第五章 再び火星へ
回収艇内のハンガーデッキに固定されたテムジンを見て、祐一は思わずため息をついた。よくもまあ、これで生きて帰ってこれたものである。
ダイモンによる情報攻撃と実力行使にさらされ、テムジンは見るも無残な姿になっていた。スライプナーは折れ、マインドブースターは右側がなくなり、左腕は肩が残るのみとなった。MSBSは度重なるハッキングによってほとんどの機能を喪失し、ただの箱同然となっていた。Vコンバーターも半壊しており、結局のところテムジンはほぼ全損状態となっていたのだ。どうしてこれで動いていられたのか、香里が不思議がるぐらいの損壊状態で祐一が無事に帰還できたのは、もしかすると奇跡なのかもしれない。
もっともこのあたりを香里に言わせると。
「奇跡なんて、そう簡単に起こるものじゃないのよ」
とか言われそうだし、これが栞あたりだと。
「起きないから奇跡って言うんですよ」
とか言われてしまいそうである。
なんにしても火星に着くまではのんびりできそうだ。と、祐一が思ったそのときだった。
「大変よ!」
突然香里が駆け込んできた。
「どうした香里、なにがあった?」
「今MARZはダイモンに対して火星戦線全域に制圧攻勢を仕掛けているの。だけど手が足りなくて、正直戦況は芳しくないわ。そのせいで栞がいる極冠戦域の司令本部が緊急事態に陥っているのよ」
「なんだって?」
「本部からも救援要請が来てるわ。でも、近くに部隊が展開してなくて、もう相沢くんだけが頼りなのよ」
そうは言っても、テムジンがこの有様ではどうすることもできない。
「お願いよ相沢くん……栞を助けて……」
香里は祐一の胸にすがりつき、嗚咽を漏らした。
「そんな事言われてもVRだって無いし、どうしろって言うんだ?」
香里をなだめつつ祐一は聞いた。
「VRならあるわ」
香里は涙をぬぐい、祐一を隣のカーゴデッキに案内した。
「こいつは……」
「テムジン747よ。それもMARZ仕様の747Jよ」
テムジン747はそれまでの707Jに代わるMBVとして、FR‐08が火星戦線に投入した最新鋭機である。747系の最大の特徴は出力に余裕を持たせる機体設計で運用面ではかなりの融通が利くことと、アーマーシステムの換装により火星戦域におけるさまざまなニッチェに対応が可能なことである。
標準的なアサルトアーマーを装備したのが747Aで、機動力と攻撃力を併せ持ち、マインドブースターを強化することによって、Vコンバーターの活性化が阻害される火星戦域でも十分なポテンシャルを持つに至っている。
TRVとしてのニッチェを埋めるのがフレックスアーマーを装備した747Fで、かつてのTRVであるバイパー2と同じく、空中戦を得意とするVRとなっている。
HBVとしてのニッチェを埋めるのがホールドアーマーを装備した747Hである。747Aや747Fはいずれも装甲強度に問題ありとされたが、747Hは強靭な装甲を持つ火力支援機となっている。ただし、その分機動性能に問題がある。
MARZに採用されている747Jは基本的な装備は747Aに準ずるものだが、747のテストフレームである747Tをベースに改修が行われ、アーマーチェンジシステムを持たない代わりに単機のVRとしての能力を最大限に引き出せるように改修されており、結果として装甲強度以外の数値が平均以上という、在来機種とは一線を画する超兵器に仕上がっている。
同じくMARZに採用されているのが747Hである。こちらも747Jと同様に、アーマーチェンジシステムをオミットして単機のVRとしての性能を向上させてあるため、通常の747Hと比較しても良好な機動力を持っている。そのため、特に区別して747HUと呼ばれている。
「こんなこともあろうかと、持ってきておいて正解だったわ」
元々地球に転送された祐一の補充機体として用意されたものであるが、ダイモンの陰謀により渡せずじまいだったのだ。それがこのような形で役に立とうとは、思いもよらなかった。
