」
どんぶりを持った舞の手が高く突き出されると同時に、あゆの身体が天空高く舞い上がる。
すさまじい衝撃音と共にあゆの身体はリングに叩きつけられ、その衝撃であゆの聖衣が砕け散ってしまう。
「これが……舞さんの牛丼昇龍覇……。蓋を開けたときに立ち上る湯気が……まるで昇龍のようだよ……」
「終わった……」
舞はあゆに背を向けてリングを去ろうとした。だが、舞は背後に異様な小宇宙を感じて振り返った。
「まさか……」
舞は驚きに目を見張った。そこにはあゆが息も絶え絶えになりながらも立ち上がっていたのだ。
「……牛丼昇龍覇を喰らって立ち上がるなんて……。不死身?」
「生憎不死身って訳でもないけれど……ボクにも負けられない理由があるんだよ……」
もはや足取りもおぼつかないと言うのに、それでもあゆはこぶしを握り締めた。
「もう一度いくよっ! タイヤキ流星拳!」
「無駄だと言うのが……」
舞は再びタイヤキ流星拳をかわしていく。だが、あゆの流星拳をかわしたはずの舞は不意に眉をしかめた。
(口の中が甘い……)
「タイヤキ流星拳!」
「くっ……」
今度は大きく動いて舞は身をかわす。だが、やはり口の中が甘い。しかも聖衣には餡子がついてしまい、あちこちが砕けてしまっている。
(また甘い……。まさかあゆは、私の見切れないたい焼きを放っているとでもいうの?)
頭を振ってその考えを振り払う舞。なんにせよもう一度牛丼昇龍覇が決まれば、あゆはもう立ち上がれない。そう考えた舞は、再びどんぶりを取り出す。
「いいの? 舞さん……。二度も牛丼昇龍覇を出して……」
「どういうこと?」
「……よだれが、たれてるよ……」
そのとき舞は、師である佐祐理の言葉を思い出した。
「あはは〜、舞。牛丼昇龍覇を出すとき、よだれがたれてますよ〜」
それこそ時間にすればほんの一瞬の出来事だ。だが、この一瞬の隙は舞の牛丼昇龍覇最大の弱点でもある。
舞はこれを見切れるのは、師である佐祐理以外にはいないと思っていた。しかし、その隙を見切れるものが、舞の目の前にいる。
「そうか……だから牛丼昇龍覇をまともには喰らわなかった……」
こうなると舞は迂闊には動けない。何しろあゆは自分には見切れないたい焼きを放ってくる。一撃で決めないと後がないのだ。
「邪魔……」
舞はおもむろに、砕けた聖衣を脱ぎ捨てる。そうすることで舞は、自らを背水の陣へと持ち込んだ。
「うぐぅ」
あゆも同じく、ぼろぼろの聖衣を脱ぎ捨てる。舞と同じ条件で戦うためだが、これでもうお互いの身体を守るものは何もない。
「なんてこと、二人とも……自らの身体を守る聖衣を脱ぎ捨ててしまうなんて……」
リングの外で二人の試合を見つめる、アンドロメダの聖衣を装着した栞の声がかすれる。余談だが、栞の聖衣にはチェーンの代わりにストールが装着されている。
そう、聖闘士といえども生身の人間。その体は、普通の女の子となんら変わりはないのだ。
「それだけ二人が真剣だって言う証拠だよ」
試合の緊迫感も何もないようなのんびりとした口調で、キグナスの聖衣を装着した名雪が応じる。しかし、その目は真剣に試合を見据えていた。
「とにかく、次の一撃で勝負が決まると思うよ」
二人の緊張は最高潮にまで高まっていた。お互いに気を抜けないままにらみ合っている。
しかし、やはりあゆの方がダメージが大きいのか、ふらりと体が揺れてしまう。
「牛丼、昇龍覇っ!」
この隙を逃さず、牛丼昇龍覇を放つ舞。
「タイヤキ流星拳っ!」
リングの上で二人の必殺技が交錯し、凄まじい衝撃音が鳴り響いた。
次の瞬間、リングから弾き飛ばされたのは舞の身体だ。あゆの勝利が告げられる中、ゆっくりとあゆはリングに倒れ伏してしまう。
「あゆちゃん!」
名雪はリングに駆け上がると、あゆを助け起こした。
「うぐぅ〜〜……」
あゆは目を回していたが、意識ははっきりしているようだ。まあ、無理もない。小柄なあゆの体では、牛丼二杯は流石にきつい。
「栞ちゃん、そっちはどう?」
舞を助け起こした栞の顔が青ざめている。
「大変です……舞さんの喉に、たい焼きが……」
それを聞いた名雪の顔が青ざめる。
「早く……早くしないと舞さんの命が……」
栞の悲痛な叫びが会場内に響く。
「舞さんの喉に詰まったたい焼きを取り除くには、舞さんの背中に同質量のたい焼きを当てる必要があります。それができるのはあゆさん、あなたしかいません」
しかしあゆは、牛丼昇龍覇を喰らった反動で目を回している。
「舞さんが……舞さんが死んでしまいます……」
もはや栞の声は涙が混じっていた。場内が静まり返る中、ゆらりと立ち上がるあゆ。
「あゆちゃん?」
あゆは相当なダメージをその身に受けていた。しかし、舞の命を救うべく、あゆは懇親の力を振り絞って立ち上がった。
「舞さんの命がかかっています。微力ですが、このわたしも力になります」
栞は舞の体を、その小さな体で必死に支える。
ゆっくりとあゆはファイティングポーズを取り舞に向かう。
「待ってあゆちゃん」
名雪がそっとその手を止める。
「この距離だと威力が強すぎるよ。これじゃ舞さんの体まで貫いちゃうよ」
だけどあゆは大きく肩で息をしている状態で、聞こえているのかどうかもわからない様子だ。
「あゆちゃん?」
こうしている間にも、舞の命の灯火は刻一刻と小さくなっていく。
誰もがあきらめかけた、そのときだ。
「萌えろっ! ボクの小宇宙。奇跡を起こしてっ!」
あゆの右こぶしから一筋の流れ星のようなたい焼きが放たれる。それは舞の背中に当たり、その衝撃は支えている栞ごと弾き飛ばすほどだった。
「やりましたね……あゆさん……」
舞の下敷きとなった栞が、苦しそうであるが嬉しそうな声をあげる。
「出てきましたよ、たい焼き……」
栞の手にはしっかりと舞の喉から飛び出したたい焼きが握られている。
「たい焼き……嫌いじゃない……」
再び、大歓声が場内に響き渡る。
死闘を繰り広げたあゆと舞は友情の絆で結ばれたようで、固い握手を交わしていた。
「なかなかやるね、あゆちゃん」
その姿をリングの上から名雪は眺めている。栞もすぐ脇でその光景を見ていた。
「でも、祐一への告白権を獲得するのは……」
「この、私ですよ……」
祐一への告白権をかけた戦いは、まだまだ続く。
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