「フォース地球艦隊所属、強襲母艦『クライグスター』から、定位リバースコンバートによって転送してもらう手はずは整っているわ。お願い、今は相沢くんの力が必要なのよ」
「わかったよ」
一つの戦いが終わっても、また新たな戦いが始まる。この繰り返しに祐一はうんざりしていたが、だからと言って栞を見捨てるわけにもいかなかった。
祐一は半ば自嘲気味に笑うと、テムジンのコックピットに滑り込んだ。
「必要なデータは707S/Vから移植してあるわ。だから基本的な操作感覚は前とそう変わらないと思うけど、油断はしないでね。747Jは707S/Vよりも装甲が強化されているといっても過信はしないで。それから……」
「わかった。とにかく急ぐから、そこどいてくれ」
香里はまだ何か言いたげだったが、今は一刻を争う事態であるため、黙ってブリッジに戻ると回収艇を近くのクライグスターに向けて発進させ、それと同時にテムジンの出撃シークエンスを終了させた。
「こちらテムジン、出撃準備オーケー。出るぞ」
『了解、カーゴベイのハッチを開放するわ』
回収艇から発進した祐一はまっすぐクライグスターに向かい、そのまま火星に向けて転送された。
火星極冠戦域にあるMARZ司令本部は、未曾有の危機に襲われていた。
『ディフェンダー、損傷!』
『ミサイル発射口、損傷!』
『レーダーサイト、沈黙!』
『VR発進口、損傷! VRの出撃できません!』
司令本部の作戦司令室に、各セクションから次々に絶望的な報告が寄せられてくる。
「救援はまだでしょうか?」
司令部のオペレーター席で、栞は近隣の基地に救援を要請する。だが、この周辺の基地は定位リバースコンバートによるVRの転送手段を持たないため、援護のVRが到着するのにもかなりの時間がかかる。それまでになんとか敵機の攻撃から司令本部を防衛しないといけなかった。
「これ以上はもたない。何とかしてくれっ!」
その隣の席で、斉藤というオペレーターが叫ぶ。
『やってるわよっ!』
司令本部の防衛についているフェイ=イェンVHから真琴が叫びかえしてくる。
『数が多すぎるよ〜』
まるで緊迫した様子はないが、真琴と同じく司令本部の防衛についているエンジェランWMから名雪が叫ぶ。たった今VRの発進口が破壊されたところなのでこれ以上のVRの出撃ができず、現在司令本部の防衛についているのはその前に出撃したこの二機だけであった。
そして、現在雲霞のごとく大群で司令本部のタワーを攻撃してきているのは、ERLであった。
ERLはエジェクタブルリモートランチャーの略で、本体から切り離して使用できる攻撃ユニットである。バル系の機体に標準装備されており、これによりバルシリーズのVRは他の機体にはない独特な攻撃方法をとることができる。
ERLが飛来するということは、どこかに敵の本体がいるはずである。だが、すでに司令部のレーダーサイトは沈黙しており、敵影をキャッチすることはできなかった。しかも火星特有のダストに視界はさえぎられ、ほとんど何も見えない状態である。フェイ=イェンにしてもエンジェランにしても、次から次へと迫り来るERLを破壊するだけで手一杯であった。
『あうっ!』
背後からERLの攻撃を受け、真琴のフェイ=イェンが大地に倒れる。
『うにゅぅっ!』
エンジェランにも攻撃が加わる。どうやら敵は邪魔なこの二機を先に始末する気のようだ。
複数のERLが名雪と真琴のVRを取り囲むように移動する。だが、その中の一基は司令部に銃口を向けた。
「……!」
栞は一瞬、その銃口が自分に向けられたものだと思った。やられると思い、栞が目を閉じたそのときだった。
天空より飛来した一条の光弾が栞を狙うERLを射抜き、続いて飛来した十字の光弾が名雪たちを取り囲むERLを殲滅した。
「あれは……」
栞ははるかにかすむ天空より、一体のVRが舞い降りてくるのを見た。それは紛れもなく、栞が火星に帰還する前に調整をしていたテムジン747Jの姿であった。
『無事か? 栞』
「はい、祐一さんも無事で何よりです」
司令部の前に降り立ったテムジンに、フェイ=イェンとエンジェランが駆け寄ってくる。
『祐一、遅いっ!』
『よかった……祐一が無事で……』
『二人とも、積もる話は後だ』
祐一は敵の姿を睨みすえた。はるか遠くで、バル・ディ・メオラがクネクネと踊っている。それと同時に、再び雲霞の如くERLが飛来した。
『今は目の前の敵を粉砕するのみだ、いくぞっ!』
しかし、祐一が戦列に加わったといっても、正直戦況は芳しくなかった。次から次に飛来するERLは次第に数を増していき、その早い動きに祐一たちは翻弄されっぱなしだった。
一刻も早く敵の本体を叩かねばならなかったが、司令本部の防衛は祐一を含めた状態でほぼ互角の状態であり、とにかく手が足りなかった。流石にそれでは祐一が戦列から離れるわけにもいかず、防戦一方となってしまう。そうこうしているうちに、再びERLの包囲網は完成しつつあった。
ふと気がつくと、祐一は複数のERLに取り囲まれていた。一斉にERLの熱反応が高まり、祐一が覚悟を決めたそのときだった。
『祐一っ!』
そこに駆けつけてきたテムジン707Jがブリッツセイバーを一閃し、祐一を取り囲むERLを破壊した。司令本部からの救援要請を受け、近隣の基地から派遣された援護のVRが到着したのだ。
火星極冠部の戦域で、特に功績のあったパイロットに授与されるスペシャルカラー『雪の勲』を持つテムジン。そのパイロットに祐一は覚えがあった。
『舞、来てくれたのか』
『話は後』
舞のテムジンはすでに次のERLを破壊していた。
『ここは私に任せて、祐一は敵の本体を』
『わかった、ここは任せた』
言うが早いか祐一はテムジンを疾駆させ、敵の本体、バル・ディ・メオラに向かった。
火星戦域で使用されている一連のバルシリーズは、マーズクリスタルの影響下にあっても、正常に稼動する最新型MSBSの実験機として開発されている。そのため、本来は戦闘向きのVRではないのだが、ERLを装備することにより多彩な攻撃が可能となっている。特にバル・ディ・メオラは下半身にVコンバーターの活性化を促進するブースターユニットを装備しているため、無脚型の特異な形態をしている。
(軽い……)
敵機に向かって加速するテムジンに、祐一は不思議な一体感を感じ始めていた。それはかつての愛機、テムジン707S/Vにも通じる感覚だった。
「そういうことか……」
このテムジンには整備に携わっていた香里の思いが込められている。そして、司令本部には栞がいる。たとえ離れ離れになっていても、栞を守りたいという香里の気持ちを祐一は感じていた。
不思議と祐一は負ける気分ではなかった。何しろ祐一には香里の思いに応える義務もあったからだ。
囲みを突き抜けて迫りくるテムジンに、バル・ディ・メオラは多少驚いた様子だったが、すぐにクネクネと踊りだした。すると、地上に設置されたERLと、空中に設置されたERLが連動し、強力なエネルギー弾を発射してきた。だが、そんな攻撃にやられるような祐一ではない。
動きの素早いERLには遅れをとったが、本体の方は動きが鈍く、図体がでかい分だけいい的だ。そんなわけで祐一は、苦もなくバル・ディ・メオラの撃退に成功した。
この戦闘の後、祐一は正査に昇格することになる。
現在MARZは火星戦線全域に対して制圧攻勢を仕掛けており、それは改革攻勢とも言っていい規模であった。だが、国際戦争公司やDNA、RNAといった公認軍事組織は、事実上ダイモンの下部組織に成り下がったと言ってもよく、正直苦戦を強いられているのが現状である。
さらに火星戦域に割拠する複数の企業国家にまでダイモンの影響が浸透していた。Vクリスタルを制御するダイモンのオーバーテクノロジーは、企業国家にとって抗しがたい魅力があったのだろう。そうした企業国家の自己本位体質がモラルを緩め、ダイモンを受け入れる素地となったのだ。そんなわけでMARZは深刻な危機に直面していた。
テラフォーミングに失敗し、荒廃した火星復興を名目に、理念無き利益追求に奔走する企業国家。そして、それらを野放しにしてきた行政のあり方が、今回の事態を招いたのだろう。
そういう意味では、ダイモンの罠をかいくぐって来た祐一の戦歴は、各地で制圧攻勢に出る味方を勇気付け、戦いは高次のレベルにまで及んでいた。
丁度そのころ、祐一が接触したホワイトナイトを通じてFR‐08より情報提供があった。それによると、ダイモンによって隠匿されたジュピタークリスタルは火星極冠戦域にあるらしい。MARZとしても直ちに奪回作戦を遂行したいところだが、その前に各地の叛乱勢力を鎮圧していく必要があった。
「747Jははじめてか? 舞」
『でも、悪くない……』
「狙いはダイモン・ストゥーパだ。VRにはかまうな」
『はちみつくまさん』
結局のところMARZは、高性能VRを用いた少数精鋭部隊による敵拠点の急襲、制圧作戦を繰り返す以外に方法はなく、火星戦線は迷走していた。
また、このころには、DNAはスペシャルフォース、RNAはアルファコマンドーといった精鋭部隊を投入してきており、祐一たちは思わぬ苦戦を強いられることがあった。
その矢先のことである。
「大変です、祐一さん」
「どうした栞、なにがあった?」
「国際戦争公司の管理していた長距離大型ミサイル基地が、ダイモンのハッキングにより制御不能に陥りました」
「なんだって?」
そもそもこの基地は限定戦争の暴走を抑止するために、国際戦争公司が管理していたものだ。この基地に保管されている大型ミサイルの、ダイモンによる悪用はなんとしても阻止しなくてはいけない。だが、基地周辺部には敵機の侵入を防ぐために地雷が多数設置されており、迂闊に近づく事はできなかった。
「祐一さんのVRに地雷感知用のソフトをインストールしました。これはVRが静止状態のときに、モニター上に地雷の位置を表示するものです。どうか役に立ててください」
迫り来るスペシャルフォースのVRと足元の地雷に苦戦しながら、なんとか地雷原を突破した祐一たちであったが、基地に侵入したときには、すでにダイモンの手によりミサイル発射のカウントダウンが始まっていた。
『MARZの犬よ、間に合うかな? すでに我らの介入は火星全域に及んでいる。貴様らの右往左往は滑稽だ……』
「くそうっ!」
悪意に満ちた哄笑を耳にしながら、祐一は舌打ちした。ミサイルの発射まで時間の猶予はない。
ダイモンは秩序を蝕み、破滅へと誘う。一刻も早くミサイルサイロを発見して破壊しなければ、火星全土が火の海と化す。そうなってしまっては、全てが無駄になってしまう。
祐一は基地の制圧を舞に任せると、ミサイルサイロを目指して迷路のような基地内を疾駆した。
かつては秩序の象徴であった施設も、いまやその役を果たすことは無い。生きるものの妄執というものは、たやすく死の短絡に転がり落ちてしまう。だが、それすらも全て人が選択した結果なのだ。それはやがて光が天に満ち、無定見に広がると信じた代償なのだろうか。
祐一は途中で基地内を防衛するVRと交戦したり、迷路のような通路で迷いもしたりしたが、比較的順調にサイロに到達し、破壊に成功していた。
しかし、祐一はどうにも納得いかないものを感じた。どう考えてもあのダイモンが、こんなにあっさりと引き下がるとは思えなかったのだ。
『祐一……』
そのとき、舞から通信が入った。
「どうした? 舞」
『囲まれている……』
「囲まれている? 何にだ?」
『機種はライデン。所属はおそらく、SHBVD……』
「SHBVDだって?」
祐一はダイモンの罠の真の意味を知った。
SHBVDは特殊重戦闘VR大隊を前身とする特殊部隊で、電脳暦の社会でその名をとどろかせる精鋭中の精鋭部隊である。伝統的にライデンを基幹機種として用いる部隊で隊内の規律は高く、その戦闘力はすでに伝説と化している。本来はDNAに所属する部隊であったが、彼らの保有するライデンは維持にコストがかかるため、現在では袂を分かち、独立採算制の部隊となっている。
『がお……。いいのかな往人さん、この話に乗っちゃって……。せめて裏葉大尉に連絡してからの方が……』
SHBVD仕様のライデンE2の観鈴が情けない声を出した。
『言うな、観鈴。現場の迅速な判断が明暗を分ける、今はそういうときだ』
同じくSHBVD仕様のライデンE1の往人が偉そうに胸をはる。
『それにな、観鈴。ダイモンの話はウッハウッハと儲かるんだ』
それが本音の往人であった。
『でも、相手はMARZだよ、往人さん……』
『弱音を吐くな、観鈴。MARZだって人の子だ。それに俺たちはSHBVDだ、やってやれない事はない。ああ、それとな……』
往人は突然フラットランチャーで観鈴のライデンを殴りつけた。
『痛い……どうしてこんなことするかなあ……』
『がおって言うな!』
これまでの祐一の戦歴から、ダイモンも本腰を入れてきたのだろう。
SHBVDによるミサイル基地の包囲が完成する前に、祐一たちはなんとしても迫り来るライデンを突破しなくてはいけなかった。だが、そうは言っても相手は天下のSHBVDである。彼らのライデンは手強かった。
ライデンは第5プラントを前身とするDD‐05が開発した、重戦闘VRの代名詞ともいうべき存在である。だが、DD‐05はFR‐08の意向を無視した独自のVR販売を行ったために厳しい制裁措置を受け、VCa3年にプラントそのものが消滅してしまった。その後ライデン開発スタッフと製造ラインはMV‐03が引き継ぎ、ライデンの製造、販売を行っている。このことをきっかけとして、MV‐03は後にグリス・ボックの装備を光学兵器に換装したシュタイン・ボックを開発している。
VCa6年に社名をアダックスに変更後、火星戦線で主流となっている第3世代型ライデンは、このアダックスのお家芸とも言えるユニットスケルトンで構成されており、火星戦域においても多くのニッチェを埋める派生機を生み出している。
もっとも標準的なライデンは肩部にレーザーユニット『バイナリーロータス』を装備し、ロケットバズーカの使用により重火力と重装甲を両立させている。SHBVD仕様はさらに機動性能にも手が加えられており、重装甲、重火力、高機動の三拍子が揃った最強の重戦闘VRとなっている。
祐一たちはテムジンの高機動性を活かし、徹底的な一撃離脱戦法を駆使することによって、二機がかりで確実に一機を撃破する作戦を取った。
この作戦が功を奏したのか、SHBVDのライデンといえども、次第にその数を減らしていった。
そして、祐一たちの前に、往人と観鈴のライデンが立ちふさがった。
『SHBVDのプライドが許さなくてね』
ライデンE1の往人が不敵に笑う。
『待ち伏せさせてもらったよ』
往人のライデンの影から、観鈴のライデンE2がこそっと叫んだ。
この二機の動きは、それまで戦ってきたライデンとは格が違った。その軽快な運動性能は、祐一たちの知るライデンの常識を超えるものだった。
そこで祐一たちは、まず観鈴のライデンにターゲットを絞り、舞のテムジンが牽制している間に祐一のテムジンがダッシュ攻撃を繰り返し、徹底した一撃離脱によりダメージを加えていった。
『がお……。すごい……』
そのとき、観鈴のライデンの背後に回りこんだ往人のライデンが、フラットランチャーで観鈴のライデンを殴り飛ばした。
『がおって言うなっ!』
『……どうしてこういうことするかなあ……』
一瞬呆気にとられた祐一たちであったが、気を取り直して観鈴に攻撃を集中し、なんとか撃退に成功した。
『やるな……』
残るは往人のライデンである。このライデンE1は中、近距離がめっぽう強く、迂闊に近づくとフラットランチャーの餌食となってしまった。また、往人のライデンはテムジンが得意とするダッシュ攻撃も、軽快にジャンプすることで回避してしまった。そこで祐一たちは、相手の間合いの外からの突撃を繰り返し、往人のライデンが着地する時の隙を狙い撃ちすることで撃退に成功した。
こうしてSHBVDを突破した祐一たちの前に、意外な人物が立ちふさがった。
それは、北川のハッターだった。
『貴様っ! わかっているのかっ?』
北川のハッターは祐一のテムジンにびしっと指をつきつけた。
『火星なんて、企業国家や戦争屋がダイモンとつるんで牛耳っている以上、何にも変わるわけはないっ!』
「北川……」
『だから俺は決心した。かき回す、何もかもかき回すっ!』
この男は、たった一人で何をしようというのだろうか。
『もちろん、俺一人の力などたかが知れている。だがな……』
そう言うと、ハッターはファイティングポーズをとった。
『貴様を粉砕することはできるっ!』
言うが早いかハッターは、はじかれたように突進してきた。鋭いトンファーの一撃と、連続して繰り出されたキックにより、祐一はガードの上から弾き飛ばされた。
『どうした、相沢。立てっ! その程度か?』
『祐一!』
舞が叫び、参戦しようとする。
「来るなっ! これは俺と北川の戦いだ」
祐一の叫びに、舞は動きを止める。
『女の前だからって格好つけてんじゃねえよ。逃げるなら、今のうちだぜ?』
祐一はテムジンを立ち上がらせると、ハッターから間合いをとった。近接攻撃に特化したハッターを相手にするには、間合いの外から攻撃するしかない。
『まだまだぁっ!』
北川は何度も大地に倒れた。だが、そのたびに不屈の闘志で立ち上がってきた。
そして、最後にこの戦いを制したのは祐一だった。
『やっぱ強いな……相沢……』
「北川、お前一体どうして……」
それには答えずに、北川は祐一に三角形のものを手渡した。
『それがダイモンフラグメントだ……受け取ってくれ……』
『北川……』
だが、北川のハッターはもう動かなかった。荒ぶる魂は今、静かに安らぎの時を迎えたのだ。
「ダイモンフラグメントについて判明したことがあるわ。詳しいことはまだ調査中でわからないけど、どうやらVクリスタルに類似した特性を持っているらしいの」
祐一たちからやや遅れて合流した香里が、手短に状況を説明した。
「それと、ダイモンによって隠匿されていたジュピタークリスタルの所在がやっと特定できたわ。直ちに急行して奪回しないといけないんだけど……」
「なにか問題があるのか?」
「クリスタルの封印は、ダイモンが保有する四基の防御型浮遊機動要塞『ミルトン』によって維持、構成されているわ。だからクリスタルを解放するには……」
「ミルトンの破壊が必要って訳か……」
簡単すぎるといえば簡単すぎる。祐一はそこにダイモンの罠の存在を感じたが、クリスタル奪還のためには飛び込まざるをえなかった。
祐一は出撃準備を整えると、舞と共にクリスタル奪還に向かった。
『待っていたよ、負け犬くん……。さあ、死の十字路で思う存分断末魔の吼え声を上げたまえ……』
悪意に満ちた嘲笑が祐一たちを出迎えた。ダイモンによって捕縛されているジュピタークリスタルを解放するには、この十字路に仕掛けられた罠の先にいる、四基のミルトンを破壊する必要がある。
これが罠だとわかっていても、飛び込まざるを得ないのが癪に障る。なんとなくダイモンの手の平で踊らされている、そんな気がする祐一であった。
正面の通路の先で待機する、拡散ビームに拡散ナパーム弾を持つミルトンFP。後ろの通路の先で待機する、高威力のレーザーを持つミルトンCF。左の通路の先で待機する、大口径のキャノン砲を装備したミルトンFF。右の通路の先で待機する、超追尾ミサイルを持つミルトンTF。
いずれも速射性の高いリングビームを放ち、浮遊する本体の下部から巨大なエネルギー弾を放ってくる。
それでもなんとか四基のミルトンを破壊すると、ジュピタークリスタルは解放された。
そして、祐一たちは知ることになる。ダイモンの罠の意味と、その真意を。
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